習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

君嶋彼方『春のほとりで』

2024-10-09 07:05:00 | その他
今回の君嶋彼方は高校生の日常スケッチである。「大人になれば忘れてしまう、全力でもがいていたあの日のこと」と本の帯にある。切ない6つの短編。 こんなにもドラマチック「ではない」日常スケッチなのに、こんなに胸に痛い。そして優しい。それぞれが傷みを秘めて生きている。触れられたら泣きそうになる想いを秘めて心静かにひっそりと教室の片隅で佇んでいる。   放課後の教室でひとり本を読む。幼なじみ . . . 本文を読む
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有沢佳映『全校生徒ラジオ』

2024-10-08 05:31:00 | その他
こんな小説がある。まさかのおしゃべりだけで続く、それだけで終わる。無意味すぎる会話劇。4人の中学生がたわいないことをダラダラしゃべっているのを生配信。ポッドキャストという手段で世界とつながる。全校生徒がたった4人しかいない中学で暮らす彼女たち。(生徒はみんな女の子)そんな配信を毎回チェックして保存する引きこもりの男の子。配信される彼女たちの放送とそれを聞いた彼の感想が交互に描かれていく。そこにはス . . . 本文を読む
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寺地はるな『いつか月夜』

2024-10-07 10:59:00 | その他
原田ひ香さんが帯でこの作品が「寺地さんの作品の中で一番好きです」と言っていた。僕より一足早くこれを読んだ妻も絶賛していたから、少しドキドキして読み始める。まわりの評価はあまり気にしないけど、それでガッカリするのは少し怖い。   もちろん期待は外れない。だけどこれが一番じゃない。「彼女のたくさんの小説にはこれくらい素敵な作品は山盛りあるよ、」と思うけどやはりこれはかなり好き。よかった。 . . . 本文を読む
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標野凪『いつだって喫茶ドードーでひとやすみ』

2024-10-06 04:11:00 | その他
シリーズ第3弾になる。(僕がこのシリーズを読むのは初めてだけど)描かれるものは喫茶ドードーにやって来て心休める人たちの姿だ。彼女たちはここで一休みして再び大変な毎日に立ち向かう。ここにくれば美味しいコーヒーや不思議なデザート(食事も)がある。あなたの悩みに効くメニューに励まされ、戦場(職場だけど)に戻る。働くことが生きること。仕事は楽しいけど困難なことだらけ。いつも倒れそうになり傷だらけ。 たっ . . . 本文を読む
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井上荒野『猛獣ども』

2024-10-05 08:55:00 | その他
タイトルの猛獣は別荘地に現れて男女ふたりを殺した熊のことではない。殺された不倫カップルのことだろう。さらにはこのお話の主人公である管理会社のふたりの男女が関わる6組の夫婦かもしれない。死んだふたりは「姦通」していた、という表現をした手紙が管理人のもとに届く。差出人はわからない。 この別荘地で暮らす彼らの日常を丹念に描く。表面的にはもう何も起きない。冒頭のところでふたりを殺した熊も殺されている。事 . . . 本文を読む
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桐衣朝子『赤パンラプソディ』

2024-10-04 14:50:00 | その他
還暦女子が主人公みたいで、村山由佳が激推しらしいから、なんとなく読むことにした。還暦過ぎの男子としてはいささか気になったので。  ただこのタイトルはそそられない。それどころか恥ずかしい。還暦赤パン(パンって、🍞ではなく、パンツ)っていう発想にはついていけない。まぁ軽い読み物だろうから、暇つぶしを兼ねて読む。つまらないなら途中で止めればいい。(まぁ読み出したら、辞めれない . . . 本文を読む
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吉本ばなな『下町サイキック』

2024-10-03 20:17:00 | その他
下町を舞台にした人情劇かと思って読み始めたら、なんだかよくわからないサイキックもので、確かにタイトル通りのお話だよな、と納得する。中学1年の女の子と近所に住む友おじさん(実の叔父です、と書こうとしたけど、最初の部分を見返してみるとただの近所の知り合いのおじさんだった)が、不思議な出来事に遭遇してそれと向き合う。彼女には霊感があり、見えないものが見えてしまう。母と離婚した父が魔性の若いきれいすぎる女 . . . 本文を読む
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中村航『大きな玉ねぎの下で』

