アメリカ大統領が1国に3泊4日もの長期滞在したのは異例だという。貿易赤字の削減に必死に取り組んでいるトランプ大統領としては、何が何でも農産物や牛肉の対日輸出を増やしたいのだろう。
が、「江戸の敵を長崎で討つ」ような要求に見えてならない。もともとアメリカの農畜産業者が苦しむことになったのは、トランプ氏が仕掛けた対中貿易戦争の結果ではないか。アメリカの食料自給率は130%を超えている。仮にアメリカでは生産できずに海外から輸入せざるを得ない食料品をすべて代替国産品に変えても、食糧生産の30%以上が余剰になるのは当たり前の話だ。しかも、中国の人口は約14億人といわれ、アメリカの余剰農畜産物にとっては重要な輸出先だ。アメリカが中国相手に貿易戦争を仕掛ければ、中国が対抗策としてアメリカからの輸入農畜産物にも高率関税をかけてくることは、当たり前の話だ。その尻拭いを日本にさせようというのは、少し虫が良すぎるのではないか。
前回のブログで書いたように、6月1日、米中は第3次関税戦争に突入した。6月1日のNHKは午前7時のニュースで「貿易摩擦」と表現した。今回の米中対立は最初から「摩擦」で済む問題ではなかった。トランプが一方的に関税障壁を高くすることで貿易赤字を減らそうとし、その最大の標的として中国を狙い撃ちしてきたからだ。
戦後、日本とドイツは敗戦国としてはかつてない奇跡の経済復興を成し遂げた。イタリアだけが蚊帳の外に置かれたが、東西対立の中で日本とドイツは極めて重要な地政学的地位を占めたが、イタリアにはそうした「地の利」がなかったからだ。なぜ日本とドイツだけが奇跡的な経済復興を成し遂げることができたのかというマクロ経済学的分析は、たぶんどの経済学者もしていないと思う。日本については、朝鮮戦争特需が戦後経済復興のきっかけになったという分析がすべての経済学者に共通しているが、ドイツは戦後東西に分割され、西ドイツはソ連が支配する東欧圏と接触する最前線という地政学的地位にあり、西ドイツを経済復興させることが西欧側にとって共産勢力の西欧への浸透を防ぐための防波堤として極めて重要な戦略的課題となったのだ。
いま中国は覇権を東南アジアだけでなく、ヨ-ロッパから中東、アフリカまで拡大しようとして「一帯一路」(実際には陸上ルートと海上ルートの「一帯二路」)構想を進めようとしている。
実は前回のブログでは文字数の関係で書ききれなかったことがある。トランプ大統領が仕掛けた対中貿易戦争の真の狙いについての分析である。背後には中国との覇権争いがあることは書いた。覇権争いには軍事的側面と経済的側面があり、戦後の日本とドイツが経済復興にとって極めて有利な地政学的地位を占めてきたのは、東西冷戦下という軍事的側面が大きく作用していた。とくに朝鮮戦争勃発当時の日本はまだGHQの占領下にあり、日本の安全は米軍が保証してくれていた。被占領国の安全を保証するのは占領国側にあることは国際常識であり、だから日本は「後顧の憂い」なく戦争特需によって経済復興の足掛かりをつかむことができた。実はこの時期、日本防衛のために日本に駐留していた米軍は根こそぎ朝鮮に動員されており、戦後の武装解除状態が続いていた日本は丸裸状態だった。アメリカが日本の独立を急ぎだし、併せて再軍備を日本に要求するようになったのは、こうした事情が背景にあった。
翻って、第2次世界大戦後の世界の安全保障環境について考察しておこう。朝鮮戦争やベトナム戦争に象徴されるように、実際には国内の覇権争いに第3国が介入したものであり、だから「代理戦争」とも言われた。実は、このことは非常に大切な視点なのだが、第2次世界大戦以降、経済目的の植民地主義戦争(帝国主義戦争とも)は一つも起きていない。そのことは何を意味するか。
