東京オリンピックの開催が極めて厳しくなった。7月に入って新型コロナの感染が急拡大しており、1年後に迫った東京オリンピックを無事開催できるかという懸念が高まりだしたのだ。で、一部のメディアが月例の世論調査で、オリンピック開催についても調査を行った。その結果、IOCとの間で決めたとおりに来年7月23日に開催すべきだと答えた人は圧倒的に少なかった。NHKと朝日新聞の世論調査の結果を、「予定通り開催すべき」「さらに延期すべき」「中止すべき」の順に調査結果を紹介する。
NHK 26%(開催) 43%(延期) 31%(中止)
朝日新聞 32%(開催) 32%(延期) 29%(中止)
実は私は7月17日、あることで東京オリンピックが夢と消えたと断言した。13日付のブログ『安倍政権は風前の灯火か? コロナ感染が拡大しつつあることを確認した。 小池・西村はどうする?』の【追記2】でこう書いた。ただ、この記事を書いたときはまだ一般に「キャンペーン」と言われていて、のちにキャンペーンの一つである「トラベル」を前倒しするという話だった。
さて、昨日(16日)急変したことがある。Go To キャンペーンから東京発着の観光旅行を外すというのだ。Go To キャンペーンはコロナ禍でインバウンド客も国内の観光客も激減し、窮地に追い込まれている観光地のホテル・旅館などの観光関連業界を経済再生の足掛かりにすべく1兆3500億円の巨費を投じての観光支援事業である。もともとは8月に入ってからスタートする予定だったが、7月10日、赤羽国土交通層が突然記者会見で7月22日に前倒しスタートすると発表、メディアも含めて大論争になった。
というのも、緊急事態宣言解除後、いったん沈静化に成功しつつあるかに見えたコロナ対策だが、7月に入って繁華街の「夜の街」を中心にクラスターが随所で発生し、とくに東京の感染判明者が急増するなど、いわゆる「第2波」が懸念されだした中でのキャンペーン前倒しだったから、私もブログで「ばかげている」と糾弾したくらいだ。さすがに小池都知事も「(キャンペーン前倒しは)ブレーキとアクセルを同時に踏むようなもの」と不快感を示していた。
とくに今週(13日以降)に入ってからコロナ感染は全国的に拡大傾向に入ったことが明らかになり、地方の知事たちから「再考」を促す声が急速に高まりだした。政府が観光事業を経済再生の足掛かりにしたいと考える気持ちは私にも理解できないわけではない。
少子高齢化が進み、生産人口(あるいは労働人口)の減少に歯止めがかからない状況の中、昨年まで日本の経済再生の柱になりつつあったインバウンド効果が、このコロナ禍で一気にしぼんでしまった。とくに客層がほとんど外国人の観光客に占められるようになったホテル・旅館も少なくなく、老舗旅館も閉館に追い込まれるところが続出し、コロナ禍が過ぎ去るまで、何とかインバウンドの受け皿を維持しておきたいと考えるのは自然ではある。
だが、コロナ禍が7月に入ってぶり返しだした時期に、なぜコロナに手を貸すようなキャンペーンの前倒しに踏み切ったのか、私は理解に苦しむ。むしろ、この時期は、何とか予定通り8月にキャンペーンを開始して経済再生の足掛かりにできるよう、緊急事態宣言を再発令して7月中にコロナを可能な限り抑え込むという政策をとるべきだったのではなかったか。
しかも、日本は中国のように情報統制ができる国ではない。敢えてキャンペーンの実施から東京を外してまで前倒しに踏み切るということは、当然世界中が知ることになる。つまり「東京は日本で最も危険な都市だ」というイメージが世界中に拡散しかねない。それが、どういう影響を生じるか。いうまでもなく、まだかすかに開催の可能性が残っている東京オリンピックにとって、昨年の19号台風のような逆風として襲ってくることを意味する。
はっきり断言する。東京外しのGo To キャンペーンを本当に7月22日からスタートさせるということは、東京オリンピックに「死」を宣告することを意味する。そういうことを意味する結果になることが、政府には分からなかったのか。(17日)
私が調べた限り、7月16日に政府がGo Toトラベルの前倒しを発表して以降、改めて東京オリンピック開催についての是非を問う世論調査を行ったのは、NHKと朝日新聞だけである。これがどれほど世界に大きな衝撃を与えたか、NHKと朝日以外のメディアは鈍感としか言いようがない。
政府の慌てふためきぶりは、メディアに登場する「顔」ぶれを見れば一目瞭然だ。まず、Go Toトラベルの前倒しと「東京外し」が公表されて大混乱が生じたころから、安倍総理の記者会見がほとんどなくなった。番記者のぶら下がり質問にも、普段なら愛想よく二言三言くらい答えるのに、まったく無言で記者たちを振り切る日が続いている(先日、久しぶりに記者会見を行ったが、「緊急事態宣言を再発令する状況にはない」と、ほんの1分ほど言いたいことだけ言って、さっさと会場から逃亡したくらいだ。
一時は経済再生担当相兼新型コロナ感染対策担当相兼全世代型社会保障改革担当相という三つの大臣職を兼任し、「政府の新しい顔」としてメディアに登場する機会が急増していた西村氏だが、彼も7月中旬以降は「出演」場面が激減してコロナ感染拡大対策についてしか発言しなくなった(だったら西村氏の肩書も「コロナ感染対策担当相」とすべきなのだが、なぜかメディアは「経済再生担当相」としている)。
一時はGo Toトラベル関係については国交省の赤羽大臣が急にメディアに登場しだし(本来は実務を担当する観光庁の蒲生長官の役割のはずだが)、その赤羽氏もGo Toトラベルの大混乱の責任を記者たちから追及されるようになると逃げ出し、一時「政府の顔」を西村氏に譲っていた感のあった菅官房長官が再びメディアに登場する機会が増えるというごたごたぶりだ。
政府が、早く社会経済活動の正常化を目指したい気持ちは私も分からないではないが、すでに述べたように感染抑止と経済活性化を両立できる政策はありえない。それを無理に両立させようとしたのか、それとも両立させようと努力しているんだというジェスチャーのためか、感染が急増した東京都をキャンペーンから除外することにした。
