どんな形であれ、関わりたくないのが「裁判」です。とはいえ、ちょっぴり関心はありますので、明るい話題を当ブログでも取り上げてきました(文末にリンクを貼っています)。

先日、古書店で「裁判官の爆笑お言葉集」(長嶺超輝 幻冬舎新書)が目に止まりました。重大な犯罪にかかわる裁判では、被告を真摯に、厳しく諭す発言も多く、「爆笑」というタイトルには多少違和感も覚えます。そんな中から、裁判官の人間味、やさしさが伝わるユニークな発言、お言葉をご紹介します。★と★の間が裁判官のお言葉です。最後までよろしくお付き合い下さい。
★刑務所に入りたいのなら、放火のような重大な犯罪ではなくて、窃盗とか他にも・・・★
捕まって刑務所に入ることを志願して、神社の拝殿に放火し、非現住建造物放火の罪に問われた男への発言です。それなりの衣食住は保証されますので、生活が行き詰まった末の刑務所志願というのは、ままあるようです。でも、この男のように、それほど切実な事情もなく、放火という重大な犯罪に手を染めるのは、珍しいケースだそう。で、窃盗犯罪をすすめるが如きこのアブない発言になったというのが背景です。「裁判長も思わず「そう言いたくもなる」とフォローした」(本書から)とあります。必死のフォローでした。
★ここはあなたが裁かれる場だ。口では反省しているというが、本当に反省した態度が見られない。次回公判までに反省文を提出しなさい。★
昼間に酔っぱらった状態で、56歳の男が、青森地裁の正面玄関のガラスを叩き割ったという事件です。すぐに逮捕され、ほどなく被告として、再び酒臭さを振りまきながら裁判所への出廷を繰り返しました。被告人質問にもポケットに手を入れ、ニヤニヤしながら聞くなどの傍若無人ぶりです。犯行を繰り返さないため、どうすべきと思うか問われた男は、「節酒はするが、酒をやめようとは思いません」(同前)と答えました。で、この発言になったわけです。この懲りない男の酒癖が、紙切れ1枚で治るとも思えません。裁判の続報は不明とのことで、ちょっと残念。
★立ち直らないといけないのは、あなたでしょう。国語の先生だったのに言葉を選べないのか。★
女子中学生の身体に触るなどし、強制わいせつの罪に問われた元中学教師が、弁護人から反省の気持ちを尋ねられました。「被害者がどうしたら立ち直れるか考えたい」と答えた元教師への裁判官の発言です。よくぞ言ってくれたと思います。教育現場に限らず、セクハラ事件が跡を断ちません。確信犯的にそれらの行為に及ぶ連中全員に聞かせてやりたい「お言葉」です。
★私があなたに判決するのは3回目です。★
覚せい剤取締法違反(使用)の罪に問われた男に、懲役2年の実刑判決を言い渡したあとの、陶山(すやま)裁判官の一言です。
被告人は、過去に同じ罪で、1993年に佐賀地裁で、そして、95年に福岡地裁で実刑判決を受けています。たまたま同裁判官の異動と波長があって(?)、今回の福岡地裁での判決が、3回目のものとなりました。
「私は2回裏切られたが、強い意志を持って、これを最後に本当に覚せい剤をやめてください」と説諭したそうです。」(同前)とあります。3回目ともなると、情が移るってこともあるのでしょうか。奇遇が生んだ心に染みる「お言葉」です。
★君には能力がある。このままでは巨大な悪を行わないか心配だ。自分がしたことをよく考えなさい★
被告人は、大阪大学工学部4回生にして、大阪のキタの繁華街でホストクラブを経営する23歳の「学生」です。勉強も遊びも経営も、というなかなかのやり手だったようです。
店のホストが、店からの借金をかかえたまま連絡が取れなくなりました。そこでホストと交際していた女性を呼び出し、脅して借用書を書かせたのが、強要罪に問われました。
優秀なだけに、巨悪に手を染めることを心配した裁判官の一言です。「二度とこういうミスをしないようにしたい」(同前)と公判で、被告人はヌケヌケと述べたといいます。裁判官の心からの説諭ですが、「ミス」との認識では、懲りてなさそうです。
★もうやったらあかんで。がんばりや。★
窃盗の罪に問われた被告人に、執行猶予・保護観察つきの有罪判決を言い渡しての閉廷後のことです。裁判官席から身を乗り出し、被告人の手を握りながら発せられました。
被告人は、育ち盛りの2人の子供を持つ母親です。パートで働いていたものの、数年前に家出した夫の借金まで抱え込み、追い詰められた末、スーパーで万引きを繰り返していました。この言葉に、被告人はその場で泣き崩れたといいます。
いかがでしたか?最後の大阪弁での励ましの言葉に象徴されるように、裁判官の温かみ、人情味に触れることができ、爽やかな読後感でした。なお、冒頭でご案内した記事は、<第322回 裁判でマジックショー>と<第483回 裁判所に出頭した猫の話>です。併せてご覧いただければ幸いです。それでは次回をお楽しみに。