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第585回 変わり者天国イギリス-2

2024-07-19 | エッセイ
 だいぶ間が空いてしまいました。続編(で最終版の予定です)をお届けします(文末に、前回記事へのリンクを貼っています)。ネタ元は、前回と同じ「変わり者の天国 イギリス」(ピーター・ミルワード 秀英書房)です。こちらは、その表紙で、イギリス人である著者自らが「変わり者」、「変なもの」と断じるいくつかのケースをご一緒に楽しみましょう。

 まずは、大学の話題から。イギリスを代表する大学といえば、オックスフォードとケンブリッジ(合わせて、「オックスブリッジ」と総称されることもあります)です。
 さて、ご覧の画像(以下、すべての画像は同書から拝借しました)は、オックスフォード大学の構内を外から見たものです。塀の上に、「忍び返し」と呼ばれるなんとも無粋なものが乗っかっています。

 本来は、泥棒とか部外者の侵入を防ぐための設備ですが、これはそうじゃないんですね。「学生の不法侵入」を防ぐためのものです。同大学は全寮制で、門限があります。門限に遅れると、各カレッジの入口で、きちんと遅れたことを報告する規則です。そして、それが度重なると、最悪「放校」という重い処分が待っています。
 ですから、学生の方も、塀をよじ登ったり、塀際の友人の部屋からロープを垂らしてもらったりと、知恵を絞ります。いかにも学生らしいノリですが、それに気づいた大学側が採った対策がこれ、というわけです。そこまで厳しくルールにこだわる大学って、ちょっと変?

 ライバルのケンブリッジ大学からも「変なもの」をご紹介します。同大学のクライスツ・カレッジの正門の片側にある奇妙な彫像です。

 これは「飛竜(ワイバーン(wyvern)」と呼ばれ、紋章に使われることもある想像上の怪物です。竜の体と双翼、鷲の鉤爪(かぎつめ)、蛇の尾を持つというんですが・・・
 著者も書いていますが、どう見ても、「有翼の豚」にしか見えません。同大学の卒業生には「失楽園」を著したジョン・ミルトンがいます。毎日、この像を横目に眺めながら、文学的インスピレーションでも得たのでしょうか。

 話題変わって、イギリス人て厳格な人が多くて、ユーモアとは無縁のような気がしていましたが、そうでもないんですね。こんな街の看板を紹介しています。

 なんのお店か、おわかりですか?
 「靴の修理屋さん」です。ショーウィンドウの上に「 upon my sole 」とあります。
 「 upon my soul 」のシャレで、「我が魂(soul)」ならぬ「靴底(sole)」に「誓って(upon)」と、というわけです。「靴底に誓って(しっかりと、いい仕事をします)」という決意表明なのでしょう。ホンワカしたユーモアで、ちょっぴり英語弁講座も兼ねました。

 さて、イギリスといえばパブ(居酒屋)です。どんな辺鄙なところにも必ずあります。そのユニークな名前、看板にまつわる2つの話題を、最後にお届けします。
 ロンドンの北に位置するハートフォードシャー州には、
 「古闘鶏亭(The Old Fighting Cocks)」とでも訳すべき名前のパブがあります。19世紀の半ばに法律で禁止されるまで、「闘鶏」という娯楽がありました。2羽の鶏を一方が死ぬまで戦わせ、その勝敗を対象にしたギャンブルです。このパブがその会場だったのか、当時のオーナーが「闘鶏」好きだったのかは、分かりませんが、今なら動物愛護の精神に反する名前を堂々とつけているのがいかにもイギリスです。
 ちなみに、闘鶏の会場は、"cock-pit"と呼ばれていました。飛行機の操縦席をその狭さから、
"cockpit"(コックピット)と呼ぶ由来になっているのが面白いです。

 スコットランドのエディンバラには、「 The World's End 」という名のパブがあります。こちらがその看板。

 「世界の終わり亭」というとんでもない名前です。所在するのは、エディンバラ市街の東の端。当時の住民にとっては、そこが世界の終わり、地の果てのように思えたからではないか、と著者は店名の由来を推測しています。こんなところにも、イギリス的ユーモアが溢れていました。

 いかがでしたか?前回記事へのリンクは、<第418回>です。合わせて、イギリスの「変わり者天国」ぶりに触れていただければ幸いです。それでは次回をお楽しみに。
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