そのことにメディアも野党も、また憲法学者も問題にしていないが、感染者
数の多い少ないで地域住民を差別するのは、「法の下での平等」をうたった憲法
14条に抵触するのではないかという疑問を、私は前回のブログの冒頭に急遽【緊
急告発】として追記した。
そのことはともかく、この「東京外し」はIOCや世界各国のオリンピック委員会に大きな衝撃を与えた。当初、今年の夏に開催が予定されていた東京オリンピックだったが、世界中を襲ったコロナ禍のため、森会長率いる日本の組織委員会がIOCとすったもんだの交渉を重ね、何とか1年延期で合意に達した。IOCから1年延期の合意を取り付けるため、日本は何がなんでもコロナ禍を防いでいるという状況証拠をでっちあげるため、政府も組織委員会の言いなりにコロナ対策を放棄して(PCR検査のハードルを異常に高くしたり、感染者の受け入れ態勢の整備を意図的に怠ったりしたこと)感染者数が少ないように見せかけ、あたかも日本は安全・安心であるかのような印象を作り上げてきた。
が、社会経済活動を、コロナ対策と両立させながら再開するという国内向けの政策アピールのために、Go Toトラベルの前倒し実施と「東京外し」という方針を打ち出したことで大騒動が生じたと言える。「東京外し」が憲法違反になる可能性についてはすでに書いたが、同時に「東京は日本で最も危険な都市」というメッセージを世界中に発信したことも意味する。
当然、1年延期した東京オリンピック開催に対する懸念が世界中に広まった。一貫して「東京オリンピック払い夏、スケジュール通りに行う」と強気の姿勢を崩さなかった組織委員会の森会長も、NHKの取材に対して「今のような状態が続いたらできない。日本だけで判断できる問題ではない。各国・地域のオリンピック委員会がどうするのか、そしてIOCがどう判断するのか」とかなり弱気の発言をするようになった。
こうした状況下で日本でも大きく報道されショックを与えたのが、IOCでかなりの力を持っていると目されているカナダ代表のディック・パウンド委員だ。7月20日、共同通信の取材に対し、「(東京オリンピック開催は)2021年が残された唯一のチャンスだ」と述べ、22年夏への再延期や24年パリ大会と28年ロサンゼルス大会を4年ずつ繰り下げる案には否定的な見解を示した。
パウンド氏は、さらに21年の東京オリンピック開催が不可能になった場合、22年冬には北京の冬季オリンピックが予定されており、同じ年に夏・冬と2回もオリンピックを行うのは各国オリンピック委員会の負担が過重になり、現実的ではないとの見解も示したという。
しかし、コロナ禍は縮小の気配を見せるどころか、むしろ日本だけでなく世界中で拡大しつつある。とくに、いったん縮小しつつあると見えた国、地域で経済活動を再開しだした国、地域が軒並みコロナ再拡大の波に襲われていることからも、新型コロナ対策が容易でないことがはっきりした。政治の都合を優先させると、かえって傷を大きくしかねないことが、今回の各国政府の対応からも明らかになった。政府は、何度同じ失敗を繰り返しても、懲りない存在のようだ。
※ 7月29日になって、Go Toトラベルの延期をめぐって政府と分科会の間で激しい対立があったことがわかった。政府は16日の分科会で東京都を除外して8月上旬にスタートさせる予定だったGo Toトラベルを前倒しして22日に開始することを決めたが、その場で分科会の尾身座長が前倒しに反対したようだが、政府に押し切られたという。(29日の衆院国土交通委員会での尾身氏の証言)
こうして東京オリンピックは予定通り来年夏に開催するか、開催不可能となれば中止という選択肢しかない状況になった。日本側では、組織委員会の高橋治之理事が再延期も選択肢に入れるべきだと主張したようだが、たとえ再延期が可能となっても28年ロサンゼルス・オリンピックの次、32年の開催か、あるいはオリンピック施設の準備をまだほとんど始めていないだろうロサンゼルス大会を32年にずらしてもらって、28年の開催年に割り込むしか東京オリンピック開催の可能性はなくなった。
Go Toトラベルの強行がコロナ感染の再拡大を招いたためというより、Go Toトラベルからオリンピック開催都市の東京を外したことの方が、「日本は、日本自身が日本で最も危険な都市と位置付けた東京でオリンピックを強行するというのか」という反発が世界中に広まったためと言っていいだろう。
こうした状況になって慌てたのがIOC。調整委員会のコーツ委員長がロイター通信の取材に応じて中止論の蔓延に歯止めをかけた。
「私の直感だが、東京オリンピックは間違いなく来年開かれる」と。
が、そんな状況ではないことは、いまのコロナ感染拡大状況を見れば、よほどの奇跡でも起きない限りコロナの感染拡大を止めることは不可能であることは誰にでもわかる。
もし奇跡が起こるとしたら、この秋までに画期的な治療薬とワクチンが両方とも開発に成功し、かつ世界中の感染者や未感染者に提供できることが唯一の条件になる。仮に開発に成功しても、世界中にいきわたるだけの生産と流通、医療体制が構築されていなければ、来年のオリンピックには間に合わない。そう考えると、確率的にはコロナのウイルスを指で捕まえるくらい困難なことがお分かりだろう。日本だけが仮にコロナ退治に成功したとしても、オリンピック開催は無理だ。オリンピックとはそういうものだからだ。
【メディアのコロナ報道の問題】
