代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

八ッ場ダム裁判治水意見書

2011年10月04日 | 八ッ場ダム裁判
 この間、八ッ場ダム訴訟の原告側弁護団からの依頼を受け、国土交通省による基本高水計算の虚偽を明らかにする作業に取り組んできました。昨年の意見書で国交省の虚偽が明らかになったのですが、同省は別の虚偽、恣意的操作によって従来の過大な値を維持してきました。こちらがウソを暴いても、向こうはさらに別のウソをつく・・・・というイタチごっこになってきました。本年出した意見書の内容は昨日(2011年10月3日)の東京新聞の「特報面」で取り上げられました。

 詳しくは10月3の東京新聞ならびに下記意見書をご覧ください。私の意見書のみならず、控訴人準備書面と大熊孝氏の意見書もぜひご覧ください。

 控訴人準備書面(8)
 http://www.yamba.sakura.ne.jp/shiryo/tokyo_k/tokyo_k_g_junbi_8.pdf
 大熊孝氏意見書
 http://www.yamba.sakura.ne.jp/shiryo/tokyo_k/tokyo_k_g_iken_ookuma.pdf
 関良基意見書
 http://www.yamba.sakura.ne.jp/shiryo/tokyo_k/tokyo_k_g_iken_seki_110930.pdf

 大熊氏の意見書は、カスリーン台風の際に実際に流れた実績流量は、上流の氾濫量を考慮しても1万7000㎥/秒程度であることを明らかにしたものです。大熊氏の意見書にありますが、国交省は過大な計算値を正当化するため、本来氾濫するはずのない高台まで浸水区域にするという捏造図を作成し、「2万1100」を正当化しようとしました。大熊氏の意見書は、この地図が捏造であることを立証する内容です。
 
 国交省の貯留関数法によるカスリーン台風の計算値(旧モデルで2万2000㎥/秒、新モデルで2万1100㎥/秒)は、実績値1万7000とのあいだに4100から5000もの差があります。計算値と実績値にこのような乖離があることが明らかになったのですから、事実として重んじるべきは実績値であり、計算モデルの方を修正せねばならないのです。

 科学の大原則は、観測・観察された事実関係から出発するということです。モデルは、事実を少ない誤差で説明できる範囲では有用性が認められますが、その計算値が事実から離れて一人歩きしてはなりません。最近、ニュートリノが光速を超えるという実験結果が話題になっています。現段階では、実験の方が誤っている可能性もあるのですが、もしその実験結果が追試験でも繰り返し証明されれば、アインシュタインの一般相対性理論のモデルの方が誤っていることになり、アインシュタイン・モデルは修正されねばならないことになります。モデルに実験結果を上回るような権威が付与されては断じてあってはならないのです。
 
 遺憾ながら国交省は、机上の計算値を実際の実績値に優先させるという、科学的に断じてやってはいけないことをやっています。その過大な計算値を根拠に利権を発生させて、ダム建設を続けているのです。モデルの計算値が、実績値から乖離している場合、モデルの方を現実に合うように修正せねばなりません。

 今回、原告側弁護団の依頼を受け、日本学術会議によって指摘された利根川の現実の流出率にもとづいて国交省の新モデルを改定した上で、再計算を行ってみたところ、国交省の新モデルを前提としてもカスリーン台風の再来計算流量は1万6663㎥/秒となり、1947年のカスリーン台風の際の実績流量である1万7000㎥/秒に近い値が再現されました。
 実際には、新モデルは国交省に都合のよいように恣意的に操作されている疑いが濃厚ですが、その新モデルの前提を受け入れても、そのパラメータの一部を、学識者によって明らかにされた実証的事実に基づく現実的な値に変更して再計算を実施すれば、実績流量に近い値が算出されることが明らかになったのです。国交省新モデルの恣意的操作を改めれば、計算値はさらに下がることになります。実際、1947年のハゲ山に近いような森林状態で実績流量が1万7000なのですから、現在の森林状態であれば実績流量はさらに低いものであることが道理なのです。
 


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5 コメント

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作図法の違い (yamayoshito(関先生))
2011-10-11 06:26:53
谷・窪田論文のグラフでは一次流出率、飽和雨量、fs(fsa)は求められません。fsが0.7であるとは言えません。作図をし直す必要があります。
また私は4中流域の一次流出率、飽和雨量、fsの計算結果は受け入れますが、このパラメータだけで十分で、更に小流域のパラメータを求める必要はないと言っていません。
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yamayoshitoさま ()
2011-10-07 20:14:07
 たぶんこの議論を見ている一般読者にはわけのわからない点が多いと思いますので、解説しながら書きます。

 yamayoshitoさんが言う4流域の資料とは下記サイトの国交省資料の15ページのことです。

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/doboku/takamizu/pdf/haifusiryou03-5.pdf

 この図を見ればわかりますが、国交省は利根川上流を大ざっぱに四分割しています。その結果、違った流出係数を持つさまざまな地質の小流域の「降雨量と流出高」のデータが同じ図に散布されることになっています。異なる地質条件のさまざまなデータが同じ図に散布されており、データの分散が大きくなっています。

 これに対し、私の意見書で引用した谷・窪田論文は、下記資料です。この資料の8ページに小流域ごとの「降雨量ー流出高」の散布図があります。
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/doboku/takamizu/pdf/haifusiryou09-2.pdf

