イヤな上司

2001年09月18日 | 会社・仕事関係

以前の会社にいたとき、T部長という上司がいた。
私がいたのは資材課という部署で、
製品を造るための部品を調達するところだった。
その頃、私の会社は
ハンドラーという自動機を製造していた。
LSIやICなどの半導体を検査機まで搬送し、
検査機で判別されたものを、
良品と不良品に分けてトレイやチューブに
収納する機械です。
3千万円ぐらいのもので、
インテルに150台ほど納めた。
今から10年ぐらい前のことで、
あのときが華だったな。

T部長は、上に対して口がうまく、
下には、なんの心配りもなかった。
部品を購入する業者も、それまでの付き合いというより、
自分を立ててくれる会社を引き立てた。
だからそれまで、
私が営業マンときちんと取引していたのに、
突然資材課に来たT部長のせいで、
業者を変えさせられたということが何社かあった。
電磁弁やシリンダー、センサーや温調器など
納期のかかるものがある。
それを私と営業マンの信頼関係で、
口約束で在庫して置いてもらうものがある。
そんなこと分からずに、T部長が勝手に変えてしまう。
「○○はおれが昔世話した会社だから、価格も安い」
といって変えてしまう。
価格が安いといいながら、
それまで付き合ってた会社の仕入れ値をみな教え、
それより下げろというのだから、
安くなるに決まっている。
どんな会社でも、新しく入り込むためには
思い切ったプライスを出すんです。
それでT部長は、社長などに、
「私が10%コストダウンをしました」
なんていっている。
それからの私は大変です。
それまで納期のかかる部品を業者に持っていてもらったのに、
新しく取引した会社にはない。
T部長は「なんで入らないんだ」と怒鳴る。
製品の納期は決まっているから、
それらの部品が入らないと、まにあわない。
製造部に対して、顔が立たない。
私は、むかしの会社の営業マンに電話をし、
わけを話しそれだけ入れてもらう。

T部長は、頭痛持ちでいつもしかめっ面をして、
煙草を吸っていた。
(あの頃は職場でも煙草が吸えた。懐かしい)
部下と会話するということが苦手で、
仕事以外で話すことといったら、
自分の“優秀”な娘のことだけだった。
私の息子と同じ歳なので、
私だって、“賢い”息子たちのこと話したいのに、
いつも娘のことを話して、
私の息子の話は聞いてくれない。
なにしろすべてにおいて自分勝手だった。

私はそんなT部長を呪っていた。
(交通事故に遭って死んでしまえ)
(重い病気にかかって会社にこられなくなれ)
などどいつもこころで念じていた。
どこかシャレのつもりで願っていた。

ところが9年前のある夏、
それが叶ってしまった。
T部長が熊本事業所に出張に行って帰ってきてから、
病院に入院した。
風邪のウィルスが脊髄を伝わり、脳に侵入してしまった。
資材部の同僚と見舞いに行ったときは、廃人のようでした。
かろうじて私のことは判別できたが、
他の者のことは分からなかった。
もうこの人は終わりだ、と思った。
こんな状態で生きていても、
家族が困るだけだ、と考えてしまった。
私は、さすがに気が咎めた。
私があんなふうに念じていたからか、と思ってしまった。

それからの私は大変でした。
課長だった私に、部長の仕事が全部きたのです。
私はその春買ったノートパソコンを会社に持っていき、
部長が手で計算していた業者別集計や、
製品別コストの集計をやった。
上に報告する文書もパソコンで書いた。
あのときはつくづくパソコンを買ってよかった、と思った。
半年ほどしてT部長の病気は、奇跡的に恢復した。
会社にも出てこられるようになった。
面白いことに病気後のT部長は、
“いい人”になっていた。
人当たりのいい、部下にも気配りのある人になっていた。
そしてなんと、そのT部長が、
パソコンをバカにしていた彼が、パソコンを買った。
私としては、よくあんな仕事を
手計算でやっていたな、という思いだった。
それから部長は、
私が数式を入れたファイルを使って、仕事をしていた。

今日会社から帰ってきて、女房とこんな会話をした。
「今の職場にイヤな奴がいるんだよ。
 なんかいつもおれに話すとき、バカにしたように話すんだ」
「むかしのT部長のときのように
 『病気になれ』って念じてればァ。
 でも、ひさしくん甘いからダメだね。
 T部長のときも、あんなに憎んでいたのに、
 いざ、病気になったら、
 可哀想だ、なんてやさしくなっちゃうんだもの。
 だからひさしくんはダメなのよ。
 私だったら、ゼッタイそんなふうには思わない。
 病気になってからだって、死んじまえー、って祈るよ」

女というものは怖いですね。
いや、うちの女房だけか。

 

コメント
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