メディアとくに民放テレビの報道番組が、NHKと違って識者たちがいろいろな立場から意見を言うのはいいのだが、番組を面白くするためかどうかは知らないが、極論で議論し合うことが多いのが気になる。感染拡大の防止か、経済活動の正常化かの二者択一のような議論は、わかりやすいと言えばわかりやすいが、実際には0か100かではない。振り子にたとえれば、いまの政府の政策は経済活動の正常化に振り子を大きく振りすぎている。そもそも感染対策と経済対策は両立しえないのだから、緊急事態宣言発令中に冷え込んだ経済活動に軸足を置きたくなるのは分からないこともないが、緊急事態宣言発令中に冷え込んだ経済活動の状況を考えたら、一気に経済活動を活性化しようと軸足を極端に移したらどうなるか、中学生でもわかることだろう。
もちろん政府がGo Toトラベルを前倒しでスタートさせた政策は私にも理解できないことはない。日本のGDPに占める個人消費(インバウンドも含めて)はいま約60%と言われているが、少子高齢化によって日本人の消費活動が今後増大することは期待できない。一方、日本の従来の経済成長の柱だった輸出産業は国際競争力の低下によって伸び悩んでいる。そういう状況下で、これからの日本経済の大きな柱として期待できるのがインバウンド効果だ。いまはコロナ禍でインバウンドもほとんどゼロ状態だが、人類の英知がコロナを克服したとき、肝心のインバウンドの受け皿が喪失していたら、コロナ後の経済復活も困難になる。そういう意味でGo Toトラベルを前倒しして疲弊しつつある観光産業のテコ入れをしたいと考えたのは、ごく自然である。
が、時期が悪かった。いったん感染の勢いが収まりつつあったのだが、緊急事態宣言の解除が早すぎた。もう少し様子を見るべきだったのに、社会経済活動の正常化を急ぎすぎた。それも、東京アラートや大阪モデルのように段階的に軸足を経済政策に少しずつ移していけばよかったのだが、一気に解除してしまった。東京の小池知事も大阪の吉村知事も、国の政策にあおられたのかどうかは知らないが、やはり一気に飲食業などの規制を外してしまった。ただでさえカラオケや「夜の街」は3密営業の業種だ。これらの3密業種だけは、規制を外すべきでなかった。東京や大阪・ミナミ、沖縄などは3密業種に対して再度営業時間規制や休業要請をすることにしたが、Go Toトラベル客を受け入れる観光地も、3密業種の営業は自粛してもらうことをキャンペーン対象の条件にすべきだ。
改めて言う。コロナ対策と経済活動は絶対に両立しえない。両立しえないからこそ、政策の軸足のコントロールが政府の能力として試されている。
東京オリンピックの開催は、すでに述べたようにほぼ絶望的になった。そうである以上、せっかく作ったオリンピック施設の活用法をそろそろ考えておくべきだろう。
【コロナ禍指数】の提案
メディアの報道を見ていて、本当に日本のコロナ禍の実態を解明しているのか、疑問にずっと思っていた。私はかなり前から、各都道府県の「感染率」を重視すべきだとブログで書いてきた。
というのは、PCR検査基準が自治体によって異なり(厳密には都道府県別に検査実施基準が設けられているわけではなく、実際には市区町村ごとに検査実施基準が設けられている)、だから都道府県単位の「感染者数」だけみてコロナ禍の状態を判断するのは極めて危険だと思っていた。そのため、コロナ禍の実態を表すには「感染者数」より、PCR検査で感染が判明した人の割合の方を重視すべきだと主張してきた。
そういう概念が、当時は一般的ではなかったので、とりあえず私は「感染率」という言葉を使ったのだが、その後、「陽性率」という言葉が一般化したので(陽性率の計算方法は、私の「感染率」の計算方法と同じ)、私も陽性率という言葉を使うようにしたし、メディアも陽性率を重要視するようになった。が、それはそれで新たな矛盾が生じたことに最近、気が付いた。
実は私がブログで始めてコロナ問題について書いたのは3月26日付の『日本のコロナ感染数は世界水準からみて異常なほど少ないのに、なぜ小池都知事は…』である。この記事を書いたのは、前日の夜、小池氏が緊急記者会見を開き、東京都があたかも非常事態宣言前夜に直面しているかのような警告を発したからである。この記事の中で私はこう書いている。
「なぜこのタイミングで小池氏は(中略)危機感を訴えたのか? 勘ぐりたくはないが、IOCバッハ会長がそれまでのかたくなな『東京オリンピックは予定通り開催』という姿勢を大きく転換し、約1年間の延期に同意したことが緊急記者会見の伏線にあったのではないかという疑いが生じる」と。さらに、
「刑事裁判においては『疑わしきは罰せず』が原則であることは私も否定しないが、コロナ感染については「疑わしきは即検査」を原則にすべきだ。が、なぜか日本では検査を受けるためのハードルが極めて高く、実は隠れ感染者が相当数いるのではないかと私は疑っていた。小池氏の記者会見での懸念が見事に当たるようだと、今後の検査のハードルが下がることを意味するのかもしれない。そうなれば隠れ感染者が爆発的に表面化する可能性も考えられよう」(※東京都のコロナ感染者数の推移は、その通りになった。が、私は預言者ではない)
「公表されている日本のコロナ感染者数は世界各国の感染者数に比べて異常に少ない。26日(※3月)には公表感染者数は1,291人と多少増えたが、人口当たりの感染者数まで考えると、「超異常」に少ない。1億2000万人の国民がいる日本での感染比率はどのくらいになるか、皆さん電卓をたたいて計算してみてください。日本の倍の国民数のアメリカは昨日1日だけでコロナ感染による死者数は200人を超えている。日本では死者数ではなく感染者数だけでも増えたのは200人に達していない」と、書いている。この時点ではまだ「陽性率」の重要性を指摘してはいないが、「感染者数」や「死亡者数」だけ重視していると「樹を見て森を語る」誤りに陥りかねないことは明らかに認識していた。
さらに、4月9日付の『いまなぜ「緊急事態宣言」――敢えて問う「これだけの疑問」』では、諸外国の人口に占める感染者比率や、感染者の死亡率を計算して、「PCR検査のハードルが高く重症者しか検査していなかったはずの日本で、なぜ死亡率が海外より低いのか」という疑問も呈している。ノーベル賞学者の山中教授が提唱した「ファクターXを探せ」よりはるかに私の方が早い。なお、この疑問に続けて、私はこういう疑問も呈している。