はっきり言って、軍事力で他国を植民地支配することは、経済的にまったくペイしないことに、大国が気付くようになったからだ。このことは1国内でもいえることだが、日本でもいかなる僻地であろうとも政府や地方自治体には住民に対して最低限の文化的生活を保障する義務がある。住民側にとっては日本国憲法が保障している大きな権利である。
誤解を恐れずに書くが、政府や地方自治体にとって、これは極めて重い財政的負担になっている。僻地に住む住民の労働生産性が、政府や地方自治体が提供する財政的負担を上回ることはまずあり得ないからだ。だから北方領土が日本に返ってきたとしても、元島民であっても島への移住は認めないほうがいい。インフラ整備にかかるコストなどを考えると、絶対に財政的にはペイしない。現に、尖閣諸島は日本固有の領土だと主張しながら、日本政府は尖閣諸島を実効支配しようとはしない。竹島を不法占拠している韓国は、既成事実を積み重ねるためにどれだけ財政的な負担に耐えているか。もっとも民間人が竹島で生活しているわけではないから、竹島の実効支配は一種の政治的プロパガンダと考えれば経済収支を考慮する必要がないのかもしれないが…。
また経済学者は日本が朝鮮を支配していた35年間の経済収支をぜひ検証してもらいたい。欧米列強がアジアや中東を植民地支配していた時期の経済収支もぜひ検証してもらいたい。軍事力で他国を植民地支配することが、経済的にはいかに無意味な行為か。無意味どころか、植民地での生産活動によって上げた収益より、支配を続けるための財政的負担のほうがはるかに大きいことに、ようやく大国は気付くようになったはずだ。そうした時代の安全保障政策とはいかにあるべきかを考えたら、いまの安倍政権による安全保障政策のバカらしさがよく分かるはずだ。日本がアメリカから買う軍事装備品のF35Bやイージス・アショアは、日本の安全保障のためではなく、アメリカのトランプちゃんとかいうお坊ちゃんにねだられてバカ高いおもちゃを買ってやるようなものでしかない。
トランプ大統領の場合は、ある意味では日本の政治家と違って、選挙での公約を忠実に実現しようとしているという要素は否定できない。それだけアメリカでは選挙の公約は重いのだろう。実現できもしない公約を、ただひたすら票集めのための手段と考えている日本の政治家も、そうしたアメリカの政治家の姿勢は見習ってほしいとは思うが、何が何でも力で公約を実現しようという姿勢は、かえって天に唾するような結果を生んでいる(※アメリカの悲劇は先の大統領選挙がトランプ氏とヒラリー氏の間で繰り広げられたスキャンダル合戦に終始してしまったことだ。ヒラリー陣営がトランプ氏の公約がアメリカをどういう国にしようとしているのかを追及し、公約論争を繰り広げていたら、いまのようなアメリカの独善的姿勢はありえなかったと思う。いかなる政策も必ず副作用を伴う。薬と同様、効果が大きい政策は同時に副作用も大きくなる。どうして政治家は公約をPRするとき、「こういう副作用にも耐えてほしい」と正直に言わないのか。民主主義がまだ未発達段階にあるからか)。
中国との間で繰り広げている貿易戦争は、前回のブログでも書いたように、トランプ支持層だったはずの農畜産家をかえって苦しめる結果を生んでいる。アメリカの対中貿易赤字が大きいということは、第3次戦争に突入した時点で、もはや中国は量的には報復関税で対抗することが不可能な次元に入ったことを意味している。アメリカが6月1日に実施した対中輸入品2000億ドル分に対する関税引き上げに対して、中国は対米輸入品にかけた関税引き上げ分は600億ドルと、アメリカの3分の1にも満たない。最終的な第4次関税攻撃はアメリカは5000億ドル分になるが、中国は1300億ドル分しか残っていない。トランプ大統領はこの結果から対中貿易戦争に勝ったと思ったかもしれないが、トランプ大統領の浅はかな計算は、中国に想定外の武器を振るわせかねない事態を招いた。まだ輸出規制を行うことを公表したわけではないが、習近平主席はレアアースというカードを切ることすら匂わせだした。
