《前回までのあらすじ》
あらら、もう今日で11月がおしまい!?
そうですか……やはり「ぬらりひょんサーガ」は2ヶ月では完結しなかった! これを「愛」と言わずしてなんと言お……あ、「のんびりしすぎ」って言えばいいんだ。
いやいやでも、来てほしくない終わりは確実に近づいてきつつあるのです。
アニメ『ぬらりひょんの孫 千年魔京』ももうクライマックスなんでしょ? 私は1秒1コマたりとも観てないんだけど。東京MXテレビ受信できなかったから第1シーズンも観てなかったしなぁ。
さぁ、その勢いにヒッソリのって、こちらも堂々のラストランに入ることにいたしましょ~か。
前提として過去の原作マンガやアニメシリーズを「かつてあった歴史」としてふまえながらも、本編ではまったくオリジナルで21世紀の視聴者のニーズにこたえた作品世界を展開することとなった、アニメ最新第5期『ゲゲゲの鬼太郎』(2007年4月~09年3月 全100話)。
そこに、今まで以上に重要で強力なライヴァルとしてレギュラー出演したぬらりひょん一味の活躍や、いかに!?
前回にも触れたように、いつもの朱の盤にあわせて、蛇骨婆がついに紅一点(どどめピンク)としての準レギュラー出演枠を獲得し、さらには旧鼠とカニ坊主といったニューフェイスも加わって、アニメ第5期のぬらりひょん一味は、史上初めて「一味」と言うにたる充実の人材をそろえるものとなりました(とくに頼りになる強豪妖怪かまいたちは第39話からの参加)。
このアニメ第5期で通算4代目の蛇骨婆を演じることとなったのは、子どもに絶大な人気を得る謎のケミカルお菓子「ねるねるねるね」のCM の魔女役として世代を越えた認知度をほこる声優の鈴木れい子(63歳)。せっかく40年ごしでレギュラーになったんだから蛇骨婆メインのエピソードもあって良かったんじゃないかと思うのですが、そこは「萌え」を追究した第5期だったため、涙をのんで脇役キャラにあまんじることとなってしまいました。
こういった新生ぬらりひょん一味がアニメ第5期の中で初めて本格的に鬼太郎ファミリーと激突したのは、第8話『宿敵!ぬらりひょん』(2007年5月放送)でのこと。ただし、すでにそれ以前の2話ぶんのエピソードでゲスト妖怪の「黒幕」という役割で暗躍は開始していました。
記念すべきこの第8話は、「鬼太郎をコンクリート詰めにしたぬらりひょん一味がぬか喜びする」というくだりからして、水木しげるの原作マンガ『妖怪ぬらりひょん』をモデルにしていることは明らかなのですが、ぬらりひょんが鬼太郎を油断させる「おとり」として、若い娘さんの姿をしたゲスト妖怪「百々目鬼(どどめき)」を利用し、エピソードの展開も鬼太郎と百々目鬼とのやりとりを中心にしているため、ほぼ別物といってよい内容となっています。
このエピソードのクライマックスで、やっぱり復活した鬼太郎にコテンパンにのされたぬらりひょん一味は緒戦を勝利で飾ることを逸してしまい撤退、自身も顔面のひたいに大きなキズを負うこととなってしまったぬらりひょん先生は、あえてそのキズを治癒させずに、この屈辱を忘れないために鬼太郎を殺すまでには残したままにしておくという決意を胸にするのでした。ねちっこいなぁ~!
このように、アニメ第5期本編でのぬらりひょん先生は、原作やそれまでのアニメシリーズにあった「過去世界への追放」という最悪の目には遭ってはいません。
しかし、前回にもふれたように、第5期以前の段階でぬらりひょんとその一味が鬼太郎ファミリーと敵対して激戦を展開していたらしいことは間違いなく、おそらくはその中で、ぬらりひょんがすでに過去世界へ追放されたというくだりはあったはずなのです。そうでないと、あの第5期でのぬらりひょんの激しい憎悪の感情は説明がつかないのではないかと。
まぁ、原作マンガのようにマンモスのいる5万年前に流されたのか、アニメ第3期のようにティラノサウルスのいる6~7千万年前に流されたのか、アニメ第4期のように天狗ポリスによって2億年前に流されたのかまでは判然としないのですが……どれにしても、ひどすぎる!!
