久しぶりに政治・経済問題から離れる。
京都大学のiPS細胞研究所(山中伸弥所長)で発生した論文不正問題について書く。論文の不正を行ったのは同研究所の特定拠点助教の男性研究員(36)だという。報道では実名が公表されているが、このブログでは実名は伏せる。
研究者の捏造論文事件として一躍社会的問題になったのは、2014年3月に発覚した理化学研究所・小保方晴子氏の万能再生細胞STAP細胞論文事件である。iPS細胞に次ぐ「世紀の大発見」として世界中を駆け巡ったこの論文は同年1月の『ネイチャー』に掲載され、「発見者」の小保方氏は一躍時の人となった。
その前年、山中教授のiPS細胞研究がノーベル賞を受賞したばかりで日本中が沸き立っていた時に、iPS細胞よりはるかに簡単な方法で作成でき、しかも細胞がガン化する可能性も低いというのだから、世界中の再生細胞研究者を驚愕させたのも当然であった。
が、3月10日、NHK『ニュース7』がこの研究に対する疑惑を報道したのである。共同研究者の若山昭彦氏(山梨大学教授)が「研究データに重大な問題が見つかり、STAP細胞が存在する確信が持てなくなった」として、論文の共著者として名を連ねた研究者たちに論文取り下げを呼びかけたというのである。
私が直ちにネット検索してみたら、日本中が大騒ぎをし始めた直後の2月中旬ころから研究者たちの間で、「この研究は捏造ではないか」という疑惑の声が生じていたようなのだ。
NHKの報道の翌日11日に私は『小保方晴子氏のSTAP細胞作製はねつ造だったのか。それとも突然変異だったのか』と題するブログをアップした。そのブログで私はこう書いた。
自然科学の分野における新発見や発明は、再現性の確認が極めて重要な要素を占める。生物学の分野においては「突然変異」という現象が生じることはよく知られている。私も多分中学生のころ理科の勉強で学んだと記憶している。なぜ突然変異が生じるのかは、私の中学生時代にはもちろん解明されていなかった。ただ、科学的に説明不可能な変化が生物界にはたびたび生じていて、その現象を「突然変異」と称することになったようだ。
いまは、なぜ「突然変異」が生じるのかの研究がかなり進んでいて、DNAあるいはRNAの塩基配列に原因不明の変化が生じる「遺伝子突然変異」と、染色体の数や構造に変化が生じる「染色体突然変異」に大別されているようだ。こうした変異が生じる原因を特定できれば、同様の状況を遺伝子や染色体に作用させれば、それは「突然変異」ではなく人工的に同様の変異を作り出すことが可能になるはずだ。(中略)
で、問題はSTAP細胞が原因不明で生じた「突然変異」だったのか、それとも研究者としては絶対に許されない捏造研究だったのか、ということに絞られるのではないかと私は見ている。
この時期、私はブログで集団的自衛権問題に集中的に取り組んでいたが、散発的にSTAP細胞問題についても書いている。
3月14日には『小保方晴子氏のSTAP細胞作製疑惑に新たな疑惑が浮上した。彼女はなぜ真実を明らかにせず逃げ回るのか?』と題するブログをアップしている。
4月10日『小保方晴子氏が反撃を開始した①――STAP現象は証明できるのか?』
4月11日『小保方晴子氏が反撃を開始した②――論文のミスは悪意の所産だったのか?』
4月16日『STAP細胞研究のカギを握る理研・笹井氏は今日何を語る。小保方氏に追い風が吹き出すか?』
4月17日『ノーベル賞級といわれる理研・笹井氏の釈明会見は一見理路整然に見えたが、実は矛盾だらけだった』
6月5日『小保方晴子のSTAP細胞研究は科学史上、空前の虚偽だったことがほぼ確実になった』(※このブログ以降小保方を呼び捨てにした)
6月17日『STAP細胞は結局「青い鳥」だったのか…。関係者の処分だけでは済まされない』
8月28日『STAP,検証実験、いつまで税金の無駄遣いを続けるのか。理研の解体的出直しとは野依体制の一新だ』(※野依は理研理事長)
12月22日『STAP騒動はなんだったのか①』
