代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

ポピュリズムと金権アリストクラシー

2016年12月02日 | 政治経済(国際)
 今年マスコミなどで飛び交った政治用語で、聞くたびに嫌悪感を抱くのが「ポピュリズム」という言葉だ。トランプには「右派ポピュリスト」、サンダースには「左派ポピュリスト」といったレッテルが貼られてきた。

 トランプやサンダースなど、絶望的な状況に追いやられた人々の声を代弁した政策を掲げ、支持を集め、その政策を実行に移そうとすると、ただちにこのレッテル攻撃がされる。TPPを攻撃すると、ただちに「ポピュリスト」という烙印を押された。

 では「ポピュリスト」ではないとされる政治家や政党は選挙期間中になんと言ってきたのであろうか? 

 自民党が民主党から政権を奪還した際の2012年の衆院選挙時における自民党の公約は、以下の選挙ポスターにある通り、「ウソつかない。TPP断固反対」であった。
 これが大ウソであったことは、翌年ただちに明らかになった。ウソをつくとポピュリストと批判されず、「現実的」と評価される。これが民主主義なのか? このようなウソつき政治家たちを放置しておいて、いったい子供たちになんと教育すればよいというのだろうか。

 


 オバマがまだ民主党の大統領候補であった2007年当時、NAFTA(北米自由貿易協定)について何と言っていたかについては以下の動画を見て欲しい。
 オバマ候補は「当選すれば直ちにNAFTAを修正する。貿易合意はウォール街だけではなく、一般国民にもメリットがなければならない。貿易交渉は、大企業ロビイストに担われていることが問題で、労働者は参加していない。グローバリゼーションは勝ち組(winner)と負け組(looser)を作り出し、勝ちと負けは毎回同じだ」と。
 

 
 TPP:NAFTAはウォール街の利益のみと反対表明 オバマ大統領候補(字幕埋込版



 NAFTAのせいで雇用を奪われ、地域全体も衰退していったかつての工業都市の人々は、オバマの発言に一筋の希望を見出し、オバマに投票した。しかし、この公約もウソだったことが、オバマ大統領の就任後、直ちに明らかになった。
 これだけ酷い裏切り方をされ、絶望の淵に追い込まれたかつてのコアな民主党支持者たちが、今回の選挙では「生まれて初めて共和党候補に投票した」というのも当然のことである。トランプならば、公約を裏切ることなくTPPやNAFTAに反対してくれそうだったからである。この上、もしトランプまでもが公約を裏切ったら、貧困層の怒りの矛先はどこに向かうだろう? 
 日本のマスコミは、彼らの気持ちを思いやることもなく、トランプ政権に対して恐るべき「裏切り」を行うことを推奨している。アメリカ人の反日感情を高める愚行を行っているのは彼ら自身である。彼らには、ただ一言、「恥を知れ!」と言いたい。

 当選すると公約に反して、大企業の利益にすり寄る政策を実施するのが、日本やアメリカのみならず、先進資本主義国では状態化してきた。こうした政治家を、マスコミは「非民主的」とは思わないのだろうか?  どうやら、民意を無視し、選挙期間中の公約は反故にして、ネオリベ政策を推進することが、マスコミの定義における「民主主義」らしいのである。
  
 民主主義を破壊してきたのは、まさに大企業と政治家とマスコミと官僚と御用学者たちが推進してきた、「ネオリベラル資本主義」そのものである。中道右派が勝っても中道左派が勝っても採用する政策は結局「ネオリベラル」しかないのであったら、選挙の意味など全くない。絶望に追いやられた人々のあいだで、「排外主義」や「ポピュリズム」が高まるのは当然である。彼らが嫌悪する「ポピュリズム」を台頭させたのは、彼ら自身なのだ。

 これは、新しい金権支配層のアリストクラシー、「金権アリストクラシー」とでも呼ぶべき政治システムである。新しい形態の「貴族政治」を打破してくれそうなのが、排外主義の極右か、社会主義の左翼しかないのであれば、票はそこに向かうしかない。マスコミと御用学者たちは、「ポピュリズム」を批判する前に、「金権アリストクラシー」の構成員となってきた自分たちの自己批判を行うべきであろう。