また、ぬらりひょんの「ひたいに残されたキズ」というキーワードを聞けば、ぬらりひょんファンならばおのずと、あの傑作劇場版アニメ『激突!!異次元妖怪の大反乱』(1986年公開 第3期の映画化)の白熱のラストで、鬼太郎にオカリナソードで顔面をかち割られ、流血する顔を両手でおおいながら、
「ぐ、ぐぬわぁあっしゃぁああ~!!」
と絶叫して国会議事堂のドてっぺんから墜落していく妖怪皇帝ぬらりひょんの最期が容易に連想できるはずです。
もちろん、さっきも言ったようにアニメ第5期でのぬらりひょんの「ひたいのキズ」は第5期本編の中で鬼太郎につけられたものであるのですが、イメージとして、第5期の青野ぬらりひょんがまぎれもなく第3期の青野ぬらりひょんと地続きになっていることを証明してくれるのが、この「ひたいのキズ」だと思うんだなぁ、私は。顔つきは全然ちがいますけど。
さて、そんな感じでさまざまな「過去」を感じさせるぬらりひょん先生。アニメ第5期での活躍のほどはといいますと。
かつてのアニメ第3・4期もそうでしたが、第5期でもぬらりひょんは初登場以降ず~っと全話に登場していたというわけではなく、出てきたのは、
第4(海座頭と舟幽霊)・7(雪女と雪入道)・8(蛇骨婆と百々目鬼)・17(火取り魔)・26(バックベアードと同盟)・30(片車輪)・39(かまいたち初登場)・47(百々爺)・59(ベアードの計画を傍観)・61(たんたん坊と二口女)・72(家鳴りと妖怪城)・85(完全体妖怪城)話
の12話でした。()の中にあるのは、そのエピソードでのゲスト妖怪や悪事の内容です。
アニメ第3期の青野ぬらりひょんが「全115話中の15話」登場(貢献度13%)で、第4期の西村ぬらりひょんが「全114話中の18話」登場(貢献度16%)ということだったのにたいして、以上のように第5期に再登板した青野ぬらりひょんは「全100話中の12話」登場ということで貢献度12%。まぁまぁですが、そんなにしょっちゅうは出てなかったんですな。
ところが、第5期を楽しんだ方ならばみなさんご存じのように、足かけ3年・全100話にわたる人気シリーズとなった第5期は、誰がど~う観ても内容的には「打ち切り」としか言いようのない終わり方をして完結しています。いや、だから完結してません。
そんなこともあって、第61話から不定期で始まったぬらりひょん一味の「妖怪城編」は、第85話『鬼太郎絶叫!妖怪城の切り札!!』(2008年11月放送)でいちおうの終結を迎えてはいるものの、敗北したぬらりひょん一味はメンバー全員ピンピンしており、必ずまた近いうちに復讐するゾという空気を濃厚に残しつつ撤退しています。
そしてそのまんま、最終回の第100話まで登場しないままになってしまったのですが、もしアニメ第5期がそれ以降も「満足のいく真の大団円」を迎えるまで続いていたのだとしたならば、ぬらりひょん一味がそれまで以上の激闘を繰り広げていたであろうことは間違いないはず……だったんですが。
ざっとそれまでの流れを追っていきますと、いつもの感じで毎回のゲスト妖怪を操るといった役回りで活躍したぬらりひょん一味は(第26話では、西洋妖怪軍団の首領・バックベアードからもらった「毒矢」を使って珍しく鬼太郎ファミリーの棲む妖怪横丁を直接襲撃する)、第30話『鬼太郎抹殺作戦』(2007年10月放送)の結末で天狗ポリスに逮捕され、その3ヶ月後の第39話『ぬらりひょん最期の日』(2008年1月放送)で、新しく一味に参加したかまいたちの援護を受けて脱走して活動を再開します。
その収監中、ひとり鉄の岩屋に監禁されていたぬらりひょんは、「3ヶ月間壁の鉄をかじり続けて体内に鉄分を蓄積させ、手に鉄のツメをはやすことに成功する」という、星一徹もビックリのド根性新境地に到達することに成功します。
老いてますます盛んとはまさしくこのことなり!! あっぱれぬらりひょん大先生。
その後、第47話『妖怪大裁判』(2008年3月放送)では、鬼太郎をおとしいれようとするゲスト妖怪・百々爺(演・西村知道!)を攻撃して鬼太郎を助けるという意外すぎる役割を演じていました。このエピソードではぬらりひょん一味は潜伏中で、百々爺の陰謀にはいっさい加担していません。
あの宿敵ぬらりひょんが、いったいなぜ鬼太郎を助けるのか!? その理由とは、
「鬼太郎を殺すのはこのわしじゃ! わし以外の妖怪には鬼太郎は殺させんぞ。」
ツンデレか!! ベジータか! シャアか!