高度先端技術製品には欠かせないとされるレアアースは、その確認されている埋蔵量も、現在の生産量も世界のトップ(生産シェアは世界の7割を占める)を走っており、鄧小平時代以来中国は「戦略資源」と位置付けている。実際、尖閣諸島の帰属問題をめぐって日本に対して輸出禁止というカードを切ったことがあるが、日本が代替技術の開発に成功したため、レアアースの国際市場価格がかえって暴落するという痛い目に中国はあっている。専門家はすでに、このカードの効果は短期間しか持たないとみており、中国はこのカードにあまり頼らないほうがいいかもしれない。むしろ私が前回のブログで書いたように、アップルのスマホや米アパレルメーカーのブランド衣料品の最終工程を、一帯一路構想で中国の経済的影響下にある第3国で、ほんの少しだけの最終工程を中国資本の工場で行って「中国製」ではなく「第3国製」の形式をとった方が賢い大人の対策ではないかと思う。
そうなると、困るのはノーブランドの純粋な中国製品の大幅値上げで財布が直撃される低所得層や、低所得層をターゲットにしてきた小売業者だ。たとえば日本のユニクロ製品の大半が中国製だということは周知の事実だが、日本が中国製品に25%の関税をかけたら消費者のユニクロ離れが急速に進み、ユニクロは大打撃を受ける。それを回避するには中国で99%仕上げて第3国で最終工程の1%を行ってタグには「made in ***」として関税攻撃を回避するしかない。
実は金融筋が最も警戒しているのは中国が保有する米国債の放出である。米国債の発行残高は16兆1800億ドルで、中国が保有する米国債は7%の1兆1200億ドル(日本は1兆800億ドル)で海外での保有国では世界トップ(日本は2位)を占めている。トランプ大統領が中国をあまり追い詰めすぎると、最後の切り札として中国が米国債を売りに出すのではないかという懸念だ。もし、そういう事態が生じると、世界経済はリーマン・ショックどころではない大混乱に陥る。なぜか。
トランプ大統領は公約の一つとして景気対策のため大幅減税を実施した。アメリカ経済は現在、世界で最も順調だが、それによる税収増では減税による税収減を補えていない(日本も同じ)。そのためアメリカも赤字国債を増発せざるを得ない状況にあるが、もし中国が大量に米国債を売却すると需給バランスが崩れ米国債は大きく値崩れする。国債の表面金利は一定だが、国債の額面価格を市場価格が大きく下回ることになるとどういう事態が生じるか。
極端なケースだが、わかりやすくするために書くと、額面100ドルの国債の市場価格が90ドルに下落すると国債の実質利回りは10%も上昇する。既発行国債に対する金利負担が増えることはないが、新規発行の国債の表面金利を大幅に上げなければ売れなくなる。当然アメリカは財政負担に耐えられなくなる。実はアメリカで最近急浮上し、日本でも国会で議論されるようになった新財政理論のMMTは「そんな心配をする必要はない」という説だ(なおMMTに対する批判は4月22日に投稿したブログ「働き方改革の問題点を検証してみた③ 同一労働同一賃金はどういう結果をもたらすか」で書いた)。もちろん中国にとっても自殺的行為になるので、そういう心配をする必要はないというのがエコノミストたちの通説だが、「死なば、もろとも」という心理は独裁政権ほど生じやすい。いまのところ米中貿易戦争は関税戦争の段階にとどまっているが、関税戦争では中国に勝ち目はない。中国が体制不安に陥るような事態になると、どういう手で対抗しようとするか…。
そういう最終的懸念はともかく、トランプ大統領の狙いについてメディアの多くは次世代通信技術の5Gの主導権争いが背後にあると解説している向きがあるが、表面化している知財問題だけではなく、一帯一路構想によって中国の経済的支配力が東南アジアからヨーロッパ、中東、アフリカにまで及ぶことにアメリカが自分の足元が脅かされつつあるという危機感を抱いているからではないかと私は考えている。
