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第625回 裁判官のユニークお言葉集

2025-04-25 | エッセイ
 どんな形であれ、関わりたくないのが「裁判」です。とはいえ、ちょっぴり関心はありますので、明るい話題を当ブログでも取り上げてきました(文末にリンクを貼っています)。

 先日、古書店で「裁判官の爆笑お言葉集」(長嶺超輝 幻冬舎新書)が目に止まりました。重大な犯罪にかかわる裁判では、被告を真摯に、厳しく諭す発言も多く、「爆笑」というタイトルには多少違和感も覚えます。そんな中から、裁判官の人間味、やさしさが伝わるユニークな発言、お言葉をご紹介します。★と★の間が裁判官のお言葉です。最後までよろしくお付き合い下さい。

★刑務所に入りたいのなら、放火のような重大な犯罪ではなくて、窃盗とか他にも・・・★
 捕まって刑務所に入ることを志願して、神社の拝殿に放火し、非現住建造物放火の罪に問われた男への発言です。それなりの衣食住は保証されますので、生活が行き詰まった末の刑務所志願というのは、ままあるようです。でも、この男のように、それほど切実な事情もなく、放火という重大な犯罪に手を染めるのは、珍しいケースだそう。で、窃盗犯罪をすすめるが如きこのアブない発言になったというのが背景です。「裁判長も思わず「そう言いたくもなる」とフォローした」(本書から)とあります。必死のフォローでした。

★ここはあなたが裁かれる場だ。口では反省しているというが、本当に反省した態度が見られない。次回公判までに反省文を提出しなさい。★
 昼間に酔っぱらった状態で、56歳の男が、青森地裁の正面玄関のガラスを叩き割ったという事件です。すぐに逮捕され、ほどなく被告として、再び酒臭さを振りまきながら裁判所への出廷を繰り返しました。被告人質問にもポケットに手を入れ、ニヤニヤしながら聞くなどの傍若無人ぶりです。犯行を繰り返さないため、どうすべきと思うか問われた男は、「節酒はするが、酒をやめようとは思いません」(同前)と答えました。で、この発言になったわけです。この懲りない男の酒癖が、紙切れ1枚で治るとも思えません。裁判の続報は不明とのことで、ちょっと残念。

★立ち直らないといけないのは、あなたでしょう。国語の先生だったのに言葉を選べないのか。★
 女子中学生の身体に触るなどし、強制わいせつの罪に問われた元中学教師が、弁護人から反省の気持ちを尋ねられました。「被害者がどうしたら立ち直れるか考えたい」と答えた元教師への裁判官の発言です。よくぞ言ってくれたと思います。教育現場に限らず、セクハラ事件が跡を断ちません。確信犯的にそれらの行為に及ぶ連中全員に聞かせてやりたい「お言葉」です。

★私があなたに判決するのは3回目です。★
 覚せい剤取締法違反(使用)の罪に問われた男に、懲役2年の実刑判決を言い渡したあとの、陶山(すやま)裁判官の一言です。
 被告人は、過去に同じ罪で、1993年に佐賀地裁で、そして、95年に福岡地裁で実刑判決を受けています。たまたま同裁判官の異動と波長があって(?)、今回の福岡地裁での判決が、3回目のものとなりました。
 「私は2回裏切られたが、強い意志を持って、これを最後に本当に覚せい剤をやめてください」と説諭したそうです。」(同前)とあります。3回目ともなると、情が移るってこともあるのでしょうか。奇遇が生んだ心に染みる「お言葉」です。

★君には能力がある。このままでは巨大な悪を行わないか心配だ。自分がしたことをよく考えなさい★
 被告人は、大阪大学工学部4回生にして、大阪のキタの繁華街でホストクラブを経営する23歳の「学生」です。勉強も遊びも経営も、というなかなかのやり手だったようです。
 店のホストが、店からの借金をかかえたまま連絡が取れなくなりました。そこでホストと交際していた女性を呼び出し、脅して借用書を書かせたのが、強要罪に問われました。
 優秀なだけに、巨悪に手を染めることを心配した裁判官の一言です。「二度とこういうミスをしないようにしたい」(同前)と公判で、被告人はヌケヌケと述べたといいます。裁判官の心からの説諭ですが、「ミス」との認識では、懲りてなさそうです。

★もうやったらあかんで。がんばりや。★
 窃盗の罪に問われた被告人に、執行猶予・保護観察つきの有罪判決を言い渡しての閉廷後のことです。裁判官席から身を乗り出し、被告人の手を握りながら発せられました。
 被告人は、育ち盛りの2人の子供を持つ母親です。パートで働いていたものの、数年前に家出した夫の借金まで抱え込み、追い詰められた末、スーパーで万引きを繰り返していました。この言葉に、被告人はその場で泣き崩れたといいます。