ぬらりひょんのような爺さん妖怪をここまで夢中にさせる鬼太郎少年の魅力っていったい……なんだか、『ヴェニスに死す』みたいな妖しいかほりが。
ともあれ、こんな感じでさまざまな新展開の可能性を見せつつも! 実に不可解な終わり方で100話完結となってしまったアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』。
放送中にはウエンツ瑛士が主演する実写映画版『ゲゲゲの鬼太郎』2作も公開されていたし、西洋妖怪軍団やぬらりひょん一味、「九尾の狐の弟」チー率いる中国妖怪軍団などのレギュラー出演化に対して、「地獄に封印されていた超絶エネルギー」を体内に得てスーパーサイヤ人のような髪型になって闘う鬼太郎といったバトルアクション展開も加速化していたし、いわずと知れた「萌え萌え猫娘」の合格点以上のヒロインっぷりも大きな話題となっていたはずで、そういった部分から、アニメ第5期が「不人気」という理由で打ち切りになったという見方はあたらないはずなのですが。
一体なぜなんでしょうか……とにかく、事実としてはっきりしているのは製作スタッフが第100話の時点で第5期を完結させるつもりが毛頭なかったことと、それをまったく意に介さない強硬さで、放送していたフジテレビが2009年4月からのその時間帯の枠を『ドラゴンボール改』にゆずってしまったことです。それであっさりおしまいとなってしまったわけで。
製作スタッフに第100話以降もアニメ第5期を続行させる意志が強くあったことは、2008年9月放送の第73話『妖怪四十七士の謎』から始まった「全国の妖怪四十七士を探し求める」というミッションがまったくコンプリートされていないことからも一目瞭然です。
「妖怪四十七士」というのは、要するに日本全国にちらばる四十七ヶ所の霊場のエネルギーを開放させる能力を持っているという、四十七都道府県に棲む「ご当地妖怪たち」のことで、日本を侵略しようとする世界各地の悪役妖怪軍団の脅威を憂慮した地獄の閻魔大王が、鬼太郎ファミリーに命じて四十七士を集結させ、それによって開放された日本全国の霊的エネルギーを吸収した「ウルトラミラクルスーパー鬼太郎」が敵妖怪たちを撃退するという構想だった……のですが。
結局のところ、TV本編は四十七士のうちの「25名」までしか判明していない状態で終了してしまっており(第100話で最後にエントリーされたのは群馬県代表の黒カラス天狗)、やっと半分を越えたというあたりでおしまいになっちゃったんですよね。
ちなみに、現在も閲覧できる東映アニメーションのアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』の公式ホームページでは、登場することさえかなわなかったメンバーも含めた「幻の妖怪四十七士」の全貌を確かめることができます。
となると、だいたい30話かけて四十七士の半分が集まったわけなのですから、アニメ第5期が本当の意味で完結するためには「全130話」くらいのスケジュールが必要だったというわけか。あと1年続いてたら、いったいどんな展開になってたんでしょうかねぇ。
こんな事情があったため、第5期で堂々のパワーアップを果たした青野ぬらりひょんは「まだまだこれからじゃぞ!」とタンカを切って潜伏したまま出番終了という、実に不本意で中途半端な幕切れを迎えることとなってしまったのです。非常に残念……
TV本編の中では、2008年11月に放送された第85話が最後の出番となってしまったぬらりひょん一味でしたが、アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』のくくりで本当にラストとなったのは、その1ヶ月後に大々的に全国上映された第5期唯一のオリジナル劇場版『ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』(2008年12月公開 83分)でのほんのチョイ出演でした。
アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』唯一の劇場版となった『日本爆裂!!』は、アニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』放送開始40周年を記念した「鬼太郎サーガ」史上初の劇場単独公開長編です。
それまでの数々の歴代劇場版『ゲゲゲの鬼太郎』は、すべて「東映まんがまつり」系列のプログラムの1本という役割になっていたため、上映時間も30分か1時間という制約があったのですが、今回の単独上映作品はついに1時間30分という普通の映画なみのヴォリュームを手に入れることとなりました。