1966年に日米が主導して作ったアジア開発銀行(出資比率は日米ともに15.7%)に対して、2016年、中国が主導してアジアインフラ投資銀行を設立した。2019年4月時点で、アジア開発銀行の67か国・地域を大きく上回る97か国・地域が加盟し、融資残高もアジア開発銀行の50億ドルを上回る75億ドルに達している。ただし、「債務の罠」といわれている問題(債権国が途上国に対し返済不能な債務によって支配力を強める)が指摘されており、アジアインフラ投資銀行加盟国・地域の中からも返済能力を超えた投融資は行うべきでないという声も高まっている。
いずれにせよ米中の対立は、日本にとっても「対岸の火事」ですまされる問題ではない。実際中国に生産拠点を置いている日本企業の中国離れが急速に加速しており、安倍総理はアメリカの対日関税攻勢を防ぐだけでなく、トランプ大統領のアメリカ・ファースト政策に対しても「ちょっとやりすぎではないか」とクレームをつけるくらいの矜持を持ってもらいたい。
すでに述べたように、日本を取り巻くだけでなく、世界の安全保障環境は東西対立時代の終焉と同時に激変している。日本の周辺海域には膨大な海底資源が眠っていると言われており、中国との間で生じている尖閣諸島の領有権問題も、尖閣諸島の周辺海域に眠っている海底資源が問題の種といわれている。が、海底資源を採掘する技術にも大きな課題が横たわっているし、コスト的にペイするときは地上資源が枯渇して価格が暴騰でもしなければ事業として成り立たない。それはアメリカのシェール・オイルが抱えている宿命的問題でもあり、いまは原油価格が高騰しているからシェール・オイルの採掘事業もペイしているが、つい数年前は原油価格の暴落によってシェール・オイルの市場競争力が失われた時期もあった。資源問題は常にそうしたリスクと直面しており、机上の計算通りにはなかなかいかない。そうしたことも踏まえて日本は独立国家としての矜持をもって国際社会と対峙していかなければならないと思う。
が、「江戸の敵を長崎で討つ」ような要求に見えてならない。もともとアメリカの農畜産業者が苦しむことになったのは、トランプ氏が仕掛けた対中貿易戦争の結果ではないか。アメリカの食料自給率は130%を超えている。仮にアメリカでは生産できずに海外から輸入せざるを得ない食料品をすべて代替国産品に変えても、食糧生産の30%以上が余剰になるのは当たり前の話だ。しかも、中国の人口は約14億人といわれ、アメリカの余剰農畜産物にとっては重要な輸出先だ。アメリカが中国相手に貿易戦争を仕掛ければ、中国が対抗策としてアメリカからの輸入農畜産物にも高率関税をかけてくることは、当たり前の話だ。その尻拭いを日本にさせようというのは、少し虫が良すぎるのではないか。
前回のブログで書いたように、6月1日、米中は第3次関税戦争に突入した。6月1日のNHKは午前7時のニュースで「貿易摩擦」と表現した。今回の米中対立は最初から「摩擦」で済む問題ではなかった。トランプが一方的に関税障壁を高くすることで貿易赤字を減らそうとし、その最大の標的として中国を狙い撃ちしてきたからだ。
戦後、日本とドイツは敗戦国としてはかつてない奇跡の経済復興を成し遂げた。イタリアだけが蚊帳の外に置かれたが、東西対立の中で日本とドイツは極めて重要な地政学的地位を占めたが、イタリアにはそうした「地の利」がなかったからだ。なぜ日本とドイツだけが奇跡的な経済復興を成し遂げることができたのかというマクロ経済学的分析は、たぶんどの経済学者もしていないと思う。日本については、朝鮮戦争特需が戦後経済復興のきっかけになったという分析がすべての経済学者に共通しているが、ドイツは戦後東西に分割され、西ドイツはソ連が支配する東欧圏と接触する最前線という地政学的地位にあり、西ドイツを経済復興させることが西欧側にとって共産勢力の西欧への浸透を防ぐための防波堤として極めて重要な戦略的課題となったのだ。