 来年のフランスの大統領選にしても、フィヨンがネオリベ右派で、誰になるかわからないが社会党の候補がネオリベ左派で、国民戦線のルペンが保護主義右派であれば、人々の票はますますルペンに流れるだろう。フランスにおいても「極右」のルペンが勝利する可能性は高まっている。

 


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9 コメント

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世論調査と世論操作という上からのポピュリズム(煽動)こそ、金権アリの武器ですね。 ( 睡り葦)
2016-12-02 23:37:02

 金権アリのきわめて重要な一翼であるメディアによるポピュリスト攻撃には「不平不満を利用して愚かな大衆を煽動している」という含意があると思います。
 大衆の不平不満は彼らにとって非常に危険なのものですから、つねに大衆が不利な現実をごまかしてすり替えてしまうことが必要です。関さんが剔抉しておられるように、嘘とペテンはそのための常套手段であるわけですが、メディアの主要機能としての世論調査と世論操作が強力な武器として権力の源泉となっています。
 ただし考えてみるとこれは、民衆が持つ認識、つまり民心がコトを決定をするということを前提としているわけで、民主主義をフライパンの上でひっくり返したものと言えるのではないかと思います。

 今般の関さんのご労作によって広く知られることになるであろう赤松小三郎に対する明治維新遂行勢力によるテロは、平等観にもとづく立憲民主政治を人びとにいっさい近づけずに、意のままになる天皇を担いだオリガーキー(長薩藩閥支配)のもとでの汎立身出世主義(蠱惑的アリストクラシー=メイジ・ドリーム)で人心を強引に塗り上げて欺瞞する、自由平等の民主主義に敵対する反動反革命への道をひらくためのものであったわけです。

 その150年後の現在の日本において、メディアをもちいた人心操作としての世論調査と世論操作が一体となって、哀しいことにあっけない程すさまじい威力を発揮していることは、選挙の際のみならず、現政府の権力の最大の源泉が、与党議席支配はともかく、通信社を含めたメディアの調査による内閣支持率にあるとされていることでよくわかります。

 ポール・クレイグ・ロバーツ氏によれば、今次の米国大統領選挙では米国の大衆が選挙前世論調査で圧倒的にクリントン支持と答え、すっかり油断させて不正選挙を防いだとのことですが(本当に?!)さすればメディアを含めた米国の戦争金権アリの大衆蔑視と民心支配システムを逆手に取って彼らを崖から突き落としたことになります。これを聞いて衝撃を受けました。

 田中宇氏の最近の記事によれば、ドナルド・トランプは選挙の際に示された反トランプ・スクラムによるメディア・ファシズムへの反撃として、徹底的なメディアへの愚弄と無視をおこなっているとのこと。まこと喰えないしたたかなオッサンです。トランプの言う軍備拡張や金融規制撤廃というのは、はしゃぎすぎを締め上げて息を止める前の、寄せ場のエサやりであると思えたりします。

 金権メディアが大好きな言葉で言えば、ひょっとしてこのようなことが「グローバル・トレンド」になるのではないかと思えます。「もう一つの明治維新」への道がやがてそこ(曲がり角の向こう)に?
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睡り葦さま ()
2016-12-08 15:59:25
 ありがとうございます。本はあと一週間ほどで出版されます。皆様と議論してきた多くの論点が盛り込まれて、実質的に皆様との共著のようなものです。深く御礼申し上げます。
  

 さて、軍産複合体やネオコンやウォール街による、トランプ政権への浸食を心配する日々です。

 トランプですら支配層に懐柔されるとなれば、選挙民はもう誰も信じられないと絶望するしかないですね。

 彼らの罠にかかったように見せかけて、逆にまとめて罠にかけるだけのしたたかさを持っているとよいのですが・・・・・。
 どうなることやら・・・・・・。
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大ヒットの予感が・・・波状攻勢を期待します。 ( 睡り葦 )
2016-12-10 18:53:10

