小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

田原総一郎氏が安倍総理に進言した「政治生命をかけた冒険」とは…北朝鮮に核・ミサイルを放棄させることは可能か?

2017-08-23 12:11:25 | Weblog
 毎日新聞が昨日(22日)、ジャーナリストの田原総一郎氏との単独インタビューをデジタル会員向けに動画配信した。インタビュアーは吉井理記記者である。吉井氏は単独インタビューを申し入れた動機をこう語っている。
「どうにも気になる。ジャーナリストの田原総一郎さんが、である。先日、安倍晋三首相と官邸で会談し、『政治生命をかけた冒険』を持ちかけた、と報じられているからだ。これに首相も乗り気だというから、中身が気にならないはずがない。田原さんを直撃した」
 田原氏が安倍総理と昼食を共にしながら約1時間、会談したのは7月28日。総理から「話を聞きたい」との申し入れがあったという。異例中の異例だが、田原氏が親しかった官邸中枢の人物(菅官房長官のようだ)に「起死回生」のアイディアを話し、その人物から田原氏のアイディアを聞いた総理が会ってみたいと思ったらしい。
田原氏は番記者が常時詰めている官邸の表玄関から堂々と出入りしたから、記者たちが目の色を変えたのは当たり前だ。会談を終えて出てきた田原氏はたちまち記者たちに囲まれた。
 その場で田原氏が語ったことは「政治生命をかけた冒険をしてみないか」というアドバイスをした、ということだけだった。ただ、中身については「言えば壊れる。しかし、近いうちに総理はやるだろう」と語った。「内政か外交か」という質問にも一切答えなかった。
 当然メディアは目の色を変えて「中身」を探ろうとした。が、官邸の口は固く、田原氏も「中身」については「黙して語らず」を貫いた。
 最初に田原氏に単独インタビューを試みたのはテレビ朝日の『モーニングショー』。生出演ではなくテレビ・インタビュー方式で、ゲストが一人ずつ田原氏に質問し、キャスターの羽鳥氏があらかじめゲストに「具体的なことは言わないだろうから、質問に対する田原氏の反応を表情から推測してほしい」という、これまた異例のインタビューだった。
 結局、この日のテレビ・インタビューで田原氏が明らかにしたことは「内閣改造や解散のような小さな話ではない」が、「安倍さんでなければできないこと」「安倍さんが行動に出たら民進党も共産党も反対しないだろう」ということだけだった。
 毎日の吉井記者ではないが、私もずっと考えてきた。とにかく田原氏が「内政か外交か」という質問にも一切答えないのだから、雲をつかむような感じだった。ただ、このインタビューで得た大きなヒントは「日本の政治家で安倍さんにしかできないこと」であり、「安倍さんが行動を起こしたら野党も反対しない」という二つである。
 この二つのヒントを手掛かりに私が考えたキーワードは「内政だったら大胆な税制改革」、外交であれば「安全保障」だろうということだった。「安倍さんにしかできないこと」とは、安倍総理の個人的資質を指すのか、総理という地位にあり支持率は低下しつつあったとしてもまだ強大な権力を保持している(次期総理を目指す岸田氏を党3役に据え、安保法制強行時にあからさまな批判を行って更迭された野田氏=当時の党総務会長=を内閣に取り込むことに成功したことからも安倍氏の党内基盤はまだそれほど脆弱化していないと思える)からなのか。
 もう一つのヒントは「野党も反対しない」ということは、国民の大多数も支持する政策ということを意味する。
 この二つのヒントから考えたが、まず「内政」のキーワードとして考えた「大胆な税制改革」はどうか。私は第2次安倍政権が誕生した12年12月の年末30日に投稿したブログ『今年最後のブログ…新政権への期待と課題』で大胆な税制改革を提言した。実はこの時期、新政権が打ち出していた経済政策は①金融緩和によるデフレ克服②大胆な財政出動(公共工事)による景気回復、の二つで「二本の矢」だった。三本目の矢である成長戦略が追加されたのは翌年春になってからである。
