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映画・演劇のレビュー

上田岳弘『K +ICO』

2024-04-26 05:33:00 | その他
ふたりの男女の物語。Kはウーバーイーツの配達員。カフカの『城』を繰り返し聞いている。ICOはTikToker。都会の迷路を迷走するふたり。   お話は4話からなる。1話はKの話。2話はICOの話。3話は再びKだが、もうひとり、彼が関わりを持つkが登場してKとkの話に。迷子になっている少年kを自宅まで送り届ける旅は、Kを東京から連れ出す。いや、アメリカから帰って来た後、kと出会うのだっ . . . 本文を読む
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額賀澪『鳥人王』

2024-04-25 05:24:00 | その他
今回額賀澪はなんと棒高跳びに挑戦する。しかも芸人を主人公にして、である。ハードルは高い。オリンピックを目指す大学生アスリートと一緒に、素人の彼は1年間棒高跳びに挑戦してマスターズで優勝を目指すことになる。売れない漫才師。30歳になり泣かず飛ばすの日々。相方は居酒屋チェーン店で働いている。彼は店長のオファーを受けコンビ解散することに。主人公はアスリート芸人として漫才とは関係ない仕事でそれなりに知名度 . . . 本文を読む
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泉ゆたか『ユーカラおとめ』

2024-04-24 21:30:00 | その他
『アイヌ神謡集』を作り上げた知里幸恵を描く評伝。北海道から金田一京助に誘われて単身、東京に出てきた19歳の少女の死までの短い日々を描く。大正12年。差別と同情。理解あるフリ。彼女はアイヌで女性。  一気に読ませる。だいたい描かれる時間も短い。たった19年の人生。その最後の1年にも満たない時間。だけど、彼女はたったひとりで東京までやって来た。知らない場所でたまたま出会った国語学者に誘われ . . . 本文を読む
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北村薫『中野のお父さんと五つの謎』

2024-04-21 10:20:00 | その他
漱石、清張、池波正太郎、久保田万太郎、芥川。今回取り上げられた作家たちだ。主人公の田川美希は出版社の文芸編集部にいる。彼女が作家たちのささやかな謎に挑む連作。お父さんはラストでアドバイスをくれたり、さりげなく答えを教えてくれることも。  この最後にさりげなく登場して来て場をさらい涼しい顔をしている父が素敵だ。市井の古書マニアの元高校教師。隠居して好きをしている。だけど凄い博識で美希の疑 . . . 本文を読む
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夏川草介『君を守ろうとする猫の話』

2024-04-20 02:55:00 | その他
医療ものではない夏川草介は珍しい。しかもファンタジーである。前作『本を守ろうとする猫の話』の続編で、今回は中2の少女が主人公の児童文学。不思議の世界に自ら迷い込む。大切な本たちを救い出すためである。そんな彼女を守ってくれるのは言葉を話す猫。13歳,中学2年のナナミは喘息持ちで自由に外出が出来ない。学校と図書館、自宅の日々。ある日、図書館から本を無断で持ち出す怪しい男を見つける。   . . . 本文を読む
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凪良ゆう『星を編む』

2024-04-19 05:13:00 | その他
タイトル作は、三浦しをん『舟を編む』の姉妹編のような作品。こちらは漫画と小説のふたりの編集者(編集長)が主人公になる。往復書簡のタッチで交互のメールからエピソードが始まる。作者を守るのが編集者の使命と自負しながらも大切にしていた作家を死なせてしまった過去がある。そのリベンジをふたりでする話。作家は前作『汝、星のごとく』の主人公だった櫂だ。これはあの小説の続編であり、スピンオフである。3話からなる連 . . . 本文を読む
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いとうみく『キオクがない!』

2024-04-19 05:07:00 | その他
「積み重ねてきた十四年が、突然全部なくなった。僕に関する、キオクがない!」というところから始まる再生の物語。人生をリセットすることなんて出来ないけど、過去の自分を失った彼はもう一度初めからやり直しをする。最低だった、みたいな(記憶がない、からね)それまでの自分を取り戻せないから、そこからスタートして初めての自分を作っていく。中学2年の10月14日に彼は退院する。自転車事故は自殺行為だったみたいで、 . . . 本文を読む
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濱野京子『となりのきみのクライシス』