 いかがでしたか?最後の大阪弁での励ましの言葉に象徴されるように、裁判官の温かみ、人情味に触れることができ、爽やかな読後感でした。なお、冒頭でご案内した記事は、<第322回 裁判でマジックショー><第483回 裁判所に出頭した猫の話>です。併せてご覧いただければ幸いです。それでは次回をお楽しみに。

第624回 信じられないホントの話-1

2025-04-18 | エッセイ
 古書店の店頭で「信じようと信じまいと」(R・L・リブレー 河出書房新社)というちょっと投げやりなタイトルの本を目にした時、「買おうか買うまいか」と少し迷いました。荒俣宏氏が序文を書いてますし、図版が豊富(著者は漫画家でもあるそう)なので、読んでみたらアタリでした。
 いくつかの「信じられない」トピックを選び、2点の画像も入れてお届けします。なお、項目タイトルは独自に付けたものもあります。どうぞ最後までお付き合いください。

★過酷な修行者たち★
 ヒンドゥー教には「サマダイ」と呼ばれる極めて厳しい修行があります。まず、一時的に人間を人事不省の状態にします。そして、それを地下に葬り、後日ふたたび掘り出し、息を吹き返えさせる、というものです。
 さすがに著者も立ち会ってはいませんが、確実な資料を紹介しています。1837年の夏、ラホール王の面前で行われたものです。ハリダスというヨガ行者が、仮死状態で埋葬されました。目、鼻、口などを蝋でふさぎ、墓穴に埋められました。インチキが行われぬように昼夜監視され、40日後に掘り出されると、見事(?)息を吹き返しました。少しやせた程度で何ともなかったといいます。いきなりスゴい例です。

 また、一生涯立ち続けるという修行もあります。カリカットにほど近い川のほとりが修行の場です。すでに10年、あるいはそれ以上立ち続けている行者もいるとのことて、寝たり、座ったり出来ませんから、ご覧のような仕掛け(本書から)で、「立ち続ける」といいます。ご苦労様です。

 バラモン行者の中には、終日、裸でひたすら太陽だけを見つめる人もいます。著者はガンジス川のほとりで、その行者を見ています。もう15年も太陽を見続けているとのことで、目はほとんど見えない上に、足腰も弱り、弟子たちに運ばれてきました。日の出から日没まで、まばたきもせず、太陽を見つめる・・・う~む、そこまでやりますか。

★失神が救った命★
 第2次世界大戦中のことです。イギリスの潜水艦が、浮上装置の故障で浮上できなくなり、海底に沈んだままになりました、2日間の狂気のような努力にもかかわらず浮上できず、覚悟を決めた艦長は、全員に賛美歌を歌わせ、安楽死のための睡眠剤を配りました。
 その時、それを飲んだ一人の水夫が失神して、うしろに倒れかかり機械に体を打ち付けました。その衝撃で、浮上装置が働き出し、潜水艦は浮上、全員が無事生還しました。「信じられない」奇跡です。

★最も奇妙な紋章★
 ドイツの大学都市チュービンゲンの市の紋章は、ご覧のように、体を車輪にかけて粉砕するという残虐な死刑の情景です(本書から)。

 1492年、貧しい旅まわりのパン焼き少年が、旅の道連れを殺したとの罪で死刑になりました。
 その後、殺されたはずの男がひよっこり現れたのです。男は、冤罪で死刑となった男のことを皇帝マクシミリアン1世に訴えました。皇帝は市の紋章を死刑の図柄とし、代々戒めとするよう命じました。現在もその紋章が使われています。いかにもドイツ的「戒め」です。

★世界一の幸運男★
 第一次世界大戦中のことです。カナダ空軍将校メーピークスが操縦する航空機が、ドイツ戦闘機の攻撃を受け、垂直降下を始めた時、観戦武官として搭乗していたヘドレイ大尉が機内から空中に放り出されました。高度4500メートルでのことです。が、落下中、ふたたび同じ機体の尾部につかまり、航空機も無事着陸できたため、生還しました。確かに世界一の幸運です。

★ベーブ・ルース伝説★
 現在、ドジャースで大活躍の大谷翔平選手は、エンゼルス時代の2022年と23年に、同一シーズンの2ケタ勝利、2ケタホームランを記録しました。なんとベーブ・ルース以来、104年ぶりの大記録です。また、昨シーズン(2024年)には、50-50(54本塁打、59盗塁)という史上初の大記録を打ち立てたました。<以上は、芦坊の独自記事です>
 さて、そんな大谷選手の活躍で、久しぶりに(?)脚光を浴びたベーブ・ルースは、こんな記録も残しています。
 1929年2月、ロスアンゼルスのリグレイ球場でのホームラン競争に登場した時のことです。数人のピッチャーが投げる球を次々とかっ飛ばし、1時間でなんと125本のホームランを記録しました。本数もスゴいですが、1時間打ち続けたスタミナが驚異です。