「さらに不思議なのは、直近のデータでは海外との比較である海外の感染者数1,275,104人のうち死者数は72,523人で死亡率は5.7%と、3月26日時点での死亡率より1.2%も増加している(※海外のデータはWHOだが、発表時期は厚労省より1日前)。海外では感染者数の増加に従って死亡率(※死亡者数ではない)も増えている。感染者数増加と死亡率増大の因果関係は不明だが、アメリカやイギリスなどで医療崩壊が生じ、その結果、死亡率も増大したと考えられないことはないが、日本でPCR検査のハードルを下げて「隠れ感染者」が表面化しつつあるのに、かえって死亡率が激減しているのはなぜか。安倍総理は専門家の諮問に応じて「緊急事態宣言」を出すことにしたというが、バカな専門家を1000人集めても意味がない。まず、こういう基本的な疑問に答えたうえで対策は講じるべきだろう」
翌10日には、このブログの【追記2】で、こう書いた。この時点でPCR検査実施数を問題にしたのも、私が初めてだ。
「大病院がPCR検査の実施に後ろ向きだったのは、新型コロナの感染力が強く、感染者を病院の大部屋で他の病気で入院中の患者と一緒の部屋で治療することができなかったためではないか。日本で感染者数が海外に比べ10分の1以下と異常に少なかったのは、実は感染者が少なかったのではなくてPCR検査を極力避けてきたからではないか。私は今日、厚労省のコロナセンターに電話して、毎日感染者数だけでなくPCR検査数も公表してくれと頼んだ。そうすれば検査を受けることができた人のうち何%に陽性反応が出たかがすぐわかり、本当に感染者が増加しているのか、それとも「隠れ感染者」があぶりだされることによってあたかも感染者数が急増したかのように見えるだけなのかが一目瞭然ですぐわかる」
4月10日には私は明確に「陽性率」の重要性を認識していた証拠だ。が、最近、感染者数や陽性率だけで日本のコロナ感染状況をうんぬんするのは危険だと思うようになった。
すでに述べたように、PDRの実施基準が都道府県ごとどころか市区町村ごとにばらばらだからだ。たとえば、東京都に次いで人口が多い神奈川県の場合、厚労省が発表している最新のデータ(7月31日午前0時更新)によると、東京都の感染者数(累計)12,228人に対し神奈川県は2,432人に過ぎない。人口は東京1,380万人に対し神奈川は910万人だ。この数字だけみると、あたかも神奈川県はコロナ封じ込めに成功しているかに見えるが、陽性率を見ると数字の重さが逆転するのだ。
というのはPCR検査実施数(累計)は東京182,521件(人)に対し、神奈川は17,863件でしかない。単純に陽性率を計算すると、東京は6.7%だが、神奈川はなんと13.6%になる。東京のほぼ倍の感染「大県」ということになる。それにしては神奈川県の黒岩知事は小池さんほど大騒ぎしていない。メディアも東京都の感染者数増加については熱心に報道するが、陽性率を基準にしたら神奈川県の方がよほど危険な地域だということになる。私が感染者数や陽性率だけで感染状況を判断するのは危険だと考えたのは、そのためだ。で、私が中学生並みの数学能力で考えたのが、【コロナ禍指数】という指標である。
この先、計算方法をいろいろ考えてみたのだが、所詮私の数学能力は中学生並み。陽性率をもう一度、PCR検査実施数で割ったらどうかとか、各自治体のPCR検査基準を数値化して陽性率に乗じたらどうかとか、いろいろ考えてみたが、私の頭のなかがグルグル回りだして、そこで思考力がストップしてしまった。とても私の能力では手に負えないことだけはわかった。
が、考え方だけは提示したので、数学が得意な人(高校生レベルで十分)なら「コロナ禍指数」を簡単に割り出す方程式はつくれるはず。ぜひ、数学が得意な高校生諸君、「コロナ禍指数」を計算する方程式を見つけてほしい。(8月1日)
※まったくの偶然だが、共同通信のネット配信で、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長が31日、政府との会合で感染状況を4段階に分類し、感染対策の指標とするよう強く求めたのに対して、首相官邸がコロナ対策が経済の足を引っ張ることを懸念、調整がつかなかったと報じた。
私がイメージしている「コロナ禍指数」と尾身会長が考えている感染対策の具体的指標が同じかどうかは不明だが、少なくとも尾身会長をはじめとする専門家も、「感染者数」や「陽性率」を基準にした対策では間違いを犯すと危機感を抱いているようだ。共同通信の記事を引用する。
関係者によると、尾身氏ら専門家は会合前から、指標を数値の形で示すべきだと主張。これに対し、官邸は数値化に反対した。感染拡大の勢いが止まらない中、具体的な数値を示せば政治判断の余地がなくなり、経済への深刻な影響を承知の上で緊急事態宣言を再び出さざるを得なくなる展開も想定されるためだ。4~5月の宣言発令が日本経済に与えた打撃は大きく、30日の経済財政諮問会議で委員から「再発令すれば日本は持たない」との声が上がったほど。もともと再発令に消極的だった官邸は今や「絶対に出せない」(政府関係者)との立場だ。
共同通信の報道が事実なら、政府のコロナ対策は「一応やっています」というアリバイ作りのためのジェスチャー以外の何物でもない。おそらく尾身氏ら分科会の専門家は感染状況のレベルに応じてきめ細かな対策を講じることを考えていると思うので、そうであれば、その指標に欠かせないのが、私の主張した客観的な「コロナ禍指数」しかありえない。私は前にブログでも書いたが、厚労省に大都市(政令都市)の繁華街と住宅地、中小都市の繁華街や商店街と住宅地をアトランダムに100か所くらいコンピュータで無差別に選び、それぞれの地域でPCR検査を実施して全国の感染状況を分析し、それぞれ感染状況に応じた対策をとるべきだと申し上げてきたが、おそらく尾身氏も同様の感染対策を考えているのではないかと思う。
