詠里庵ぶろぐ

詠里庵

チャールズ・カオ

2018-09-24 11:12:04 | サイエンス
が昨日亡くなったというニュースがありました。光ファイバーの提唱者ということで2009年ノーベル物理学賞を受賞した、香港・英国・米国籍を持つ工学者。享年84才。

2009年よりずっと以前に、この方の講演を聴いたことがあります。もちろん光ファイバーの話でした。柔和な笑顔と語り口を記憶しています。日本では「西澤潤一先生の発想の方が早かった」という話もありましたので、やや複雑な思いでカオ氏の講演を聴きました。

英語のWikipediaには西澤潤一について「He patented the graded-index optical fiber in 1964.」とありますが、実際はpatented(特許を取得した)でなく「1964年に特許を申請した」です。そしてよく知られているように、その後特許庁(日本の)との熾烈なやりとりの結果、特許にはなりませんでした。ちなみにこの「graded-index optical fiber」というのは、ファイバー断面の中心部の屈折率を高くし、周辺部に向かって屈折率が下がって行くようにした光ファイバーです。

一方、カオの論文(ホッカムと連名の1966年の論文)のアブストラクトを訳すと
「誘電体ファイバーは、それをとりかこむ周辺より高い屈折率を有する場合、光を伝搬させる誘電体導波路の一形態になり得る。ここでは特に断面が円形のものを論ずる。通信を考えた場合、どういう伝搬形態を選択すべきかは損失特性と情報容量を考慮して決める必要がある。誘電損失、曲げ損失、放射損失について議論し、モードの安定性、分散およびパワーハンドリングを情報容量の観点から検討した。物理的実現についても議論する。光とマイクロ波波双方での実験研究も含む。」
となります。この発案を受けて、ほどなくして米コーニング社が通信用石英光ファイバー実用化しました。

光ファイバーに関するカオと西澤先生の話は、先進的アイデアを日本の特許庁が理解できなかったという文脈でよく引用されますが、論文化の努力はどうなったかとか、なぜ日本では実用化されずコーニング社が直ちに採り入れたかなど、いろいろ大事な背景がありそうです。よく聞くたぐいの話なので、同じことが繰り返されないよう、似た事案も含め科学技術史家によるきちんとしたレビューを期待したいところです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 窮理第10号が | トップ | 朝っぱらからスーパーに行って »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サイエンス」カテゴリの最新記事