 「信じられない」トピックをお楽しみいただけましたか?なお、もう少しネタがありますので、いずれ続編をお届けする予定です。それでは次回をお楽しみに。

第623回 「水の星」地球の謎と奇跡

2025-04-11 | エッセイ
 根っからの文系人間ですが、興味のおもむくままに、科学系のエッセイとか啓蒙書などに触れてきました。まだまだ解明されていないことも多い奥深い分野で、ちょっぴり知的好奇心を刺激されるのがなによりの魅力です。当ブログでも時折、この分野の話題を取り上げてきました。
 今回は、地球が「水の星」である謎と奇跡をご紹介することにします。ネタ元は、だいぶ以前に読んだ「家庭の科学」(ピーター・J・ベントリー 新潮文庫)です。決して小難しい内容ではありません。どうぞお気軽に最後までお付き合いください。

★水の起源の謎
 「液体の状態の水」は、当たり前のようにごく身近にあります。そのおかげで、地球が生命に満ちた天体となっている、といって間違いないでしょう。宇宙から見た「水の星」地球です。

 著者によれば、そもそも地球の水の起源(どこから来たのか)はよく分からない、というのです。
 宇宙のチリやガスが集まって出来たとの説や、無数の小さな塊(微惑星)が、衝突と合体を繰り返して出来たとの説などが紹介されます。でも、誕生当時の地球は、灼熱状態だったはずです。たまたま水がやって来たとしても、地球にとどまることはできず、一瞬にして宇宙のかなたに飛んで行ってしまうはず。安定的に水がある状態を想像するのは、かなり無理があります。

 それなら、氷の塊である彗星とか、小惑星が供給源だとする考え方もあります。しかしながら、探査機などを利用して採集した彗星や小惑星の氷を分析したところ、地球の水とは成分が違うことが判明しています。起源を巡る「謎」は解明されていない、というわけです。

★水が存在し続ける奇跡
 起源はさておき、この地球に、現実に「液体の状態の水」が存在し続けている「奇跡」について、著者の説明を読んで、なるほど、これぞ奇跡だ、と大いに納得させられました。
 以下、その要約です。
 当然のことながら、極地などを除き、まずは、地球の気温が、液体で存在するに適したものであることが極めて重要です。金星では太陽に近すぎて、蒸発してしまいます。火星は遠すぎます。
 まさにぴったりの、ほどよい位置関係にあるといえます。加えて、大気の存在が大きいというのです。季節、昼夜における寒暖の差を最小限に留めてくれているのは、ひとえに大気のおかげですから。

 その上で、なにより大きなことは、「蒸発」という仕組みを通じて、水が循環するシステムが実に奇跡的かつ巧妙に(別に人間が作ったわけではありませんが)出来上がっている、ということです。
 そもそも蒸発には、気化熱を奪う効果があります。もし蒸発がなければ、地球の気温は67度にもなるだろうともいわれます。とてもありがたい現象と言わねばなりません。
 といって、蒸発しっぱなしでは、あっという間に地球から水はなくなってしまいます。そこで、蒸発した水が循環するシステム(こちらも人間が作ったわけではありませんが)の登場です。太陽の熱で温められた水蒸気は、空気よりも軽いので、どんどん上昇していきます。上空に行くほど気温は下がり、もはや水蒸気でいられなくなるので、大気中のさまざまな微粒子を核として、凝結し、成長して水滴となります。これが雲になり、雨となって、再び地球に戻ってくるという巧妙な仕組みです。

 と、ここでもうひとつ大切なことがあります。それは、地球の大きさ、つまり引力が、水蒸気を引き戻すのにちょうどいい具合だということです。月くらいのサイズだと、仮に水が存在しても、引力が弱いため、水蒸気は、上昇しっぱなしとなり、宇宙空間に消えてしまいます。地球のサイズも「奇跡」だったのです。

 いかがでしたか?いくつもの条件が、奇跡的に組み合わさって、今の地球と水と生命があるのですね。たまたま生を受けたこの地球を大事にしなければ、との想いをあらためて強く感じたことでした。それでは次回をお楽しみに。

