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第444回 知の巨人の読書案内-2

2021-10-22 | エッセイ

 すこし間が空きましたが、前回(第428回ー文末にリンクを貼っています)に引き続き、3冊を「ご案内」します。ネタ元は「読書脳 ぼくの深読み300冊の記録」(立花隆 文春文庫 2016年)です。

★高校生の頃、ミケランジェロの伝記映画を観ました。システィーナ礼拝堂の天井近くに組まれた足場の床に仰向けになって一心に筆をふるうミケランジェロの姿が強く印象に残っています。
 誰もが知っている天井画「天地創造・旧約聖書物語」ですが、いろいろ謎が多いといいます。

 新約聖書物語(イエス・キリスト)が何ひとつ登場しないのはなぜか?異教の巫女がやたら出てくるのはなぜか?なぜ禁断の知識の木がリンゴでなくイチジクなのか?「預言者ゼカリヤ」と「クマエの巫女」の二人の童子が、指で女性器をシンボライズする仕草をしているのはなぜなのか? 
などなどです。

「ミケランジェロの暗号」(ベンジャミン・ブレック/ロイ・ドリナー 早川書房)がその謎を解いてくれます。
 それによれば、ミケランジェロはカトリック正統信仰とは必ずしも合わない信仰を持っていた上、教会のあり方を強く批判していたというのです。彼は、それを様々な技法を駆使して秘密のメッセージとして描き込んだというわけです。メッセージだけでなく、彼が許し難いと思っていた人物を愚弄したり、同性愛者であった彼の若い愛人を登場させたりという仕掛けも施しています。

 ミケランジェロのバックボーンになっていたのは、知人から教わった新プラトン主義と、ユダヤ教の聖典カバラだった、というのが、謎解きの総括です。
 崇高な宗教画の世界にも、宗教観の対立と人間くさい葛藤があった、というのが(知識として)理解できました。

★「今世紀で人類は終わる?」(マーティン・リース 草思社)を手に取った時、立花はトンデモ本のたぐいかと思ったそうです。でも、読んでみれば、なかなか説得力に富む、真面目な本だったといいます。著者は、宇宙物理学者で、英王立天文台の名誉天文台長をつとめる人。
 小惑星の衝突、温室効果の暴走といった自然現象の脅威だけでなく、核兵器の拡散、バイオテロといった人間の暴走現象がもたらす要因への考察が行われています。なかでも驚くのは、最先端の素粒子実験がもたらしかねない地球の終わりで、こんなストーリーです。

 この実験では、原子核と原子核を光速近くまで加速して衝突させます。巨大な金や鉛の原子核を衝突させると、原子核がグジャグジャになって、小さなスケールとはいえ、ビッグバン直後の世界を再現します。
 すると、ブラックホールができて、周りのすべてを吸い込んでしまったり、ストレンジレットと呼ばれる奇妙な新粒子を作り出したりします。この粒子は、自分が接触するあらゆる地球上の物質を片っ端から奇妙な物質に変えていって、アッというまに地球を直径100メートルくらいの超高密天体にかえてしまう「可能性」がある、というのです。

 ごく微小な世界での出来事が、地球規模の破滅につながる可能性がある・・・・スケールの大きなストーリーですが、恐怖のスケールもそれに劣らず大きいですね。

★第二次世界大戦で、日本人にはあまり馴染みがないものの、戦況に大きな影響を与えたのが、ソ連とドイツが、文字通り死力を尽くして戦った独ソ戦(「モスクワ攻防戦」などとも)です。
「モスクワ攻防戦 20世紀を決した史上最大の戦闘」(アンドリュー・ナゴルスキ 作品社)では、機密にされていた新資料も駆使して、その実相をえぐり出しています。

 1941年6月、ドイツが不可侵条約を破ってソ連に侵入したのが、ことの始まりです。ドイツは得意の機甲部隊による電撃戦術でソ連軍を蹴散らし、最初の1カ月で約700キロも進軍しました。3カ月か4カ月でモスクワを落としてみせるとヒットラーが豪語したのも当然です。ソ連兵は捕虜が続出し、士気の低下で軍は崩壊寸前でした。そんな中、200日にわたったモスクワ攻防戦には、独ソ合わせて700万人が参加し、ソ連軍戦死者190万人、ドイツ軍戦死者60万人にのぼりました。400万人いたモスクワの人口は半分になり、首都機能も900キロ先のクイヴィシェフへ移転せざるを得ませんでした。

 そんな敗北必至の局面を一変させたのが、「冬将軍」の到来です。10月16日に初雪が降り、零下10度、20度、30度と急激に気温が下がります。冬の備えをしていないドイツ軍の戦闘能力は急激に低下します。機関銃は使えず、飛行機も飛べないのですから。
 そこでソ連が放った反撃の手が、完全冬装備の極東軍をシベリア鉄道で、10万人単位で呼び戻すというものでした。これには、日本にいたドイツ人スパイのゾルゲが重要な役割を果たしています。

 日本が満州からシベリア方面へ攻め込んでくるとなれば、極東軍を動かすことはできません。そこへ、政府の中枢に食い込んでいたゾルゲから、日本は南方進出を優先させるとの政策決定がなされたとの情報が入ってきました。そのため、ソ連は後顧の憂いなくモスクワ戦線へ極東軍を動かし、形勢逆転に繋がった、というのが歴史的事実です。スパイを通じて、日本も思わぬ形で大戦の帰趨に関与していたことになります。

 いかがでしたか?前回(第428回)へのリンクは、<こちら>です。
 それでは次回をお楽しみに。


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