時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百九十五)

2009-06-14 08:20:45 | 蒲殿春秋
暫くして義経は伊勢から連れてきた人々を範頼に引き合わせる。
そのうち二人の人物が範頼の印象に深く残った。

一人は伊勢三郎義盛。
伊勢の住人で早いうちから義経と接触し今や義経と主従関係を結ぶに至った男である。今は義経の郎党としてつき従っている。
もう一人は平信兼
彼も伊勢国に住まうものであるが、都に在住することが多く国守を何度か勤めたこともある大物である。
信兼も伊勢に入った義経に早いうちから協力をしてきた男であった。
だがこの信兼の素性を聞いて範頼は仰天した。
信兼の息子の中に兼隆という人物がいる。
この兼隆こそ、かつて伊豆国の目代を勤めた人物で頼朝の挙兵で真っ先に血祭りに揚げられた男なのである。
頼朝が信兼の息子を殺したのである。

なのに信兼は息子の仇の弟に何ゆえ協力したのであろうか・・・

━━ 都のもののふはあてにはならぬ。
範頼はかつて舅の安達盛長がぽつりとつぶやいた言葉を思い出した・・・

それにしても解せぬ信兼の一連の行動・・・
邪気ひとつ見せぬ晴れやかな笑顔でやはり息子の仇の弟である範頼に挨拶をする信兼。
義経も気軽に信兼と言葉を交わす。

━━ 怖いな。

それがその挨拶を受けた範頼の率直な感想であった・・・

範頼と義経は暫くの間熱田に留まっていた。
が、数日後彼等の元に兄頼朝からの使者が訪れる。
その使者は熱田に留まる二人のその後の人生を大きく変える知らせをもってきた。

使者は義経には暫く熱田に留まるように、
そして範頼にはすぐ鎌倉に戻るようにと伝えてきた。

その真意を使者から聞いた二人は一瞬緊張に顔を引きつらせた。
だが、その後兄弟二人顔を見合わせて大きくうなづいた。
翌日手を握り合って異母弟義経と別れた範頼は三河から引き連れた軍を暫く熱田に滞在させて鎌倉へと向かっていった。

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