代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

マスコミの破滅的なロジック ―自由主義とトロッキズムのパラドックス―

2008年11月17日 | 自由貿易批判
 G20の首脳宣言で「WTO(世界貿易機関)交渉の年内合意に至るよう努力する」という文言が入りました。まあ、全ての参加国がそれはムリということを暗黙に了解していることを前提とした上で、ブッシュ政権の「最後のワガママ」ということでねじ込んだ一文なのでしょう。日本のマスコミはといえば、この実現不可能な一文を評価し、相変わらず「保護主義を排し、自由貿易を推進しよう」と叫んでおります。

 私はこの間「保護主義はいけない。自由貿易主義を貫こう」と叫んでいる日本のマスコミの論調を厳しく批判し、「自由貿易」から「公正で持続可能な管理貿易」への転換を訴えてまいりました。
 日本のマスコミの基本的なロジックは以下のようなものです。およそ全ての全国紙が「右へ倣え」で同じ論調です。いやはや「最後の護送船団」とはよくいったものですね。


 (1)1929年の世界大恐慌後、列強諸国が関税引き上げによる保護主義に走った。
            ↓
            ↓
 (2)それが世界経済のブロック化をもたらした。
            ↓
            ↓
 (3)それが第二次世界大戦の要因となった。
            ↓
            ↓
 (4)それ故、自由貿易体制を守らねばならない。WTO交渉の合意に漕ぎつけよう。


 よくもこんなおかしなロジックが大手を振ってまかり通るものだと感心します。マスコミの記者の方々は、こういうことを書きながら、何も疑問に思わないのでしょうか??
 まず(1)の論理からしておかしいのです。

 1929年の大恐慌は、国際的な貿易自由化と金融自由化の結果として、国際的に経常収支の不均衡が累積し、貿易黒字国のアメリカに過剰な資本が流入し、それが投機に流れ、株や土地のバブルを形成、それが崩壊して発生したものです。

 今回の世界恐慌も基本的には同じ構図です。違うのは、貿易黒字国は中国や日本だったのであり、アメリカは貿易赤字国であるという点です。アメリカの金融業界が、黒字国の中国や日本から余剰資本を吸い上げて、その資金が投機に流れてアメリカで住宅バブルが発生、その崩壊が引き金になったわけです。
 
 1929年にしても、今回にしても、はじめから貿易不均衡を取り締まろうと努力していれば問題はなかったのです。貿易の均衡を目指して国際社会が協調しながら調整を行っていれば、恐慌など発生していないはずです。

 自由貿易体制が破局して恐慌になったから戦争につながったのであって、保護主義だから戦争になったのではありません。はじめから過剰な自由放任主義に規制をかけ、ある程度の貿易のコントロール、金融のコントロールを行っていれば、つまり最初からマスコミの言うところの「保護主義」を実行していれば恐慌になどなっていないのです。
 
 アメリカの貿易赤字の累積がはじまったのは、ニクソンショック以降のことですが、歯止めがかからなくなって暴走をはじめたのは、ウルグアイ・ラウンドとWTO発足によってです。
 当時のマスコミは、ウルグアイ・ラウンドに反対する人々に「保護主義者」のレッテルを貼りつけました。ではウルグアイ・ラウンド以前の世界経済の状態は保護主義であり、自由主義ではなかったというのでしょうか。
 ウルグアイ・ラウンドやWTO協定に反対する人々の主張は、「もうこの辺でいいしょう。この以上の過激な自由化を推し進めても誰も得しませんよ」というものでした。
 マスコミのキャンペーンも手伝って過激な貿易自由化と金融自由化を推し進めた結果が、今回の恐慌であり、結果、資本主義の存続そのものが危ぶまれるような状態になっているわけです。私は誓っていいますが、ウルグアイラウンドやWTO協定などなければ、このようなメチャクチャな事態にはならなかったでしょう。

 「自由主義者」を、「過激な自由主義者」と「穏健な自由主義者」に分ければ、話はわかりやすいでしょうか。マスコミは一貫して「過激な自由主義」の側に立ち、「穏健な自由主義」の人々に「保護主義者」のレッテルを貼り付けて排撃・弾圧してきました。

