人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

音楽映画の常識を覆す『セッション』・・これって軍隊物だよね

2015-12-21 06:18:00 | 映画
 




■ 年末年始のDVD鑑賞のお勧めは『セッション』 ■


年末年始、レンタルショップでDVDを借りて映画をご覧になる方も多いでしょう。そんな方にお勧めなのが『セッション』。

話題作なので、もうご覧になられた方も多いかと思いますが、遅ればせながらレビューを。

■ ロックのドラムは体力、ジャズはテクニック ■

大学時代、同じアパートに住んでいた大柄なバレー部員は、ドラムが叩けました。体育会系の見た目からロックのドラムだとばかり思っていましたが、彼は意外にもジャズドラムを習っていた。

「ドラムって体力使うよね」と聞いた私に彼は「ロックのドラムは体力が必要だけど、ジャムのドラムはテクニックが必要であまり疲れないよ」と答えました。そういえば、ジャムドラムってブラシでシャラシャラやっているイメージだよな・・・。

それ以来、「ジャズドラムは疲れない」というイメージが出来上がっていましたが、それを完全に覆すのが本日紹介する『セッション』という映画。

■ 軍隊の鬼軍曹も震え上がる鬼教官 ■

ニューマンは音楽学校でジャズドラムを勉強する学生。ある日、彼の個人練習に一人の教官が顔を出します。「ダブルスウィングは叩けるか?」そうリクエストした教官は有名なピアニストのフレッチャー。

フレッチャーは彼のビックバンドにニューマンをスカウトしますが、その練習のキツい事。団員達は時間前に集合し、ニューマンの登場前には緊張感で張りつめています。音程を外そうものなら執拗な追求が待っています。「今音を外したヤツが居る。自分が外したと思う者は手を挙げろ」・・・「誰も居ないのか、それとも自分が外した事が分からないのか?」

一人のオタクっぽいトロンボーン奏者を指名して演奏を求めたニューマン。「お前が音を外したんだ、マンガ野郎。出て行け!!」と教室を追い出した後、別の学生に「音を外したのはお前だ。だが、あいつは自分が外していない事すら分からなかった」と言います。

・・・・コワーーーイ。まさに鬼です。

■ 血が出るまで練習して主奏者の座を獲得する ■

ドラムの主奏者の座を巡る争いも熾烈です。コンテストに出場したフレッチャーの楽団ですが、ドラムの主奏者から預かった譜面をニューマンが紛失します。本番を前に「暗譜出来ていません。記憶力に問題が有るのです」と告げる主奏者。それを聞いたニューマンは「僕は暗譜しています」と胸を張る。・・・オイオイ、楽譜を無くしたのはお前だろう・・・。

こうして主奏者の座を射止めたかに見えたニューマンですが、彼は「仮主奏者」に過ぎないとフレッチャーは言います。そして、第三のドラマーを連れて来ます。あまり上手とは言えない彼をフレッチャーはチヤホヤしますが、完全に咬ませ犬です。三人を競わせる事でニューマンにプレッシャーを掛けます。

ニューマンは付き合い始めた彼女とも別れ練習に没頭します。マメが潰れて血だらけになった手を氷水で冷やしながら、必死でスティックを握ります。そうして手にした主奏者の座ですが、彼の不注意から・・・。

■ 軍隊物を音楽に持ち込んだ意欲作 ■

音楽物の映画と言えば、売れないミュージシャンが幸運を掴んでビックになるストーリーか、著名なミュージシャンの伝記的な作品がほとんどです。

しかし、この英外は音楽映画の概念を根底から覆します。スポコン物や軍隊物のセオリーを持ち込んで成功しています。視聴者は一時も気を抜けません。

しかし、この映画で最も素晴らしいのは、主人公が挫折して復活してからの2転、3転の展開です。私達の先入観を見事に覆します。ここら辺が「地獄のシゴキの後の勝利」を描くスポコン物や軍隊物との大きな違いでしょう。最後まで緊張感が支配し続けます。

■ 若干24歳のデミアン・チャゼル監督の経験が生んだ傑作 ■

若干24歳で脚本と監督をこなしたデミアン・チャゼルは高校時代に実際に所属したジャズバンドで、同様な経験をしたとWikipediaに書かれています。

主役を演じたマイルズ・テラーは、2か月間一日3~4時間の練習を経て撮影に臨んでいます。映画の中で流れる血は本物だそうです。アメリカのエンタテーメントビジネスの厳しさが伝わってきます。

