代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

スティグリッツ教授「TPPは環境と生命の脅威」

2016年03月17日 | Stop! TPP
 来日中のジョセフ・スティグリッツの講演会を聞いてきたので、簡単に報告します。

 昨日(3月16日)に、スティグリッツ教授は首相官邸での安倍首相との会合にに招かれて、安倍さんに「消費税引き上げをしないよう」と提言したことは大きく報道されていました。
 しかし「TPPは悪い協定」と安倍首相にTPPで懸念されることをアドバイスしたことなどは大手新聞では報道されていない。さすがに日本農業新聞は以下のように大きく報道。

 スティグリッツ教授が主要に安倍首相に訴えたかったことは、消費税問題よりも、むしろTPPが悪夢の協定であるという点にあったと思われるが、それを大手マスコミが無視して報道しないというのは国民の知る権利も奪っているといえるだろう。




 午後のスティグリッツ教授の講演会とパネルディスカッションは、宇沢国際学館の主催。
 51年前、MITの学生だったスティグリッツ教授は、宇沢弘文先生(当時シカゴ大学教授)がシカゴ大学で夏休み中に開いていた夏季セミナーに参加して、宇沢先生の下で一ヵ月学んだ経験をもちます。スティグリッツ教授は宇沢先生の教え子の一人でもあり、その縁でのシンポジウムでした。

 スティグリッツ教授の講演のタイトルは、

Toward sustainable economy and society under current globalization trends and within planetary boundaries.

 地球という有限の惑星の中で、現在のグローバリゼーションのトレンドの中で、持続可能な経済と社会は構築可能か?というもの。いまのままじゃ地球はいくつあっても足りないので変えなければならない。講演内容は、宇沢先生と以心伝心で、宇沢先生の話をそのまま聞くがごとくであった。以下、講演の要旨(記憶での再現)。

 冒頭は宇沢先生の思いで話など。不平等と所得分配の不平等に関心のあるという口では立派なことをいう学生が、豪華なスポーツカーを乗りまわしているのを見て、宇沢先生は「あいつは信用できないんじゃないか」と言っていたなどの昔話をされた。宇沢先生らしい。

 経済学に対する批判も、宇沢先生なみに激しかった。フリードマンとシカゴ学派の経済学を批判して、「経済学を勉強すればすれほど、利己的で欲張りな人間になっていく。金融業界に身をおくとだんだん自己中心的な人間に変わっていく」と。


 気候変動対策をし、持続可能な社会をつくるために、大きな脅威がTPP。TPPは気候変動も悪化させ、人々が医薬品にアクセスする権利も奪う。環境と安全と健康を害する。EUは利口だから、そんなところには参加しない。日本は残念ながら参加してしまった。

 TPPがなぜダメか。企業が国を訴えることができるISDSが最大の脅威。これがパリ協定の合意を不可能にしてしまう。たとえばA国が環境保護のための規制を導入すると、その国に投資していたB国の企業C社が、それで不利益を被ったとして、C社がA国を訴えることができる。そんなことをされたら、国の規則を変えられなくなってしまい、効果的な環境規制の導入もすべて不可能になっていく。

 地球温暖化対策としては、排出権取引も無益だ。腐敗、汚職のもとになる。有効な対策は、排出権取引ではなく、炭素に価格づけをして、炭素税を取るのがいちばんよい。国境を超える取引への課税も必要。また途上国への低炭素化を進めながら、国際規模で総需要を底上げしていくためのグリーンファンドの創設が必要である。

 しかしアメリカに期待されても、アメリカはダメだ。二大政党のうちの片方が、地球温暖化なんかしていない、対策もしなくてもよいという政党で、どうしようもない。まずは有志連合で、こうした取り組みを始めるしかないだろう。
 


 パネルディスカッションの時間、私も会場から質問してみた。
 「アメリカ大統領選でTPPに反対する候補の支持率が高くなっていて、すばらしいことだと思う。その中で、トランプ候補はTPPに反対で、関税引き上げも訴えてる。トランプは温暖化なんかウソだと言っているが、その政策は結果として温暖化対策に寄与するのではないか?」と。

 スティグリッツ教授は、「トランプは国際法も何にも知らなくて思いつきで言っているだけだから話にならない。トランプの公約、国際法の枠組みの中で実現不可能なことばかり。トランプはホワイトハウスに一歩も近づいてほしくない」と回答。スティグリッツ教授はヒラリー・クリントンに大統領になって欲しいと思っているようだった。

 しかし私から見ると、最大の懸念は、ヒラリーが選挙期間中はTPP反対と言っていても、ホワイトハウスに入るや否や公約をひっくり返すであろうことが目に見えること。スティグリッツはビル・クリントン政権時代には大統領経済諮問委員会のメンバーでもあった。ヒラリーが大統領になったらぜひスティグリッツ教授にホワイトハウスに入ってもらって、TPPに参加しないようヒラリーの手綱を引き締めてほしいものだ。
 

 



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4 コメント

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TPPに対する官僚さんたちの危機意識の無さが心配 (ふしぶじゑ)
2016-03-19 14:42:35
ご無沙汰しております。久しぶりに書き込みさせていただきます。

先だってクールジャパンプロジェクトにからむ某官僚さんのお話を聞きましたが、ISDSに対する認識が甘いのかなと感じました。これまでも某アニメ系テーマパークから著作権について厳しく訴えられたが上手く対処したことあるので、TPPを批准しても大丈夫でしよ的なお話ぶりでした。
所謂改革派官僚さんたちは外圧を利用して国内の規制を打破しようという考えが強いようですが、グローバル企業に対しての見方が甘くて心配になりますね。
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Unknown (12434)
2016-03-20 17:14:51
半世紀前のゾンビ事業「大戸川ダム」がアベノミクスで復活!?
http://hbol.jp/87376?display=b

TPPにしろアベノミクスにしろ、本当に問題が多すぎですね。
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絶望の霞が関 ()
2016-03-21 00:18:03
ふしぶじゑ様

 ご無沙汰しております。お元気でご活躍の様子、何よりです。

>上手く対処したことあるので、TPPを批准しても大丈夫でしよ的なお話ぶりでした

 そんなバカな。
 裁判所が先方の手の内にある利益相反裁判の中で、公正な判決がくだされるわけもないのに。
 彼ら、国内の行政訴訟で、市民に訴えられても、裁判所が味方で楽な裁判ばかりして、勝たせてもらっているので感覚マヒしているでしょう。
 かりに勝ったとしても、ISDSなんて、そんなバカげた裁判に血税が使われること自体、とんでもないですね。

12434さま
 大戸川ダム、嘉田知事ががんばって止めてきたのですが、本当に国交省も懲りない人々です。官僚が、たかが県知事ごときに負けたということが、プライドとして許せないようです。「霞が関>地方自治」ということを示したいのでしょう。
 安倍さんは単に国交省の言いなりなだけです。

 
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成る程。 (ふしぶじゑ)
2016-04-06 14:41:18
>彼ら、国内の行政訴訟で、市民に訴えられても、裁判所が味方で楽な裁判ばかりして、勝たせてもらっているので感覚マヒしているでしょう。

成る程ー(笑)。
しかし実際あり得るお話ですね。
長年の困った習慣というか体制です。

TPPがもし批准されたら、外ではへえこら、うちでは威丈高にという役人の体制に拍車がかかりそうで、困ったものです。
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