欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

夜、草原の道を

2008-04-29 | poem
月のある夜。静かで明るい草原の道を私たちは朝が来るまで車を走らせていました。
愛する人はとなりに眠っています。
私は草原の静かさを独り占めしながら、はてしなく遠い地平線を目指し走っていたのです。
虫の声がしています。夜活動する動物たちの息づかいが聞こえてきます。
草原は果てしなく広く、おだやかで、私たちは月明かりを頼りに車を走らせていました。

車の心地いい揺れを感じながら、夜の冷たい風を受けながら、私は心を澄ましていました。
草原の息吹を、月からのメッセージを受け取るために。
私は車を走らせながら自然に感覚をゆだねていました。
草原も月も、夜風さえも、なにも動いていないようなどっしりとした落ち着きを感覚の中で受けとっていたのです。
それは懐の大きな愛情。おおらかでなにものも拒むことのないような、そんな感覚を私は受けとっていたのです。

しばらく車を走らせていると、草原のむこうに建物が見えてきました。
月明かりの中に尖塔が。それは白い建物でした。
その建物は夜の静けさの中にひっそりとたたずんでいました。
私は誘われるように、その建物の方へと車を走らせていました。
こじんまりとした教会。私は扉の前に車を止めました。
エンジンの静止とともに愛する人は目を覚ましました。
私たちは車をおりて、その建物へと歩いていきました。
あたりにはとても優しい雰囲気がありました。
扉に鍵はかかっていませんでした。
私たちはおそるおそる、でも、なにかにいざなわれるように建物の中へと入っていったのです。

部屋の中にはわずかなロウソクの明かりだけが灯っていました。
人の気配はありません。しかし、淋しい雰囲気も感じられませんでした。
むしろあたたかい感じ。母親の胎内にいるような、そんなあたたかみがこの部屋の中には広がっていました。
私たちは祭壇の方へと歩いていきました。そして、そばにあるイスに腰かけてました。
窓のむこうには月明かりに浮かんだ草原が見えました。
私たちはしばらくそこに座っていました。

時がたつのも忘れるくらい、おだやかな気持ちをそこで味わいました。
私たちはいざなわれるように目をつぶっていたのです。
わずかに明るい部屋の中でしたが、まぶたの奥には明るい白い光のようなものが広がっていました。
感覚の中で、私は白い光に包まれていました。
あたり一帯に私の感覚は広がっていき、すべてが心地よく私の中に伝わってくるのでした。
白い光はさらに頭上からも降りそそがれていました。
私は白い光に包まれているうちに、とてもあざやかに人の姿を見ることができました。
それが誰なのかわかりませんでしたが、とても懐かしく力強く、例えて言うなら永遠性に満ちた人でした。
私はその人を見ているうちに、今までに味わったこともないような感覚にとらわれました。
恐れも不安もない、とても純粋で落ち着いた気持ち。心の中がとてもはつらつとしてくる感じでした。
今、ここにいることがとてもしあわせであると。喜びと活力が止めどなくわいてくるのでした。
そんな満たされた気持ちをしばらく味わっていました。

その後、私たちが教会のイスに腰かけているのだと気づくまで、かなりの時間がかかりました。
私は快活な気持ちで愛する人を見ました。
すると、同じようにすっきりとおだやかな顔の愛する人がこちらにむかってほほ笑んでいました。
私たちはお互いに笑い合い、そして、静かに祈りを捧げました。

私たちはふたたび草原を車で走りました。
今まで味わったことのないような落ち着きと純粋さ、そして、喜びをまだ全身に感じていました。
白い教会ははるか後ろに見えなくなっていきました。
私たちは月明かりの中で、広大な草原とともに息づいていました。
車を走らせながら、夜風を受けながら、私たちはおたがいに笑い合いました。
太陽が昇る方向へ。期待と喜びをたずさえて、なおも私たちは車を走らせていきました。


最新の画像もっと見る

post a comment