まさに鬼気迫る内容の映画ですが、各国の映画祭で絶賛された事は皆さんもご存じでしょう。鬼教官を演じた J・K・シモンズがアカデミー助演男優賞を受賞しています。

■ ジャズ界で鬼教官と言えば・・・レニー・トリスターノだろうか? ■

映画の中でフレッチャーはニューマンにチャーリー・パーカーの話をします。ステージでヘマをやらかしたチャーリーのフィーリー・ジョー・ジョーンズがシンバルを投げつけたと・・。「よくやった」という言葉は天才を殺すと・・・。

ところで現実のジャズ界の鬼教官と言えば・・・私はレニー・トリスターノを思い浮かべます。『鬼才トリスターノ』というアルバムタイトルがそんなイメージを生むだけですが、教師としても有能だった彼の「トリスターノ・スクール」からは、リー・コニッツやビル・エヴァンスといったジャズの巨人が生まれています。トリスターノは1950年代から教職に情熱を傾けますが、体系的にジャズを教えた最初の人物だと言われています。

トリスターノは盲目のピアニストですが、それ故に音に関する感覚は鋭敏です。ビーバップが全盛の時代に、和音に注目して、独特の体系を作り上げます。「クールジャズ」と分類される事も有りますが、西海岸のスムーズな白人ジャズとは全く異なり、「極度な緊張感と厳しさ」がその音楽を貫いています。

彼はリズム隊に対しては徹底してテンポのキープを要求した様です。メトロノームの様に淡々と正確なリズムを刻ませます。

『セッション』の中でも、フレッチャーがニューマンに徹底してテンポの正確さを要求するシーンが有ります。自由気ままに演奏されている様に見えるジャズですが、その自由さは高度なテクニックに支えられています。

逆サプライズに翻弄された日経平均・・・HFTの暴走?

2015-12-19 06:35:00 | 時事/金融危機
 

■ 大きすぎる期待が生んだ黒田ショック ■

昨日は「逆サプライズ」に翻弄された日経株市場と為替でした。
今回の日銀の政策決定会合は追加緩和は発表されないと市場は見込んでいましたが、何と「予期せぬ追加緩和」が発表されました。

これを市場は好感してドル/円は一気に1円近く円安になりました。株式市場も19、869円と一気に2万円超えを達成するかに見えました。ところが、ここから市場は一気に反転します。

報道の多くは「追加緩和の規模が小さかった事への失望」が原因としています。

1)80兆円の資産買い入れ額は継続する
2)年間3兆円のETF買い入れ額も継続する

3)購入国債の平均期間を「7〜10年程度」から「7〜12年程度」に延長
4)設備投資などに積極的な企業の株を中心にETFの買い入れを3000億円拡大する
5)銀行株などを中心に3000億円市場で売却する

・・・これ「追加」では無くて「調整」ですよね。良く見るとマネタリーベースの拡大規模は変わりません。「ETFの買い入れを3000億円追加」辺りに敏感に反応してしまった市場ですが、すぐに「追加緩和」で無い事に気付きます。

■ 為替市場の変動を後追いした株式市場 ■

実は昨日の乱高下、為替市場が先に反応して株式市場は少し遅れてその後を追っています。

為替ディーラーらは日銀の追加緩和の内容がショボイ事に直ぐに気づいたのでしょう。だからドル/円は15分余りで円安に1円程変動した後に一気に円高に反転しました。

多分これに外資のHFTのプログラミングが敏感に反応したのでは?

円安=日本株買い
円高=日本株売り

こうプログラミングされているはずです。

■ 「日本株は2万円で売れ」の法則 ■

多分昨日の日本株の乱高下には「日本株は2万円で売れ」の法則も働いていたと思われます。個人投資家から外資まで、2万円を一つの節目として利確を考えていたでしょうから、2万円を目前にして一気に売り注文が出たと思われます。

相場が反転した事を感知して、外資のHFTも売りを加速させたのでは無いでしょうか。これが更なる下落を加速させたのでは?