12月26日『STAP騒動はなんだったのか②――理研は解体し、野依理事長は懲戒免職だ』
ここまで私がSTAP問題を追及してきたのは、二度と論文不正事件が生じないようにするためだった。が、東大で生じ、今度は京大iPS細胞研究所でも生じた。なぜか。
報道によれば、iPS細胞研究所に所属する研究者は、教授ら一部の主任研究者を除いてほとんどが有期雇用だという。論文不正を犯した助教も雇用期間が今年3月末に迫っており、研究成果が雇用延長や別の研究機関での就職に反映される状況だったようだ。
所長の山中教授は会見で「不正を防げなかったことを非常に公開し、反省している。重く受け止め、研究者への教育にこれまで以上に取り組んでいく」と頭を下げたが、問題の本質はそういうことではないと思う。
基礎研究には「成果主義」を求めること自体が間違っていると、私は思う。
大きな発見や発明の多くは、従来の思い込みを否定することによって生まれる。若い研究者を育てるには、発想のユニークさを重視する研究環境を整えることだ。発想はユニークだが、よく考えてみれば一理ある、というような研究者を育て、またそういう素質のある人の能力を見抜く力がリーダーには求められる。
私が小保方氏を犯罪者と決めつけるに至ったのは、逃げ回っていた彼女がようやく記者会見に出て、「私は200回以上再現に成功した」と言った瞬間である。それまでは「突然変異」の可能性を否定できないと考えていたが、世界中の研究者が小保方レシピで実験しても再現できないことを、彼女は200回以上再現したという。もし小保方氏の主張が事実なら、彼女は再現条件を付きとめていたはずであり、それを明らかにすれば疑惑は一瞬にして晴らせていた。生物界における突然変異でなくても、物理現象でも一定の条件が整わなければ再現しないこともある。本当に生じた現象なら、とことん再現条件を追及するのが研究者ではないか。
基礎研究に成果主義はそぐわない――そのことを、一連の論文不正事件が物語っている。
京都大学のiPS細胞研究所(山中伸弥所長)で発生した論文不正問題について書く。論文の不正を行ったのは同研究所の特定拠点助教の男性研究員(36)だという。報道では実名が公表されているが、このブログでは実名は伏せる。
研究者の捏造論文事件として一躍社会的問題になったのは、2014年3月に発覚した理化学研究所・小保方晴子氏の万能再生細胞STAP細胞論文事件である。iPS細胞に次ぐ「世紀の大発見」として世界中を駆け巡ったこの論文は同年1月の『ネイチャー』に掲載され、「発見者」の小保方氏は一躍時の人となった。
その前年、山中教授のiPS細胞研究がノーベル賞を受賞したばかりで日本中が沸き立っていた時に、iPS細胞よりはるかに簡単な方法で作成でき、しかも細胞がガン化する可能性も低いというのだから、世界中の再生細胞研究者を驚愕させたのも当然であった。
が、3月10日、NHK『ニュース7』がこの研究に対する疑惑を報道したのである。共同研究者の若山昭彦氏(山梨大学教授)が「研究データに重大な問題が見つかり、STAP細胞が存在する確信が持てなくなった」として、論文の共著者として名を連ねた研究者たちに論文取り下げを呼びかけたというのである。
私が直ちにネット検索してみたら、日本中が大騒ぎをし始めた直後の2月中旬ころから研究者たちの間で、「この研究は捏造ではないか」という疑惑の声が生じていたようなのだ。
NHKの報道の翌日11日に私は『小保方晴子氏のSTAP細胞作製はねつ造だったのか。それとも突然変異だったのか』と題するブログをアップした。そのブログで私はこう書いた。
自然科学の分野における新発見や発明は、再現性の確認が極めて重要な要素を占める。生物学の分野においては「突然変異」という現象が生じることはよく知られている。私も多分中学生のころ理科の勉強で学んだと記憶している。なぜ突然変異が生じるのかは、私の中学生時代にはもちろん解明されていなかった。ただ、科学的に説明不可能な変化が生物界にはたびたび生じていて、その現象を「突然変異」と称することになったようだ。
