海軍で使われていた陶磁製の食器です。
当ブログでもお伝えしましたが、横須賀の軍港めぐりツァーをしたときに、
お土産ショップでこれとそっくりの丼を見つけ、購入しました。
復刻版で、当時と同じ深川製磁が造っています。
また、兵員が使用したと思われるホーローの食器は
このようなもの。
このブルー、とてもいいですね。
桜に錨のマークが真ん中に入っていないあたりも味わいがあってよろしい。
さて、明治のころ、戦艦「三笠」の艦内に佐世保からの特派員が
その食についてレポートするため乗り込んでこんな記事を書きました。
この文章を現代語に訳してみます。
美文調なので少し苦労しました。
軍艦内の食事(佐世保特派員)
艦内ではどんな食事が一般的に取られているんだろう?
それを知るためにある軍艦を訪ねてみた。
案内されて士官室に入り、軍医長と大尉に来意を告げると、
ちょうどそのとき時間は三時。
夕食の三十分前だ。
ちょうど兵員の夕食を見ることができた。
厨房が献立を決め、軍医長が点検したこの日の夕食は
白米と割麦を混ぜ合わせたご飯に一皿の煮込みと
大根漬け二切れを添えたものだった。
煮込みは生イワシとレンコンである。
聴くところによると、陸軍の食事よりずっといいらしい。
「いつもこんないいものを出しているんですか」と聞くと、
軍医長は
「無論そうです。
海上権を掌握している我が海軍兵員に、
規定のものより落ちるような食事など出したことはありませんよ」
と笑って答えられた。
そのご自慢の献立とは?
十月一日
昼食 飯(乾パン、砂糖 黍粉)
煮込み(牛肉、馬鈴薯、タマネギ)
汁粉(小豆、黍粉《トウモロコシ粉》砂糖△)
夜食 飯(白米 割麦 焙麦)
煮込み(牛肉 サトイモ 菜漬け△)
朝食 飯(白米 割麦 茶)
煮込み(味噌 干し魚△ ナス大根漬け)
十月二日(一日と比較してください)
昼食 汁粉をのぞく
夜食 牛肉の代わりにシイラ
菜漬けの代わりにナス漬け
朝食 大根漬けの代わりに菜漬け
この表で△の印の在るのは嗜好品に属する。
他は官給品。
嗜好品とは兵員各自が好みにより官給以外に購入するものなのだが、
実は官給品と同じなのだ。
これはどういうことかというと、艦艇では毎日兵員の一割に対し、
一人いくらいくら、というような俸給以外の手当てがあり、
これで嗜好品を購入することになっている。
しかし、名義は自費でも実質官給の一部みたいなものである。
それで毎日各自の好きなものを食べられるのだから、便利なものだ。
たとえば十月一日。
献立表にもあるように、この日、黍粉(ひきこ)と小豆の官給はあったが、
砂糖が無かったので嗜好品として特別に買い足したのだ。
さて、食事の時間は夏と冬では少し変わってくる。
冬季は朝食午前7時、昼食11時45分、夕食午後3時45分となっているが、
この日兵員が食卓に就くまでを実況してみると、
まず、主計長の指揮によって厨房はこのような規定によって献立表を作る。
一、パン185g以上 一、白米375g以上 一、魚肉150g以上
一、貯蔵獣肉150g以上 一、割黍150g以上 一、乾物75g以上
一、茶2g以上 一、焙黍3.7g以上 一、砂糖22g以上 一、その他
(註:数字が半端なのは匁から換算したからです)
献立表ができたら、艦長、主計長、軍医長で材料と献立表を詳しくチェック。
厨房は料理にかかり、まずは一人分、軍医長のために調理する。
軍医長はこれをまず目でチェック。
次に箸を取って味のチェックをするのである。
この日軍医長が鰯の肉と御飯を味わって「うまいうまい、上出来上出来」と褒め称え、
「検食の手続き、終わり!」と告げると、人数分の食事が食卓に並べられ、
さらにそれを副長、軍医長、主計長が巡検して回る。
そこでラッパの号令があり、兵員が食卓につくのだ。
こんな風に軍艦内の食事は丁寧な順序を経て、規律厳正のもとに行われるが、
なんだってこんなに夕食が早いのかというと、
停泊中に半舷員が夕食後に上陸するのでその便宜を図ってのことだと知った。
軍医長の話によると、食事量において十分考慮したつもりでも、
心身健康で血気盛んな若猛者ともなるとたちまちお腹が空いてしまう。
これを補うために小休憩のときには艦内の酒保が大繁盛となるのだ。
もっとも、夜間の仕事のためには夜食も勿論用意される。
とにかく、何百人もの健児にとって、艦内における唯一無二の快楽は
喰うことのみ!(笑)
こういう兵員たちの無邪気な様子は実に可愛い限りである。