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映画・演劇のレビュー

野中柊『シュガー&スパイス』

2010-04-30 21:14:46 | その他
 ミン・ギュドンの『アンティーク 西洋骨董菓子店』が目指すべきものは、よしながふみのコミックの映画化ではなく、この小説の映画化だったのではないか。あの映画のタッチでこの小説を描いたなら、かなりのものになったかもしれないなんて夢想した。  「文芸史上初の読むスイーツ」と帯に書かれたこの素敵な小説は、一瞬で消えていくものの、儚いからこそ最高だと言える瞬間を描く。美しさと切なさを絶妙のブレンド見せる。 . . . 本文を読む
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『武士道シックスティーン』

2010-04-30 20:02:48 | 映画
 あの傑作小説の映画化である。待望の1作だが、正直言うと、がっかりした。不安がなかったわけではない。だが、古厩智之監督作品である。彼ならきっと大丈夫だ、と高を括っていた。小説の魅力は磯山のストイックと西荻の天真爛漫な性格のぶつかり合いが絶妙な化学変化を呼び起こすところにある。今回キャスティングがばっちりだ、と思った。成海璃子と北乃きいである。大丈夫だ。原作のイメージを損なわない。  なのに、ダメ . . . 本文を読む
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椎名誠『コガネムシはどれほど金持ちか』

2010-04-27 21:37:28 | その他
 椎名さんの『ナマコのからえばり』シリーズ第3作。まぁ、いつもの、どうでもいいようなエッセイだ。くだらない日常の身辺雑記でしかない。椎名ファンなら喜ぶかもしれないが、それ以外の人にとってはつまらない雑談でしかないだろう。とは言え、椎名さんが日頃気にしていることを、けっこう拘って徹底的に書いているから、読んでいて楽しい。要するに椎名さんらしさが満載されたエッセイなのだ。  椎名さんはあまりに忙しす . . . 本文を読む
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『青燕』

2010-04-27 21:12:56 | 映画
 2005年12月韓国で公開された超大作がようやく日本でもDVDスルーされた。映画としての出来とはまるで関係ない次元でボイコットされ興行的には惨敗したらしい。製作費100億ウォンもの大作なのに、50万人しか動員できなかったらしい。  もちろん映画自体の出来もよくはない。だが、そんなことより、日本びいきの映画だと誤解されたことが大きかったようだ。映画を見れば必ずしもそういうものではないことは明白な . . . 本文を読む
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いちびり一家『どこかで亀が鳴いている』

2010-04-26 21:05:22 | 演劇
 とてもすてきな音楽劇である。いちびり一家は一貫してこのスタイルで芝居作りに取り組んでいる。バンドの生演奏が入り、役者たちはのびのびと歌う。芝居は、歌によって気持ちを伝える。だが、彼らの取り組む歌とストーリーとの融合は、ミュージカルとは一線を画する。ストーリーの補助としての歌ではない。感情の高まりを歌で表現するのでもない。歌は独立して、ドラマの中核にしっくりと入り込んでくる。流れるようにドラマは綴 . . . 本文を読む
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唐組『百人町』

2010-04-26 20:59:30 | 演劇
 こんなにも慎ましやかな芝居を、あの唐十郎がひっそりと作ってしまう、だなんて驚きだ。これをつまらないと思うか、おもしろいと受け止めるのかは、とても微妙な問題だ。近年の唐組の芝居はかっての彼のテント芝居とは明らかに異なってきている。とてもスケールが小さくて、コンパクト。わざわざテントでするまでもない。  今回のラーメン屋のセットだって、そのままで、そこには何の仕掛けもない。ラストの屋台崩しはお約束 . . . 本文を読む
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『アリス・イン・ワンダーランド』

2010-04-25 20:45:38 | 映画
 キネ旬の特集で見たティム・バートンの写真がなんだかクロム・モリブデンの青木秀樹さんとやけによく似ていた、と思ったのはきっと、僕だけだろう。もうすぐ、クロムの新作がまた、大阪でも見れて嬉しいな、なんて思いながら、ティム・バートンの新作を見る。本当は『第9地区』が見たかったのに、劇場に行ったら、1時間以上待たなければ、見れないので、あきらめて、アリスを見てしまった。  もちろんティム・バートンが描 . . . 本文を読む
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吉永南央『オリーブ』

