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映画・演劇のレビュー

万城目学『孫悟空出立』

2014-12-16 22:15:50 | その他

5編の短編からなる連作だ。それぞれのエピソードは中国の古典や人物に依拠する。もちろん最初の表題作は『西遊記』だし、その後も、『三国志』、『史記』四面楚歌、始皇帝暗殺、司馬遷、と超有名エピソードが登場する。誰もが知るキャラクターの意外な側面を描くのだ。だが、それはパロディではない。今までの万城目学なら、笑わせるところだが、今回の彼はまるでそうはならない。こんなにもシリアスな万城目は初めてではないか。

彼らが自分の今までの生き方に疑問を抱き、これからどうするべきなのか、考える瞬間を捉えた。これはそんな作品集だ。今まで考えもしなかったことだが、でも、そこには一番大事なものがある。どうしてそこを避けてきたのかは明白だ。認めたくはなかったから。それだけ。だが、嫌でも向き合わねばならなくなる。悟浄は自分たちの愚かさに。趙雲は老いと、さらには棄ててきたはずの故郷と。虞姫は自分の存在と。それぞれが己のブライドを懸けて、向き合い答えを出す。それは死を賭したものですらある。

始皇帝の暗殺を謀った男と同じ名前を持つ男。間違えられたことで狂った二人の運命。人生はそんな偶然に満ちている。だが、それだってそこには真実がある。もともとそういう運命だったのだ、と思うほうがいい。だってやり直せないのだ。今ある現実がすべて。(『法家孤憤』)

司馬遷の娘が、父親を叱責する。偉大な父を正しい方向へと導いたのは彼女だった。もちろん、娘のほうが父より人として優れている、などと言うわけではない。それも、また運命だ。偶然から起きた様々な出来事と、ちゃんと向き合い、人は自分の生きる道を目指す。三蔵たちが天竺を目指したように、誰もが自分の生きる道をたどる。

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