が、図らずも、政府のスタンスが共同通信の報道によって明らかになってしまった。これまで政府は「感染対策と経済対策を両立させる」と主張してきたが、政府も腹の中では「両立なんか出来っこない」ことを百も承知だったのだ。(2日)
NHK 26%(開催) 43%(延期) 31%(中止)
朝日新聞 32%(開催) 32%(延期) 29%(中止)
実は私は7月17日、あることで東京オリンピックが夢と消えたと断言した。13日付のブログ『安倍政権は風前の灯火か? コロナ感染が拡大しつつあることを確認した。 小池・西村はどうする?』の【追記2】でこう書いた。ただ、この記事を書いたときはまだ一般に「キャンペーン」と言われていて、のちにキャンペーンの一つである「トラベル」を前倒しするという話だった。
さて、昨日(16日)急変したことがある。Go To キャンペーンから東京発着の観光旅行を外すというのだ。Go To キャンペーンはコロナ禍でインバウンド客も国内の観光客も激減し、窮地に追い込まれている観光地のホテル・旅館などの観光関連業界を経済再生の足掛かりにすべく1兆3500億円の巨費を投じての観光支援事業である。もともとは8月に入ってからスタートする予定だったが、7月10日、赤羽国土交通層が突然記者会見で7月22日に前倒しスタートすると発表、メディアも含めて大論争になった。
というのも、緊急事態宣言解除後、いったん沈静化に成功しつつあるかに見えたコロナ対策だが、7月に入って繁華街の「夜の街」を中心にクラスターが随所で発生し、とくに東京の感染判明者が急増するなど、いわゆる「第2波」が懸念されだした中でのキャンペーン前倒しだったから、私もブログで「ばかげている」と糾弾したくらいだ。さすがに小池都知事も「(キャンペーン前倒しは)ブレーキとアクセルを同時に踏むようなもの」と不快感を示していた。
とくに今週(13日以降)に入ってからコロナ感染は全国的に拡大傾向に入ったことが明らかになり、地方の知事たちから「再考」を促す声が急速に高まりだした。政府が観光事業を経済再生の足掛かりにしたいと考える気持ちは私にも理解できないわけではない。
少子高齢化が進み、生産人口(あるいは労働人口)の減少に歯止めがかからない状況の中、昨年まで日本の経済再生の柱になりつつあったインバウンド効果が、このコロナ禍で一気にしぼんでしまった。とくに客層がほとんど外国人の観光客に占められるようになったホテル・旅館も少なくなく、老舗旅館も閉館に追い込まれるところが続出し、コロナ禍が過ぎ去るまで、何とかインバウンドの受け皿を維持しておきたいと考えるのは自然ではある。
だが、コロナ禍が7月に入ってぶり返しだした時期に、なぜコロナに手を貸すようなキャンペーンの前倒しに踏み切ったのか、私は理解に苦しむ。むしろ、この時期は、何とか予定通り8月にキャンペーンを開始して経済再生の足掛かりにできるよう、緊急事態宣言を再発令して7月中にコロナを可能な限り抑え込むという政策をとるべきだったのではなかったか。
しかも、日本は中国のように情報統制ができる国ではない。敢えてキャンペーンの実施から東京を外してまで前倒しに踏み切るということは、当然世界中が知ることになる。つまり「東京は日本で最も危険な都市だ」というイメージが世界中に拡散しかねない。それが、どういう影響を生じるか。いうまでもなく、まだかすかに開催の可能性が残っている東京オリンピックにとって、昨年の19号台風のような逆風として襲ってくることを意味する。
はっきり断言する。東京外しのGo To キャンペーンを本当に7月22日からスタートさせるということは、東京オリンピックに「死」を宣告することを意味する。そういうことを意味する結果になることが、政府には分からなかったのか。(17日)
私が調べた限り、7月16日に政府がGo Toトラベルの前倒しを発表して以降、改めて東京オリンピック開催についての是非を問う世論調査を行ったのは、NHKと朝日新聞だけである。これがどれほど世界に大きな衝撃を与えたか、NHKと朝日以外のメディアは鈍感としか言いようがない。
政府の慌てふためきぶりは、メディアに登場する「顔」ぶれを見れば一目瞭然だ。まず、Go Toトラベルの前倒しと「東京外し」が公表されて大混乱が生じたころから、安倍総理の記者会見がほとんどなくなった。番記者のぶら下がり質問にも、普段なら愛想よく二言三言くらい答えるのに、まったく無言で記者たちを振り切る日が続いている(先日、久しぶりに記者会見を行ったが、「緊急事態宣言を再発令する状況にはない」と、ほんの1分ほど言いたいことだけ言って、さっさと会場から逃亡したくらいだ。
一時は経済再生担当相兼新型コロナ感染対策担当相兼全世代型社会保障改革担当相という三つの大臣職を兼任し、「政府の新しい顔」としてメディアに登場する機会が急増していた西村氏だが、彼も7月中旬以降は「出演」場面が激減してコロナ感染拡大対策についてしか発言しなくなった(だったら西村氏の肩書も「コロナ感染対策担当相」とすべきなのだが、なぜかメディアは「経済再生担当相」としている)。
一時はGo Toトラベル関係については国交省の赤羽大臣が急にメディアに登場しだし(本来は実務を担当する観光庁の蒲生長官の役割のはずだが)、その赤羽氏もGo Toトラベルの大混乱の責任を記者たちから追及されるようになると逃げ出し、一時「政府の顔」を西村氏に譲っていた感のあった菅官房長官が再びメディアに登場する機会が増えるというごたごたぶりだ。
政府が、早く社会経済活動の正常化を目指したい気持ちは私も分からないではないが、すでに述べたように感染抑止と経済活性化を両立できる政策はありえない。それを無理に両立させようとしたのか、それとも両立させようと努力しているんだというジェスチャーのためか、感染が急増した東京都をキャンペーンから除外することにした。
そのことにメディアも野党も、また憲法学者も問題にしていないが、感染者