 関さんのご本がアマゾン予約出足好調にて初刷り増刷、素晴らしいことです。アマゾン読者レビューを含めてよい書評が集まりますことを。
 作品社は良書を長く売り続けてくれるだろうと思いつつ、しかし大ヒットの予感がいたします。
 とおからず文庫化され、やがて時代を超える本となることを確信しております。

 関さんのご意図は、ひとつの渦を起こすことではなく、渦がつぎつぎとかさなり拡がってゆくことであると察しております。大変お忙しいなか心苦しく思いますが、これからのご連作の系統的な展開がつづきますことを期待しております。

      ☆☆☆

 トランプの今後に対する関さんのご心配もっともに思います。ウェブログ「マスコミに載らない海外記事」で注目されたようにたとえば国家安全保障顧問にマイケル・フリンという人選から、トランプにネオコンとウォール街の戦争勢力のための趣向を変えた「D級」俳優であるという呪いをかけようとする向きがあります(2016年12月03日記事「トランプ大統領と呼ばれる危険な欺瞞」)。
 確かに、ゴールドマンOBの財務長官、中東における戦闘で「狂犬と呼ばれた」もと海兵隊司令官、イスラエル・コネクションを持つというタカ派クリスチャンのCIA長官を含めて、トランプはそのような見立てをゆるす人事をやっています。

 当てずっぽうを言いますとトランプには非常によいアドバイザーがいるように思います。同ウェブログ12月07日記事でポール・クレイグ・ロバーツ氏が慎重な言葉の運びで示唆しているように「向こう側のインサイダー」から、しかし「ほんの少しずらした線」でピック・アップすることが現実的には賢明であろうと考えられますから。

 関さんがやきもきなさるように、これからトランプが演ずるのは、ミイラ取りがミイラになる危険と隣り合わせの、最後にはピエロになりかねない芸当であろうと思います。
 しかし軽信であるにせよ、トランプが不幸なオバマのように米国と世界の歴史においてまことにつまらない、ひとかけらのおもしろさもない存在に満足することはないだろうと踏んでいます。彼は喰えない大金持ちであるわけですが、軍産や金融賭博にたかって財を築いたわけではなく、「雲の上のグローバル・エリートに対する地上の99%の憤怒」を入れ墨として背負うという野心は棄てないだろうと。

 日本からは見えないアメリカ、噴出する「99%の民意」が既に懐柔や抑圧や、ショック・ドクトリンによっては操作することができないレベルに来ているということを措くとして、関さんにまた嗤われるであろうクロノロジカルな枠取りによる変化を今、すなわち「2020年前後」に見てしまいます。

 50年クロニクルのために吉川弘文館の世界史年表と首っ引きで、ありあわせの記憶を動員しますと、1670年前後に世界ヘゲモニーがオランダからイギリスに移行、1720年にイギリスで南海泡沫会社のバブル崩壊、1770年前後にイギリスの産業革命が立ち上がり、1820年代(1825年)にイギリスにおいて最初の資本主義恐慌、同時にドイツで産業革命が開始、イギリスに対するドイツとアメリカの追い上げによって1870年代(1873年)に最初の世界恐慌(19世紀末大不況)、重化学工業帝国主義の時代の第一次世界大戦へ。疲弊した欧州を尻目に1920年代にアメリカの黄金時代となり、1929年世界恐慌と第二次世界大戦を経てエレクトロニクス、ITそして核とバイオの時代へ。戦後冷戦体制をインフラストラクチュアとした西側の産業資本主義が1970年代に終焉し、アメリカではデタント派に替わってネオコン好戦派が国際政治を動かしはじめました。1980年代にアメリカはグローバル・ヘゲモニーの軸足を金融に移し、関さんの言われる新自由主義によるグローバル覇権を永続的に維持しようとして、2007年の金融大爆発に帰結しました。
 世界恐慌に対応しようとしたオバマのグリーン・ニューディールは贋金と化して、あらたな経済発展動因や新機軸たりうる経済原理は何も現れなかったことから危機をただ引き延ばす欺瞞のための超金融緩和が常態化して現在に至っています。そして、2020年前後にはどのような転換が・・・

