平賀義信と楓の婚儀に源範頼も妻と共に列席していた。
範頼は楓の姪の夫であるからである。
もう若くもない二人がどこか恥ずかしげに並んでいる。
新婦側に座る範頼の隣には妻の瑠璃がいる。新婦側には瑠璃の父の安達盛長とかなり大きくなったおなかを抱えた母の小百合そして弟の弥九郎がいて、さらにその近くに河越重頼とその妻藤乃そしてその子たちがいる。小百合と藤乃は新婦楓の姉である。そして、新婦を感慨深く見つめているのが新婦の母比企尼。
一方、新郎側の席には、義信の息子の大内惟義ともう一人まだ元服前の少年が一人座っている。
その少年に範頼は見覚えがあった。
瑠璃との婚儀が間近い頃、安達邸で見かけた少年である。
無事に行なわれた婚儀を見届けた後範頼は瑠璃に例の少年のことを尋ねた。
瑠璃は問われたことに素直に答える。
あの少年は楓の養子である。
正確に言えば楓と前夫伊東祐清二人の養子である。
例の少年は前夫伊東祐清の兄河津祐泰の子である。
今から十年以上前、祐泰は狩の最中不慮の死を遂げた。
何者かによって殺害されたのである。
その黒幕は伊東家の中では直ぐに察することができた。
当時祐泰・祐清の父祐親は一族の工藤祐経と所領争いをしていた。
その争いは祐親の勝利に帰した。その後祐経の妻であった祐親の娘は父の命令で祐経と離縁させられた。祐経は祐親を恨んだ。
祐経は所領を回復すべく非常の策を図る。
祐親を殺害するのである。その場が在る時期行なわれる狩の場と定められた。
計画は実行された。
だが、祐親は害を逃れ代わりに息子の祐泰が殺されてしまった。
その後祐経は暫く雌伏の時を過ごすことになるのだが、祐泰の命が絶たれた伊東家ではある変化がおきていた。
当時祐泰の妻は腹の中に子を宿していた。
その子は父の死後生まれた。生まれて直ぐにその母の再婚が決まり、生まれたばかりの子は祐泰の弟祐清夫婦に引き取られることになった。祐清夫婦には子がいなかった。
嬰児を義弟夫婦に託した祐泰の妻は先に生まれていた二人の子を連れて新しい夫の下へと嫁いでいった。
祐清夫婦の下に残された子は叔父夫婦に我が子として育てられて幸せに過ごしていたのだが、源頼朝らの挙兵によって伊東一族は没落。祖父祐親は亡くなり、養父祐清は西国の平家の元へと走り、養母楓と共に伊豆に残された。が、そこも安住の地ではなくなる。伊豆の伊東の所領においてはかつて祐親と敵対していた工藤祐経の力が増してきたからである。
楓は母比企尼の下に身を寄せ母子二人細々と生きていくこととなっていた。
今回の婚儀で楓はこの養子を連れて平賀義信のもとへと嫁ぐ。
義信はこの子を子として保護することを約している。
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範頼は楓の姪の夫であるからである。
もう若くもない二人がどこか恥ずかしげに並んでいる。
新婦側に座る範頼の隣には妻の瑠璃がいる。新婦側には瑠璃の父の安達盛長とかなり大きくなったおなかを抱えた母の小百合そして弟の弥九郎がいて、さらにその近くに河越重頼とその妻藤乃そしてその子たちがいる。小百合と藤乃は新婦楓の姉である。そして、新婦を感慨深く見つめているのが新婦の母比企尼。
一方、新郎側の席には、義信の息子の大内惟義ともう一人まだ元服前の少年が一人座っている。
その少年に範頼は見覚えがあった。
瑠璃との婚儀が間近い頃、安達邸で見かけた少年である。
無事に行なわれた婚儀を見届けた後範頼は瑠璃に例の少年のことを尋ねた。
瑠璃は問われたことに素直に答える。
あの少年は楓の養子である。
正確に言えば楓と前夫伊東祐清二人の養子である。
例の少年は前夫伊東祐清の兄河津祐泰の子である。
今から十年以上前、祐泰は狩の最中不慮の死を遂げた。
何者かによって殺害されたのである。
その黒幕は伊東家の中では直ぐに察することができた。
当時祐泰・祐清の父祐親は一族の工藤祐経と所領争いをしていた。
その争いは祐親の勝利に帰した。その後祐経の妻であった祐親の娘は父の命令で祐経と離縁させられた。祐経は祐親を恨んだ。
祐経は所領を回復すべく非常の策を図る。
祐親を殺害するのである。その場が在る時期行なわれる狩の場と定められた。
計画は実行された。
だが、祐親は害を逃れ代わりに息子の祐泰が殺されてしまった。
その後祐経は暫く雌伏の時を過ごすことになるのだが、祐泰の命が絶たれた伊東家ではある変化がおきていた。
当時祐泰の妻は腹の中に子を宿していた。
その子は父の死後生まれた。生まれて直ぐにその母の再婚が決まり、生まれたばかりの子は祐泰の弟祐清夫婦に引き取られることになった。祐清夫婦には子がいなかった。
嬰児を義弟夫婦に託した祐泰の妻は先に生まれていた二人の子を連れて新しい夫の下へと嫁いでいった。
祐清夫婦の下に残された子は叔父夫婦に我が子として育てられて幸せに過ごしていたのだが、源頼朝らの挙兵によって伊東一族は没落。祖父祐親は亡くなり、養父祐清は西国の平家の元へと走り、養母楓と共に伊豆に残された。が、そこも安住の地ではなくなる。伊豆の伊東の所領においてはかつて祐親と敵対していた工藤祐経の力が増してきたからである。
楓は母比企尼の下に身を寄せ母子二人細々と生きていくこととなっていた。
今回の婚儀で楓はこの養子を連れて平賀義信のもとへと嫁ぐ。
義信はこの子を子として保護することを約している。
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