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第421回 「小論文」の珍問

2021-05-14 | エッセイ

 幸いにも(?)私の頃にはありませんでしたが、今は、「小論文」を入試科目に採用している大学、学部がたくさんあります。
 テーマとか、文書資料が与えられ、具体的な事例や、あなた自身の意見、考えを600~800字程度でまとめなさい、というのが主流です。
 採点は大変でしょうが入試にはふさわしい科目です。大学も知恵、工夫はこらしつつも、テーマは堅いのが多そうな気がします。

 タイトルからお察しのとおり、珍問というのはちょっと失礼ながら、ユニークな出題例をご紹介します。ネタ元は、「日本語観察ノート」(井上ひさし 中公文庫)です。

 その課題とは「この試験の終了後、自由時間(12時間)と自転車を与えられたなら、どこを訪ねたいか。場所と理由を述べよ。」というもの。信州大学理学部生物学科の出題(出題年について、本書に記載はありません)です。
 出題者の狙いとか、回答のヒントみたいなものを、私なりの気軽な立場で、あれこれ思いめぐらせてみますので、しばしお付き合いください。

 県内5カ所のうちの「伊那キャンパス」です。さすが、豊かな自然と緑に恵まれていますね。

 まず思い浮かぶのは、信州という地域性です。近隣、地元からの受験生の場合、土地勘がある分の有利さはあるとしても、日頃から地域のことにいかに関心を持ち、情報を集めているかが問われます。
 遠方からの受験生にとってはどうでしょう。(わざわざ)信州という地を選ぶからには、事前の情報収集もしっかりしているはずだよね、との出題者の声が聞こえてきそうです。信州という地での学究生活にかける熱い想いの一端を書き込みたいですね。

 さて、訪問先です。生物学科ですから、山、川、森、公園など自然に恵まれた場所を「具体的に」、「理由もしっかり」書き込めば合格点は確保できそうです。でも、訪問先のバラエティも考えたいところ。生物学に限りませんけど、学問は、自然、環境、人間、社会、歴史などいろんな分野と関わりがあり、裾野が広いです。名所旧跡、神社仏閣、歴史的遺産など、生物学とは関係ないところも、(抜け目なく)訪問先に加えて、関心の広さをアピールしたいところです。

 かくして、訪問先(とその理由)をズラズラっと並べるのも悪くはないでしょう。でも、学問には必要な情報を「探す」という作業が欠かせません。時間はたっぷりあるのですから、訪問先につながる情報を「探す」のにも目を向けたいところです。

 まずは街の本屋さんで、当地や周辺地域の地図を購入するというのはどうでしょう。どんな面白そうなところがあるかの見当をつけるわけです。そうそう最寄りの神社を見つけて「合格祈願」なんて手もありかも(ユーモアを解する採点者に当たればいいですが)。さらに公共図書館に立ち寄って、詳しい情報を集める。訪問先の固有名詞までは書けなくても、なんとかこじつければ、その姿勢、意欲は評価されそうな気がします。

 その上で、「生きた情報」の収集もしたいですね。書かれた情報もいいですが、やはり「ヒト」です。駅、公園などヒトが集まる所に足を向けて、地元のヒトからいろいろ情報を得る、また、「市場」をじっくり見て回って、お店の人と会話を交わす、なんて手もありますね。
 「今の季節、旬の野菜はなんでしょう?」「地元の特産品といえば?」など人との交流も楽しみながら、生きた知識を仕入れる・・・研究では人との触れ合いも大切ですから、私が採点者だったら、その心意気に高得点を与えたいです。

 とまあ、我ながら気楽な立場で、勝手なことを書いてきました。

 同書には、アメリカ版小論文の出題例も載っています。「晩年になってあなた(受験生)は300ページの自伝を書いた。そこで、その自伝の288ページ目を全文、ここに書き写しなさい」というものです。

 今の私だったら書けなきゃいけない(?)課題です。受験生に何十年も先のことを想定して、「自伝」を書かせる・・・自分の歩んできた人生を振り返る形をとって、人生そのものや世の中との向き合い方、職業観、結婚観、家族観などを記述させる、珍問どころか巧妙な出題ですね。

 考えてみれば、このブログも、課題テーマなし、採点なしの気楽な「小論文」みたいなものです。愛読者の皆様から合格点(見えませんけど)をいただけるよう一層の研鑽を決意しました。

 いかがでしたか?それでは、次回をお楽しみに。