時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百五十八)

2011-04-10 23:30:02 | 蒲殿春秋
新たなる来客。それは一組の三姉弟だった。
その三姉弟とは
都において帝位にある後鳥羽天皇の乳母藤原範子、
そしてその弟の藤原範光、そして妹の藤原兼子。
いずれも藤原範季の兄の子で範季が猶子として養育してきたものたちであった。

この来客たちを迎え入れた後、教子の琴は美しい曲を奏ではじめた。
一同はこの音色の美しさに聞きほれた。
だが、琴の音が鳴り止むと範光らは今様を歌い始める。
範光らは異常にはしゃぐ。
そして、範頼のそばにまとわり付いてさまざまな話を始めた。
話の内容は御簾の奥にいる教子にも聞こえてくる。

範光はあからさまに鎌倉に興味を示し、そして、押し付けがましいように過去の誼を範頼に訴えかける。
兼子は三種の神器はどうなったのかをしつこく聞く。

教子は話の中に入っていけない。
入っていきたいとも思わない。
この三姉弟は、「都にいる」帝を正統の帝にしようとしている。
だが、教子にとっての正当な帝は「都にいない」帝である。

教子の父教盛は都にいない帝ーー安徳天皇を正当な帝とする平家一門の中にある。
平家一門の血を引く教子にとっての帝は都にいない安徳天皇だけである。

だが、その安徳天皇の不在のうちに位についた都にいる後鳥羽天皇の側近にあるのが
この三姉弟、そしてその三姉弟を後援しているのが夫の藤原範季なのである。

そして夫範季の手中で育った源範頼が安徳天皇を擁する平家一門を福原から追い落とした。
平家が擁さない帝を擁した三姉弟は平家を追い落とした男に近づこうとしている。

その光景を教子は御簾の奥からじっとながめ黙り込んでいる。三姉弟がはしゃいでいる間教子は終始無言を貫いた。

はしゃぐだけはしゃぐと三姉弟はにぎやかにこの邸を離れていく。

範頼は養父である範季に招かれて別室へと向かった。範資も静かに去った。



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