いまは、なぜ「突然変異」が生じるのかの研究がかなり進んでいて、DNAあるいはRNAの塩基配列に原因不明の変化が生じる「遺伝子突然変異」と、染色体の数や構造に変化が生じる「染色体突然変異」に大別されているようだ。こうした変異が生じる原因を特定できれば、同様の状況を遺伝子や染色体に作用させれば、それは「突然変異」ではなく人工的に同様の変異を作り出すことが可能になるはずだ。(中略)
で、問題はSTAP細胞が原因不明で生じた「突然変異」だったのか、それとも研究者としては絶対に許されない捏造研究だったのか、ということに絞られるのではないかと私は見ている。
この時期、私はブログで集団的自衛権問題に集中的に取り組んでいたが、散発的にSTAP細胞問題についても書いている。
3月14日には『小保方晴子氏のSTAP細胞作製疑惑に新たな疑惑が浮上した。彼女はなぜ真実を明らかにせず逃げ回るのか?』と題するブログをアップしている。
4月10日『小保方晴子氏が反撃を開始した①――STAP現象は証明できるのか?』
4月11日『小保方晴子氏が反撃を開始した②――論文のミスは悪意の所産だったのか?』
4月16日『STAP細胞研究のカギを握る理研・笹井氏は今日何を語る。小保方氏に追い風が吹き出すか?』
4月17日『ノーベル賞級といわれる理研・笹井氏の釈明会見は一見理路整然に見えたが、実は矛盾だらけだった』
6月5日『小保方晴子のSTAP細胞研究は科学史上、空前の虚偽だったことがほぼ確実になった』(※このブログ以降小保方を呼び捨てにした)
6月17日『STAP細胞は結局「青い鳥」だったのか…。関係者の処分だけでは済まされない』
8月28日『STAP,検証実験、いつまで税金の無駄遣いを続けるのか。理研の解体的出直しとは野依体制の一新だ』(※野依は理研理事長)
12月22日『STAP騒動はなんだったのか①』
12月26日『STAP騒動はなんだったのか②――理研は解体し、野依理事長は懲戒免職だ』
ここまで私がSTAP問題を追及してきたのは、二度と論文不正事件が生じないようにするためだった。が、東大で生じ、今度は京大iPS細胞研究所でも生じた。なぜか。
報道によれば、iPS細胞研究所に所属する研究者は、教授ら一部の主任研究者を除いてほとんどが有期雇用だという。論文不正を犯した助教も雇用期間が今年3月末に迫っており、研究成果が雇用延長や別の研究機関での就職に反映される状況だったようだ。
所長の山中教授は会見で「不正を防げなかったことを非常に公開し、反省している。重く受け止め、研究者への教育にこれまで以上に取り組んでいく」と頭を下げたが、問題の本質はそういうことではないと思う。
基礎研究には「成果主義」を求めること自体が間違っていると、私は思う。
大きな発見や発明の多くは、従来の思い込みを否定することによって生まれる。若い研究者を育てるには、発想のユニークさを重視する研究環境を整えることだ。発想はユニークだが、よく考えてみれば一理ある、というような研究者を育て、またそういう素質のある人の能力を見抜く力がリーダーには求められる。
私が小保方氏を犯罪者と決めつけるに至ったのは、逃げ回っていた彼女がようやく記者会見に出て、「私は200回以上再現に成功した」と言った瞬間である。それまでは「突然変異」の可能性を否定できないと考えていたが、世界中の研究者が小保方レシピで実験しても再現できないことを、彼女は200回以上再現したという。もし小保方氏の主張が事実なら、彼女は再現条件を付きとめていたはずであり、それを明らかにすれば疑惑は一瞬にして晴らせていた。生物界における突然変異でなくても、物理現象でも一定の条件が整わなければ再現しないこともある。本当に生じた現象なら、とことん再現条件を追及するのが研究者ではないか。
基礎研究に成果主義はそぐわない――そのことを、一連の論文不正事件が物語っている。