財産が空になった原因は大きく二つあった。
一つは範頼の長期にわたる出陣であった。
短期の出陣でさえ戦支度には出費がかさむ。今回の出陣は半年にわたる大規模のものであった。
その間の兵糧やその他必要物資を支度し、必要に応じて戦地に追加送付しなければならない。
しかも範頼は大将軍なのである。それなりの威容をととのえてやらなければならない。
勿論、鎌倉殿の代官であるのだから鎌倉殿からの支給はある。
だが自前で支度しなければならない部分が出てくる。その支度をするのが妻の瑠璃の仕事である。
ではどうやって自前で支度するのか?
範頼自身に権利のある荘園はない。公的身分も無かったからそちらからの収入もない。
辛うじて瑠璃には祖母から貰った所領がある。だが、そこから得られる収入はたかが知れている。
そのような状況で瑠璃はなんとか夫の戦地への仕送りをまかなっていた。
夫が帰ってやっとその財政の苦境から逃れられると思った矢先今度は夫が任官した。
任官自体は喜ばしいことである。
だが、その任官に掛かる費用に瑠璃は苦しんだ。
高価な装束は実家がなんとかしてくれた。
だが、その後の鶴岡参拝の奉納品、任官を図ってくれた頼朝へのお礼の品、
さらには、次々とやってくる御家人達のもてなしの品々などを支度するともう蔵の中は空になり
それでも足りないので嫁入りの時にもってきた品々を市に持っていく羽目になった。
そこまでしてもまだ足りない。
最近は実家に無心に行くが、実家の方も装束の支度だけで青息吐息であまり期待できないという。
妻から状況を聞いた範頼は嘆息した。
出征に費用がかかることは承知していたがここまでしなければならないことに対しての認識が無かった。
そして任官の現実を知った。
任官には成功*に多額の費用がかかるとは聞いていた。
今回は兄頼朝の斡旋によるものだから成功の費用はかかっていない。
けれども、任官に関わる様々な出費までは当事者になるまではわからなかった。
官位を得るためには、自分もしくは妻が裕福でなければならないとよく言われているが、任官して初めてその意味を知った。
とにかくも、自分と妻の財産が危機的な状況にあることだけはわかった。そしてその事実に衝撃を受けた。
*成功ーー朝廷に財力奉仕をしてその見返りに官位を得ること。平安末期によくみられた任官活動の一つ。
前回へ 目次へ 次回へ
一つは範頼の長期にわたる出陣であった。
短期の出陣でさえ戦支度には出費がかさむ。今回の出陣は半年にわたる大規模のものであった。
その間の兵糧やその他必要物資を支度し、必要に応じて戦地に追加送付しなければならない。
しかも範頼は大将軍なのである。それなりの威容をととのえてやらなければならない。
勿論、鎌倉殿の代官であるのだから鎌倉殿からの支給はある。
だが自前で支度しなければならない部分が出てくる。その支度をするのが妻の瑠璃の仕事である。
ではどうやって自前で支度するのか?
範頼自身に権利のある荘園はない。公的身分も無かったからそちらからの収入もない。
辛うじて瑠璃には祖母から貰った所領がある。だが、そこから得られる収入はたかが知れている。
そのような状況で瑠璃はなんとか夫の戦地への仕送りをまかなっていた。
夫が帰ってやっとその財政の苦境から逃れられると思った矢先今度は夫が任官した。
任官自体は喜ばしいことである。
だが、その任官に掛かる費用に瑠璃は苦しんだ。
高価な装束は実家がなんとかしてくれた。
だが、その後の鶴岡参拝の奉納品、任官を図ってくれた頼朝へのお礼の品、
さらには、次々とやってくる御家人達のもてなしの品々などを支度するともう蔵の中は空になり
それでも足りないので嫁入りの時にもってきた品々を市に持っていく羽目になった。
そこまでしてもまだ足りない。
最近は実家に無心に行くが、実家の方も装束の支度だけで青息吐息であまり期待できないという。
妻から状況を聞いた範頼は嘆息した。
出征に費用がかかることは承知していたがここまでしなければならないことに対しての認識が無かった。
そして任官の現実を知った。
任官には成功*に多額の費用がかかるとは聞いていた。
今回は兄頼朝の斡旋によるものだから成功の費用はかかっていない。
けれども、任官に関わる様々な出費までは当事者になるまではわからなかった。
官位を得るためには、自分もしくは妻が裕福でなければならないとよく言われているが、任官して初めてその意味を知った。
とにかくも、自分と妻の財産が危機的な状況にあることだけはわかった。そしてその事実に衝撃を受けた。
*成功ーー朝廷に財力奉仕をしてその見返りに官位を得ること。平安末期によくみられた任官活動の一つ。
前回へ 目次へ 次回へ