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メス・デッキとソフトクリームマシン〜駆逐艦ジョセフ・P・ケネディJr.

2017-02-15 | 軍艦

駆逐艦ジョーイP、ことジョセフ・P・ケネディJr.続きです。

甲板階から上部構造物に入っていくと、すぐにポストオフィスがあります。
ドアがそのまま窓口となっていて、係はドアを開けずに対応できる仕組み。
ドアの下から手紙も投函していたのでしょう。

業務時間は月金の午前と午後3時間ずつ。
お金の取り扱いは水曜日とペイデイだけとなっています。

オフィス内部。
タイプライターと郵便物を入れる袋などが所狭しと置いてあって、
おそらくは一人か、せいぜい二人しか入れなさそうです。 

ヘアカットが50セントでできるのはわかった(笑)
安かろう悪かろうってやつですか。

 

英語で「キャピタルシップ」というところの主力艦、例えば
「マサチューセッツ」などでは、何千人も乗員がいるので、
全く顔も見たことがないという人がいて普通です。

しかし、駆逐艦の乗組員は潜水艦ほどではないものの、
その規模からいって「ファミリー」でもありました。
「クロッシング・ライン」、赤道祭りのような海軍の儀式は、
その交遊をを築く上で重要な役割を果たします。

この儀式では、赤道を最初に通過した士官や下士官兵は
女装したり変なものに扮し、ばかげた騒動に参加するよう強制されます。

これらの無害な通過儀礼を経た時、彼らは "Shellback"(赤道を越えた人)
に昇進し、「シニアシェルバック」である "キングネプチューン"(誰だよ)
から証明書を受け取ったりするのだそうです。

 

さて、そんな一体感は、小さな駆逐艦にひしめき合う
200名の乗員が「同じ釜の飯」を食べることによって
より強いものになっていくのです。

・・・と繋がったところで、今回はメス(食堂)のあるメス・デッキ。 

メスmessというのは普通に「散らかっている」「乱雑である」
という言葉ですが、どういうわけか軍隊の食堂という意味でもあります。

messがどう見てもネガティブなワードであるにもかかわらず、
「メス・ジャケット」 は普通に略礼服のことでもありますし、

どうもこの語源がよくわかりません。

しかし悩んでいても埒があかないので進みます。 

まずはメインギャレー(キッチン)にやってきました。
ジョーイPことジョセフ・P・ケネディ・Jr.のメインギャラリーは
ベトナム戦争の時代から現在まで稼働しています。

今でもリユニオンや集まりがあるとキッチンが活躍するからで、
鍋も什器も、大型の生ゴミ入れも現役のかほりが・・・。

ここにあるのは野菜用意機械(どういうものかまでは分からず)、
ミートスライサー、大型のミキサー、三台のスチームケトル、
そしてオーブンとグリドルなどの設備です。 

肉叩き、チェリージャム、そして一度に4枚焼けるトースター。
手前の本は「ベーカーズ・ハンドブック」。
コーヒーカップは先日ご紹介した映画「勝利への潜行」で見た
同じ錨のマークと金線の入ったものです。

ジョーイPの乗員は275人から345人(戦時)と、
マサチューセッツの1800名から比べると微々たる数ですが、それでも
このそう広くない艦内で一度に食事をとることは不可能だったでしょう。 

ここはまず手前で食器を取り、黄色い線に従って1列に並んで
ホットプレートから食べ物を取っていくコーナー。

食べ物をとるための列はラッタルのところからスチームライン
(どこにあるのか知りませんが)まで伸びた、と説明にあります。

下士官兵用の例の食器兼用シルバートレイが立てて並べてあります。
コーヒーカップ、 カトラリーも乗せてしまえる便利もの。
戦後の自衛隊はアメリカ海軍のこのシステムを輸入したんですね。

塩胡椒、紙ナプキンに砂糖・・・。
ちゃんとロックしてあるのは笑いどころ? 

