12年かけて1本の映画を作った(『6才のボクが大人になるまで』)リチャード・リンクレイター監督が、それ以上の歳月(18年)をかけて取り組んだ3部作の完結編。いや、そうではない。まだこれは進化形かもしれない。
第1作の『ビフォア・サンライズ (恋人までの距離)』(95)で、ウィーンで出会った2人が、『ビフォア・サンセット』(04)ではパリで再会する。それからさらに歳月を積み重ね、とうとう中年の域 . . . 本文を読む
これを見なければ、と思った。この秋から冬にかけて彼の2本の映画を続けて見た。まずは『サボタージュ』だ。がっかりした。久々のシュワルツェネッガー渾身の一作と期待しただけに、肩すかしを食らった気分だった。なぜ、ダメだったのか、考えた。中途半端な商業映画になったのが一番の問題だろう。それはシュワルツェネッガーが悪いのか? スターを主役に据えた映画の限界なのか。
だが、そんな考えは次の映画で吹っ飛んだ . . . 本文を読む
この6つの作品からなる短編集の描く「もしも」は、今の僕には重くて痛い。人生の半分以上を過ぎて、なんとなくもう先が見えたような気になっていたけど、本当はそうじゃない。いつ何が起こるかなんてわからない。母親のけがから介護問題に至る一連の流れの中で、受けたショックが一段落ついたところに、さらなる問題が浮上する。人生なんてそんなものだ。ただ言えることは、自分に正直になり、誠実に生きるしかない、ということ . . . 本文を読む
石井裕也監督がこれだけの大作を任されて、引き受けた。もう後戻りはできない。もちろん、失敗は許されない。昨年の映画賞を総なめした『舟を編む』の後、今年は家族の問題を描く『ぼくたちの家族』を撮った。どちらも、小さな話だった。だが、それまでの彼の映画から大きく踏み出す作品だった。もちろん前者は誰もが納得の傑作だ。だが、後者はとても癖のある作品で観客を選ぶ。だが、彼はそこで観客におもねらない。同じように自 . . . 本文を読む
老夫婦の話だ。震災とその後に起きた原発事故によってすべてを失ってしまった。先日見た映画『おだやかな日常』と同じように、震災直後からスタートする。厳密にはこの芝居は、震災から5日後の夕刻だが、まだ、状況も明確にならない状態で、不安と混乱の中にある、という意味では同じだろう。原発の40キロ圏に位置する酪農農家が舞台となる。彼らの過ごした3つの時間が描かれる。
プロローグのエピソードが素晴らしい。原発 . . . 本文を読む
この作品にはタイトルがない。チラシには大きく「劇場を舞台にした二つの作品を上演します」とある。だが、その作品のタイトルはどこにも書かれていない。舞台編『ヒーローに見えない男 缶コーヒーを持つ男』、客席編『椅子に座る女 椅子を並べる男』と、書かれてあるから、これがタイトルなのかもしれないけど、それはあくまでも便宜上のものでしかないことはそのそっけなさから、明らかなことだろう。そう言えば、演出のクレジ . . . 本文を読む
こういう軽い小説ばかり読んでいると、重量級の作品が読めなくなるかも、なんて心配するほどに、読みやすい。400頁ほどの作品が、2日ほどで読める。(もちろん、基本は電車の往復2時間だ)1時間で100ページというのは、かなり早い。先が読める話で、おきまりのパターン展開から一歩も踏み出さない。わかりやすいし、何も考えなくていい。でも、楽しいし、ちょっと泣かせる。あざといし、うそくさい、というのと紙一重だが . . . 本文を読む
インド映画の底力をまざまざと見せつけられる。昨年の大傑作『きっと、うまくいく』と『ロボット』を融合させて、さらには今までのインド映画(「マサラムービー」とか言われてきたものね)の全力を加味した作品。ここに「インド映画」極まる。しかもインド映画がハリウッドを目指す。でも、泥臭くて、いいかげん。そんなこんなでこれはインド映画のひとつの極みを示す作品なのだ。
