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映画・演劇のレビュー

『想いのこし』

2014-12-04 20:47:31 | 映画

『ツナグ』の監督平川雄一朗が、また、同じパターンの映画に挑戦した。今回は、突然の事故でこの世に想いを残したまま(そのシチュエーションなら誰もがそうだろうけど)死んでしまった4人が、彼らを死なすきっかけとなった男に取りつく話。岡田将生演じる、いいかげんな男にだけ彼らが見える。

お話としては幾分コミカルなタッチでもあるのだが、基本はシリアス。こういう映画はその辺のバランスが難しい。岡田が最初はとてもくだらない男で、でも、4人と接するうちにだんだん変ってくるというのは黄金のパターンだろう。(けっこうしぶとい奴でお金にいじましいし、なかなか変わらないけど)

必要以上に重い映画にはしないし、へんに感動のドラマにもしない。軽やかなお話に乗せられて、最後まで目が離せない、という感じ。ラストではほろっとさせられる、くらい。そんな心地よい映画を目指した。

3人のポールダンサー(広末涼子、木南晴夏、松井愛莉)とそのマネージャーをしている男(鹿賀丈史)を乗せた車が飛び出してきた男(もちろん、岡田将生、ね)を避けるためハンドルを切り対向車線の車にぶつかる。即死。でも、そんなあっけない死を受け止められない。

そんな4人のそれぞれのお話が、オムニバス形式で描かれていく。彼らがその「想いのこし」をかなえると、消えていく。もちろん、岡田が助けていくことで話は進展するのだが。その時、そこには岡田と広末のラブストーリーはない。そういうのにはしないのだ。この映画はそういう目先だけの安易なパターンには一切興味ない。潔さすぎるほどだ。

自分たちを死なせたつまらない男に頼るしかない4人を、とてもお人好しに描く。そこも凄い。普通なら恨んで彼を呪うとかしてもいいはずなのに、自分からお金を出して彼に自分たちのささやかな願いを叶えてもらおうとする。しかも、感謝すらする。こいつらはどこまで人がいいのか。そこらへんをもう少しちゃんと距離を置いて見せてもいいのに、まるで疑うことなく、彼を信じる。キャラクターとして面白いけど、不思議だ。でも、監督も脚本もそこはスルーしている。まるで、これが当然の行為とでも言わんばかりだ。しかも、彼らの願いがささやか過ぎる。もう少し、とんでもないことを願ってもいいはずなのに、そうはしない。死んでしまったことをこんなにもすんなりと受け止めていいのか、と僕のほうがなんだか、割り切れないくらいだ。

つくづく欲のない人たちだ、と思う。それに対して岡田は貪欲で俗物。その対比で何かを見せるのかというと、それもない。それにしても呆れるくらいに欲のない作者たち(とりあえずは、平川監督と原作・脚本の岡本貴也)だ。なんだか、あまりに映画が正直すぎて、ひねくれた考えを持つ僕のほうが岡田同様、悪い、って気にさせられる。(いいのか、それで!)そういう意味でも、これはほんとうに不思議な映画なのである。



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