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K-9とMWD 軍用犬の歴史〜フライング・レザーネック航空博物館

2021-11-14 | 博物館・資料館・テーマパーク

「海兵隊の軍用使役犬が戦闘に寄与する能力は、
人や機械では再現できるものではない。
そのパフォーマンスの費用対効果は
我々の所有するどんな装備よりもある意味優れている。

この信じられないほど貴重な資源にもっと投資しなければ、
我々の軍隊は立ち行かなくなるだろう」

これは、デビッド・H・ペトラエウス海兵隊将軍の言葉です。

フライング・レザーネック博物館は、かつての展示を
かなりボリュームダウンし、最小限に絞ったらしい、
と帝国海軍搭乗員コーナーの説明の日に述べましたが、
全体を見て思うに、それは新たに本日紹介する
海兵隊の軍用犬コーナーを拡張するためだと気づきました。



決して広くない室内展示スペースのほとんどが
軍用犬の紹介のためのパネルに割かれていたのです。

どういう事情で軍用犬をクローズアップすることになったのか、
今のところ説明がないのでわかりませんが、
今日はそのミリタリー・ワーキング・ドッグ、MWDを紹介します。

■軍用犬の歴史



軍用犬は、エジプト、ギリシャ、ペルシャ、サルマティア、アラン、
スラブ、ブリトン、ローマで使用されました。
記録に残る限り、戦闘で軍用犬を最初に使用したのは、
紀元前600年頃のキンメリアに対するリディアだったと言われています。

🐕紀元前7世紀半ば:エフェソがマグネシアと行った戦争では、
最初に犬を放ち、続いて槍、そして騎兵の突撃という順序で攻撃した。
犬と一緒に埋葬された騎兵の墓が遺されている。

🐕古代末期、フン族のアッティラは巨大なモロッサー犬
(ブルドッグやマスチーフ、パグなど)を使用した。

🐕紀元前525年:ペルシウムの戦いで、カンビュセス2世は
動物に対するエジプトの宗教的敬意を利用して、
最前線に犬や猫など動物を配備し、攻撃できないようにした。

🐕紀元前490年:マラトンの戦いで、犬が重装歩兵隊に配備され
ペルシャと戦った様子が、壁画に遺されている。

🐕紀元前231年:ローマ軍はサルデーニャの内陸部で
「イタリアからの犬」を使って洞窟から先住民を追い出した。

🐕ヨーロッパの王族の間では繁殖用の軍用犬を贈りあう風習があった。

🐕スペイン軍は、訓練したマスティフやその他大型犬を使い
ネイティブアメリカンに腹裂きの刑などを行って虐殺した。

🐕犬をメッセンジャーに使ったのは七年戦争の時のフリードリッヒ大王で、
ナポレオンもまた、戦争に犬を使用していたと言われる。

🐕フランスの海軍施設では1770年まで警備犬が使用されていた。

🐕1914〜1918年:第一次世界大戦で犬は主に通信用として使われ、
約100万匹が戦死したとされる。

スタビー軍曹
アメリカン・ピット・ブル・テリアのミックスである
スタビー軍曹(Sgt Stubby)は、

第一位世界大戦中最も有名な犬であり、勲章も数多く授与されている。

SGT STUBBY Official US Teaser Trailer 02 2018

アメリカでの軍事目的での犬の最初の公式使用は、セミノール戦争のときです。
南北戦争でアメリカン・ピット・ブル・テリアは、通信任務に使われ、
第一次世界大戦では兵隊募集のポスターにマスコットとして使用されました。


第一次大戦の頃のピットブルをアメリカに準えた謎のポスター。


左から、
スウェーデンブルドッグ、ジャーマンダックスフント、
アメリカンブルテリア、フレンチブルドッグ、ロシアンウルフハウンド。
最後はつまりボルゾイということですね。

ピットブルテリア君は、
「僕はニュートラル。でも、彼らなんか怖くないぞ!」
と言っています。
第一次世界大戦の時の最初の頃のアメリカの立場を表明しているんですかね。

🐕1941–1945:ソ連は犬に爆薬をつけてドイツの戦車に放った。

🐕1943年から1945年:アメリカ海兵隊は、市民から寄贈された犬を
太平洋における日本軍からの島嶼奪回に投入した。
この時期、ドーベルマンがUSMCの公式犬と決められた。

基本的にすべての品種の犬が「太平洋の軍犬」として投入された。
戦争から戻った549匹の犬のうち、民間の生活に戻れなかったのは4匹。
その他はハンドラーが家に連れて帰っている。


Chips the dog
ジャーマンシェパードのチップス
は、当時最も表彰を受けた軍犬です。
戦地でアイゼンハワー将軍の謁見を受けたこともありました。

しかし、もともと彼がなぜ軍隊入りしたかというと、
ゴミ収集人にかみついたので、飼い主が持て余していたところ、
ちょうど軍が犬を募集していたので送られてしまった
のだとか。

🐕1966〜1973年:ベトナム戦争には約5,000匹の軍犬が参加した。
約10,000人の軍人がハンドラーに割り当てられ、
K9ユニットは10,000人以上の人命を救ったと推定される。

 
一方、232匹の軍用犬と295名のハンドラーが戦死した。
約200匹のベトナム軍用犬が戦争を生き延び、
国外のアメリカ軍基地に配属されたと推定されている。
残りの犬は安楽死させられるか、現地に置き去りにされた。