数の多い少ないで地域住民を差別するのは、「法の下での平等」をうたった憲法
14条に抵触するのではないかという疑問を、私は前回のブログの冒頭に急遽【緊
急告発】として追記した。
そのことはともかく、この「東京外し」はIOCや世界各国のオリンピック委員会に大きな衝撃を与えた。当初、今年の夏に開催が予定されていた東京オリンピックだったが、世界中を襲ったコロナ禍のため、森会長率いる日本の組織委員会がIOCとすったもんだの交渉を重ね、何とか1年延期で合意に達した。IOCから1年延期の合意を取り付けるため、日本は何がなんでもコロナ禍を防いでいるという状況証拠をでっちあげるため、政府も組織委員会の言いなりにコロナ対策を放棄して(PCR検査のハードルを異常に高くしたり、感染者の受け入れ態勢の整備を意図的に怠ったりしたこと)感染者数が少ないように見せかけ、あたかも日本は安全・安心であるかのような印象を作り上げてきた。
が、社会経済活動を、コロナ対策と両立させながら再開するという国内向けの政策アピールのために、Go Toトラベルの前倒し実施と「東京外し」という方針を打ち出したことで大騒動が生じたと言える。「東京外し」が憲法違反になる可能性についてはすでに書いたが、同時に「東京は日本で最も危険な都市」というメッセージを世界中に発信したことも意味する。
当然、1年延期した東京オリンピック開催に対する懸念が世界中に広まった。一貫して「東京オリンピック払い夏、スケジュール通りに行う」と強気の姿勢を崩さなかった組織委員会の森会長も、NHKの取材に対して「今のような状態が続いたらできない。日本だけで判断できる問題ではない。各国・地域のオリンピック委員会がどうするのか、そしてIOCがどう判断するのか」とかなり弱気の発言をするようになった。
こうした状況下で日本でも大きく報道されショックを与えたのが、IOCでかなりの力を持っていると目されているカナダ代表のディック・パウンド委員だ。7月20日、共同通信の取材に対し、「(東京オリンピック開催は)2021年が残された唯一のチャンスだ」と述べ、22年夏への再延期や24年パリ大会と28年ロサンゼルス大会を4年ずつ繰り下げる案には否定的な見解を示した。
パウンド氏は、さらに21年の東京オリンピック開催が不可能になった場合、22年冬には北京の冬季オリンピックが予定されており、同じ年に夏・冬と2回もオリンピックを行うのは各国オリンピック委員会の負担が過重になり、現実的ではないとの見解も示したという。
しかし、コロナ禍は縮小の気配を見せるどころか、むしろ日本だけでなく世界中で拡大しつつある。とくに、いったん縮小しつつあると見えた国、地域で経済活動を再開しだした国、地域が軒並みコロナ再拡大の波に襲われていることからも、新型コロナ対策が容易でないことがはっきりした。政治の都合を優先させると、かえって傷を大きくしかねないことが、今回の各国政府の対応からも明らかになった。政府は、何度同じ失敗を繰り返しても、懲りない存在のようだ。
※ 7月29日になって、Go Toトラベルの延期をめぐって政府と分科会の間で激しい対立があったことがわかった。政府は16日の分科会で東京都を除外して8月上旬にスタートさせる予定だったGo Toトラベルを前倒しして22日に開始することを決めたが、その場で分科会の尾身座長が前倒しに反対したようだが、政府に押し切られたという。(29日の衆院国土交通委員会での尾身氏の証言)
こうして東京オリンピックは予定通り来年夏に開催するか、開催不可能となれば中止という選択肢しかない状況になった。日本側では、組織委員会の高橋治之理事が再延期も選択肢に入れるべきだと主張したようだが、たとえ再延期が可能となっても28年ロサンゼルス・オリンピックの次、32年の開催か、あるいはオリンピック施設の準備をまだほとんど始めていないだろうロサンゼルス大会を32年にずらしてもらって、28年の開催年に割り込むしか東京オリンピック開催の可能性はなくなった。
Go Toトラベルの強行がコロナ感染の再拡大を招いたためというより、Go Toトラベルからオリンピック開催都市の東京を外したことの方が、「日本は、日本自身が日本で最も危険な都市と位置付けた東京でオリンピックを強行するというのか」という反発が世界中に広まったためと言っていいだろう。
こうした状況になって慌てたのがIOC。調整委員会のコーツ委員長がロイター通信の取材に応じて中止論の蔓延に歯止めをかけた。
「私の直感だが、東京オリンピックは間違いなく来年開かれる」と。
が、そんな状況ではないことは、いまのコロナ感染拡大状況を見れば、よほどの奇跡でも起きない限りコロナの感染拡大を止めることは不可能であることは誰にでもわかる。
もし奇跡が起こるとしたら、この秋までに画期的な治療薬とワクチンが両方とも開発に成功し、かつ世界中の感染者や未感染者に提供できることが唯一の条件になる。仮に開発に成功しても、世界中にいきわたるだけの生産と流通、医療体制が構築されていなければ、来年のオリンピックには間に合わない。そう考えると、確率的にはコロナのウイルスを指で捕まえるくらい困難なことがお分かりだろう。日本だけが仮にコロナ退治に成功したとしても、オリンピック開催は無理だ。オリンピックとはそういうものだからだ。
【メディアのコロナ報道の問題】
メディアとくに民放テレビの報道番組が、NHKと違って識者たちがいろいろな立場から意見を言うのはいいのだが、番組を面白くするためかどうかは知らないが、極論で議論し合うことが多いのが気になる。感染拡大の防止か、経済活動の正常化かの二者択一のような議論は、わかりやすいと言えばわかりやすいが、実際には0か100かではない。振り子にたとえれば、いまの政府の政策は経済活動の正常化に振り子を大きく振りすぎている。そもそも感染対策と経済対策は両立しえないのだから、緊急事態宣言発令中に冷え込んだ経済活動に軸足を置きたくなるのは分からないこともないが、緊急事態宣言発令中に冷え込んだ経済活動の状況を考えたら、一気に経済活動を活性化しようと軸足を極端に移したらどうなるか、中学生でもわかることだろう。