 

手前にトレイを乗せて食べ物を乗せていくシステム。
キッチンなので消火ホースもちゃんと近くに備えてあります。

 トレイを持ってきてここでいただきます。
テーブルに長椅子が最初から作り付けになっています。
休憩時間にもここで過ごすらしく、テーブルにはバックギャモンなど
ゲーム盤がプリントされています。

下には兵の居住区があるはずですが、立ち入り禁止でした。

 

そして食べ終わったらここで食器を洗います。

キッチンは1日3回の食事を2〜300人のために作るわけですから、
朝ごはんが終わった途端片付けて昼ごはんの用意、昼が終わった途端・・、
と、一日寸時も止まることなく稼働し続けていました。

説明はありませんでしたが、給水器だと思われます。

水は機関室にあったこのエバポレーターから作られます。
一日に4,000ガロン(1,500リットル)のフレッシュな水が作られます。

潜水艦でも「新鮮な空気はまずエンジンの稼働のために必要であり、
人間が呼吸に必要なのは二の次」と言われているように、
海上における水のファーストプライオリティは、なんとボイラーでした。

その次に、人間の生活用水、料理に使う水です。

このエバポレーターはメインではなく、前部エンジン室にあるものは
一日に12,000ガロン、4,500リットルの水を作っていました。

ここでエバポレーターと蒸気発生プラントについて。
艦の飲み水は海水を蒸留して真水にすることで得られます。

という、小学生の理科の教科書のような絵が描かれていてわろた。


 

乗員のブルースくんは、この装置をワッチする係です。
艦船のワッチはどれも重要な役目ですが、特に水を作り出す機会に異常があれば
先ほども言ったように人間よりもボイラーが動かなくなってしまうので、
責任重大です。 

メスにはこんな本棚もありました。
こちらはほぼ空っぽですが・・・・、

こちらには当時から乗員が読んでいたのではないかと思われる蔵書が。

エンサイクロペディアに通信関係の教科書のようなもの、
エドウィン・レイトン中将という人が書いた「そして私はそこにいた」。

そこってどこ?
と思って調べて見たら、パールハーバーとミッドウェーのようです。
そりゃまあそこにいたなら戦後本を書きたくもなろう。 

あとは「第二次世界大戦で失われた軍艦」「海戦」
1969年の潮の満ち欠けなんて本もあります。

 

赤くペイントされているので消火栓だと思われます。

どんな時でも熱いコーヒーが飲みたいアメリカ人のために、
壁に作り付けられた「コーヒー・メス」。

コンセントがついて保温が可能です。
棚の右側には砂糖とカップが置いてあります。
アメリカ人はミルクは入れない派?

赤い縁の大きなボードは「エマージェンシー・ステータス・ボード」。
メスの間取り図が描かれていて、どうも避難用だと思いますが、
こんなものを見て「えーと」とか探しているより、とっとと
甲板に出るのがいいと思います。

メスに飾ってあったのは USS メルヴィンDD-680の模型。
ギアリング級の前級であるフレッチャー級駆逐艦ですが、
なぜここにこれがあるのかはわかりません。

「メルヴィン」はサイパン、テニアン、ウルシー、スリガオ海峡で
日本軍と戦った駆逐艦。
スリガオでは戦艦「扶桑」を沈めています。

戦後すぐに引退して1970年代にスクラップにされているので、
もしかしたら乗員の誰かが関係者だったとかかもしれません。

またしてもキッチン付近で発見した謎のシート。
各所の名称、ナンバリングされた数字、ロケーション。
いずれにせよ、軍艦では「あそこ」とか「どこ」という呼び方で
場所を指定しないちうことなんだと思います。

ところで、これ何かしら。

「SANI SERVE」で検索してみると、どうやらこれ、
大型のソフトクリームマシンであるらしいことが判明しました!

