範頼は二日ほど義経の邸に滞在した後、姉の住む一条の邸へと移った。
何年かぶりに見る弟を姉は懐かしそうに見つめる。
その姉の髪には白いものが目立ち始めている。前に会ったときよりも少し姉が小さく見えた。
姉の家も忙しそうに日々が回っている。
だが、それは弟の邸とは違う忙しさである。
現在姉は四人の子の母。そしてこの邸の主である夫の一条能保は鎌倉にいて不在。
一家の主婦として広い邸を切り盛りし、乳母達を指図して子供達の養育を行ない、
不在の夫に代わってその正室として行なう行動も忙しい。
鎌倉殿縁者ということで能保の元へ顔を出すものも増えてきている。
姉は妻そして母として忙しいのである。
範頼はここでもしばらく放置される。
昔うるさいほど範頼の周りにまとわり付いていたここの娘達も今はもうすっかり大きくなって
範頼の前には姿を現さない。御簾ごしに一時挨拶をしただけである。その御簾越しに見る娘達の影の大きさに範頼は驚く。
末息子がものめずらしげに体の大きい叔父を時折見に来るが、書や学問の修行に急がしそうである。
姉は忙しくしている。
だが義経の邸とは違い姉の家は夜には静寂が訪れる。
一番下の息子がいつまでも母親の側にまとわり付くが、上の三人の娘達はそれなりの年でありある程度母親とは距離を置くようになっている。
主不在の家には夜は来訪者がいない。
日が暮れると姉は乳母夫の後藤実基に目配らせをする。
実基は物々しい姿の郎党を邸内に散らばらせた。
「姉上、これは。」
「今、都は物騒です。どこに物盗りや押し込みが入るか分かったものではありません。
この邸を守るために後藤に邸の警護をお願いしています。」
「・・・・・」
「この前も三条に押し込みがあって、何人もの女たちが衣装を剥ぎ取ら雑色が何人か命を落としたと聞きました。
前々から都は物騒でしたが、このところはより一層都の乱れは酷いものになりました・・・」
「・・・・・」
それから暫くしてから姉は範頼をじっと見つめた。そしてゆっくりと手を握る。
「六郎よく戻って来てくれました。よく無事で。」
姉は体を震わせながら静かに涙をこぼしてた。
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何年かぶりに見る弟を姉は懐かしそうに見つめる。
その姉の髪には白いものが目立ち始めている。前に会ったときよりも少し姉が小さく見えた。
姉の家も忙しそうに日々が回っている。
だが、それは弟の邸とは違う忙しさである。
現在姉は四人の子の母。そしてこの邸の主である夫の一条能保は鎌倉にいて不在。
一家の主婦として広い邸を切り盛りし、乳母達を指図して子供達の養育を行ない、
不在の夫に代わってその正室として行なう行動も忙しい。
鎌倉殿縁者ということで能保の元へ顔を出すものも増えてきている。
姉は妻そして母として忙しいのである。
範頼はここでもしばらく放置される。
昔うるさいほど範頼の周りにまとわり付いていたここの娘達も今はもうすっかり大きくなって
範頼の前には姿を現さない。御簾ごしに一時挨拶をしただけである。その御簾越しに見る娘達の影の大きさに範頼は驚く。
末息子がものめずらしげに体の大きい叔父を時折見に来るが、書や学問の修行に急がしそうである。
姉は忙しくしている。
だが義経の邸とは違い姉の家は夜には静寂が訪れる。
一番下の息子がいつまでも母親の側にまとわり付くが、上の三人の娘達はそれなりの年でありある程度母親とは距離を置くようになっている。
主不在の家には夜は来訪者がいない。
日が暮れると姉は乳母夫の後藤実基に目配らせをする。
実基は物々しい姿の郎党を邸内に散らばらせた。
「姉上、これは。」
「今、都は物騒です。どこに物盗りや押し込みが入るか分かったものではありません。
この邸を守るために後藤に邸の警護をお願いしています。」
「・・・・・」
「この前も三条に押し込みがあって、何人もの女たちが衣装を剥ぎ取ら雑色が何人か命を落としたと聞きました。
前々から都は物騒でしたが、このところはより一層都の乱れは酷いものになりました・・・」
「・・・・・」
それから暫くしてから姉は範頼をじっと見つめた。そしてゆっくりと手を握る。
「六郎よく戻って来てくれました。よく無事で。」
姉は体を震わせながら静かに涙をこぼしてた。
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