また、この作品はウエンツ鬼太郎の実写映画版2作のあとに公開されているため、映画出演としては、2010年1月に享年77歳で逝去した田の中勇の遺作となります。
『日本爆裂!!』のストーリーは、前半が原作マンガの『鏡爺』(1967年4月発表)をもとにしており、後半は日本の古代邪神・夜刀神(やとのかみ)が復活するというオリジナル展開になっています。
時間設定としては、翌2009年3月に放送終了したTV本編の「あとに起きた事件」ということになっており、本編では途中までしか描かれなかった「日本妖怪四十七士」が全員集合している唯一の作品となっているのも見どころのはずなのですが、四十七士はクライマックスで鬼太郎をサポートするためにわらわらむらがっているだけなので、はっきり言ってそれまでまわりにいた妖怪横丁の鬼太郎ファミリーとの違いがいまいちピンとこず、ありがたみが伝わってこない扱いとなっています。
この『日本爆裂!!』は作画のクオリティも高いし、恐いシーンもちゃんと恐いのでけっこういい作品なのですが、なんといっても冒頭にくっつけられた「おまけ映画」の『ゲゲゲまつりだ!!五大鬼太郎』のインパクトが反則的に甚大なので、まじめにやってる映画本編の印象がやたら薄くなっちゃってるんですね……悲運。
そして、ここに一瞬だけ登場するぬらりひょん一味は、日本で大変な事件が起きていたそのころ、バックベアードやチーたちと世界のどこかで開催していた「世界悪者妖怪サミット」の議場から日本の様子をうかがっている描写だけで、物語にはいっさい関わってこないかなり蛇足な出演の仕方をしています。意味ねぇ~。
偉大なる青野ぬらりひょんの最後の出番がこんなのなんて。いくらなんでもあんまりですよ!!
とにかくこんなわけで、満を持して堂々の復活を果たした21世紀エディションの青野ぬらりひょんは、本人としてはけっこういい活躍をしていたものの、これからやっと本気が出るかという矢先に「ハイしゅうりょ~!」とあいなってしまったのです。く、くやし~!!
でもねぇ、そんな突然のアニメ第5期終了からはや2年がたとうかとしている今現在……私、こうも思うようになってきたんですよね。
アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』は、ああいう終結の仕方で良かったんじゃないかと。
まぁまぁ、落ち着いて聞いていただきたい。そりゃ残念ですよ! ぬらりひょん一味の、その後の存分の活躍が観られなかったことは、そりゃもう確かに哀しいことです。
でも。
私はアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』が大好きである以前に、水木しげるの原作版『ゲゲゲの鬼太郎』の大ファンであり、それ以上に希代の名優・青野武の大ファンなのです。
はっきり言って、あのまま「四十七士編」が続行されれば「ゲゲゲの鬼太郎の名を借りたバトルアニメ」路線がさらに強化されることは明らかだったし、そうなるとしたら、我らが青野ぬらりひょん先生も、「ぬぐぅわぁあ~!!」とか「どうぅりぃいぃやぁあ~!!」とか「きぃいとぅあるうぅうぉおぉういやぁあっしゃぁあ~!!(鬼太郎と言っています)」と、得意の巻き舌を駆使して血管もブチ切れよとばかりに渾身の熱演を発揮していたことは火を見るよりも明らかだったでしょう。
だとすれば、齢70の坂を越えた青野老師の肉体はいったいどんなことになっていたでしょうか。
実際には、アニメ第5期は青野ぬらりひょんにそういった往年の第3期をほうふつとさせるシーンを用意するまでもなく放送終了となったのですが、それなのに、青野老師はその翌年2010年5月をもって、73歳にして大動脈瘤と脳梗塞の療養のために無期限で声優活動を休止することとなって現在にいたっているのです。
今、私はここで声を大にして言いたい。
青野ぬらりひょんの華々しい最期なんか観られなくてもいい!! 声だって聴けなくなったっていい。
青野老師がどこかで生きているこの世界のなんと美しいことか。
いいんだ、いいんだ、青野ぬらりひょんの活躍は未完でいいんですよ……
必ずや、アニメ第5期で構築された「真の妖怪総大将ぬらりひょん」を受け継いでくれる、新たなる「アニメ第6期ぬらりひょん」が現れるはずなのだから!!
その姿を10年後に観るまでに私もがんばって生きますから、ど~か! 青野老師も「さくらともぞう」の方のスタイルでのんびり生きてくださ~い。
あらら、もう今日で11月がおしまい!?