アメリカの軍艦の「神棚」はここにも健在です。
サニサーブという会社は1931年から「フローズン・カスタード・マシン」
を作っていた会社だそうですから、当然戦時中も同社による
アイスクリームマシンは軍艦に提供されていたのでしょうけれど、
 第二次世界大戦中の駆逐艦は、全部が全部アイスクリームマシンを
搭載していたわけではなかったようです。

そこで、例えば海に落ちたパイロットを助けたら、
そのパイロットの体重のアイスクリームが戦艦や空母から
ご褒美にもらえた、というようなことも起こりました。
 

これ、例えば70キロのパイロットだったなら、戦時で350人乗っている駆逐艦に
一人当たり200グラムのアイスクリームが与えられたってことです。
アメリカ人はアイスクリームを子供でも200グラムくらいペロリと食べますから
これくらいは悪くないディールです。

まあしかし、戦後の駆逐艦であるジョーイPには、ごく普通に
アイスクリームマシンが装備されてるってことですね。

自衛艦ではアイスクリーム購入するので、「アイじゃん」
などというシステムが生まれるわけですが、アメリカではもしかしたら
水や空気のようにアイスクリームはタダが当たり前・・だったりして。

 Messdecks on the USS Joseph P. Kennedy Jr DD850
 


続く。 

 

 

 

 

 

 

 




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3 Comments

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謎の紙 (Unknown)
2017-02-15 12:04:01
食堂の壁に貼ってある謎の紙ですが、名称は忘れてしまいましたが、その区画にあるハッチ等の開口部のリストです。護衛艦にも同じもの(当然、日本語)があります。

戦闘時や火災等の緊急時には、まず初動対応として、その場にいる乗員が閉鎖するのですが、戦闘(総員)配置になれば、その区画を持ち場とする人が閉鎖状況を確認します。

閉めるものもあれば、絶対に閉めてはならないものもあります。Fire Mainとあるのは、自衛隊では消防主管と呼ばれ、常時10kg/cm2の圧力がかけられた海水が通っていて、火災時に消火栓として使います。当然、絶対に閉めてはなりません。

10kg/cm2というのはかなりな力で、慣れない人が消火ホースを持って、いきなり栓を開くとのけぞって後ろに倒れるくらいで、ホースが自ら意志を持って暴れる感じです。

赤いボンベは泡沫消火器です。

コーヒーメーカーは面白いですね。ワッチの交代15分前には次直者の分を作っておけと書いてあります。

造水装置(Evaporator)で作った水は、ちょうど小学校の理科の実験の蒸留水そのもので無味無臭。まずいので、ボイラーや炊事には使いますが、飲用はしません。停泊中に積んだ水道水を使います。

遠洋航海等で衛生状態のよくないところに行った時には、水道水が飲み水としては使えない場合があり、そういう時には泣く泣くまずい蒸留水を飲みます。
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不味いんですか? (筆不精三等兵)
2017-02-15 18:17:24
蒸留水って。
混じりけなしの「純水」って感じで、旨そうだと思ってたんですが。

10気圧の放水はきついですね。
消化の現場や出初め式で筒先に入ったことがありますが、馴れてないと4、5気圧でも一人では抑えそこねます。
消防団では必ず2マンセルで筒先員は放水の切り換えと筒向き、筒先補助はホースの抑制と筒先員の体制補助を担当します。
返信する
筆不精様 (Unknown)
2017-02-16 11:59:02
東南アジア某国で水道水の水質が悪かった時にすでに航海中に前の寄港地で積んだ飲料水が底をついていて、造水装置の水を飲んだことがありますが、はっきり言ってまずかったです。小学校の理科の実験で作った蒸留水と同じ感じでした。

自衛隊では3人一組でホースを抱えています。先頭が放水の切り替えと筒向きでその後に二人付きます。消防が主任務ではないので、たまにしか訓練しませんが、必ず圧力を体験させます。結構きついです(汗)
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