「さて、ところでそなたの御養父の高倉殿(藤原範季)には何か連絡を差し上げたか?」
と頼朝は話題を変えた。
「いえ、未だに」
と範頼はうつむいて答える。
兄は驚いた顔をした。
「いや、それは良くない。高倉殿はおそらくそなたの事を深く案じておられるであろう。
是非そなたから文を差し出すが良い。」
「しかし、兄上、ただいま養父は平家の婿になっております。
私が文を出せば養父に迷惑がかかります。
それに、門脇殿(平教盛)のご息女である北の方の目を盗んで文を渡すのはどのようにすればよいものか」
「そうか、それで文を出すことはできなかったのか。
安田殿は何か言われなかったか?」
「いえ、安田殿も気にかけてはおられましたが、養父に文を出す手立てがなかったようで」
兄は範頼をじっと見つめた。
「そうか、ならばわしが何とかしよう。文を書いてわしに預けるが良い。
わしならば高倉殿に文を渡す手立てはある。」
そう言われても範頼はいかぶしげな表情をしている。
「先ほどの書状をみたであろう。わしは、都にはさまざまな手ずるを持っておる。
高倉殿に文をわたすのは易きことじゃ。」
範頼はまだ迷っている顔をしている。
「しかし、養父は私からの文を貰って困らないでしょうか。」
「困る困らぬは高倉殿がお決めになることじゃ。
とにかく、文を出さぬことにはどうにもならぬ。」
頼朝はやや強い口調で弟に語った。
それから、次の一言も付け加えた。
「六郎、もう一つ文を書いて欲しい相手がある。
都におわす姉上じゃ。そなたからも文をしたためて姉上を安心させてやるが良い。
文は鎌倉を出るまでに書けばよい。
書いて藤九郎の内室に渡しておけばよい。
直ぐにわしが都に届けてやるほどに。」
その後礼をして去っていく弟の姿を兄頼朝は目で追いかけた。
━━これでよい。
安田義定が持たぬ都とのつながりを自分が持つをいうことを示すことができた。
範頼に強い影響力をもつ藤原範季と姉という都に住する二者との接触は自分を通じてでなければできないことを示せた。
その一方で安田義定と範頼とつながりが意外と深いことは承知はしている。
━━六郎、なにがあってもそなたはわしの弟、それを忘れないでくれ。
頼朝は遠ざかる弟に心の中でそう語りかけていた。
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と頼朝は話題を変えた。
「いえ、未だに」
と範頼はうつむいて答える。
兄は驚いた顔をした。
「いや、それは良くない。高倉殿はおそらくそなたの事を深く案じておられるであろう。
是非そなたから文を差し出すが良い。」
「しかし、兄上、ただいま養父は平家の婿になっております。
私が文を出せば養父に迷惑がかかります。
それに、門脇殿(平教盛)のご息女である北の方の目を盗んで文を渡すのはどのようにすればよいものか」
「そうか、それで文を出すことはできなかったのか。
安田殿は何か言われなかったか?」
「いえ、安田殿も気にかけてはおられましたが、養父に文を出す手立てがなかったようで」
兄は範頼をじっと見つめた。
「そうか、ならばわしが何とかしよう。文を書いてわしに預けるが良い。
わしならば高倉殿に文を渡す手立てはある。」
そう言われても範頼はいかぶしげな表情をしている。
「先ほどの書状をみたであろう。わしは、都にはさまざまな手ずるを持っておる。
高倉殿に文をわたすのは易きことじゃ。」
範頼はまだ迷っている顔をしている。
「しかし、養父は私からの文を貰って困らないでしょうか。」
「困る困らぬは高倉殿がお決めになることじゃ。
とにかく、文を出さぬことにはどうにもならぬ。」
頼朝はやや強い口調で弟に語った。
それから、次の一言も付け加えた。
「六郎、もう一つ文を書いて欲しい相手がある。
都におわす姉上じゃ。そなたからも文をしたためて姉上を安心させてやるが良い。
文は鎌倉を出るまでに書けばよい。
書いて藤九郎の内室に渡しておけばよい。
直ぐにわしが都に届けてやるほどに。」
その後礼をして去っていく弟の姿を兄頼朝は目で追いかけた。
━━これでよい。
安田義定が持たぬ都とのつながりを自分が持つをいうことを示すことができた。
範頼に強い影響力をもつ藤原範季と姉という都に住する二者との接触は自分を通じてでなければできないことを示せた。
その一方で安田義定と範頼とつながりが意外と深いことは承知はしている。
━━六郎、なにがあってもそなたはわしの弟、それを忘れないでくれ。
頼朝は遠ざかる弟に心の中でそう語りかけていた。
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