そうですか……やはり「ぬらりひょんサーガ」は2ヶ月では完結しなかった! これを「愛」と言わずしてなんと言お……あ、「のんびりしすぎ」って言えばいいんだ。
いやいやでも、来てほしくない終わりは確実に近づいてきつつあるのです。
アニメ『ぬらりひょんの孫 千年魔京』ももうクライマックスなんでしょ? 私は1秒1コマたりとも観てないんだけど。東京MXテレビ受信できなかったから第1シーズンも観てなかったしなぁ。
さぁ、その勢いにヒッソリのって、こちらも堂々のラストランに入ることにいたしましょ~か。
前提として過去の原作マンガやアニメシリーズを「かつてあった歴史」としてふまえながらも、本編ではまったくオリジナルで21世紀の視聴者のニーズにこたえた作品世界を展開することとなった、アニメ最新第5期『ゲゲゲの鬼太郎』(2007年4月~09年3月 全100話)。
そこに、今まで以上に重要で強力なライヴァルとしてレギュラー出演したぬらりひょん一味の活躍や、いかに!?
前回にも触れたように、いつもの朱の盤にあわせて、蛇骨婆がついに紅一点(どどめピンク)としての準レギュラー出演枠を獲得し、さらには旧鼠とカニ坊主といったニューフェイスも加わって、アニメ第5期のぬらりひょん一味は、史上初めて「一味」と言うにたる充実の人材をそろえるものとなりました(とくに頼りになる強豪妖怪かまいたちは第39話からの参加)。
このアニメ第5期で通算4代目の蛇骨婆を演じることとなったのは、子どもに絶大な人気を得る謎のケミカルお菓子「ねるねるねるね」のCM の魔女役として世代を越えた認知度をほこる声優の鈴木れい子(63歳)。せっかく40年ごしでレギュラーになったんだから蛇骨婆メインのエピソードもあって良かったんじゃないかと思うのですが、そこは「萌え」を追究した第5期だったため、涙をのんで脇役キャラにあまんじることとなってしまいました。
こういった新生ぬらりひょん一味がアニメ第5期の中で初めて本格的に鬼太郎ファミリーと激突したのは、第8話『宿敵!ぬらりひょん』(2007年5月放送)でのこと。ただし、すでにそれ以前の2話ぶんのエピソードでゲスト妖怪の「黒幕」という役割で暗躍は開始していました。
記念すべきこの第8話は、「鬼太郎をコンクリート詰めにしたぬらりひょん一味がぬか喜びする」というくだりからして、水木しげるの原作マンガ『妖怪ぬらりひょん』をモデルにしていることは明らかなのですが、ぬらりひょんが鬼太郎を油断させる「おとり」として、若い娘さんの姿をしたゲスト妖怪「百々目鬼(どどめき)」を利用し、エピソードの展開も鬼太郎と百々目鬼とのやりとりを中心にしているため、ほぼ別物といってよい内容となっています。
このエピソードのクライマックスで、やっぱり復活した鬼太郎にコテンパンにのされたぬらりひょん一味は緒戦を勝利で飾ることを逸してしまい撤退、自身も顔面のひたいに大きなキズを負うこととなってしまったぬらりひょん先生は、あえてそのキズを治癒させずに、この屈辱を忘れないために鬼太郎を殺すまでには残したままにしておくという決意を胸にするのでした。ねちっこいなぁ~!
このように、アニメ第5期本編でのぬらりひょん先生は、原作やそれまでのアニメシリーズにあった「過去世界への追放」という最悪の目には遭ってはいません。
しかし、前回にもふれたように、第5期以前の段階でぬらりひょんとその一味が鬼太郎ファミリーと敵対して激戦を展開していたらしいことは間違いなく、おそらくはその中で、ぬらりひょんがすでに過去世界へ追放されたというくだりはあったはずなのです。そうでないと、あの第5期でのぬらりひょんの激しい憎悪の感情は説明がつかないのではないかと。
まぁ、原作マンガのようにマンモスのいる5万年前に流されたのか、アニメ第3期のようにティラノサウルスのいる6~7千万年前に流されたのか、アニメ第4期のように天狗ポリスによって2億年前に流されたのかまでは判然としないのですが……どれにしても、ひどすぎる!!