「ゴールデン アジア」レーベルは『西遊記 . . . 本文を読む
2度の準備公演を経て、ようやくの本公演だ。ここまで入念に準備したのは、この作品が今まで以上に危うい世界を描くためだ。立ち止まることなく、どんどん進化していく林慎一郎が今回、コラージュして、ルポするのは都市の未来と現在。地下鉄、駐車場と続いたこの街のドキュメントシリーズは、今回、廃棄されるゴミをテーマに据えた。舞洲の入口にあるあの奇怪な「タテモノ」を中心に据えて、集められたゴミを巡るいくつものスケッ . . . 本文を読む
三好淑子さんがようやく「普通のお芝居」に挑む。待ちに待った作品だ。井上荒野の長編作品(『雉猫心中』)を題材にして、ふたりの男女の心のドラマを緊密な空間の中で描く。原作小説からイメージのみを借用して、お話は追わない。登場人物もふたりだけ。彼らの背後関係も見せない。それが三好さんの意図だ。
今までのリーディングによる公演も充分、芝居だったが、やはりテキストを持たない芝居は緊張感が違う。ラフなスタイル . . . 本文を読む
これはあんまりだ、と思った。お話としてリアリティがない。なさすぎ。そのいいかげんな展開は言語道断。説得力のかけらもないこのお話を大真面目に演じる。だが、彼らはなんだか楽しそうだ。虚構でしかない物語の世界を満喫しているみたいなのだ。何なんだ、この無邪気さは。見ながら、呆れるやら、笑えるやら。どうしたらいいのか、わからなくなる。
逃走中の銀行強盗とぶつかり、かばんを間違えられて、3億円を手にしてしま . . . 本文を読む
5編の短編からなる連作だ。それぞれのエピソードは中国の古典や人物に依拠する。もちろん最初の表題作は『西遊記』だし、その後も、『三国志』、『史記』四面楚歌、始皇帝暗殺、司馬遷、と超有名エピソードが登場する。誰もが知るキャラクターの意外な側面を描くのだ。だが、それはパロディではない。今までの万城目学なら、笑わせるところだが、今回の彼はまるでそうはならない。こんなにもシリアスな万城目は初めてではないか . . . 本文を読む
この映画を見た直後にたまたま『悟空出立』という本を読んだ。このタイトルなのに、主人公は沙悟浄である。彼の視点から見た自分たちの旅を描く。また、いつものように悟空がいない時に妖怪たちに拉致される自分たち。やがて、悟空が帰ってきて、助けられ、同じように旅は続く。そんな中で悟浄は八戒のことを思う。あの愚かなブタが実は天界一の策士だったという過去を持つ。そんな立派な男がなぜ、今、こんなブタになったのか。こ . . . 本文を読む
これは3・11の当日から、数日間のお話だ。あの時、思ったこと、感じたもの。それを二組の夫婦を通して描く。2012年作品ということに驚く。冷静に状況を踏まえて描くのではない。リアルタイムの先の見えない状況こそ、描くべきものと見据え、今ある真実を提示することを目的にした。
東京のかたすみ。何の変哲のないアパート。隣り合わせた2室、そこで暮らす家族。あの日の不安と人々のパニック。直接大きな被害を受けた . . . 本文を読む
『ツナグ』の監督平川雄一朗が、また、同じパターンの映画に挑戦した。今回は、突然の事故でこの世に想いを残したまま(そのシチュエーションなら誰もがそうだろうけど)死んでしまった4人が、彼らを死なすきっかけとなった男に取りつく話。岡田将生演じる、いいかげんな男にだけ彼らが見える。
お話としては幾分コミカルなタッチでもあるのだが、基本はシリアス。こういう映画はその辺のバランスが難しい。岡田が最初はとて . . . 本文を読む