2010-04-25 19:55:04 | その他
 初めての作家を読むのはちょっと緊張する。どんな文体を持つのか、どんな発想を、どう見せるのか、それが気になる。健闘していても、そこまでだ。なかなか凄い人には出会えない。1冊でさよならするしかない人も多い。  今回も微妙なラインだ。こういう中間小説の問題点はいつも同じだ。かなりよく出来ているにも関わらず、がっかりするしかないのは、せっかくの発想をつまらないオチで台無しにさせることだ。どいつもこいつ . . . 本文を読む
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『セントアンナの奇跡』他

2010-04-24 23:16:06 | 映画
 『セントアンナの奇跡』は3時間近くに及ぶ大作映画だ。そして、あのスパイク・リーの新作だ。だが、なんだかいまいち乗り切れない。そりゃ、もう彼も若くはないのだから、昔のような怒りに身を任せた映画はもう撮らないのかもしれない。に、してもこの歴史大作というのはどうか?   衝撃的なオープニングは彼らしい。いきなり郵便局員が窓口で温厚そうなお客の額を銃で打ち抜く。話はそこから始まる。描かれていくのはそこ . . . 本文を読む
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梶尾真治『メモリー・ラボにようこそ』

2010-04-24 23:08:31 | その他
 ちょっと甘すぎるな、と思った。でも、嫌いではない。中編2話からなる連作というのもなんだか中途半端だけれど、無理して3本にするのも決して好ましいとは思えないからこれでいいと思う。梶尾さんがこれで1冊にしようと思ったのだから、その選択に間違いはないだろう。  メモリーラボ(記憶の移植)というあきらかにファンタジーの領域から、ドラマを設定してしまったのは、少しもったいないけど、それはファンタジーを純 . . . 本文を読む
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『HACHI 約束の犬』

2010-04-22 23:16:07 | 映画
 『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』のラッセ・ハルストレム監督最新作である。それだけなら、この映画を必ず劇場で見たことだろう。だが、原作が日本の『ハチ公物語』であることが、僕から見る気を奪った。すまないが、こういうお涙頂戴の動物ものは勘弁して欲しい。いくらハルストレム監督作品でも、腰が引ける。  ようやくDVDなら、ということで、見る決心がついた。90分ほどの短い作品だ。だいたいこんなにも単純なお . . . 本文を読む
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万城目学『鹿男あをによし』

2010-04-22 22:55:48 | その他
 万城目学の『鴨川ホルモー』を読むのも、かなり遅れた。なんだか、食指がそそられなかったのだ。どうしても僕には、彼は森見登美彦のばったもん、というイメージがまとわりつく。そんなのは勝手な妄想でしかないのだが、そのイメージのせいで、食わず嫌いになってしまっていた。でも、『鴨川ホルモー』を読んで当然その偏見は払拭した。だからそれから彼の新刊は全部読んでいる。なのに、なぜだか彼の出世作でもあるこの小説だけ . . . 本文を読む
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コトリ会議『サリリャンカ ララ ワールド』

2010-04-19 23:20:48 | 演劇
 これは一人の少女の頭の中にある現実と妄想がごちゃごちゃになった世界だ。山本正典さんが作り上げるこの倉庫の中のワンダーランドは、5歳の少女が、父親(と、本人が思っているだけで根拠はない)に誘拐されて身代金として母親が3億円の代わりに少女が大事にしていた人形を持ってくる、という事件を中心にして、展開する。こんなありえない話が、高校2年生になった現在の少女の脳内宇宙で繰り広げられていかれることになる。 . . . 本文を読む
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トランスパンダ『君と旅』

2010-04-19 23:19:07 | 演劇
 なんだかとても暖かい気分にしてくれる。こんなにも優しいトラパンって初めてではないか。ナカタさんがとても静かでおとなしい女性を演じている。感情が先に表に出て溢れてしまうような女性を演じることが多かったので、意外な感じだ。情緒不安定でエキセントリックという印象が、僕の中では彼女の定番だったが、今回は最後まで静謐を湛えたままだ。自分の置かれた状況をきちんと受け止めて、ここにいる。そんな彼女が見ていてと . . . 本文を読む
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『レスラー』

2010-04-19 23:04:47 | 映画
 監督は『π』のダーレン・アロノフスキーだ。映像派の彼がこんな正統的の人間ドラマを監督するだなんてそれだけで驚きだ。前半の痛ましいばかりのプロレス・シーンの凄惨さには目を覆う。目をそむけたくなる。だが、あのえぐさがなくてはこれはただの綺麗ごとの映画にしかならない。そこを踏まえてこのいささか紋切り型の映画は、作られる。  過去の栄光にいつまでもすがりついているわけではない。彼にはこれしかできないの . . . 本文を読む
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