また、ぬらりひょんの「ひたいに残されたキズ」というキーワードを聞けば、ぬらりひょんファンならばおのずと、あの傑作劇場版アニメ『激突!!異次元妖怪の大反乱』(1986年公開 第3期の映画化)の白熱のラストで、鬼太郎にオカリナソードで顔面をかち割られ、流血する顔を両手でおおいながら、
「ぐ、ぐぬわぁあっしゃぁああ~!!」
と絶叫して国会議事堂のドてっぺんから墜落していく妖怪皇帝ぬらりひょんの最期が容易に連想できるはずです。
もちろん、さっきも言ったようにアニメ第5期でのぬらりひょんの「ひたいのキズ」は第5期本編の中で鬼太郎につけられたものであるのですが、イメージとして、第5期の青野ぬらりひょんがまぎれもなく第3期の青野ぬらりひょんと地続きになっていることを証明してくれるのが、この「ひたいのキズ」だと思うんだなぁ、私は。顔つきは全然ちがいますけど。
さて、そんな感じでさまざまな「過去」を感じさせるぬらりひょん先生。アニメ第5期での活躍のほどはといいますと。
かつてのアニメ第3・4期もそうでしたが、第5期でもぬらりひょんは初登場以降ず~っと全話に登場していたというわけではなく、出てきたのは、
第4(海座頭と舟幽霊)・7(雪女と雪入道)・8(蛇骨婆と百々目鬼)・17(火取り魔)・26(バックベアードと同盟)・30(片車輪)・39(かまいたち初登場)・47(百々爺)・59(ベアードの計画を傍観)・61(たんたん坊と二口女)・72(家鳴りと妖怪城)・85(完全体妖怪城)話
の12話でした。()の中にあるのは、そのエピソードでのゲスト妖怪や悪事の内容です。
アニメ第3期の青野ぬらりひょんが「全115話中の15話」登場(貢献度13%)で、第4期の西村ぬらりひょんが「全114話中の18話」登場(貢献度16%)ということだったのにたいして、以上のように第5期に再登板した青野ぬらりひょんは「全100話中の12話」登場ということで貢献度12%。まぁまぁですが、そんなにしょっちゅうは出てなかったんですな。
ところが、第5期を楽しんだ方ならばみなさんご存じのように、足かけ3年・全100話にわたる人気シリーズとなった第5期は、誰がど~う観ても内容的には「打ち切り」としか言いようのない終わり方をして完結しています。いや、だから完結してません。
そんなこともあって、第61話から不定期で始まったぬらりひょん一味の「妖怪城編」は、第85話『鬼太郎絶叫!妖怪城の切り札!!』(2008年11月放送)でいちおうの終結を迎えてはいるものの、敗北したぬらりひょん一味はメンバー全員ピンピンしており、必ずまた近いうちに復讐するゾという空気を濃厚に残しつつ撤退しています。
そしてそのまんま、最終回の第100話まで登場しないままになってしまったのですが、もしアニメ第5期がそれ以降も「満足のいく真の大団円」を迎えるまで続いていたのだとしたならば、ぬらりひょん一味がそれまで以上の激闘を繰り広げていたであろうことは間違いないはず……だったんですが。
ざっとそれまでの流れを追っていきますと、いつもの感じで毎回のゲスト妖怪を操るといった役回りで活躍したぬらりひょん一味は(第26話では、西洋妖怪軍団の首領・バックベアードからもらった「毒矢」を使って珍しく鬼太郎ファミリーの棲む妖怪横丁を直接襲撃する)、第30話『鬼太郎抹殺作戦』(2007年10月放送)の結末で天狗ポリスに逮捕され、その3ヶ月後の第39話『ぬらりひょん最期の日』(2008年1月放送)で、新しく一味に参加したかまいたちの援護を受けて脱走して活動を再開します。
その収監中、ひとり鉄の岩屋に監禁されていたぬらりひょんは、「3ヶ月間壁の鉄をかじり続けて体内に鉄分を蓄積させ、手に鉄のツメをはやすことに成功する」という、星一徹もビックリのド根性新境地に到達することに成功します。
老いてますます盛んとはまさしくこのことなり!! あっぱれぬらりひょん大先生。
その後、第47話『妖怪大裁判』(2008年3月放送)では、鬼太郎をおとしいれようとするゲスト妖怪・百々爺(演・西村知道!)を攻撃して鬼太郎を助けるという意外すぎる役割を演じていました。このエピソードではぬらりひょん一味は潜伏中で、百々爺の陰謀にはいっさい加担していません。
あの宿敵ぬらりひょんが、いったいなぜ鬼太郎を助けるのか!? その理由とは、
「鬼太郎を殺すのはこのわしじゃ! わし以外の妖怪には鬼太郎は殺させんぞ。」
ツンデレか!! ベジータか! シャアか!
