老将の執念が届いたのか、鎌倉方がやや押し気味になってきた。
だが、暗闇の中飛んできた一筋の矢が老将の一瞬の隙を突いた。
「父上!」
老将佐々木秀義の傍らにいた息子佐々木五郎義清の悲痛な声が響く。
佐々木秀義はどうと馬から落ちた。
義清は父を想い馬から下りようとした、その時
「ばか者!」
という怒声が響いた。
「ここは戦場ぞ!父が矢に当たった位で馬を下りるな!」
「しかし」
「五郎!今の機を逃すでない!今こそ敵を蹴散らすときぞ!
そなたももののふならば父に気をとられるでない!」
義清は馬から下りるをあきらめた。だがその場を去ろうとはしない。
その義清に向かって苦しい息の父が声を掛ける。
「五郎、何をしておる矢をつがえよ。馬を駆けさせよ。父の屍を越えていけ。
ここで敗れれば父の死が無駄になる。
ここで戦の手を休めるは何にも勝る親不孝と心得よ!
戦を続けよ。そして勝て。勝って、勝って佐々木の地を子々孫々にまで伝えるのじゃ!」
「はい。」
義清は父の言葉に素直に答えた。
そして一言だけ言った。
「藤七、父上を頼む!」
そういうと馬に鞭を当てて駆け去った。
暗闇にとどろく矢唸りを聞きながら佐々木秀義は最期の時を迎えようとしていた。
「藤七、介錯せよ。そして我が首決して敵に渡すでないぞ。」
太刀の閃光が暗闇に一瞬響いた。
保元平治以来義朝・頼朝父子に従って戦い続けた佐々木秀義は彼が愛し執着した近江の地で散った。
佐々木秀義の死にざまはたちまち鎌倉勢に広まった。
「佐々木殿の死を無駄にするな!」
どこからともなくそのような声が上がった。
「佐々木殿の弔いぞ!」
佐々木秀義と共に兵を率いている伊賀守護大内惟義も大音声を上げる。
その声に鎌倉勢は大いに奮い立った。
さらにそこに加勢するものが現れた。新たに現れた園城寺の僧兵達である。
園城寺の僧兵の中には最初から鎌倉方に加勢したものもあったが様子をみて加わろうとしているものもあった。
その様子を見ていた僧兵たちが一斉に鎌倉方に加勢したのである。
こうなったらたまらない、伊賀で蜂起した平家方の軍勢たちは大崩となっていった。
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だが、暗闇の中飛んできた一筋の矢が老将の一瞬の隙を突いた。
「父上!」
老将佐々木秀義の傍らにいた息子佐々木五郎義清の悲痛な声が響く。
佐々木秀義はどうと馬から落ちた。
義清は父を想い馬から下りようとした、その時
「ばか者!」
という怒声が響いた。
「ここは戦場ぞ!父が矢に当たった位で馬を下りるな!」
「しかし」
「五郎!今の機を逃すでない!今こそ敵を蹴散らすときぞ!
そなたももののふならば父に気をとられるでない!」
義清は馬から下りるをあきらめた。だがその場を去ろうとはしない。
その義清に向かって苦しい息の父が声を掛ける。
「五郎、何をしておる矢をつがえよ。馬を駆けさせよ。父の屍を越えていけ。
ここで敗れれば父の死が無駄になる。
ここで戦の手を休めるは何にも勝る親不孝と心得よ!
戦を続けよ。そして勝て。勝って、勝って佐々木の地を子々孫々にまで伝えるのじゃ!」
「はい。」
義清は父の言葉に素直に答えた。
そして一言だけ言った。
「藤七、父上を頼む!」
そういうと馬に鞭を当てて駆け去った。
暗闇にとどろく矢唸りを聞きながら佐々木秀義は最期の時を迎えようとしていた。
「藤七、介錯せよ。そして我が首決して敵に渡すでないぞ。」
太刀の閃光が暗闇に一瞬響いた。
保元平治以来義朝・頼朝父子に従って戦い続けた佐々木秀義は彼が愛し執着した近江の地で散った。
佐々木秀義の死にざまはたちまち鎌倉勢に広まった。
「佐々木殿の死を無駄にするな!」
どこからともなくそのような声が上がった。
「佐々木殿の弔いぞ!」
佐々木秀義と共に兵を率いている伊賀守護大内惟義も大音声を上げる。
その声に鎌倉勢は大いに奮い立った。
さらにそこに加勢するものが現れた。新たに現れた園城寺の僧兵達である。
園城寺の僧兵の中には最初から鎌倉方に加勢したものもあったが様子をみて加わろうとしているものもあった。
その様子を見ていた僧兵たちが一斉に鎌倉方に加勢したのである。
こうなったらたまらない、伊賀で蜂起した平家方の軍勢たちは大崩となっていった。
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