2024-10-03 06:38:00 | その他
相変わらずかわいい小説を書くのが今の中村航だ。今回は1984年末4月の男女と2024年4月の男女のお話。この別々の時間を過ごす別々のふたりたちが文通とラジオ番組を通して通じていく、という話だ。ふたつの時間が交互に描かれていくが、混じり合うことはない。4月の1週から始まって2週目に続く。穏やかに時間は過ぎていく。 そして運命の8月18日を迎える。と言っても、たいしたことではない。ラジオ番組を通して . . . 本文を読む
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谷口雅美『わたしのカレーな夏休み』

2024-10-02 06:18:00 | その他
2日振りに図書館に本を返しに行きがてら、予約の本を取りに行くついでに新刊コーナーを見ると、なんと谷口雅美さんの新刊が入っているではないか! これはうれしいとさっそく手にしてカウンターに行く。  『私立五芒高校 恋する幽霊部員たち』の谷口さんである。これを読まないではいられない。自宅に戻って読みかけの本を片付けて、待機中の10冊を横にして、まずこれを読み始める。カレーの話なので、僕も晩御 . . . 本文を読む
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『これが最後の仕事になる』

2024-10-01 21:33:00 | その他
これが最後の仕事になる、という一文をスタート地点として書かれた短編集。24人の作家による。彼らがどんな仕事を取り上げて小説にするか、たった6ページ程度という制約をどう生かすか、興味の焦点はそこにある、わけではない。 実はこのタイトルに惹かれたのだ。僕も今、これが最後の仕事になる、と思いながら、この1年を送っているから、タイトルにドキッとした。今の自分にピッタリの本ではないか、と思い、そこに(大袈 . . . 本文を読む
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広小路尚祈『ある日の、タクシー』

2024-09-30 05:34:00 | その他
先日見た『パリタクシー』が素晴らしかったけど、元タクシー運転手でもある広小路さんの新作は久々にタクシードライバーが主人公。12のさまざまな場所が舞台になるエピソードが綴られる。   伊勢から始まり、飛騨高山まで。ご当地タクシー運転手がお客さんを乗せて旅のお供をする。僕も行ったことがある場所がかなりの確率で出てきたからなんだか楽しい。   流しのタクシーではなく、お迎えし . . . 本文を読む
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川本三郎『遠い声 浜辺のパラソル』

2024-09-30 04:37:00 | その他
町歩きが好きだ。知らない町をふらふらと何のあてもなく歩いて行くとさまざまな光景に出会う。たった一人で知らない町に身を任せる。ここで暮らす自分を夢想する。町には生活の匂いがする。幻の自分はそこに一瞬紛れ混む。朝と夕暮れがいい。早朝のまだ人々の活動が始まる前の町。あるいは夕暮れの人々が帰りに就く前の町。もちろん真昼の人通りの少ない場所や時間もいい。人恋しいくせに、人が煩わしい。わがままなのだ。これは映 . . . 本文を読む
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名取佐和子『銀河の図書館』

2024-09-29 05:27:00 | その他
名取佐和子の新作は、今回もまた図書館が舞台だ。このタイトルだし、期待しかない。前作『図書室のはこぶね』の続編であり、もちろん野亜高校の図書室が舞台である。ただお話も登場人物も変わるけど。イーハトー部の活動は図書室でされる。宮澤賢治さんの研究をする弱小同好会。部員は新入生の女子1名を入れて4人。しかも部長である風見さんは不登校でずっと不在。主人公は2年になったばかりのチカ。彼は不本意なままこの高校に . . . 本文を読む
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小林光恵『ナイチンゲール7世』

2024-09-26 06:33:00 | その他
ルパン3世の看護師版みたいなタイトルで内容もそんな感じです。痛快な医療ものを期待して読み始めたけど、残念だがあまり弾まない。これは文体の問題だと思います。会話中心だからキャラクターが立たない。お話は今医療現場で問題になっているタイムリーなことばかりだけど、切り込みが浅いからあまり驚きはない。天才看護師ナイチンを中心にしたチームも個性が際立っていないのも残念。エンタメのはずなのに、爽快感がない。 . . . 本文を読む
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谷川俊太郎『からだに従う』③

2024-09-25 04:55:00 | その他
いつまでこれを読んでいるのか、と思うが、仕方ない。まだ読んでいる。ようやく老いに辿り着く。最後のエピソードは2001年の4月、朝日新聞に書いた『風穴をあける』という文章。その時、彼は70歳。詩について書いた文である。これを最後に持ってきたのは作為的な選択だろう。   僕はこれを読んでいる間に、他の本は5冊読み終えている。基本通勤用にして読んだからこれだけの時間かかった。20代から70 . . . 本文を読む
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