 トランプは、政治的軍事的覇権と経済的金融的覇権にしか関心のない、上から目線の政経グローバルエリートとは異なる、ドメスティックな「地上の目」を持っているために、軍産ネオコン好戦派と金融グローバリストに引きずられたアメリカの悪夢的覇権がいまや終わるべきことを見抜いていると思われます。
 思いつきの経済史50年クロニクルから見てみまして、アンチ・グローバル・エリート(大統領選におけるジェブ・ブッシュとヒラリー・クリントン)としてのトランプの出現は納得がゆくものです。

 長年の側近、ロンヴァルディ氏が大統領選挙以前から語っていた「トランプが負けてもトランプ現象は終わらない」という言葉を、これからトランプを包み続けるであろう疾風怒濤に投げかけたい気持ちに駆られます。
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Direct democracy (renqing)
2016-12-11 03:18:53
こちらにはご無沙汰です。

知人から、イタリア五つ星運動がよくわかる動画を紹介してもらいました。上記のURLはそれに絡んだ、弊ブログ記事です。ご笑覧頂ければ、幸甚。
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本ようやく出ました ()
2016-12-21 17:33:39
睡り葦さま、renqingさま

 renqingさま、イタリア五つ星運動の紹介ありがとうございました。間違いを犯すことをおそれず、自分が責任をとることで成長していく。
 民選議院設立建白書にも、そのような趣旨の主張が含まれていましたっけ。(学がない人間に選挙権など早いという主張に対して)

 さて、赤松小三郎の本がようやく出版されました。そろそろ本屋の歴史コーナーにも出ているかと思います。大きい本屋でないと置いてくれていないでしょうが・・・・・。

 amazonは私も使いたくないのですが、予約受付をやっているので、やむを得ず宣伝に利用させていただきました。
 お二人のコメントから大きな示唆を得たこと、「あとがき」に書いてあります。
 今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

 
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出版、おめでとうございます (renqing)
2016-12-22 10:56:31
関 様

ご著書の出版、おめでとうございます。

当方こそ、関様のご活躍、異分野でのご著書・ダム問題裁判へのコミット等、そのダイナミックな知的エネルギーに常々、羨望とともに敬服申し上げているところです。

私自身は、やや馬力に欠ける嫌いがありますので、関様のご活躍を刺激に己を叱咤激励し、精進を重ね、なるべく近いうちに、知的応援団ではなく、知的プレーヤーとして結果をものする所存です。文字通り、ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。
renqing
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民撰議員設立建白書 (renqing)
2016-12-22 12:28:55
ブログ主さま

民撰議員設立建白書へのご教示誠にありがとうございました。ご指摘されて、はたと、「そういえば原文を一度も通読したことがない」と気づきました。お恥ずかしい。

怠け者の罪滅ぼしに、慌てて弊記事を作成しました。本ブログ閲覧の皆さまにご笑覧頂ければ幸甚。
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Unknown (Unknown)
2017-01-04 13:14:21
まぁ民進党がいまいち支持を回復できないのも、信用できないからなんですよねぇ…
党首が蓮舫で幹事長が野田ですからね、TPP交渉参加推進議員連にいた連中がいまは断固反対を唱えているし
武器輸出三原則の見直しなんかは鳩山内閣のときから議論はしてたし、野田内閣のときに談話をだしたし

右から左まで思想が有象無象の集まりで一貫していないから、そのときの派閥の勢力でぶれる。
野党のときと政権政党になったときでは態度がかわる。実際かなり自民党的であるし

このあたりの首尾一貫にかんする信用のなさがねぇ…だから自民党に好きにやらせる土壌になる

社会党が力もってて抑止力になりえた55年体制のがまだマシでしたね。

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全く同感です ()
2017-01-05 20:53:07
>まぁ民進党がいまいち支持を回復できないのも、信用できないからなんですよねぇ…
 
 同感です。先の政権交代の失敗をきちっと総括して、新しい方向性を踏み出さない限り(従米派を追い出すなど)、信用できないし、支持率回復も不可能と思います。

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