 「穏健な自由主義者」はこう考えるのです。資本主義体制を守ろうとするのであれば、過激なまでに自由化を推し進めてはいけない。そんなことをすれば世界経済がそのものが崩壊するから。
 少なくとも私はそのように考えていました。資本主義の枠内で、社民主義的要素を取り入れた公正で持続可能な社会を作らねばならない。だからWTOには反対せねばならないと。

 「過激な自由主義者」は、「資本主義の擁護者」であることを自認しながら、資本主義を暴走させ、結果として資本主義そのものを崩壊に追い込むのに手を貸してきたといえるのです。
 
どちらが資本主義の擁護者でしょうか? 

 一貫して貿易自由化を叫び続ける彼らは、じつは「世界社会主義革命」を志すトロッキストではないのだろうかと、私は思うのです。だって、彼らの言うとおりにしたら世界資本主義システムそのものが破局せざるを得ないからです。結果として世界革命が起こってしまう。彼らは、世界革命というトロッキーの予言を実現させるために、資本主義を守ろうとする穏健な人々を「保護主義者」と呼んで排撃し、弾圧しているのではないだろうか、と。
 今の新聞各紙で社説を担当しているのはだいたい団塊の世代です。彼らの多くは、学生時代に全共闘運動なんかやりながら「世界革命」とか叫んでいたんでしょうね。非論理的で過激なアジテーションを行うのは、学生時代のアジビラから現在のアジ社説まで変わっていないということなのでしょうか?

 また上述のマスコミのロジックの中で、「保護主義→戦争」というロジックにも、とてつもない論理の飛躍があります。その矢印は、何重もの条件が存在して、はじめてつながるものだからです。
 1930年代のブロック経済は、広大な植民地をもつ列強各国が無秩序に勝手にやりだしたからダメだったのです。ドイツやイタリアのような植民地を持たない国々は「ブロック」から取り残されて不満を強める結果になりました。それでファシズムが台頭し、戦争につながりました。

 今度の世界恐慌の後には、注意深く、国際協調を保ちながら貿易不均衡を取り締まるよう、貿易体制の再設計をすればよいだけです。当時のドイツやイタリアのような取り残されて不満を強める国が出ないよう、すべての国が便益を受けるようなグローバルなニューディールによる内需拡大策をとり、それによって労働者の賃金を上昇させ、輸出依存度を減らす形で貿易不均衡を是正させればよいだけなのです。そうすれば戦争になることなどありません。


 最後に、マスコミが自由貿易を擁護するロジックは、リカードの比較生産費説にのっとっています。リカードの比較生産費説にしても新古典派のヘクシャー・オリーンの自由貿易論にしても、貿易黒字国も貿易赤字国も出ないという、均衡状態にあることを大前提として成り立っています。
 現実の自由貿易は貿易不均衡を累積させる性質を持ち、リカードの大前提を満たしません。つまり、リカードの理論を根拠にして、現在の自由貿易を擁護することなどできないのです。リカード説にのっとるならば、貿易不均衡を取り締まらねばならない、つまり現行の自由貿易は放置してはいけない、という結論になるはずなのです。
 マスコミがオバカだというのは、現実の自由貿易が経済学の貿易モデルのようになっていないのに、均衡を前提とする非現実的貿易モデルで、不均衡の累積する現実の自由貿易体制を擁護しているという点なのです。彼らがいかに何も考えていないかよくわかります。
  