 この新政権の経済政策に対し、私はそうした政策では景気は回復しないとして、大胆な税制改革を提言した。まず金融資産を増やすことにしか金を使わない高齢者の金融資産を、若年層に移転しなければ消費は回復しない。GDPに占める個人消費の割合は6割であり、個人消費を増やす政策をとらない限り景気は回復せず、賃金の上昇があまり見込めない状況では高齢者富裕層がため込んでいる金融資産を若年層に移転する税制改革が必要だというのが私の提言。そのためには贈与税と相続税の関係を逆転させ、贈与税の軽減化(というより贈与する側には課税せず、贈与を受けた側に一時所得として課税する)と、相続税を大幅にアップすることが必要。さらに戦後のシャウプ税制時代まで戻さなくても、累進課税を復活させ高額所得者の最高税率を現在の50%から65%程度に引き上げ、その一方で中低所得者の税率を軽減化すること。私はそうした提言をしていた。
 実は安倍政権は私の提言を中途半端にパクった。相続税は高くしたし、祖父母の孫に対する教育費限定の贈与2000万円までを非課税にする、高額給与所得者の給与所得控除を減額(事実上の税負担アップ)した。この給与所得控除の減額については、権力べったり主義の読売新聞が社説で「消費が減少し、景気回復が後退する」と、珍しく批判したが、高給取りの論説委員ならではの批判だった。
 実は私はこの税制改革のとき、猛烈に批判したブログを書いた(時期は覚えていない)。批判の視点はこうだった。
 かつて竹下内閣が導入し、橋本内閣が増税した消費税について政府は「欧米先進国に比べ日本の高額所得者への課税は厳しすぎる。欧米並みに軽減して高額所得者の仕事に対する意欲を高める」と屁理屈を主張していたはずだ。が、安倍内閣が給与所得控除の引き下げをした時の理由は「欧米先進国に対して日本の高額給与所得者の給与所得控除は大きすぎる。欧米並みにしたい」というものだった。だとしたら、消費税導入や増税のときの主張はなんだったのか。当時の大蔵省の官僚どもは、ぼんくらだったのか、それとも自分たちの納税額を低くしたいためにウソをついたのか。
 多くの国民が勘違いしているのだが、税金(所得税及び住民税)は、年収にかけられているのではなく、様々な控除を年収から除した「所得」にかけられている。私自身は税の専門家ではないので調べようがないのだが、日本は「なんでも自己責任」の欧米と比して控除が多すぎるのではないかと疑問を持っている。給与所得控除だけでなく配偶者控除、扶養家族控除、非公的保険控除、寄付金控除、その他もろもろの控除が年収から控除された額(手取りではない)が課税対象となる「所得」である。だからそれぞれの国の税制によって、年収は同じでも、課税対象の「所得」は異なる。当然欧米先進国と税負担のあり方を比較検討するのであれば、年収に対する実質的な税負担を比較する必要がある。
 たとえばヨーロッパ諸国は軒並み消費税(付加価値税)が20%前後と高い。それなのに国民生活は日本と比べてそん色ないし、社会保障も充実している。そんなことがどうして可能になるのか。消費税や社会保障の充実の表面だけを見るのではなく、税の体系全体(所得税だけでなく相続税や贈与税、投資や不動産収入などの不労所得に対する税制などすべて)を分析して、基本的には年収に対する税負担のあり方と社会保障の在り方を総合的に考えるべきではなかったか。はっきり言えば自民党の税制策は国民に対する「詐欺」である。
 しかし安倍内閣は私の提言の一部をパクっておいて、法人税は軽減した。これも疑問が生じる。法人の場合、個人の控除と違って「引当金」という名目の所得控除がある。つまり売上高から仕入れ原価を引いた粗利益から人件費や不動産賃貸料などを引いた営業利益からさらに様々な名目の引当金を差し引いて残ったのが課税対象となる純利益である。こうした課税対象の純利益の算出方法も、国の法人税制によって異なる。単純に税率だけを比較して日本の法人税は高いとは必ずしもいえるとは限らない。すでに述べたように、消費税導入や増税のとき、自民党や大蔵省(当時)は「詐欺」的大ウソをついて国民をだましたから…。
 
 そうした税制に関する経緯を考えると「政治生命をかけた冒険」を安倍総理がするはずはない。となると、その冒険は「外交=安全保障」に関することなのか。毎日のインタビュー動画について書く前に、私のこの考えを述べておく。実は吉井記者は田原氏とのインタビューでかなりいい線をついているのだが、このインタビューでなぜか田原氏はそれまで「言えない。言ったら壊れる」としてきたある問題についてしゃべってしまったのだ。