🐕
2011年:ネイビーシールズがカイロという名前のベルギーシェパードを
オサマ・ビン・ラディンの殺害チームに参加させていた

このとき参加したネイビーシールズのメンバーは、
なぜか全員がその直後謎の死を遂げましたが、
カイロ犬がどうなったかまではわかっていないようです。

犬は都合の悪いことを喋ったりしないのでセーフ・・おっと。

■K-9

ハリソン・フォードの潜水艦映画にこんなのがありましたね。
・・・それは19や!というツッコミを待つまでもありません。

K-9。
英語に接しているとときどきこの言葉を耳にします。

K-9、それは「dog」と同義です。

特に法執行機関や軍用犬などの作業犬を指すことが多く、
特に軍は略称や記号による言い換えを好むのでよく使われます。

数詞(Numeronyms)とは、数字を基にした言葉で、
数字が特定の音を言い表しているものですが、
Canine=ケイナインは、たまたま数詞によりできており、
犬やキツネ、オオカミなどのイヌ科を指す言葉です。
「ケイナイン」を「K9」と表記する数詞はそのまま「犬」を表します。

たとえば忙しい動物病院やアニマルシェルターでは、
手術の手配や施設内の動物を把握するとき、
「犬」をK9と表記することがあります。
dogと一字しか違いませんが、そう書く方が「専門ぽい」からかな。


警察犬の場合は、パトカーの車内に犬がいることを知らせる表示や、
警察犬が着用するユニフォームなどに「K9」の文字が使われます。

K9ユニットは、日々の巡回から麻薬輸送の痕跡の発見まで、
あらゆる活動において日々活躍しています。
警察犬とハンドラーは、それぞれの仕事に適した特別な訓練を受けており、
優秀な警察犬は非常に貴重な存在として尊敬されます。

余談ですが、アメリカでは警察犬も軍用犬と同じく階級がつけられます。
昇進とかはなく、自動的にサージャント(巡査部長)になるのですが、
この理由は、万が一犬が任務上反撃者に殺傷された場合、
ただの犬では法的に物損事故にしか問えないので、
階級をあたえているのだとか。(MK情報なのでソースなし)

たとえばダックスという名前だと、K-9 Sgt. Daxという具合です。

ちなみに日本はアジアでは数少ない警察犬を採用している国ですが、
犬は基本的に「装備」扱いで階級は与えられません。

■逃走した警察犬「クレバ号」とその後

ところで超余談ですが、日本の警察犬「クレバ号」の話、ご存知ですか?

2020年(令和2年)10月24日に、行方不明者の捜索にあたっていた
兵庫県警察の警察犬・クレバ号が突然走り出し、その拍子に
鑑識課員の手から
リードが離れて逃走してしまった。

県警は鑑識課員ら約40人態勢でヘリを投入し連日捜索を続け、
3日目の午前に、逃げ出した場所から南西へ約100メートル離れた山頂付近で、
木に
リードが絡まって動けなくなっていたクレバ号を鑑識課員が見つけた。



その後クレバ号は、多くの市民の請願もあって再訓練後、現場復帰し、
復帰後4日目に行方不明の女性の捜索に出動して見事探し出し、
手柄を上げて表彰されたばかりか、今年の6月7日、
やはり行方不明の高齢男性を40分で見つけ出しました。

わたしはこういう話にめっぽう弱いもので、
山中で動けなくなっていたクレバ号の様子を想像したり、
その後の汚名返上の大活躍のニュースを見聞きしただけで
不覚にも目頭が熱くなってしまいます。



■ 海兵隊のMWD軍用犬


海兵隊ではK-9の名称は使わず、一般的にMWDと称しているようです。
(もちろんKー9も使われます)

アメリカ国内と世界の全てのUSMC基地には、
2010年に更新された最先端の犬舎と訓練施設をホストする
海兵隊ミラマー航空基地が編纂した軍用作業犬プログラムがあります。

なるほど、これで、ここに軍用犬のコーナーが
大々的におかれている訳がわかりました。

海兵隊のドッグ・ハンドラーの職業コードはMOS5812
とくにミラマー基地のハンドラーはその中でもエリートだそうです。

海兵隊のハンドラー職種募集のページは、こんな言葉から始まります。

「暑い砂漠の道を進む隊員の目の前で、爆発物を発見した自分のパートナー。
親友、忠実な仲間の姿に、あなたは誇りを感じます。

自分とパートナーが一体となって訓練を共にした結果、
無数の隊員の命を救い、その喜びを分かち合うことができるのです。

これが、海兵隊の軍用作業犬ハンドラー(MWD)通称MOS 5812の生活です。

このMOSは、模範的なリーダーシップを発揮し、
通常の海兵隊に課せられる以上の任務をこなし、厳しい選考を経て
軍用K9との共同作業に選ばれた海兵隊員にのみ与えられる称号です」


MOS 5812は、もともと5811(憲兵)だった海兵隊員が
副次的に応募して取得することのできる職種MOSです。

K9ハンドラーになるために最も模範的な海兵隊員だけが、
非常に競争の激しい選考プロセスを経て選ばれる職種で、
それゆえ彼らは海兵隊の「エリート」とされているわけです。

それでは次回は、FLAの展示をもとに、
海兵隊のK-9とハンドラーについてお話ししましょう。

続く。