最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
資本主義の限界 (バク)
2008-11-18 22:37:24
おもしろい見方だと思います。新自由主義は結果としてグローバリズムの名のもと国境をなくし、その国の伝統と文化を破壊するものでありトロキズムと相通じるものがあるように思われます。
現に小泉氏は皇室は最後の抵抗勢力と言ったそうです。また皇室行事で暗がりの中で祝詞が読み上げられるとき、「明かりをつけろ、これが構造改革だ」とも言ったそうです。
本当の話かどうかわかりませんが、いかにもありそうな話だと思います。誤解を避けるために言いますが、私はこれでもサヨクに属しているつもりです。けれどもこの話が本当ならばやはり嫌悪感を抱いてしまいます。
ところで関様は自由貿易に懐疑的な主張をされています。確かに日本の農業や林業はこの自由貿易でずたずたにされました。多くの農地は荒廃し限界集落は年々増加しているようです。山もうち捨てられた人工林で薄暗い命を感じさせないものになっています。
しかし一方、この自由貿易の恩恵を十分受け取ったのも我が日本ではないでしょうか?カメラや時計など他国の分野にまで進出し他国を破壊して伸び上がっていった歴史も忘れてならないと思います。今の生活は他者から富の元を奪い取った過去(原罪?)を土台としているのだと思います。今更保護貿易!何をほざいているんだ!と言う市場原理至上主義者の声が聞こえてきそうです。我々はそれに対して本当に確固とした反対できる理論を持ち合わせていないような気がします。私自身関様のように忍耐力がなくやむなく就職し、一定の収入を得て生活していますが、この収入も突き詰めれば世界に日本製品を売りさばいた利益が回ってきているのだと思っています。そういう後ろめたさが私にはつきまとっています。だから自信を持ってサヨクとは自称できません。
やや自虐的になりましたが、言いたいことは日本は資本主義を基調としています。資本主義は常に経済成長を要求されます。成長を失うと負のスパイラルに陥り、国は貧困への突っ走ることになってしまいす。また日本は資源のない国ですのでどうしても加工貿易の手段しか富を蓄えることができない構造となっているのではないでしょうか?その意味では保護主義は危険であるという主張は説得力を持つと思います。
ならば自由貿易を守ろうというのもやはり短絡的で、将来カタストロフを迎えてしまうのでしょう。
システムの変更、資本主義からの脱却が必要なのだと思います。しかしそのためには新たな哲学を作り出す必要があると思います。私的には江戸時代の循環型システムが可能な社会。のような気がしますが、貧弱な頭ではこれ以上前には進みません。しかし少なくとも自由貿易か保護主義かと言う議論を超えて新しい哲学
の構築がないと現状を打開できないと確信します。
返信する
バクさま ()
2008-11-20 07:04:43
>システムの変更、資本主義からの脱却が必要なのだと思います。私的には江戸時代の循環型システムが可能な社会。しかし少なくとも自由貿易か保護主義かと言う議論を超えて新しい哲学の構築がないと現状を打開できないと確信します。

 私も、エネルギーと食糧を地域分散型によって自給率を高めていくという方策を訴えていますので、その意味で江戸型社会への転換構想です。
 しかしその内部の経済システムはどういものかと考えると、「規制を伴った市場経済」でないと、うまく循環型社会も回らないと思います。ただ、それを資本主義と呼ぶのか否かに関しては、まあ、各人のご判断に任せます。そもそも資本主義をどう定義するのかに依りますので。
 
 ただこうした社会への移行のためにも、当面、少なくとも食糧やエネルギーといった生存にとって死活的な財に関しては、自由貿易の対象から外し、各国の判断で自給率を高めることを可能にする制度が必要だと思います。(もちろん、国が独自にそれらを自由貿易の対象とするという判断も各自の自由ということで)
 それを「保護主義」と呼ぶのかどうかも、まあ、言葉の問題ですね。私は、持続可能に生きていくための安全保障政策とでもいうべきものだと思います。
返信する
バクさま(追記) ()
2008-11-24 06:50:39
>また日本は資源のない国ですのでどうしても加工貿易の手段しか富を蓄えることができない構造となっているのではないでしょうか?その意味では保護主義は危険であるという主張は説得力を持つと思います。

 この問題に対する回答をちゃんとしていなくて後から気になったので、追記しておきます。私の立場は、食料や資源などの必要な輸入量をまかなえるだけの輸出があれば十分で、大幅な輸出超過(貿易黒字)は有害であるというものです。実際、日本経済はこの間、輸出依存度を過去最高にまで高めながら、労働者の賃金は切り下げられ、雇用も不安定化してきました。

 企業が内需よりも国外市場にばかり目を奪われると、国内の労働者というものは、「自分たちの製品を買ってくれるお客様」としては認識されなくなり、「国外のお客様に少しでも安い製品を届けるために少しでも削減すべき生産コストの一部」という位置づけに変わるのです。だから、企業はひたすら労働者の使い捨て化を進めるようになります。輸出指向ははっきりと有害であり、誤りだと思います。