 私の推測を先に述べるが、実は安倍外交はかなりきわどいことをしてきた。というより、外交だけでなく内政面でも安倍総理は(安倍内閣ではなく、安倍総理個人として)これまでの総理では考えられないような動きをしてきた。内政面で特筆されるのは経済界に対して連合顔負けの賃上げ交渉をしてきたことだ。賃金が上昇しなければ、消費は活発化しないことくらいはさすがに安倍総理も分かっていたからだ。また外交面では世界中を飛び回って日本の技術や先進工業製品・生産物・文化を売り込み、日本産業界の営業本部長のような八面六臂の活躍をしてきた。そうした安倍総理の一面には私も日本国民の一人とした感謝もしているし、実際ブログでもそう書いてきた。
 実はロシアとの外交についても、安倍総理は私の提言をパクった。ウクライナのクリミア自治共和国が住民投票を行った挙句ウクライナから独立し、ロシアに編入された時のことだ。ウクライナは旧ソ連邦から分離独立して以降もウクライナ政府は「親ロシア」政策をとってきた。が、政府の腐敗問題から政権交代が生じ、新政府がEU寄りの姿勢を見せだしたことによりもともとロシア系民族が多数を占め、しかも自治権をもっていたクリミア自治政府がウクライナからの分離独立を住民に問い、ロシアへの編入を求めるという経緯があった。
 これはあくまでウクライナの内政問題であり、EU諸国も比較的静観していたのに、遠く離れたアメリカがまた内政干渉に乗り出した。EUのため、というよりロシアに圧力をかける口実が出来たというのが、アメリカの本音だったのではないか。
 いま米韓合同軍事演習が行われているが、アメリカが北朝鮮を挑発すれば、かえって北も更なる挑発行動に出るだろうことはわかりきっているのに、アメリカは挑発をエスカレートさせている。「アメリカは世界の警察官ではない」(オバマ前大統領)と言いながら、警察官を自ら辞めたはずなのに、都合のいい時だけ警察官に戻るということのようだ。
 同様に、ウクライナの内政にもアメリカは干渉し、日本に対してもロシアへの経済制裁を要求した。安倍外交の独自性が発揮されたのは、この時だ。一方でアメリカの要求に従ったようなふりをして形だけの経済制裁を行いながら、ロシアのプーチン大統領との親密な関係は維持し、北方領土の経済開発をロシアと共同で行う計画を着々と進めつつある。もっとも、日本の産業界はリスクとリターンを天秤にかけ、安倍総理がいくら笛を吹いてもあまり踊りたくはないようだが。
 私は日本の対ロ経済協力は北方領土問題の解決という側面だけでなく、日本の安全保障政策の大転換を意味すると考えていた。日ロの経済協力関係が成功裏に進み、日ロ平和条約の締結に至れば(この時点までは北方領土問題はとりあえず棚上げ状態でも構わない)、中国や北朝鮮に対する大きな牽制力が生じ、日本の安全保障環境は劇的に向上する。北方領土問題は、北方領土での日本企業の影響力が強まっていけば、自然な形で私たちの次の世代で解決に向けての努力が進みだすだろうと思っている。
 もちろん日本がロシアと平和条約を締結するとなれば、アメリカにとっては面白いわけがなく、おそらく日本に対して露骨な内政干渉をしてくるだろう。そのときには日本外交にとってのウルトラCがある。ロシアの友好国である北朝鮮との外交関係を一気に前進させてしまう。もともと中国とは、尖閣諸島の問題はあるにせよ、経済的には切って切れない関係になっており、中国も日本との経済関係を絶ってまで尖閣諸島を奪うことのマイナス面を計算できないほどのバカではない。日本がロシアの後ろ盾を得ることが出来れば、一気に尖閣諸島周辺の開発事業に乗り出しても、中国は手も足も出せないだろう。
 私が外交で「政治生命をかけた冒険」について考えたのは、対ロ外交を急速に進めることではないかということだ。

 さて毎日の吉井記者のインタビューに戻る。インタビューのやり取りをネット配信された記事をそのまま引用させていただく。
――「冒険」は内政問題 ?
「外交問題だよ。おそらく今月中に安倍さん、アクションを起こす」
――ジャーナリストとして、国民に話してほしい。
「ぶち壊しになる。相手のあることだから」
――首相の訪朝など、拉致問題での何かの動きを ?
「それはそう簡単なことじゃないよ。(数秒沈黙)その前にもっともっと難しい問題がある」
――ミサイル問題 ?
「いやまあ……その前にもっと難しい問題がある」
――中国との関係 ?
「いろいろあるんですよ」
――いま、北朝鮮のミサイル問題で米国と北朝鮮が挑発合戦をしている。日本が主体的に解決の道筋を描くとしたら、田原さんならどうする ?