 このように小流域ごとのデータを分けて細かく検討すると、より厳密に流出係数が決定できます。小流域ごとに区切る谷論文の分析の方が正しいです。これを見ると、やはり火山の多い利根川上流は、神流川以外は1.0にはならないことが明瞭に読み取れます。
 複数の地質を含む大流域の散布図をつくると、正しい流出係数は求められなくなります。
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メールdeで議論しましょう (yamayoshito(関先生へ))
2011-10-04 23:37:29
そっそかしくトピ違いにコメントしたので、正しい先に再コメントします。

4中流域のf1、fsa、Rsaの算出の資料をご覧下さい。私はその結果を了としているだけです。他の流域のデータの引用は無意味です。

先ず正しいピーク流量を求めるか、それとも多くのピーク流量から正しい基本高水流量を決定する方法を追求するかは、確かに過程の違いでしょうが、私は後者の仕事が重要だと思っています。

決して関先生を攻撃していません。私も浅川の基本高水流量の過大さを問題にしています。

これ以上の意志表示は細かくなり、一般的でないので、メールでのやり取りに切り替えましょう。
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yamayoshitoさま ()
2011-10-04 17:41:06
>4中流域における一次流出率、飽和雨量については総雨量と直接流出高の関係から求められています。

 総雨量と直接流出高のデータを検討すれば、300㎜程度の雨では最終流出率が0.7を超えることはありません。これはデータを分析した結果明らかなことです。神流川流域以外は1.0になっていません。総雨量と流出高のグラフをよく見てください。ここに1.0を当てはめている国交省の操作の方が恣意的なのです。

 0.7の最終流出率の計算で、既存洪水の再現性も高くなります。これは意見書の続編で記す予定です。

 ところで、今回の国交省の新モデルは、どうやら私たちが使っている貯留関数法とは別のものなのです。資料をお送ります。そこまで彼らのやることは恣意的です。

 飽和雨量を変えても感度が低くなるような通常の貯留関数法とは違う別のモデルを導入し、感度が低くみせかけているのです。この点は現在究明中なので、意見書の続編で書く予定です。本来の貯留関数法で計算すると全く違った計算結果になります。

 国交省が導入した「別の貯留関数法」では、飽和雨量が50mm上がっても2%、75mm上がって3%程度しかピークが下がらないことになっています。ふつうの貯留関数法で計算すれば、もっと感度よく下がります。このような結果にはなりません。

 yamayoshitoさんが独自に感度分析をされれば分かるかと思います。この点でyamayoshitoさんが国交省の説明を信じて私を攻撃されていることは大変に遺憾に思います。
 この問題、資料をお送りしますので、ご検討ください。
 

>利根川の治水安全度1/200における基本高水流量は、カスリーン台風の推定ピーク流量によって決定されるものでなく、雨量確率1/200の計画雨量まで引き伸ばした対象降雨からピーク流量から決定されるものであり 

 引き伸ばしをした計算ピーク流量群を算出する元の計算モデルが間違っているのですから、それを問題にせざるを得ないのです。ピーク流量群の確率論的操作の問題点を論じる以前の問題として、まずは計算流量の過大性が改められなければなりません。

 もちろん得られたピーク流量群から治水安全度1/200の基本高水流量を得る確率論的な操作が正しいのか否かという問題は、正しい計算ピーク流量群が求められた後に、別途やっていただければよいのです。その私はその問題には踏み込めません。
  
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fsaの決定法について (yamayoshito)
2011-10-04 13:23:48
日本学術会議の河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会の貯留関数法の新モデルで吾妻流域を除く3中流域でfsa=0.7とする試算結果を拝見しました。
4中流域における一次流出率、飽和雨量については総雨量と直接流出高の関係から求められています。その際に吾妻流域を除く3中流域においてfsa=1として計算しています(第3回分科会 資料5 「利根川の基準点八斗島上流における新たな流出モデルの構築(案)について」14頁、第6回分科会 資料6 「利根川の基準点八斗島上流における新たな流出モデルの構築(案)について」5頁、第44回社審河川分科会 資料4-2 「新たな流出計算モデルを用いた流出計算の実施」5頁)。 
したがって3中流域で谷・窪田論文を引用してfsa=0.7を採用するのはいささか恣意的であり、0.7を採用するなら飽和雨量も変更する必要があります。
貯留関数法はパラメータをいじることで流量はいくらでも変えられるとする主張は、この場合には反面教師になっています。K、P、TL、f1、fsa、Rsaなどはセットになっていて、単純にfsaやK、Pのみを変えて流出計算することは、感度分析の場合は別として避けなければなりません。
利根川の治水安全度1/200における基本高水流量は、カスリーン台風の推定ピーク流量によって決定されるものでなく、雨量確率1/200の計画雨量まで引き伸ばした対象降雨からピーク流量から決定されるものであり、その際に「改訂新版 建設省河川砂防技術基準(案)同解説 調査編」の確率年の計算式を適用すべきであるとの基礎理論をご理解下さい。パラメータなどの細かい議論はファインチュニーングの段階になると思います。
9月28日の公開説明会で提案しましたが、総合確率法は一定雨量におけるピーク流量群に統計的処理を加えるべきです。現行の一定流量における雨量群に統計的処理を加える方法は、計算過程で流量確率は雨量確率に同じであるとの前提が必要です。計算結果は流量についての周辺確率になり、期待値ですから流量確率に直すには1/2をかける必要があります。または平均値のピーク流量の超過確率は0.5ですから、確率年の計算式を使っても、結果は同じになります。
今回の分科会の回答が国交省の今までの方針の追認になっていて残念であることは同感です。
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