習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『クローンは故郷をめざす』

2010-05-31 22:07:28 | 映画
 なんとも不思議な感触の残る映画だ。結構面白い発想のSFなのだが、とんがってはいない。この設定で無理なく、しかも2時間に及ぶポエムのような世界を作る。しかも一応最後まで集中を切らさない。脚本・監督は新人の中嶋莞爾。 死んだ宇宙飛行士である高原耕平(及川光博)は、政府から依頼されて自分の身体の情報を完全に残していた。しかも、彼が死んだときにはそれをもとにして自分のクローンを作るということも了承し . . . 本文を読む
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椎名誠『屋上の黄色いテント』

2010-05-31 21:36:22 | その他
 椎名さんの久々の短編小説集。テントを題材にした2つの小説で、全体がサンドイッチされてある。最初の『飛んでいった赤テント』は山での話。雪山での単独行で、遭難しそうになる。最後のタイトルロール『屋上の黄色いテント』は、火事で住む場所を失った男がなんとなくから会社の屋上にテントを張って住む話。どちらも日常をベースにして、でも、なんだか不思議な世界に誘われていく。ありえないことはない。充分あり得る。だが . . . 本文を読む
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『戦慄迷宮』

2010-05-28 23:37:42 | 映画
 昨年来のアメリカの圧倒的な3D映画の量産体制の中、これは日本映画として唯一作られた本格長編3D映画である。でも、昨年の秋、興行的には惨敗を喫した。『呪怨』の清水崇監督によるミステリー・ホラーなのだから、それだけでも成功しそうなものだったのだが。  DVD盤は3Dではないが、この映画のねらいは充分に伝わる。『アバター』と同じように飛び出す方ほうはなく、奥行きを重視した作りになっている。ストーリー . . . 本文を読む
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『トロッコ』

2010-05-28 23:35:52 | 映画
 誰もが知っている芥川龍之介の短編小説を原作にした映画なのだが、あの小説をそのまま映画化したなら上映時間は30分以上のものにはならないはずだ。そこでこの映画はあの小説の描くエピソードを作品の核に据えて、全く別の大きな物語を新たに作り出す。  2人の少年と母親の成長物語である。しかも、舞台は台湾だ。時代も現代に変更される。台湾から日本に留学してきた男がそのまま日本で結婚し、2人の子供も授かった。だ . . . 本文を読む
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『クロッシング』

2010-05-28 23:33:06 | 映画
 キム・テギュン監督は重々しい社会派映画のタッチではなく、痛快な娯楽アクション・ メロドラマ(要するに〈通俗〉ということだ)として、この脱北者を扱った映画を作る。ハラハラドキドキして、最後には泣かせて、そんな中でこのとんでもない現実(この話はもちろん事実をベースにして構成されてある)をきちんとリアルに伝える。  収容所のシーンなんてこれが現代の話とはとても思えない凄まじさだ。北朝鮮という国の実情 . . . 本文を読む
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小路幸也『 brother sun  早坂家のこと』

2010-05-25 13:45:37 | その他
  小路幸也のホームドラマは徹底している。もう今ではなくなりつつある昔ながらの「大家族」を、今の時代に残すため、彼は日夜努力している。『東京バンドワゴン』シリーズでやってきたことを、ここでも踏襲する。なんだか笑ってしまうくらいに律儀だ。  古い家。たくさんいる家族。それがさらにどんどん増えていく。家族、兄弟だけではない。近隣の住人やら、その友だちとか、どんどん巻き込んでいく。彼らがこのコニュニテ . . . 本文を読む
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『パーマネント野ばら』

2010-05-25 09:08:30 | 映画
 あまりのことに突然、涙がどどっと溢れてきてしまった。自分でもびっくりだ。もちろん、そういうことだろうとは途中から薄々気が付いていたのだが、そのタイミングなのである。小池栄子が「あっ、また、今、デート中なんだね」と言ったその笑顔の後、である。たったひとりの管野美穂の姿。それまでのモヤモヤがはっきりしたその瞬間の優しさ。小池演じるみっちゃんの優しさ。やっぱりな、という気持ちよりも、そのあまりの切なさ . . . 本文を読む
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『奇蹟的夏天』