いま中国は覇権を東南アジアだけでなく、ヨ-ロッパから中東、アフリカまで拡大しようとして「一帯一路」(実際には陸上ルートと海上ルートの「一帯二路」)構想を進めようとしている。
実は前回のブログでは文字数の関係で書ききれなかったことがある。トランプ大統領が仕掛けた対中貿易戦争の真の狙いについての分析である。背後には中国との覇権争いがあることは書いた。覇権争いには軍事的側面と経済的側面があり、戦後の日本とドイツが経済復興にとって極めて有利な地政学的地位を占めてきたのは、東西冷戦下という軍事的側面が大きく作用していた。とくに朝鮮戦争勃発当時の日本はまだGHQの占領下にあり、日本の安全は米軍が保証してくれていた。被占領国の安全を保証するのは占領国側にあることは国際常識であり、だから日本は「後顧の憂い」なく戦争特需によって経済復興の足掛かりをつかむことができた。実はこの時期、日本防衛のために日本に駐留していた米軍は根こそぎ朝鮮に動員されており、戦後の武装解除状態が続いていた日本は丸裸状態だった。アメリカが日本の独立を急ぎだし、併せて再軍備を日本に要求するようになったのは、こうした事情が背景にあった。
翻って、第2次世界大戦後の世界の安全保障環境について考察しておこう。朝鮮戦争やベトナム戦争に象徴されるように、実際には国内の覇権争いに第3国が介入したものであり、だから「代理戦争」とも言われた。実は、このことは非常に大切な視点なのだが、第2次世界大戦以降、経済目的の植民地主義戦争(帝国主義戦争とも)は一つも起きていない。そのことは何を意味するか。
はっきり言って、軍事力で他国を植民地支配することは、経済的にまったくペイしないことに、大国が気付くようになったからだ。このことは1国内でもいえることだが、日本でもいかなる僻地であろうとも政府や地方自治体には住民に対して最低限の文化的生活を保障する義務がある。住民側にとっては日本国憲法が保障している大きな権利である。
誤解を恐れずに書くが、政府や地方自治体にとって、これは極めて重い財政的負担になっている。僻地に住む住民の労働生産性が、政府や地方自治体が提供する財政的負担を上回ることはまずあり得ないからだ。だから北方領土が日本に返ってきたとしても、元島民であっても島への移住は認めないほうがいい。インフラ整備にかかるコストなどを考えると、絶対に財政的にはペイしない。現に、尖閣諸島は日本固有の領土だと主張しながら、日本政府は尖閣諸島を実効支配しようとはしない。竹島を不法占拠している韓国は、既成事実を積み重ねるためにどれだけ財政的な負担に耐えているか。もっとも民間人が竹島で生活しているわけではないから、竹島の実効支配は一種の政治的プロパガンダと考えれば経済収支を考慮する必要がないのかもしれないが…。
また経済学者は日本が朝鮮を支配していた35年間の経済収支をぜひ検証してもらいたい。欧米列強がアジアや中東を植民地支配していた時期の経済収支もぜひ検証してもらいたい。軍事力で他国を植民地支配することが、経済的にはいかに無意味な行為か。無意味どころか、植民地での生産活動によって上げた収益より、支配を続けるための財政的負担のほうがはるかに大きいことに、ようやく大国は気付くようになったはずだ。そうした時代の安全保障政策とはいかにあるべきかを考えたら、いまの安倍政権による安全保障政策のバカらしさがよく分かるはずだ。日本がアメリカから買う軍事装備品のF35Bやイージス・アショアは、日本の安全保障のためではなく、アメリカのトランプちゃんとかいうお坊ちゃんにねだられてバカ高いおもちゃを買ってやるようなものでしかない。