■ 日銀は手詰まりなのか? ■

ところで昨日の日銀発表の内容はいったいどの様な効果が有るのでしょうか。

買い入れ国債の残存年限の長期化は、中短期国債の購入を減らし、長期、超長期国債の購入枠を増やす事を意味しています。

現在、中短期国債の金利は十分の低下しており、このまま日銀が買い続けるとマイナス金利が固定化される恐れが有ります。金利がマイナスになれば日銀は国債購入で損失を被る事になり、さすがにこれはマズイ。

さらに、金融庁は国内金融機関に保有国債の残存年限の圧縮を指導していますから、市場には残存年限の長い国債が放出される事になり、この買い手が居なければ中長期国債の金利が上昇してしまいます。そこで日銀が中長期の国債を買い支える事となります。

■ 「マジックタイム」が続く内に財源を低コストで確保した政府 ■

日銀が購入国債の残存年限を長期化する事で、中長期国債の金利が下がり、政府は低コストでこれらの国債を発行して財源を確保する事が可能になります。将来的に金利が上昇しているならば、今の低い金利で出来るだけ長い償還期間の国債を発行する方が、メリットは大きくなります。

現在の日本国債市場は「異次元緩和」によって国債金利が実体よりも押し下げられています。いわば「マジックタイム」の状態です。このマジックは、シンデレラの掛けられた魔法の様に時間制限が掛けられています。異次元緩和をこの先5年10年と続ける事は不可能だからです。

既に日銀は残存国債の30%以上を保有していますが、このままのペースで買い入れを勧めればいずれ50%以上の国債を保有する事になり、流石にこの状態が「財政ファイナンスでは無い」とは言えなくなってきます。ですから日銀はどこかの時点では出口戦略に切り替えざるを得ず、この時点で余程民間のリスクが高まっていない限り、国債金利はぴょんと跳ね上がる事は確実でしょう。

こうなる前に出来るだけ長期国債を発行しておきたいというのが財務省の思惑だと思われます。日銀はこれに忠実に従っているだけでしょう。

■ 金融政策を捨て、実利に走る日銀 ■

ETFの3000兆円上乗せは明らかに株価の下支えを意図しているはずです。さらには「設備投資に積極的な企業」などという「金融政策を逸脱した」様な条件を付けるなど、もはや異次元緩和は政府の景気回復のツールと化した感すらあります。

そもそも、「株式市場を中央銀行が買い支える」事自体が前代未聞の状況でクレージーです。

株価が下がれば日銀の含み損も拡大するので、株価を買い支える為にお金を刷る

こんな通貨に信用もへったくれも有りません・・・・。「リフレ政策」という言葉に騙されていますが、日銀の異次元緩和の内容は、「金融政策」よりも実はかなり「実利的」なものである事が露呈して来ています。


■ 優秀なイエレンと間抜けなドラギと黒田・・・これは酷すぎる ■


12月3日のECBのショボイ追加緩和と、昨日の日銀の逆サプライズで、「FRBのイエレンは有能だった」という意見が多く聴かれる様になりました。「黒田はイエレンの爪の垢を飲むべきだ」なんて意見も有ります。

ところでイエレンやFRBはそんなに有能なのでしょうか?イエイエ、そんな事は有りません。ただ、時間を掛けて「サプライズ」に成らない様にしただけ。市場が「利上げを当り前の事と認識する」様にしただけです。

これはバーナンキも同じで「テーパリングを当たり前の事」と認識させる時間を掛け、その前に多少市場を揺さぶって過剰リスクを整理したに過ぎません。

さらに、世界はドルの崩壊や、金融市場の混乱を望んではいないので、金融市場の関係者は利上げに際して多少の仕掛けはしたとしても、市場が崩壊する様な行為に出るとは考えられません。結局、大多数の人々が「現状維持」を望むのであれば、崩壊を仕掛ても勝負にはなりません。多少のボラティリティーの上昇はあっても、それが市場を一気に崩壊させる力にはなり得ません。

「イエレンが優秀」なのでは無く、市場関係者が正気を保っているだけというのが今回の利上げ成功の要因です。

■ 根っこが腐った大木はいつかは倒れる ■

米利上げ成功で安堵する市場ですが、実はその根っこは相当腐っています。金融緩和による資金供給は根腐れの進行を抑制する効果を持っていますが、これが縮小されるのですから、根腐れは再び進みはじます。

既に新興国から相当な資金流出が起きており、ジャンク債市場も崩壊が始まっています。これら末端の根の腐敗から市場崩壊は始まり、最後は巨木も根本から倒れるのでしょう。

多分、2016円夏ごろから、葉が枯れる様な目に見える変化が株式市場などで起こり始め、人々は異変に気付くはずです。


FRBが量的緩和に戻っても、ECBや日銀が量的緩和を拡大しても、「マジックタイム」の終焉を人々に意識させるだけで、一時市場が回復しても直ぐに混乱は拡大してゆくでしょう。