ぬらりひょんのような爺さん妖怪をここまで夢中にさせる鬼太郎少年の魅力っていったい……なんだか、『ヴェニスに死す』みたいな妖しいかほりが。
ともあれ、こんな感じでさまざまな新展開の可能性を見せつつも! 実に不可解な終わり方で100話完結となってしまったアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』。
放送中にはウエンツ瑛士が主演する実写映画版『ゲゲゲの鬼太郎』2作も公開されていたし、西洋妖怪軍団やぬらりひょん一味、「九尾の狐の弟」チー率いる中国妖怪軍団などのレギュラー出演化に対して、「地獄に封印されていた超絶エネルギー」を体内に得てスーパーサイヤ人のような髪型になって闘う鬼太郎といったバトルアクション展開も加速化していたし、いわずと知れた「萌え萌え猫娘」の合格点以上のヒロインっぷりも大きな話題となっていたはずで、そういった部分から、アニメ第5期が「不人気」という理由で打ち切りになったという見方はあたらないはずなのですが。
一体なぜなんでしょうか……とにかく、事実としてはっきりしているのは製作スタッフが第100話の時点で第5期を完結させるつもりが毛頭なかったことと、それをまったく意に介さない強硬さで、放送していたフジテレビが2009年4月からのその時間帯の枠を『ドラゴンボール改』にゆずってしまったことです。それであっさりおしまいとなってしまったわけで。
製作スタッフに第100話以降もアニメ第5期を続行させる意志が強くあったことは、2008年9月放送の第73話『妖怪四十七士の謎』から始まった「全国の妖怪四十七士を探し求める」というミッションがまったくコンプリートされていないことからも一目瞭然です。
「妖怪四十七士」というのは、要するに日本全国にちらばる四十七ヶ所の霊場のエネルギーを開放させる能力を持っているという、四十七都道府県に棲む「ご当地妖怪たち」のことで、日本を侵略しようとする世界各地の悪役妖怪軍団の脅威を憂慮した地獄の閻魔大王が、鬼太郎ファミリーに命じて四十七士を集結させ、それによって開放された日本全国の霊的エネルギーを吸収した「ウルトラミラクルスーパー鬼太郎」が敵妖怪たちを撃退するという構想だった……のですが。
結局のところ、TV本編は四十七士のうちの「25名」までしか判明していない状態で終了してしまっており(第100話で最後にエントリーされたのは群馬県代表の黒カラス天狗)、やっと半分を越えたというあたりでおしまいになっちゃったんですよね。
ちなみに、現在も閲覧できる東映アニメーションのアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』の公式ホームページでは、登場することさえかなわなかったメンバーも含めた「幻の妖怪四十七士」の全貌を確かめることができます。
となると、だいたい30話かけて四十七士の半分が集まったわけなのですから、アニメ第5期が本当の意味で完結するためには「全130話」くらいのスケジュールが必要だったというわけか。あと1年続いてたら、いったいどんな展開になってたんでしょうかねぇ。
こんな事情があったため、第5期で堂々のパワーアップを果たした青野ぬらりひょんは「まだまだこれからじゃぞ!」とタンカを切って潜伏したまま出番終了という、実に不本意で中途半端な幕切れを迎えることとなってしまったのです。非常に残念……
TV本編の中では、2008年11月に放送された第85話が最後の出番となってしまったぬらりひょん一味でしたが、アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』のくくりで本当にラストとなったのは、その1ヶ月後に大々的に全国上映された第5期唯一のオリジナル劇場版『ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』(2008年12月公開 83分)でのほんのチョイ出演でした。
アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』唯一の劇場版となった『日本爆裂!!』は、アニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』放送開始40周年を記念した「鬼太郎サーガ」史上初の劇場単独公開長編です。
それまでの数々の歴代劇場版『ゲゲゲの鬼太郎』は、すべて「東映まんがまつり」系列のプログラムの1本という役割になっていたため、上映時間も30分か1時間という制約があったのですが、今回の単独上映作品はついに1時間30分という普通の映画なみのヴォリュームを手に入れることとなりました。
