時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百八十三)

2011-10-22 22:03:16 | 蒲殿春秋
━━ 不思議なお方だ・・・・

院御所から退出した義経は馬上そう思った。
後白河法皇に関してである。
治天の君としては極めて異例の方である、という評判は前々から聞いていた。
高貴なお方は臣下の前にはめったに姿を現すということはなされない。
直接声を発するということもなされない。

その臣下が公卿であっても、である。

けれども先ほどの後白河法皇は無位無官の地下である義経の前に直々にお出ましになられ声までおかけになられた。

確かに異例の高貴なお方である。

けれどもその異例の行動によってそれまで院御所を支配していた恐怖が一掃された。

義経は馬にのって邸に戻ろうとしている。その義経の目の前には逃げ惑う人々が多数いた。
義経は想いの先を転じた。

━━ 本当に大丈夫なのだろうか?
義経は懸念する。
義経の邸に現れた大内惟義の使者はかなり深い手傷を負っていた。
手負いの使者がやってきたということは大内勢は相当の痛手を蒙っているはずである。

邸に戻った義経の元にさらなる知らせが入る。

七月七日に大内惟義を襲ったのは平家家人平田家継で間違えがないようである。
そして、平田らの勢力は伊賀国をほぼ制圧したようである。
また、平信兼が鈴鹿峠を押さえてしまったようである。
この反乱の火の手は簡単に止みそうもないことが予想できた。

この反乱は抑えなければならない。
しかし木曽勢や福原の平家と戦った時の東国の兵は殆ど本国に帰還してしまっている。
他には西国の制圧に向けて土肥実平や梶原景時が率いる兵が播磨、備中などの山陽道にいるが
彼等も逆に平家や平家寄りの豪族の逆襲を受けて苦戦している状況である。
彼等を助けよと義経が頼朝から指示を受けているくらいなのである。

都近くにいる武士達で頼りになりそうなのは近江国の佐々木秀義くらいである。
他の武士達はどのような動向をとるか図りかねる。
今の義経が確実に動かすことが出来る軍勢は実は微々たるものである。
はっきりいってこれ以上伊賀国の反乱が拡大すれば都を守りきれる自信はない。



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