さて、ここは山深い信濃国にある諏訪下社である。
この下社に仕える祝の一族の間でひそやかなる密議が繰り広げられていた。木曽義仲亡き後下社に仕える人々がどう生き延びていくのかを。
諏訪大社は四つの宮で成り立っているが、その宮のうち本宮と前宮は上社、春宮と秋宮は下社となっている。
この諏訪大社は信濃国の交通の要所に位置している。この時代、交通の要衝の支配権を巡って多くの者達が争いを繰り広げている。その争いはしばしば武力抗争に発展する。
それが故にこの交通の要衝に位置する諏訪大社は大社と自らの社領を守る為に武力を有するようになる。
その武力は無力な神官たちが武者たちにして守ってもらうわけではない。
神官たる祝自身が弓馬の鍛錬を積み武士となる。そして社に仕えるつわものたちを率いて自ら戦うのである。
この時代の神官は神に仕える神官でもあると同時に有事には弓馬を携えて戦う武士でもある。
治承寿永の内乱が勃発するとご多分に漏れず諏訪社が存する諏訪はいやおうなく戦乱に巻き込まれることとなった。
無用の戦乱を避けるため諏訪社は有力な蜂起勢力と同盟を結ぶことにした。
上社、下社とも当初は信濃に強い影響力を有する甲斐源氏武田信義と、信濃国木曽に生まれ育った木曽義仲の両者と同盟を結んだ。
内乱勃発当時はそれでよかった。
だが、治承寿永の乱も時を経ると、蜂起勢力同士で争うようになってくる。
当初は関係が良好だった木曽義仲と武田信義の関係も微妙なものになってくる。
そうなると諏訪社が同盟を結んでいる両者どちらに肩入れするかが問題となってきた。
その時諏訪社は分裂した。
下社は木曽義仲に接近し、上社は武田信義寄りの立場をとった。
無論あからさまな態度は取らずどちらに軸足を取るかだけの問題であったが・・・
そしてこの年の一月木曽義仲は滅んだ。
義仲寄りの立場をとった下社は今後の身の振り方に苦慮するようになっていた。
この下社にとって朗報が飛び込んでくる。
最近信濃の豪族たちに帰順を求めている源頼朝が下社にも接近を求めているのである。
そして下社を安心させる一言も添えられている。
木曽義仲の遺児義高の身柄は頼朝が責任をもって安全を保証し、その将来にも力添えをする、と。
下社が何故安心をしたのか。
それは、下社の祝の一族が義仲とは昔から深い絆で結ばれていたからである。
下社の祝金刺盛澄の娘は義仲の妻の一人となり一女を儲けている。
そして盛澄の弟手塚光盛の娘は義高の乳母であり、現在義高に付添って鎌倉にいる。
光盛は義仲に最後まで付き従い義仲を守って討死していた。
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この下社に仕える祝の一族の間でひそやかなる密議が繰り広げられていた。木曽義仲亡き後下社に仕える人々がどう生き延びていくのかを。
諏訪大社は四つの宮で成り立っているが、その宮のうち本宮と前宮は上社、春宮と秋宮は下社となっている。
この諏訪大社は信濃国の交通の要所に位置している。この時代、交通の要衝の支配権を巡って多くの者達が争いを繰り広げている。その争いはしばしば武力抗争に発展する。
それが故にこの交通の要衝に位置する諏訪大社は大社と自らの社領を守る為に武力を有するようになる。
その武力は無力な神官たちが武者たちにして守ってもらうわけではない。
神官たる祝自身が弓馬の鍛錬を積み武士となる。そして社に仕えるつわものたちを率いて自ら戦うのである。
この時代の神官は神に仕える神官でもあると同時に有事には弓馬を携えて戦う武士でもある。
治承寿永の内乱が勃発するとご多分に漏れず諏訪社が存する諏訪はいやおうなく戦乱に巻き込まれることとなった。
無用の戦乱を避けるため諏訪社は有力な蜂起勢力と同盟を結ぶことにした。
上社、下社とも当初は信濃に強い影響力を有する甲斐源氏武田信義と、信濃国木曽に生まれ育った木曽義仲の両者と同盟を結んだ。
内乱勃発当時はそれでよかった。
だが、治承寿永の乱も時を経ると、蜂起勢力同士で争うようになってくる。
当初は関係が良好だった木曽義仲と武田信義の関係も微妙なものになってくる。
そうなると諏訪社が同盟を結んでいる両者どちらに肩入れするかが問題となってきた。
その時諏訪社は分裂した。
下社は木曽義仲に接近し、上社は武田信義寄りの立場をとった。
無論あからさまな態度は取らずどちらに軸足を取るかだけの問題であったが・・・
そしてこの年の一月木曽義仲は滅んだ。
義仲寄りの立場をとった下社は今後の身の振り方に苦慮するようになっていた。
この下社にとって朗報が飛び込んでくる。
最近信濃の豪族たちに帰順を求めている源頼朝が下社にも接近を求めているのである。
そして下社を安心させる一言も添えられている。
木曽義仲の遺児義高の身柄は頼朝が責任をもって安全を保証し、その将来にも力添えをする、と。
下社が何故安心をしたのか。
それは、下社の祝の一族が義仲とは昔から深い絆で結ばれていたからである。
下社の祝金刺盛澄の娘は義仲の妻の一人となり一女を儲けている。
そして盛澄の弟手塚光盛の娘は義高の乳母であり、現在義高に付添って鎌倉にいる。
光盛は義仲に最後まで付き従い義仲を守って討死していた。
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