第622回 笑うほど個性的な辞書の話

2025-04-04 | エッセイ
 言葉好きの芦坊です。その語義説明、用例が、笑えるほど個性的な「新明解国語辞典」(三省堂)のことを、「新解さんの謎」(赤瀬川原平 文春文庫)によって知りました。

 著者と若い女性編集者は、この辞書を「新解さん」と名付け、楽しいトークを展開します。そのトークを通じて見えてくる「新解さん」の「人柄」のご紹介です。最後まで気軽にお付き合いください。なお、<  >は、辞書からの引用で、引用文中の「ー」は、見出し語を指します。

★あけすけ過ぎるほど丁寧な説明を心がける★
 どんな辞書でもわかりやすさを目指します。でも、セクシーな言葉となると隔靴掻痒、奥歯にものが挟まったような説明でお茶を濁しているのが多い気がします。品位ということもあるのでしょうけど・・・その点、新解さんはハッキリ説明します。例えば「恋愛」です。
<特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、できるなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。「ー結婚、ー関係」>
 さて、「合体」って何でしょうか。<1.起源・由来の違うものが新しい理念の下(もと)に一体となって何かを運営すること 2.「性交」の、この辞書での婉曲表現。>
 う~ん、そうだったんですか。じゃあ「性交」ってなんでしょうか?<成熟した男女が時を置いて合体する本能的行為。> 「時を置いて」というのには異論もありそうです。それにしても、さすがの「新解さん」も、「合体」と性交」が堂々巡りしてますよね。

★用例に気持ちを込める★
 言葉の使い方を示す用例は大切です。新解さんは、人物をよく登場させます。
「ぞっこん」では<私は、雪子の美貌と気性にーひきつけられていたが>、「たら」では、<田中さんー案外親切なのね> 雪子、田中さんって誰?
 長文の凝った用例もあります。「つぎに(次に)」では、<東京で驚いたものはたくさんある。第一電車のちんちんなるので驚いた。それからそのちんちん鳴るあいだに、非常に多くの人間が乗ったり降りたりするので驚いた。ー丸の内で驚いた。> 熱意はわかるんですけど・・・

★食にこだわる★
 食材の味、食べ方への言及もユニークで、新解さんの個人的好みがよくわかります。
 「白桃」は<果汁が多く、おいしい>、「あこう鯛(赤魚の意)」には<顔はいかついが、うまい>、「すっぽん」は、<吸い物にして、美味>
 「むっちり」では、語義説明に続き、イナゴが登場します。<(腕、乳房などの)肉づきがよくて引きしまっていることを表す。「イナゴは軽快で、香ばしく、肉にーしたところもあっていいオヤツになるのだった」> 腕、乳房ときて、イナゴですかぁ?

★数え方を大切にする★
 ものによって「数え方」が様々あるのは、日本語の大きな特徴のひとつです。新解さんも、そこはぬかりなく書き加えています。本書では30数例が紹介されています。
 さなだ虫 一匹 、血 一滴 、枕絵 一葉 、鞭(むち) 一本 、くしゃみ 一発・一回  など。中には「火炎瓶」を<ガラス瓶にガソリン(石油)を入れ、投げつけると発火するようにしたもの。>と説明した上で、数え方を<一本>としています。いまや「死語」に近いですけど。

★女性への見方はちょっと古い?★
 「新解さん」はかなりのお歳と拝察します。女性へのちょっと古い価値観が顔を出しますから。
「ヒステリー」<欲求不満の女性に多い>
「なまじ」の用例で。<ー(無理に)女の子が柔道など習ってもしようがない>
「のに」の用例では<女だてらによせばいいー >
 あくまで、「新解さん」の個人的な傾向でしょうね。

★厳しい人生を生き抜いてきた苦労人?★
 「新解さん」の人生を思わせる語義説明があります。「世の中」を<.同時代に属する広域を、複雑な人間模様が織り成すものととらえた語。愛し合う人と憎しみ合う人、成功者と失意・不遇の人とが構造上同居し、常に矛盾に満ちながら、一方には持ちつ持たれつの関係にある世間。>
 う~ん、さぞかしご苦労されたのでしょうね。「どだい(土台)」では<そのような考え、態度、性質、傾向を本質的に備えていることを表す。「ー僕は原稿料を収入と考えたことがない」>とあります。辞書編纂を使命と信じて取り組んでこられたプライドを感じます。

★ちゃっかりしたところもある★
 「いっきに(一気に)」の用例で、<従来の辞典ではどうしてもピッタリの訳語を見つけられなかった難解な語も、この辞典でー解決> ちゃっかり自己PRしてるのに心が和みました。

 いかがでしたか?「新解さん」の人柄に魅力を感じていただければ、ご紹介した甲斐があります。それでは次回をお楽しみに。