また、この作品はウエンツ鬼太郎の実写映画版2作のあとに公開されているため、映画出演としては、2010年1月に享年77歳で逝去した田の中勇の遺作となります。
『日本爆裂!!』のストーリーは、前半が原作マンガの『鏡爺』(1967年4月発表)をもとにしており、後半は日本の古代邪神・夜刀神(やとのかみ)が復活するというオリジナル展開になっています。
時間設定としては、翌2009年3月に放送終了したTV本編の「あとに起きた事件」ということになっており、本編では途中までしか描かれなかった「日本妖怪四十七士」が全員集合している唯一の作品となっているのも見どころのはずなのですが、四十七士はクライマックスで鬼太郎をサポートするためにわらわらむらがっているだけなので、はっきり言ってそれまでまわりにいた妖怪横丁の鬼太郎ファミリーとの違いがいまいちピンとこず、ありがたみが伝わってこない扱いとなっています。
この『日本爆裂!!』は作画のクオリティも高いし、恐いシーンもちゃんと恐いのでけっこういい作品なのですが、なんといっても冒頭にくっつけられた「おまけ映画」の『ゲゲゲまつりだ!!五大鬼太郎』のインパクトが反則的に甚大なので、まじめにやってる映画本編の印象がやたら薄くなっちゃってるんですね……悲運。
そして、ここに一瞬だけ登場するぬらりひょん一味は、日本で大変な事件が起きていたそのころ、バックベアードやチーたちと世界のどこかで開催していた「世界悪者妖怪サミット」の議場から日本の様子をうかがっている描写だけで、物語にはいっさい関わってこないかなり蛇足な出演の仕方をしています。意味ねぇ~。
偉大なる青野ぬらりひょんの最後の出番がこんなのなんて。いくらなんでもあんまりですよ!!
とにかくこんなわけで、満を持して堂々の復活を果たした21世紀エディションの青野ぬらりひょんは、本人としてはけっこういい活躍をしていたものの、これからやっと本気が出るかという矢先に「ハイしゅうりょ~!」とあいなってしまったのです。く、くやし~!!
でもねぇ、そんな突然のアニメ第5期終了からはや2年がたとうかとしている今現在……私、こうも思うようになってきたんですよね。
アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』は、ああいう終結の仕方で良かったんじゃないかと。
まぁまぁ、落ち着いて聞いていただきたい。そりゃ残念ですよ! ぬらりひょん一味の、その後の存分の活躍が観られなかったことは、そりゃもう確かに哀しいことです。
でも。
私はアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』が大好きである以前に、水木しげるの原作版『ゲゲゲの鬼太郎』の大ファンであり、それ以上に希代の名優・青野武の大ファンなのです。
はっきり言って、あのまま「四十七士編」が続行されれば「ゲゲゲの鬼太郎の名を借りたバトルアニメ」路線がさらに強化されることは明らかだったし、そうなるとしたら、我らが青野ぬらりひょん先生も、「ぬぐぅわぁあ~!!」とか「どうぅりぃいぃやぁあ~!!」とか「きぃいとぅあるうぅうぉおぉういやぁあっしゃぁあ~!!(鬼太郎と言っています)」と、得意の巻き舌を駆使して血管もブチ切れよとばかりに渾身の熱演を発揮していたことは火を見るよりも明らかだったでしょう。
だとすれば、齢70の坂を越えた青野老師の肉体はいったいどんなことになっていたでしょうか。
実際には、アニメ第5期は青野ぬらりひょんにそういった往年の第3期をほうふつとさせるシーンを用意するまでもなく放送終了となったのですが、それなのに、青野老師はその翌年2010年5月をもって、73歳にして大動脈瘤と脳梗塞の療養のために無期限で声優活動を休止することとなって現在にいたっているのです。
今、私はここで声を大にして言いたい。
青野ぬらりひょんの華々しい最期なんか観られなくてもいい!! 声だって聴けなくなったっていい。
青野老師がどこかで生きているこの世界のなんと美しいことか。
いいんだ、いいんだ、青野ぬらりひょんの活躍は未完でいいんですよ……
必ずや、アニメ第5期で構築された「真の妖怪総大将ぬらりひょん」を受け継いでくれる、新たなる「アニメ第6期ぬらりひょん」が現れるはずなのだから!!
その姿を10年後に観るまでに私もがんばって生きますから、ど~か! 青野老師も「さくらともぞう」の方のスタイルでのんびり生きてくださ~い。