トランプ大統領の場合は、ある意味では日本の政治家と違って、選挙での公約を忠実に実現しようとしているという要素は否定できない。それだけアメリカでは選挙の公約は重いのだろう。実現できもしない公約を、ただひたすら票集めのための手段と考えている日本の政治家も、そうしたアメリカの政治家の姿勢は見習ってほしいとは思うが、何が何でも力で公約を実現しようという姿勢は、かえって天に唾するような結果を生んでいる(※アメリカの悲劇は先の大統領選挙がトランプ氏とヒラリー氏の間で繰り広げられたスキャンダル合戦に終始してしまったことだ。ヒラリー陣営がトランプ氏の公約がアメリカをどういう国にしようとしているのかを追及し、公約論争を繰り広げていたら、いまのようなアメリカの独善的姿勢はありえなかったと思う。いかなる政策も必ず副作用を伴う。薬と同様、効果が大きい政策は同時に副作用も大きくなる。どうして政治家は公約をPRするとき、「こういう副作用にも耐えてほしい」と正直に言わないのか。民主主義がまだ未発達段階にあるからか)。
中国との間で繰り広げている貿易戦争は、前回のブログでも書いたように、トランプ支持層だったはずの農畜産家をかえって苦しめる結果を生んでいる。アメリカの対中貿易赤字が大きいということは、第3次戦争に突入した時点で、もはや中国は量的には報復関税で対抗することが不可能な次元に入ったことを意味している。アメリカが6月1日に実施した対中輸入品2000億ドル分に対する関税引き上げに対して、中国は対米輸入品にかけた関税引き上げ分は600億ドルと、アメリカの3分の1にも満たない。最終的な第4次関税攻撃はアメリカは5000億ドル分になるが、中国は1300億ドル分しか残っていない。トランプ大統領はこの結果から対中貿易戦争に勝ったと思ったかもしれないが、トランプ大統領の浅はかな計算は、中国に想定外の武器を振るわせかねない事態を招いた。まだ輸出規制を行うことを公表したわけではないが、習近平主席はレアアースというカードを切ることすら匂わせだした。
高度先端技術製品には欠かせないとされるレアアースは、その確認されている埋蔵量も、現在の生産量も世界のトップ(生産シェアは世界の7割を占める)を走っており、鄧小平時代以来中国は「戦略資源」と位置付けている。実際、尖閣諸島の帰属問題をめぐって日本に対して輸出禁止というカードを切ったことがあるが、日本が代替技術の開発に成功したため、レアアースの国際市場価格がかえって暴落するという痛い目に中国はあっている。専門家はすでに、このカードの効果は短期間しか持たないとみており、中国はこのカードにあまり頼らないほうがいいかもしれない。むしろ私が前回のブログで書いたように、アップルのスマホや米アパレルメーカーのブランド衣料品の最終工程を、一帯一路構想で中国の経済的影響下にある第3国で、ほんの少しだけの最終工程を中国資本の工場で行って「中国製」ではなく「第3国製」の形式をとった方が賢い大人の対策ではないかと思う。
そうなると、困るのはノーブランドの純粋な中国製品の大幅値上げで財布が直撃される低所得層や、低所得層をターゲットにしてきた小売業者だ。たとえば日本のユニクロ製品の大半が中国製だということは周知の事実だが、日本が中国製品に25%の関税をかけたら消費者のユニクロ離れが急速に進み、ユニクロは大打撃を受ける。それを回避するには中国で99%仕上げて第3国で最終工程の1%を行ってタグには「made in ***」として関税攻撃を回避するしかない。
実は金融筋が最も警戒しているのは中国が保有する米国債の放出である。米国債の発行残高は16兆1800億ドルで、中国が保有する米国債は7%の1兆1200億ドル(日本は1兆800億ドル)で海外での保有国では世界トップ(日本は2位)を占めている。トランプ大統領が中国をあまり追い詰めすぎると、最後の切り札として中国が米国債を売りに出すのではないかという懸念だ。もし、そういう事態が生じると、世界経済はリーマン・ショックどころではない大混乱に陥る。なぜか。
