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第237回 うるさい日本

2017-10-06 | エッセイ

 この前、元の会社の後輩と、祭りを見ようと、最寄り駅で待ち合わせしました。
 祭りの始まる頃は、降りる人が圧倒的に多いですから、そう広くもない駅構内の大部分を、降りる客専用のスペースにし、残った狭い通路は、一方通行。

 こんな時だから、その程度の規制,不便は仕方がないんですけど、我慢ならないのは、臨時の警備員4~5人が、ハンドマイクで、絶え間なく、がなり立てるように「ご注意」しまくること。

 「立ち止まらないで下さあいい〜」、「この通路は〜一方通行になっていまあす〜」、「北口へはぐるっとガードをくぐって行ってくださあいい〜」などなど。
 待ち合わせしてる15分ほどの間、音の暴力に晒され続けて、心底、腹が立ちました。

 「うるさい日本の私ー「音漬け社会」との果てしなき戦い」(中島義道 新潮文庫ほか)という本があります。こちらです。



 著者は、東大出身の哲学者でその方面の著作も多いです。でも、本のタイトルからも想像できるように、ユニークなキャラの持ち主。なかなか「出世」出来ず、ず~っと、助手に甘んじてた人です。
 それをネタにした「東大助手物語」(新潮社)なんて本も出したりして、しっかり商売もしてるんですが・・・

 で、中島の主張を要約すれば、とにかく公共の場での、無用の放送が多すぎて、迷惑な騒音でしかない、ということに尽きます。彼のユニークなところは、それを行動に移すこと。騒音の主(鉄道会社、駅員など)に、いちいち文句を言いに行くのです。
 もちろん、まともに相手にされず、挫折の連続ですが、彼の言い分は、私もよく分かる。

 例えば、鉄道関係。

 プラットホームに立てば、到着する電車の予告に始まって、到着番線、行き先、途中の停車駅、各停の場合、どこまで先着するか。そして、「黄色い線の内側まで下がってお待ちください」「駆け込み乗車はお止めください」「まもなく発車します」「次は◯◯~」

 乗ったら乗ったで、停車駅の案内、乗り換え案内、到着番線、待ち合わせの有無などなど、ここも騒音が溢れてる。

 鉄道会社も本音では、やめたいのでしょうが、この種のサービスって、一度始めると、やめられないのでしょうね。やれ「不親切だ」「案内がないから乗り間違えた」などのクレームが殺到しそうで。

 一方で、最近の傾向かも知れませんが、騒音問題に神経を尖らす日本人が増えてるのも事実。大晦日恒例の除夜の鐘も、「うるさいっ」との苦情が出て、取りやめたり、夕方に突く「除夕の鐘」にしたりと、関係者も大変なようです。

 また、保育園の新設が、園児の騒音を危惧する近隣住民の反対で、認可されなかった、というニュースも目にしました。

 駅や車内での親切すぎる放送は、私には、それ以上の「騒音」としか思えないんですけど、「なんとかしろ~」という声はあまり上がらない。大多数の日本人にとっては、必要かつ大事なお知らせで(その割には、誰も頼りにしてませんけど)、ハナから「騒音」と認識してないのが不思議。

 ところ変わって、イギリスの例ですけど、駅でも、車内でも、日本のように「親切な」アナウンスは、一切ありません。時間になれば、列車は「黙って」出て行き、到着します。

 アナウンスがあるのは、出発番線が急遽変わったとか、運転が途中で打ち切りなるとかの、通常とは違う「異常事態」が起こった時だけです。しかも、1回かせいぜい2回きりというのが多いです。日本みたいに、くどくど繰り返したりしません。
 
 アナウンスがあったら、とにかく大事な情報だから、耳をそばだてる、と言う習慣が、利用者の側に、自然に身についてるし、合理的なやり方です。つくづくオトナの世界だと感じます。(エラソーに書いてますけど、私もむこうで大事な放送を聞き逃して、側にいた乗客に教えてもらった事があります)

 目や耳が不自由な人にとっては、音声での案内がなきゃ不便だろう、と言う反論が出そうですが、欧米流オトナの世界の基本にあるのは、「自立」ということだと思います。

 駅の構内では「無用の」案内放送はないことを前提に、ハンディのあるなしにかかわらず、事前の準備、情報収集、必要により、現地でいろんな人の助けを借りる、ほかの乗客も助けを求められれば応じる、鉄道会社も「騒音放送以外の」必要な情報の掲出、スタッフの配置は心がける・・・そんな自立したオトナの生き方が身についていれば、やかましいだけの放送なんか不要であるし、迷惑だ、というのが、中島の主張です。

 私も、まったく同感です。うるさいだけの放送を当然のことと受け止め、折あらば、クレームでもつけようと身構えてる日本人が「子供」に見える、
 鉄道会社も分かってて、「子供扱い」してるんだと思いますけど・・・

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。