夢はいつかは覚めるのです・・・。

目先の利益で国民を誘導するポピュリズム・・・メクラマシの軽減税率

2015-12-14 07:53:00 | 時事/金融危機
 

■ 日本のエンゲル係数は所得による差が小さい ■

驚いた事に官邸は自民党内や財務省を押し切って、軽減税率の範囲を外食まで拡大する様です。理由は消費税の逆進性の低減による低所得者への配慮。低所得者では所得における食費の割合(エンゲル係数)が高いので、増税の影響を高額所得者よりも大きく受けると言われているからです。

年間所得436万円以下 24.5%
年間所得906万円以上 20.4%

上の数字は日本における所得別のエンゲル係数です。実は日本は所得によるエンゲル係数の差が少ない社会です。貧乏人も金持ちも所得に占める食費の割合はそれ程変わらないのです。

■ 貧乏人も金持ちも等しく得をする食品と外食への軽減税率 ■

政府は全ての生鮮食品と加工食品、そして外食への軽減税率の適用を決めた様です。これは公明党が求めていた案よりも外食まで範囲を拡大した驚くべき内容です。

一見、低所得層に配慮した政策に思われますが、スーパーの安い輸入豚肉も、百貨店の松坂牛も等しく軽減され、牛丼一杯も、高級レストランのディナーも等しく軽減されます。


■ 軽減税率導入の財源として低所得層への補助が打ち切られる ■


驚くべき事に、軽減税率導入で不足する税収を補てんする為に、低所得層への補助が削減されるそうです。これでは、逆進性が拡大して本末転倒です!!

本来は税率を一律に10%に引き上げる一方で、低所得者への税額還付を拡大するとか、或いは累進性の見直しで低所得層の所得税率を引き下げる方が、確実に逆進性を緩和出来、かつ事務的にも全く手間が掛りません。

しかし、税率の変更などは国民に分かり難く、日々の買い物で減税効果を実感できる軽減税率の方がアピール度が高い。選挙での人気取を意識した公明党の戦略に安倍政権は便乗したと言えます。

ポイント制の還付に上限を設けた財務省案の方が無節操な軽減税率よりも逆進性の緩和には理に適っていました。(これはこれで手続きの煩雑性や、ITゼネコンの問題が大きかったmのですが・・・)


■ 公明党無くしては選挙に勝てない自民党 ■

政府が財務省や谷垣氏らの抵抗を強引にねじ伏せて軽減税率を導入する理由は、公明党の選挙協力無くして自民党は選挙に勝てないからです。

国政選挙の投票率が低下する中で、組織票の割合は上昇し続けています。労働組合の組織率が低下する中で、創価学会の会員は学会員の地道が勧誘活動(生活保護などをエサに)によって成人会員の数は500万人程度を維持していると言われています。

労働組合員の数は1000万人程度ですが、組合員の多くは選挙に行きません。これに対して創価学会会員は選挙に熱心なので、その票の行方は選挙結果を大きく左右します。

■ 長期政権化しそうな安倍政権 ■

安倍政権は「ポピュリズム(人民主義・大衆迎合主義)」に訴える事が実に上手い政権です。政権発足当時は大型補正予算や異次元緩和、そして先の解散総選挙では消費税増税延期を争点にするなど、国民が喜ぶ政策を掲げます。

その一方で、TPP合意や安保法案など、国民が反対している政策や法案などを、国家での数の理論によって強硬に採決しています。

今回の軽減税率の導入も、来年の参議院選挙を睨んだ国民サービスです。実際には税率が下がる訳では無いので、国民の負担増は変わらないのですが、何となく国民は得した気分になります。

マスコミの論調は「軽減税率に反対する自民党内の意見や財務省を官邸が押し切った」という内容なので、安倍首相は「国民の味方」に見えてしまいます。小泉政権の時もそうでしたが、「ポピュリズム」の政権は長期政権化します。

■ 憲法改正は国民投票がネックになるので難しい ■

安倍首相の国民サービスは、国会での2/3の議席を確保して憲法改正を実現する為のものと思われがちですが、憲法改正には国民投票で1/2の賛成が必要なので、憲法9条の改正などはハードルが高いと思われます。それこそ「尖閣有事」でも起きない限りは・・・。

