
こんなスタイルの映画は近年なかったはずだ。昔の大作映画ならあった。前後編一挙上映して途中休憩が入るというスタイルを踏襲する。第1部1時間40分の後15分のインターミッション、そして1時間40分の後篇。『風と共に去りぬ』とか『ドクトルジバコ』の世界である。もちろんスタイルだけ。中身は必ずしも壮大なスペクタクル映画ではなく、どちらかというと地味な作品なのに。
冒頭のアメリカにたどり着いたシーンがいい。自由の女神をあんなふうに見る。カメラがぐるぐる回っているだけなのに。彼の興奮がしっかり伝わってくる。
敢えてこんな大作仕様を現代に甦らせる。ホロコーストから逃れてハンガリー、ブダペストからアメリカにやって来たユダヤ人建築家のドラマである。一見、壮大なクロニクルを感じさせる。だがそうではない。前半は彼がアメリカで足掛かりを摑むまで。後半は妻と姪をアメリカに呼び寄せて壮大なプロジェクトを実現させる過程が描かれる。
これは彼の成功した人生を描くドラマではなく、どちらかというと挫折のドラマだ。エピローグの1980年イタリアでの回顧展は輝かしい実績を讃えるというよりも彼の老いさらばえた無残な姿を晒す。表面的な成功とは裏腹にアメリカで抱くコンプレックスがきちんと描かれる。ハンガリーでは有名な建築家であるにもかかわらず、アメリカではユダヤ人難民であるという負い目を抱いて生きる。せっかく妻を迎えたし、自分の才能を充分に発揮する機会にも恵まれたにも関わらず、上手く立ち回れない苛立ち。主人公ラースロ・トートを演じるのはエイドリアン・ブロディ。ガイ・ピアース演じる実業家との関係から描かれる。監督はブラディ・コーベット。
これは今年のアカデミー賞最有力候補だし高く評価されている傑作だが、実は僕はあまり買わない。もちろんこれは凄い映画だけど、同じようにユダヤ人移民の話なら僕は『リアル・ペイン 心の旅』がいい。もちろんスケールが違うけど。大きな話より小さな話に惹かれる。まぁそれってただの好き嫌いの問題だけど、ね。
ブルータ × 3冠
と差が出たのも、評価が分かれるからでしょうかねー
私は無知識で観たせいか、近年にない衝撃でしたけど...