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第238回 銃社会への珍なメッセージ-英語弁講座15

2017-10-13 | エッセイ

 またしても「狂気の沙汰」としか言いようのない事件が、ラスベガスで起こりました。犯人は、ホテルの32階から、地上のコンサートの観客に向けて、銃を、約9分間乱射。58人が死亡、500人以上が負傷した、というものです。

 犯人は、スーツケース13個分もの銃器を持ち込んでいました。それらの銃は、合法的に入手したものです。銃の中には、セミオートマチックのライフルをフルオート並の連射、速射を可能にする装置(bump stockーこれも合法です)を付けていたものもあった、といいます。画像の右の部分が、その装置です。



 こういう事件があるたびに銃規制が話題には上るのですが、その前に大きく立ちはだかるのが、
NRA(National Rifle Association (全米ライフル協会))です。
 2016年の大統領選挙では、5400万ドル(約60億円)の寄付を行っています。議会選挙でも、豊富な資金力を背景に、議員の当落に大きな影響力を発揮するため、民主、共和両党から恐れられている存在です。

 さきほどのbump stockですが、NRAの「お許しを得て」、議会でも、付け焼き刃的に規制の動きが出ています。一方、ガンショップでは、規制を見越して、売り切れ続出というから、とことん病んでる国だとしか思えません。

 銃を持つのは合衆国憲法で認められた権利であるというのを大前提に、今回のような事件があるたびにNRAが主張するのが、「「銃」が殺すのではない。「人」が殺すのだ」というもの。

 残念ながら、これを突き崩す理屈は見い出し得てないのが現状です。国民の中にも、こんな事件があるからこそ、自分の身を守るために銃が必要だと考え、実際に保持する人が多いようです。議論は袋小路から抜け出せません。

 前置きが長くなりましたが、銃規制の問題で思い出したエピソードがあります。

 だいぶ前のことですが、日本の英字紙Japan Timesに、「銃追放運動」の新聞広告で、
 "NO MORE GUN"というのが、掲載されたことがあります。

 とたんに、抗議の投書が殺到しました。運動への反対かと思いきや、そうではなく、「こんなナンセンスな英語はありえない」「大金を使って広告を出すなら、ネイティブのチェックくらい受けたらどうか」など、語法の誤りを指摘するものでした。

 "No more ~"というのは、「これ以上の~は、許さない」という意味です。ですから、「文法的」なことだけ言えば、数えられる名詞"gun"の複数形"guns"としなければならない。

 ところが、これだと、「今ある銃(アメリカだけで2億丁もあると言われる)はともかくとして、これ以上の銃は許さない」という「腰の引けまくった」「冗談としか思えない」表現になってしまうんですね。さすが、英字新聞読者の目は厳しい(当たり前だけど)。

 たぶん、「ノー・モア・ヒロシマ/ナガサキ」という一時流行った言い回しを「漫然と」応用するから、こうなったに違いありません。

 英語圏での反核パレードの横断幕には、正しく、
 "NO MORE HIROSHIMAS & NAGASAKIS"となっています。
 現に、広島・長崎には、アメリカが原爆を投下した(オバマの広島スピーチのように、「天から降ってきた」のではない!)わけで、「それ以上、つまり、第2、第3の広島・長崎を許さない」という主旨ですから、英語としては、広島・長崎にもそれぞれ複数の"S"がちゃんと付いて当たり前というわけです。

 以前、「チカンはアカン」という大阪のベタな車内吊り広告を紹介したことがありますが、それと一緒で、「そ~かぁ~、銃はアカンのかぁ~、ほなら、止(や)めとこか~」なんて誰も思わないと断言できる。

 それはともかく、横文字を使えばカッコよくて、インパクトがある、と単純に思い込んでる日本人への痛烈な一撃、警鐘ともなった意見広告でした。

 いかがでしか?次回をお楽しみに。