私達は安倍首相の「なりふり構わぬポピュリスト振り」を見て、その目的を「憲法改正の実現」と勘違いしがちですが、実は目的は別にあるのでしょう。「憲法改正」はその目惑ましに過ぎません。


■ 国会で安定多数を維持する事で、構造改革や規制緩和を加速する ■

安倍政権はアメリカの傀儡政権ですから、その最大の政治課題は構造改革や規制緩和だと思われます。アベノミクスの三本目の矢ですが、現状はTPP合意と郵政関連株公開程度にとどまっています。(実は来年4月の混合診療の事実上の解禁が一番私達の生活に影響を与えそうですが)

既得権者や高齢者が強硬に反対する規制緩和などは、安定した政権で無ければ実現が難しい。安倍政権は国民に「アメ玉」を乱射する事で高い支持率を維持し、安定した政局運営を実現しています。

今後は構造改革や規制緩和をかなり強引に進めて行くでしょう。まさに、小泉政権の再来です。

■ 目先の利益に飛びつく国民は、将来の損失に気付かない ■

軽減税率にしろ、補正予算にしろ、国民は分かり易い目先の利益に飛びつきます。一方で将来的な不利益に有権者は無頓着です。

この様な、表面的なメリットとデメリットの非対称性を利用するのが「ポピュリズム」です。

確かに、現在の日本に必要なのは構造改革や規制緩和といった成長率を回復させる転換です。しかし、改革は傷みを伴い、日本の利益よりもグロバル資本家の利益が優先されるケースも多々あるでしょう。

本来は国民が「痛みを自覚しながらも改革を選択する」事が一番ですが、現在に日本人には無理なのでしょう。だから「ポピュリズム」が利用されるのでしょう。実はこれは日本に限らず、世界全体で進行しています。集団の利益より個人の利益が優先される民主主義はこうして腐って行くのです。

原油安とサウジアラビアの財政問題・・・中東の地雷

2015-12-10 14:47:00 | 時事/金融危機
 

■ シリアより影響が大きいサウジアラビアの財政赤字 ■

中東情勢はシリア国内のISISに注目が集まっていますが、実はサウジアラビア問題がラスボスとして控えています。

原油価格が40ドルを切っていますが、中東の雄と言われるサウジアラビアの財政が均衡するのは107ドル/1バレルだとか。現在の原油価格ではサウジアラビアは財政赤字に陥ります。

その為、オイルマネーを世界の市場に投資していたサウジアラビアは一気に投資を引き上げて財政補てんに充てている様です。その金額は全世界で10兆円とも。日本株市場からも、サウジアラビアの投資が引き上げられてと言われています。

■ シェール潰しのはずが・・・ ■

原油安の原因はサウジを始めとする産油国の利益を度外視した増産に有ると言われています。その目的はアメリカのシェール企業潰しだという意見を目にしますが・・・ここら辺は少し怪しいかと・・・。

確かにシェール起業の採算ラインは70ドル/バレル程度なので40ドルではとても利益が出ません。その為、シェール企業は効率の良い油井に生産を集中して原価を下げています。現在、アメリカの生産を続けている油井は最盛期の1/3に減少していますが、日量平均は900万バレルとそれ程減少はしていません。

一方、シェールビジネスはウォール街から資金調達していましたが、これが難しくなっています。そこで、手持ちの株や有価証券などを売り払いって急場を凌いでいます。原油も価格が少しでも改善した時に先物市場でヘッジ売りをして利益を拡大しています。

このヘッジ売りが原油価格の上値を抑えてしまうので、原油価格は安値を脱する事が出来ない。

結果的にシェール企業も青色吐息ですが、原油安の継続はサウジアラビアやロシアなどの産油国の経済や財政を等しく圧迫しています。

■ サウジ独裁政権を支える高福祉 ■

サウジアラビアの国民には所得税が有りません。公共サービスの多くは無料で提供されています。これは、サウジアラビアの石油を国家が管理し、その売却益を国家予算に繰り入れる事によって可能となる政策です。原油価格が下落すると、この財政赤字が拡大して、このシステムが維持不可能になります。

サウジ王家は「ワッハーブ教」という非常に戒律のキビシイ宗派の信仰を国民の強要しています。当然、国民の間に不満が高まりますが、それを無税や無料の公共サービスによって和らげています。