2010-05-25 08:30:32 | 映画
 昨日ワールドカップに向けての壮行試合である日韓戦をTVで見ていて、なんともストレスのたまるその展開にがっかりしたのは僕ばかりではあるまい。岡田ジャパンには何も期待はしないけど、それでももう少し気合の入った試合はできないものなのだろうか。最近サッカーを見てないからなんとも言えないのだが、素人が見ても、こんなにもつまらない試合をしていて、いいのか?  と、いうことで、先日、台湾で買ってきたDVDシ . . . 本文を読む
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演劇集団☆邂逅『真面目でなきゃダメ!』

2010-05-23 21:51:01 | 演劇
 この集団の芝居は初めて見たのだが、なんだかすごかった。これって何度か見たことがあるスターボードのミュージカルとあまりによく似ていて、なんだか懐かしい。こういう芝居をやっている人たちも確かにいるんだ、という当たり前のことになぜだか感動する。  でも、この劇団のホームページを少し見たなら、いつもこの手の赤毛芝居(そんな言い方、今時しませんが)をやっている訳ではなさそうだった。ということは、これは彼 . . . 本文を読む
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伊丹想流私塾『R-10グランプリ』

2010-05-23 21:16:59 | 演劇
 想流私塾14期生の卒業公演である。今回は何とも大胆と言うか、ヤケクソと言うか、なんとも言い難い発想での公演である。チラシの北村想さんのコメントがおかしい。TVサイズの発想しかできない塾生たちなら、そこを題材にして思う存分やってもらおうではないか、だなんて、なんとも豪胆だ。  さて、実際の10人の腕はいかほどか。今年のお題は「コント・漫才」。そのままコントや漫才を披露してくれた人もいる。最初の『 . . . 本文を読む
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遊劇体『多神教』

2010-05-23 17:16:33 | 演劇
  今回の舞台は、五條會館五條楽園歌舞練場というところだ。遊劇体の泉鏡花オリジナル戯曲全作品上演シリーズ第6弾である。毎回違うアプローチで見せるキタモトさんが今回拘ったのはこの場所である。この普通の劇場ではない特殊な空間で見せることに意味がある。  10本の柱が立てられてあるが、基本的にはこの歌舞練場をそのまま生かした空間で演じられる。そりゃそうだろう。わざわざこの空間を選んだわけは、この場が持 . . . 本文を読む
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売込隊ビーム『トバスアタマ』

2010-05-23 16:13:24 | 演劇
 扇町ミュージアム・スクエアのキャンパス・カップで見た初演は衝撃的だった。だいたいこのタイトルが凄い。そして、他の生ぬるい学生演劇とは一線を画する。当時の僕はあの1本で完全にノックアウトされた。  その後、横山さんはあの作品を越える作品を書けなかった。試行錯誤を繰り返す初期の売込隊ビームの作品は、痛々しいながらも、確かに心に残る傑作ぞろいである。デビュー作を生涯超えれない作家は山のようにいる。そ . . . 本文を読む
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朝倉かすみ『感応連鎖』

2010-05-23 15:49:51 | その他
 惜しいなぁ、と思う。確かにかなりおもしろいのだ。最初のところなんか、この話がいったいどこに行きつくのか、その成り行きが気になる。どう転がっていくのか、想像もつかないからワクワクした。しかし、第2章に入って主人公が変わってしまった時、なんだかばかされた気分になる。ええっ、そんなのありか、と思う。でも、きっともう一度最後には節子に戻ってくるはずだから、と信じて先を読み進めた。なのに、もう節子には帰ら . . . 本文を読む
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『グリーンゾーン』

2010-05-20 22:01:28 | 映画
 このタッチに馴染めない人は、この映画が受け入れられないだろう。9・11を描いた『ユナイテッド93』のポール・グリーングラス監督作品。正直言って初めて彼の映画を見た時、ついていけない、と思った。こういう「リアル」なドキュメンタリータッチ、というものになんだか嘘くささを感じたからだ。  だが、彼がその後、マット・デイモン主演のジェイソン・ボーンのシリーズ(2作目と、3作目だ)を手掛けて、そこでも『 . . . 本文を読む
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藤代 泉『ボーダー&レス』

2010-05-20 21:51:20 | その他
 この軽さはなんとも心地よい。そのくせ描いていることは全然軽くはない。その落差がなぜかかなり自然体で拘っているのは読者である僕たちの方ではないか、と思うくらいだ。在日を扱った小説で画期的だと思った金城一紀の『GO』がもう過去の作品でしかない、と思わせるくらいに、この小説のタッチは新しい。  大学を卒業し、新入社員として社会に出た僕が出会ったなんとも独特な魅力を持つ在日コリアンのソンウ。彼ら2 . . . 本文を読む
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