トランプ大統領は公約の一つとして景気対策のため大幅減税を実施した。アメリカ経済は現在、世界で最も順調だが、それによる税収増では減税による税収減を補えていない(日本も同じ)。そのためアメリカも赤字国債を増発せざるを得ない状況にあるが、もし中国が大量に米国債を売却すると需給バランスが崩れ米国債は大きく値崩れする。国債の表面金利は一定だが、国債の額面価格を市場価格が大きく下回ることになるとどういう事態が生じるか。
極端なケースだが、わかりやすくするために書くと、額面100ドルの国債の市場価格が90ドルに下落すると国債の実質利回りは10%も上昇する。既発行国債に対する金利負担が増えることはないが、新規発行の国債の表面金利を大幅に上げなければ売れなくなる。当然アメリカは財政負担に耐えられなくなる。実はアメリカで最近急浮上し、日本でも国会で議論されるようになった新財政理論のMMTは「そんな心配をする必要はない」という説だ(なおMMTに対する批判は4月22日に投稿したブログ「働き方改革の問題点を検証してみた③ 同一労働同一賃金はどういう結果をもたらすか」で書いた)。もちろん中国にとっても自殺的行為になるので、そういう心配をする必要はないというのがエコノミストたちの通説だが、「死なば、もろとも」という心理は独裁政権ほど生じやすい。いまのところ米中貿易戦争は関税戦争の段階にとどまっているが、関税戦争では中国に勝ち目はない。中国が体制不安に陥るような事態になると、どういう手で対抗しようとするか…。
そういう最終的懸念はともかく、トランプ大統領の狙いについてメディアの多くは次世代通信技術の5Gの主導権争いが背後にあると解説している向きがあるが、表面化している知財問題だけではなく、一帯一路構想によって中国の経済的支配力が東南アジアからヨーロッパ、中東、アフリカにまで及ぶことにアメリカが自分の足元が脅かされつつあるという危機感を抱いているからではないかと私は考えている。
1966年に日米が主導して作ったアジア開発銀行(出資比率は日米ともに15.7%)に対して、2016年、中国が主導してアジアインフラ投資銀行を設立した。2019年4月時点で、アジア開発銀行の67か国・地域を大きく上回る97か国・地域が加盟し、融資残高もアジア開発銀行の50億ドルを上回る75億ドルに達している。ただし、「債務の罠」といわれている問題(債権国が途上国に対し返済不能な債務によって支配力を強める)が指摘されており、アジアインフラ投資銀行加盟国・地域の中からも返済能力を超えた投融資は行うべきでないという声も高まっている。
いずれにせよ米中の対立は、日本にとっても「対岸の火事」ですまされる問題ではない。実際中国に生産拠点を置いている日本企業の中国離れが急速に加速しており、安倍総理はアメリカの対日関税攻勢を防ぐだけでなく、トランプ大統領のアメリカ・ファースト政策に対しても「ちょっとやりすぎではないか」とクレームをつけるくらいの矜持を持ってもらいたい。
すでに述べたように、日本を取り巻くだけでなく、世界の安全保障環境は東西対立時代の終焉と同時に激変している。日本の周辺海域には膨大な海底資源が眠っていると言われており、中国との間で生じている尖閣諸島の領有権問題も、尖閣諸島の周辺海域に眠っている海底資源が問題の種といわれている。が、海底資源を採掘する技術にも大きな課題が横たわっているし、コスト的にペイするときは地上資源が枯渇して価格が暴騰でもしなければ事業として成り立たない。それはアメリカのシェール・オイルが抱えている宿命的問題でもあり、いまは原油価格が高騰しているからシェール・オイルの採掘事業もペイしているが、つい数年前は原油価格の暴落によってシェール・オイルの市場競争力が失われた時期もあった。資源問題は常にそうしたリスクと直面しており、机上の計算通りにはなかなかいかない。そうしたことも踏まえて日本は独立国家としての矜持をもって国際社会と対峙していかなければならないと思う。