「それを言ったら……だって、それが構想だから」
――そういう話ですか。
「うん」
――北朝鮮のミサイル問題解決に向けた政治生命をかけた冒険 ?
「うん」
※このやり取りの後、第1次安倍政権発足前に田原氏が安倍官房長官(当時)に、総理になったらまず中国に行って胡錦濤主席(当時)に会うよう勧め、実際に安倍氏が総理になった後胡主席と会談、翌年には温家宝首相の来日を実現したエピソードを田原氏が披露。(要約)
――では今度も、似たようなことが起こる、と。
「もっと大きいことでね」
――まず、中国と仲良く ?
「中国を敵にしたのが日本の失敗の歴史だ。中国脅威論は絶対に間違いだ。安倍さんにも言っている」
――ミサイル問題解決に向けたアクション……。
「ミサイルだけじゃないけどね。はっきり言えなくて申し訳ない」

 田原氏とのインタビューを終えた吉井記者は「キーワードは北朝鮮、ミサイル、中国、それに核兵器開発問題も加えるべきだろう」と述べている。
 田原氏が「冒険」は内政ではなく外交と明かしたのは初めて。これまで「内政か外交か」についても「言うと壊れる」と明言を避けてきた田原氏が、この段階でなぜ「外交」と自ら明かしたのか。田原氏は安倍総理との会談直後には「安倍さんは近いうち動き出すだろう」と語っていた。田原氏の頭の中での「近いうち」はどのくらいのスパンだったのかは不明だが、会談後1か月近くになる。吉井氏とのインタビューの冒頭で「おそらく今月中に安倍さん、アクションを起こす」と語ったが、ではなぜ「外交問題だよ」と、これまでかたくなに明言を避けてきたテーマをこの段階で明かしたのか。なかなかアクションを起こそうとしない安倍総理にしびれを切らしたのか。それともプレッシャーをかけたかったのか。
 いずれにしても北朝鮮のミサイル問題解決につながるアクションであることは肯定した。北朝鮮の核・ミサイル問題を解決する唯一の方法は、アメリカに対する恐怖心を金正恩が持たずに済んだ時しかあり得ない。日本人の私から見てもアメリカは北朝鮮に対して露骨な敵視政策を繰り返してきた。実際北朝鮮と同様敵視してきたイラク・フセイン体制を崩壊させるため、ありもしなかったイラクの核開発を口実に一方的に攻撃してフセインを殺した。その結果、イスラム過激派の跳梁跋扈が生じ、IS(「イスラム国」)問題の種をまいた。
 アメリカの、そうした行為を身にしみて感じているのが北朝鮮。アメリカに自国を攻撃させないためには核とミサイルという対抗手段を実際に持つことが何よりもの安全保障になる。そう信じ込んでいる北朝鮮に核とミサイルを放棄させることは、現実的には不可能だ。
 田原氏は第1次安倍政権のとき中国との首脳会談を提案して、それは実現したということだが、もし外交的に電撃的な行為に安倍総理が出るとしたら(北朝鮮のミサイル問題を解決するため)、相手国はロシアか北朝鮮、そしてアメリカしか考えられない。吉井記者は中国を視野に入れているが、日本にとって中国と北朝鮮問題で話し合うためのカードがない。
 日本が外交的にカードを持っているのはロシアと北朝鮮だが、ロシアの場合は北方領土問題を棚上げして平和条約を先行させるというカードがある。ただそのカードをいまの政局で切れるか、また「野党も反対しない」というが、むしろ野党に攻撃材料を与えることになるのではないか。
 もう一つは北朝鮮に対するカードは、安倍総理が電撃訪問して国交を回復するという作戦だ。この場合も拉致問題を棚上げしなければ切れないカードであり、野党の理解が得られるとは思えない。それ以上に北朝鮮とは敵対関係にあるアメリカが、日本に対する強烈な不快感を示すことは間違いない。
 最後に残るのは、米トランプ大統領に「北朝鮮に対する敵視政策をやめてくれ」と懇願することだが、「アジアの平和を守ってきたのはアメリカだ。我が国の核の傘で保護されている日本が口を出すことではない」と突っぱねられるのが関の山だろう。
 いずれにしても、田原氏が期待しているように、安倍総理が実際にアクションを起こしてみなければ、いったいどんなアイディアなのかはわからない。一番可能性が大きいのは、結局アイディア倒れだったということではないだろうか。
 

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