もちろん政府がGo Toトラベルを前倒しでスタートさせた政策は私にも理解できないことはない。日本のGDPに占める個人消費(インバウンドも含めて)はいま約60%と言われているが、少子高齢化によって日本人の消費活動が今後増大することは期待できない。一方、日本の従来の経済成長の柱だった輸出産業は国際競争力の低下によって伸び悩んでいる。そういう状況下で、これからの日本経済の大きな柱として期待できるのがインバウンド効果だ。いまはコロナ禍でインバウンドもほとんどゼロ状態だが、人類の英知がコロナを克服したとき、肝心のインバウンドの受け皿が喪失していたら、コロナ後の経済復活も困難になる。そういう意味でGo Toトラベルを前倒しして疲弊しつつある観光産業のテコ入れをしたいと考えたのは、ごく自然である。
が、時期が悪かった。いったん感染の勢いが収まりつつあったのだが、緊急事態宣言の解除が早すぎた。もう少し様子を見るべきだったのに、社会経済活動の正常化を急ぎすぎた。それも、東京アラートや大阪モデルのように段階的に軸足を経済政策に少しずつ移していけばよかったのだが、一気に解除してしまった。東京の小池知事も大阪の吉村知事も、国の政策にあおられたのかどうかは知らないが、やはり一気に飲食業などの規制を外してしまった。ただでさえカラオケや「夜の街」は3密営業の業種だ。これらの3密業種だけは、規制を外すべきでなかった。東京や大阪・ミナミ、沖縄などは3密業種に対して再度営業時間規制や休業要請をすることにしたが、Go Toトラベル客を受け入れる観光地も、3密業種の営業は自粛してもらうことをキャンペーン対象の条件にすべきだ。
改めて言う。コロナ対策と経済活動は絶対に両立しえない。両立しえないからこそ、政策の軸足のコントロールが政府の能力として試されている。
東京オリンピックの開催は、すでに述べたようにほぼ絶望的になった。そうである以上、せっかく作ったオリンピック施設の活用法をそろそろ考えておくべきだろう。
【コロナ禍指数】の提案
メディアの報道を見ていて、本当に日本のコロナ禍の実態を解明しているのか、疑問にずっと思っていた。私はかなり前から、各都道府県の「感染率」を重視すべきだとブログで書いてきた。
というのは、PCR検査基準が自治体によって異なり(厳密には都道府県別に検査実施基準が設けられているわけではなく、実際には市区町村ごとに検査実施基準が設けられている)、だから都道府県単位の「感染者数」だけみてコロナ禍の状態を判断するのは極めて危険だと思っていた。そのため、コロナ禍の実態を表すには「感染者数」より、PCR検査で感染が判明した人の割合の方を重視すべきだと主張してきた。
そういう概念が、当時は一般的ではなかったので、とりあえず私は「感染率」という言葉を使ったのだが、その後、「陽性率」という言葉が一般化したので(陽性率の計算方法は、私の「感染率」の計算方法と同じ)、私も陽性率という言葉を使うようにしたし、メディアも陽性率を重要視するようになった。が、それはそれで新たな矛盾が生じたことに最近、気が付いた。
実は私がブログで始めてコロナ問題について書いたのは3月26日付の『日本のコロナ感染数は世界水準からみて異常なほど少ないのに、なぜ小池都知事は…』である。この記事を書いたのは、前日の夜、小池氏が緊急記者会見を開き、東京都があたかも非常事態宣言前夜に直面しているかのような警告を発したからである。この記事の中で私はこう書いている。
「なぜこのタイミングで小池氏は(中略)危機感を訴えたのか? 勘ぐりたくはないが、IOCバッハ会長がそれまでのかたくなな『東京オリンピックは予定通り開催』という姿勢を大きく転換し、約1年間の延期に同意したことが緊急記者会見の伏線にあったのではないかという疑いが生じる」と。さらに、
「刑事裁判においては『疑わしきは罰せず』が原則であることは私も否定しないが、コロナ感染については「疑わしきは即検査」を原則にすべきだ。が、なぜか日本では検査を受けるためのハードルが極めて高く、実は隠れ感染者が相当数いるのではないかと私は疑っていた。小池氏の記者会見での懸念が見事に当たるようだと、今後の検査のハードルが下がることを意味するのかもしれない。そうなれば隠れ感染者が爆発的に表面化する可能性も考えられよう」(※東京都のコロナ感染者数の推移は、その通りになった。が、私は預言者ではない)
「公表されている日本のコロナ感染者数は世界各国の感染者数に比べて異常に少ない。26日(※3月)には公表感染者数は1,291人と多少増えたが、人口当たりの感染者数まで考えると、「超異常」に少ない。1億2000万人の国民がいる日本での感染比率はどのくらいになるか、皆さん電卓をたたいて計算してみてください。日本の倍の国民数のアメリカは昨日1日だけでコロナ感染による死者数は200人を超えている。日本では死者数ではなく感染者数だけでも増えたのは200人に達していない」と、書いている。この時点ではまだ「陽性率」の重要性を指摘してはいないが、「感染者数」や「死亡者数」だけ重視していると「樹を見て森を語る」誤りに陥りかねないことは明らかに認識していた。
さらに、4月9日付の『いまなぜ「緊急事態宣言」――敢えて問う「これだけの疑問」』では、諸外国の人口に占める感染者比率や、感染者の死亡率を計算して、「PCR検査のハードルが高く重症者しか検査していなかったはずの日本で、なぜ死亡率が海外より低いのか」という疑問も呈している。ノーベル賞学者の山中教授が提唱した「ファクターXを探せ」よりはるかに私の方が早い。なお、この疑問に続けて、私はこういう疑問も呈している。
