政略的にはそのように納得している義仲も一つだけどうしてもぬぐえないわだかまりを心に抱えていた。
それは縁談の相手の娘の母が新田義重の子であるということである。
新田義重はかつてその婿悪源太義平が父源義賢を滅ぼすのに手を貸した人物である。
つまり、義仲の父の仇の一党の孫娘が今回の縁談の相手なのである。
自然この縁談に関しては義仲は冷たくなる。
「側室ならば迎えても良い」という返答に冷淡な言葉が添えられた。
義仲のこの返答に石和信光は激怒した。
信光は義仲と自分は同格のものと思っている。
同じ河内源氏で義仲の祖先八幡太郎義家と信光の祖先新羅三郎義光は兄弟同士であり血統上尊卑の差は無い。
後世の人々が当たり前のように思っている義家の子孫が源氏嫡流であるという考えなどこの当時には全く無い。
信光は現在無位無官であるが、義仲とて無位無官である。
その義仲の息子と自分の娘の縁談は釣り合いのとれたものと思っている。
その釣り合いの取れているはずの縁談の話で側室ならば娘を迎えてもよいという言葉に腹が立った。
しかも、その返答には信光にとってはかなり屈辱的な言葉が含まれていた。
信光は木曽義仲との提携を解消することを決心した。
信光は次の提携相手を模索した。
といっても他に提携できる相手は鎌倉の源頼朝しか残っていない。
が、頼朝とは提携はできない。
頼朝は他の武家棟梁たちには「提携」ではなく「臣従」を求めている。
つまり、頼朝につきその力を借りるということは鎌倉の御家人になることを意味している。
頼朝と並び立つ武家棟梁としての地位と誇りを捨てなければならない。
信光は逡巡した。
しかし最終的には頼朝の御家人になる道を選んだ。
木曽義仲と提携しないということは義仲と敵対することを意味する。
今自分以外の甲斐源氏と木曽義仲との関係は良好ではない。
唯一義仲と交渉を持っていた信光と義仲の提携解消は甲斐源氏と義仲の最終決裂を意味する。
だが、ここまで分裂の進んだ甲斐源氏だけでは義仲とは戦えない。
有力な支援者が欲しい。
その支援者となるものは源頼朝しかいない。
叔父の加賀美遠光とその子の長清は早くから鎌倉に伺候し、御家人としての立場を受け入れている。
その遠光の話を聞くと、遠光や平賀義信らは
他の御家人たちとは違い「御門葉」として格式の高い者としての扱いを受けているという。
頼朝と同等という思いさえ捨て去れば、他の御家人たちに対しては優位を保て
それなりの誇りを持ち続けることができる。
無位無官の義仲の侮辱されつづけて提携を続けるよりは
かつて十三歳で「右兵衛佐」の官位を得ていた頼朝の下につくほうが自分の誇りがまだ保てそうな気がした。
信光は舅新田義重に頼朝への仲介を依頼した。
頼朝の御家人となる為に。
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それは縁談の相手の娘の母が新田義重の子であるということである。
新田義重はかつてその婿悪源太義平が父源義賢を滅ぼすのに手を貸した人物である。
つまり、義仲の父の仇の一党の孫娘が今回の縁談の相手なのである。
自然この縁談に関しては義仲は冷たくなる。
「側室ならば迎えても良い」という返答に冷淡な言葉が添えられた。
義仲のこの返答に石和信光は激怒した。
信光は義仲と自分は同格のものと思っている。
同じ河内源氏で義仲の祖先八幡太郎義家と信光の祖先新羅三郎義光は兄弟同士であり血統上尊卑の差は無い。
後世の人々が当たり前のように思っている義家の子孫が源氏嫡流であるという考えなどこの当時には全く無い。
信光は現在無位無官であるが、義仲とて無位無官である。
その義仲の息子と自分の娘の縁談は釣り合いのとれたものと思っている。
その釣り合いの取れているはずの縁談の話で側室ならば娘を迎えてもよいという言葉に腹が立った。
しかも、その返答には信光にとってはかなり屈辱的な言葉が含まれていた。
信光は木曽義仲との提携を解消することを決心した。
信光は次の提携相手を模索した。
といっても他に提携できる相手は鎌倉の源頼朝しか残っていない。
が、頼朝とは提携はできない。
頼朝は他の武家棟梁たちには「提携」ではなく「臣従」を求めている。
つまり、頼朝につきその力を借りるということは鎌倉の御家人になることを意味している。
頼朝と並び立つ武家棟梁としての地位と誇りを捨てなければならない。
信光は逡巡した。
しかし最終的には頼朝の御家人になる道を選んだ。
木曽義仲と提携しないということは義仲と敵対することを意味する。
今自分以外の甲斐源氏と木曽義仲との関係は良好ではない。
唯一義仲と交渉を持っていた信光と義仲の提携解消は甲斐源氏と義仲の最終決裂を意味する。
だが、ここまで分裂の進んだ甲斐源氏だけでは義仲とは戦えない。
有力な支援者が欲しい。
その支援者となるものは源頼朝しかいない。
叔父の加賀美遠光とその子の長清は早くから鎌倉に伺候し、御家人としての立場を受け入れている。
その遠光の話を聞くと、遠光や平賀義信らは
他の御家人たちとは違い「御門葉」として格式の高い者としての扱いを受けているという。
頼朝と同等という思いさえ捨て去れば、他の御家人たちに対しては優位を保て
それなりの誇りを持ち続けることができる。
無位無官の義仲の侮辱されつづけて提携を続けるよりは
かつて十三歳で「右兵衛佐」の官位を得ていた頼朝の下につくほうが自分の誇りがまだ保てそうな気がした。
信光は舅新田義重に頼朝への仲介を依頼した。
頼朝の御家人となる為に。
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