大蔵御所に入って落ち着くとすぐ範頼は御台所政子の元へと参上した。
政子は満面の笑みを浮かべて義弟範頼を迎え入れた。
範頼は婚儀の件にたいして政子に礼を申し述べた。
政子はさっそく婚儀の日に範頼が着するものを披露した。
やや青味がかった衣袴、そしてつややかな白い指貫。
それぞれに優美な縫い取りが施されており、その柄は決して東国では見られることのないもの
即ち都の東の市でしか取り寄せることのできないものであった。
その柄を範頼は昔から気に入っていた。
「都の一条の姉上さまが、蒲殿の慶事の日の為に手ずからお縫いになられたものでございます。」
範頼はまじまじとその衣装を眺めた。
「それからこちらは高倉さま(範頼養父藤原範季)からです。」
そこには、ぎっしりと重そうな何かが詰まった袋が山積みされていた。
「砂金です。蒲殿の御慶事の際の引き出物にしようと陸奥守であられた頃から
支度されていたものと聞いております。」
庭をみると、駿馬が数頭並んでいた。
栗毛、鹿毛などの毛並みが美しい。
「これは、鎌倉殿がじきじきに検分されて蒲殿に差し上げるものです。」
範頼は言葉を失っている。
そのような範頼に政子はあでやかな笑みを浮かべて静かに言った。
「蒲殿、お幸せに。そして、藤九郎の娘御を幸せにして差し上げて下さいませ。」
その後、政子に呼ばれてその子供達が範頼の前に現れた。
以前会ったことのある大姫とこの前生まれたばかりの万寿と呼ばれる若君である。
大姫は「叔父上ようこそおいで下さいました。」
と手を突いて丁寧にお辞儀した。
前年会ったときは始めた会う「叔父」に警戒して母の政子の側から決して離れようとしなかったあの姫が、である。
一年の間に大きく成長したものである。
若君は乳母に抱かれて眠っている。
━━ 新太郎、どうしているだろうか。
前回鎌倉に来たとき散々手を焼かされたあの赤ん坊のことをふと思い出した。
そして、その赤ん坊が引き寄せた愛しい女のことも。
━━ 瑠璃・・・・・・
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政子は満面の笑みを浮かべて義弟範頼を迎え入れた。
範頼は婚儀の件にたいして政子に礼を申し述べた。
政子はさっそく婚儀の日に範頼が着するものを披露した。
やや青味がかった衣袴、そしてつややかな白い指貫。
それぞれに優美な縫い取りが施されており、その柄は決して東国では見られることのないもの
即ち都の東の市でしか取り寄せることのできないものであった。
その柄を範頼は昔から気に入っていた。
「都の一条の姉上さまが、蒲殿の慶事の日の為に手ずからお縫いになられたものでございます。」
範頼はまじまじとその衣装を眺めた。
「それからこちらは高倉さま(範頼養父藤原範季)からです。」
そこには、ぎっしりと重そうな何かが詰まった袋が山積みされていた。
「砂金です。蒲殿の御慶事の際の引き出物にしようと陸奥守であられた頃から
支度されていたものと聞いております。」
庭をみると、駿馬が数頭並んでいた。
栗毛、鹿毛などの毛並みが美しい。
「これは、鎌倉殿がじきじきに検分されて蒲殿に差し上げるものです。」
範頼は言葉を失っている。
そのような範頼に政子はあでやかな笑みを浮かべて静かに言った。
「蒲殿、お幸せに。そして、藤九郎の娘御を幸せにして差し上げて下さいませ。」
その後、政子に呼ばれてその子供達が範頼の前に現れた。
以前会ったことのある大姫とこの前生まれたばかりの万寿と呼ばれる若君である。
大姫は「叔父上ようこそおいで下さいました。」
と手を突いて丁寧にお辞儀した。
前年会ったときは始めた会う「叔父」に警戒して母の政子の側から決して離れようとしなかったあの姫が、である。
一年の間に大きく成長したものである。
若君は乳母に抱かれて眠っている。
━━ 新太郎、どうしているだろうか。
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そして、その赤ん坊が引き寄せた愛しい女のことも。
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