このまま原油価格げ低位で安定した場合、サウジ政府は高い水準の無料の社会福祉政策を維持出来なくなり、国民の不満が高まる恐れが出てきます。「アラブの春」がサウジで起きる可能性が高まるのです。

■ 戦争を欲する原因になるサウジの財政問題 ■

原油価格の下落の要因は供給過多と、世界的な景気後退と言われています。しかし、株式や債券に比べ現物市場は資金循環の影響を強く受けます。FRBの利上げを見越して、原油を始めとする商品価格はバブル状態から本来の価格に戻ったという見方の方が正しいのかも知れません。そもそも原油価格の適正は40ドル台/バレルだとも・・・。

ところが、サウジを始め中東産油国は原油価格バブルに合わせて財政を拡大しています。ここに中東における混乱の火種が隠されています。

原油価格は中東有事の際に上昇します。サウジアラビアが財政的に追い詰められた場合、中東有事を仕掛けて原油価格を引き上げる「誘惑」が高まります。

サウジはスンニ派のISISに資金援助を行っていると言われていますが、サウジ国内でシーア派をISISが攻撃するテロも発生しています。


イスラエルとサウジアラビアとロシアといった今までは想像もつかなかた国々の接触が度々報道されています。中東情勢はイスラエルVSアラブという枠組みが壊れ、シーア派VSスンニ派の対立に変わりつつあります。

シリア情勢よりも、サウジアラビア情勢の方が世界に与える影響は巨大でしす。原油価格下は様々な問題の起爆剤になる事に警戒が必要でしょう。

アベノミクスを肯定的に眺めて見る・・・「今」に支えられた政権

2015-12-09 11:10:00 | 時事/金融危機
 
■ アベノミクスは確かに景気回復に貢献した ■

いつも安部政権に批判的な私も、実はアベノミクスの恩恵にあずかっているの身です。民主党政権末期よりも仕事の環境はだいぶん改善しました。ただ、これがいつまでも続くとも考えていません。(既にピークアウトしてうるでしょう)

アベノミクスのスタートの2012年は世界経済の回復期に有り、ユーロ危機が一段落し、米経済の拡大軌道に乗り始めたので円安になり易い状況でした。そこに異次元緩和をぶつけたのは「グット・タイミング」でした。円安のさらなる進行で輸出企業の業績が大きく改善しました。

量的緩和によって資産市場に大量の資金を注入したことも、株価の回復や、マンション建設ブームを生みだし景気回復を後押ししています。

■ 異次元緩和は将来的な日本国債の金利上昇に対する備え? ■

一方で、日銀の日本国債買大量買い入れ(異次元緩和)の結果、GPIFや共済などの年金資金や、ゆうちょ、かんぽの資金運用が日本国債一辺倒から、インフレに強い国内株や、円安に強い外債や外国株に半ば強制的にシフトさせています。これは、将来的に日本国債の金利上昇(価格低下)が発生するであろう事を予想させます。

■ 地方銀行や信用金庫の危機から地方金融の改編が加速するだろう ■


国債金利の上昇は地方銀行や信金など中長国債の保有率の高い金融機関の経営を破綻させます。

実は1980年代のアメリカの不動産バブルの崩壊の際に、アメリカでは中小の金融機関の多くた倒産しています。これらを吸収する形で最終的にはバックオブ・アメリカが急拡大しました。

多分、日本でも国債金利の上昇局面で似た様な事が起こると思われます。中小の金融機関が統廃合されて集約される事により、地方の中小企業を支える細かな金融サービスが衰退します。一方で統合が進んで巨大化した銀行は、資金を海外運用する事で金利を稼ごうとするでしょう。結果として補助金や公共事業で地方にばら撒かれたお金は、地方経済で循環出来ずに、海外に流出してしまうでしょう。

■ 「今」はある程度評価出来るが、「将来的」には評価を失うアベノミクス ■


「今」だけを見ればアベノミクスはそこそこの結果を生んでいますが、「劇薬」の服用による将来的な副作用は覚悟する必要があるかと。

12月にはFRBが利上を発表すると予想されていますが、これで2007年以降の世界的量的緩和に変化が生まれます。「利上げショック」が起こらなければ、世界の表面はあまり変化しませんが、資金循環の根底の変化は、1年後、2年後に大きな危機となって顕在化する事が多い。

官僚達は何となくそれを想定して色々な政策を政府に実行させている様にも思えます。