2024-04-16 07:30:00 | その他
小学6年生の男女が主人公。子どもの権利って何かを考える児童書。図書館の分類はYA小説になっていたが、主人公たちと同世代にまずは読んでもらいたい。それから少し下の年代にも。だから児童書の棚に欲しい本だ。子どもを巡るさまざまな問題をストレートに描く。そこには酷い大人たちが随所に登場して、子どもたちの前に立ちはだかる。彼らはしっかり立ち向かう。だから爽やかで気持ちいい。  お話はクラスでの問 . . . 本文を読む
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ほしおさなえ『まぼろしを織る』

2024-04-15 20:19:00 | その他
『活版印刷三日月堂』シリーズは読んだことはないけど、「言葉の園のお菓子番」シリーズはちゃんと読んでる。それにこれはポプラ社から出ているから読むことにした。あと表紙の写真とタイトル。なんだかお話は重そうだけど、読もう。ほしおさなえの本を読むのは初めてではないけど、シリーズ物ではなく、単発の渾身の力作を読むのは初めてだ。今まで読んだ幾分軽いタッチの作品とはまるで違う。だけど、やはりこれは彼女らしい作品 . . . 本文を読む
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吉田篤弘『78』②

2024-04-13 10:45:00 | その他
後半に入るといきなり転調する。5話目の『ゆがんだ球体の上の小さな楽団』からだ。大昔の楽団の話。ここからさまざまな物語が微妙なバランスでつながり、再び最初の3人の話にいきなり戻ってくるけど、それさえ大きな『78』世界の思い出に思える。すべてが過去のなかに取り込まれていく。ここに流れる時間は過去と現在、もしかしたら未来までもが渾然一体となっている。最初はハイザラとバンシャクの話だったはずなのに、しかも . . . 本文を読む
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吉田篤弘『78』

2024-04-11 17:32:00 | その他
この文庫本を今日から読み始めたのは偶然である。誓って意図はない。もう手元に読む本がないし、今日から1年週に3日仕事に行く。そのタイミングで手にして行きの電車の中で読み始めた。吉田篤弘の2005年作品。この文庫は2009年に刊行されている。  だから15年間図書館の棚に置いてあったのだろう。だけど,本はとてもきれいで誰も(たぶん)読んだ形跡がない。懐かしい気分になり、ゆっくり読み出す。1 . . . 本文を読む
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柴崎友香『つかのまのこと』

2024-04-11 05:44:00 | その他
これは映画『寝ても覚めても』の後、東出昌大を主人公にして、柴崎友香が写真家の一橋織江とコラボした作品。俳優によりイメージした小説を写真という表現で具現化した映像と一体化した世界は不思議な空間を提示する。家に宿る幽霊という設定で誰もいない古い家を浮遊する東出昌大を描く小説は彼を撮った写真と相まって、物語の映像化に収まらない不思議な世界を作る。   冒頭の20ページは写真に短い文が添えら . . . 本文を読む
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伊藤朱里『名前も呼べない』

2024-04-09 07:46:00 | その他
伊藤朱里のデビュー作。2015年作品。太宰賞を受賞した。25歳の女の2年に亘る不倫を描く。45歳の派遣先の上司。派遣満了で職場を去る。その前に上司とは関係を清算した。彼にはふたり目の子供が出来たらしい。同僚から聞かされた。だが、主人公である恵那の恋人は彼ではない。小説は少しずつ小出しにして事実を見せていく。衝撃は2度ある。まずは親友のメリッサが男だったこと。そして不倫の恋人との間にセックスはないこ . . . 本文を読む
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伊藤朱里『稽古とプラリネ』

2024-04-07 14:10:00 | その他
図書館でウロウロして立ち止まったのが,彼女の本が並ぶスペースだった。5、6冊並ぶ本がいずれも魅力的に見えて、手に取るとやはり面白そう。とりあえず2冊借りることにした。新しい作家との出会いはドキドキする。と、思ったら彼女の本を以前1冊読んでいた。悪くはないけど、あまりピンとは来なかったなぁ、と思い出す。昨年刊行された最新作『内角とわたし』である。あれはイマイチだった。ひとりの女性の中にいる3つの人格 . . . 本文を読む
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大前粟生『チワワ・シンドローム』

2024-04-06 18:29:36 | その他
なんとも不思議な作品。弱いことで強くなろうとする。チワワのピンバッジを付けた人が800人。知らない間に付けられていた。誰が何のために。そこから始まる社会現象と、そこから始まる恋人の失踪。そんなふたつの大問題を解決するまでのお話。社会的な問題と個人的な問題が同時に等価なものとして彼女の前に起きる。主人公は25歳の琴美。親友のミアと事件を追う。ラストがちょっと弱いのが惜しい。それまでの謎解きが簡単過ぎ . . . 本文を読む
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