「さらに不思議なのは、直近のデータでは海外との比較である海外の感染者数1,275,104人のうち死者数は72,523人で死亡率は5.7%と、3月26日時点での死亡率より1.2%も増加している(※海外のデータはWHOだが、発表時期は厚労省より1日前)。海外では感染者数の増加に従って死亡率(※死亡者数ではない)も増えている。感染者数増加と死亡率増大の因果関係は不明だが、アメリカやイギリスなどで医療崩壊が生じ、その結果、死亡率も増大したと考えられないことはないが、日本でPCR検査のハードルを下げて「隠れ感染者」が表面化しつつあるのに、かえって死亡率が激減しているのはなぜか。安倍総理は専門家の諮問に応じて「緊急事態宣言」を出すことにしたというが、バカな専門家を1000人集めても意味がない。まず、こういう基本的な疑問に答えたうえで対策は講じるべきだろう」
翌10日には、このブログの【追記2】で、こう書いた。この時点でPCR検査実施数を問題にしたのも、私が初めてだ。
「大病院がPCR検査の実施に後ろ向きだったのは、新型コロナの感染力が強く、感染者を病院の大部屋で他の病気で入院中の患者と一緒の部屋で治療することができなかったためではないか。日本で感染者数が海外に比べ10分の1以下と異常に少なかったのは、実は感染者が少なかったのではなくてPCR検査を極力避けてきたからではないか。私は今日、厚労省のコロナセンターに電話して、毎日感染者数だけでなくPCR検査数も公表してくれと頼んだ。そうすれば検査を受けることができた人のうち何%に陽性反応が出たかがすぐわかり、本当に感染者が増加しているのか、それとも「隠れ感染者」があぶりだされることによってあたかも感染者数が急増したかのように見えるだけなのかが一目瞭然ですぐわかる」
4月10日には私は明確に「陽性率」の重要性を認識していた証拠だ。が、最近、感染者数や陽性率だけで日本のコロナ感染状況をうんぬんするのは危険だと思うようになった。
すでに述べたように、PDRの実施基準が都道府県ごとどころか市区町村ごとにばらばらだからだ。たとえば、東京都に次いで人口が多い神奈川県の場合、厚労省が発表している最新のデータ(7月31日午前0時更新)によると、東京都の感染者数(累計)12,228人に対し神奈川県は2,432人に過ぎない。人口は東京1,380万人に対し神奈川は910万人だ。この数字だけみると、あたかも神奈川県はコロナ封じ込めに成功しているかに見えるが、陽性率を見ると数字の重さが逆転するのだ。
というのはPCR検査実施数(累計)は東京182,521件(人)に対し、神奈川は17,863件でしかない。単純に陽性率を計算すると、東京は6.7%だが、神奈川はなんと13.6%になる。東京のほぼ倍の感染「大県」ということになる。それにしては神奈川県の黒岩知事は小池さんほど大騒ぎしていない。メディアも東京都の感染者数増加については熱心に報道するが、陽性率を基準にしたら神奈川県の方がよほど危険な地域だということになる。私が感染者数や陽性率だけで感染状況を判断するのは危険だと考えたのは、そのためだ。で、私が中学生並みの数学能力で考えたのが、【コロナ禍指数】という指標である。
この先、計算方法をいろいろ考えてみたのだが、所詮私の数学能力は中学生並み。陽性率をもう一度、PCR検査実施数で割ったらどうかとか、各自治体のPCR検査基準を数値化して陽性率に乗じたらどうかとか、いろいろ考えてみたが、私の頭のなかがグルグル回りだして、そこで思考力がストップしてしまった。とても私の能力では手に負えないことだけはわかった。
が、考え方だけは提示したので、数学が得意な人(高校生レベルで十分)なら「コロナ禍指数」を簡単に割り出す方程式はつくれるはず。ぜひ、数学が得意な高校生諸君、「コロナ禍指数」を計算する方程式を見つけてほしい。(8月1日)
※まったくの偶然だが、共同通信のネット配信で、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長が31日、政府との会合で感染状況を4段階に分類し、感染対策の指標とするよう強く求めたのに対して、首相官邸がコロナ対策が経済の足を引っ張ることを懸念、調整がつかなかったと報じた。
私がイメージしている「コロナ禍指数」と尾身会長が考えている感染対策の具体的指標が同じかどうかは不明だが、少なくとも尾身会長をはじめとする専門家も、「感染者数」や「陽性率」を基準にした対策では間違いを犯すと危機感を抱いているようだ。共同通信の記事を引用する。
関係者によると、尾身氏ら専門家は会合前から、指標を数値の形で示すべきだと主張。これに対し、官邸は数値化に反対した。感染拡大の勢いが止まらない中、具体的な数値を示せば政治判断の余地がなくなり、経済への深刻な影響を承知の上で緊急事態宣言を再び出さざるを得なくなる展開も想定されるためだ。4~5月の宣言発令が日本経済に与えた打撃は大きく、30日の経済財政諮問会議で委員から「再発令すれば日本は持たない」との声が上がったほど。もともと再発令に消極的だった官邸は今や「絶対に出せない」(政府関係者)との立場だ。
共同通信の報道が事実なら、政府のコロナ対策は「一応やっています」というアリバイ作りのためのジェスチャー以外の何物でもない。おそらく尾身氏ら分科会の専門家は感染状況のレベルに応じてきめ細かな対策を講じることを考えていると思うので、そうであれば、その指標に欠かせないのが、私の主張した客観的な「コロナ禍指数」しかありえない。私は前にブログでも書いたが、厚労省に大都市(政令都市)の繁華街と住宅地、中小都市の繁華街や商店街と住宅地をアトランダムに100か所くらいコンピュータで無差別に選び、それぞれの地域でPCR検査を実施して全国の感染状況を分析し、それぞれ感染状況に応じた対策をとるべきだと申し上げてきたが、おそらく尾身氏も同様の感染対策を考えているのではないかと思う。
が、図らずも、政府のスタンスが共同通信の報道によって明らかになってしまった。これまで政府は「感染対策と経済対策を両立させる」と主張してきたが、政府も腹の中では「両立なんか出来っこない」ことを百も承知だったのだ。(2日)