 内需指向に転ずれば、少なくとも賃金は上昇し、雇用の安定性も回復します。ネガティブな側面として物価も上がるでしょうが、社会の安定性の方がはるかに大事なので、利益が不利益を上回ります。

 この点に関して、飯大蔵さんがブログで良いことを書いておりました。下記です。ご参照ください。
http://iitaizou.at.webry.info/200709/article_5.html
返信する
Unknown (ななし)
2008-11-25 09:40:40
英国は取りあえず今回の危機に際して新自由主義路線とは逆のケインズ主義的政策を取るようです。
内需拡大、デフレ防止策としては最善でしょう。
むしろプラザ合意以降、特にバブル崩壊以降、日本が取った政策とは全く逆の方向ですね。
プラザ合意以降、日本政府は法人税と所得税の累進課税率を順次引き下げ、それを消費税を始めとして庶民増税・負担増で補って来ましたから。
当然、個人消費低迷=デフレ不況になりますから税収不足にも陥ります。
で、それを言い訳にして更に緊縮財政にして再分配を減らしますから個人消費は更に低迷、以下負のループを繰り返すw
マスゴミは役人や公共事業の無駄遣いこそ財政赤字の原因だと叩いてますが、根本的にはこの税財政の方向性の誤りだったと個人的には思います。
方向性が逆では財政赤字もデフレ不況も悪くなる事はあっても良くなる事は無いですから。
例えば個人消費の代表的な指標新車市場を見れば700万台→500万台と30年前の水準に逆戻りしております。
プラザ合意の主要目的だった日米貿易摩擦の緩和=日本の内需拡大もいつの間にか忘れ去られ、96年に9%だった外需依存率が今や16%に達しております。
プラザ合意以降の税財政、規制緩和、構造改革の方向性は全く逆だと思いますね。
今日本が緊急にやらなければならないのは税財政をプラザ合意以前に戻す事でしょう。
麻生内閣が打ち出した法人税減税と将来の消費税増税策は方向性が逆だと思います。
財政健全化と内需拡大とデフレ克服が至上命題の日本としては最悪の選択でしょうに。

英政府、消費税15%へ下げ 総額2.9兆円の刺激策発表
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20081125AT2M2402824112008.html

 【ロンドン=吉田ありさ】英政府は24日、総額200億ポンド(約2兆9000億円)と国内総生産(GDP)の1%に相当する規模の景気刺激策を発表した。付加価値税(消費税)の基本税率を一時的に17.5%から15.0%に引き下げる減税が柱で、個人消費を下支えする。財源は将来、高所得層の所得税率を引き上げて賄う方針だ。

 ダーリング財務相が同日、英下院で表明した。2009年の実質成長率の政府見通しはマイナス0.75―マイナス1.25%と、3月時点(2.25―2.75%)から大幅に下方修正。財務相は景気刺激策などで09年後半から英景気は回復し「10年にはプラス成長に戻る」と予測した。

 消費税の基本税率の引き下げは今年12月から09年末までの時限措置で、総額125億ポンドの減税となる見通し。基本税率の変更は1991年に15.0%から現行の17.5%に引き上げて以来。学校施設建設などの公共事業を拡大するほか、中低所得層向けに導入した臨時減税措置の期限を延ばす。財政収支の中期的な悪化を防ぐため、高所得層の所得税率を11年度から45%に引き上げる方針を示した。 (01:24)
返信する
ななし様 ()
2008-12-06 07:44:25
>マスゴミは役人や公共事業の無駄遣いこそ財政赤字の原因だと叩いてますが、根本的にはこの税財政の方向性の誤りだったと個人的には思います。

 同感です。ただ、最近、さしものマスゴミの論調も変化してきましたね。「新古典派の総本山」と私が呼んできた日経新聞にしてからが、「新エネルギー分野への公共投資の拡大」といった、このブログで論じてきたようなエコロジカルな方向への財政支出の拡大という政策を社説で盛んに訴えるようになりました。
 「バラマキ財政」と「バラマキでない有用な財政」を峻別して論じるよう、社論も変わってきています。これはうれしい変化なので、評価したいと思います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。