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■ 年末年始のDVD鑑賞のお勧めは『セッション』 ■
年末年始、レンタルショップでDVDを借りて映画をご覧になる方も多いでしょう。そんな方にお勧めなのが『セッション』。
話題作なので、もうご覧になられた方も多いかと思いますが、遅ればせながらレビューを。
■ ロックのドラムは体力、ジャズはテクニック ■
大学時代、同じアパートに住んでいた大柄なバレー部員は、ドラムが叩けました。体育会系の見た目からロックのドラムだとばかり思っていましたが、彼は意外にもジャズドラムを習っていた。
「ドラムって体力使うよね」と聞いた私に彼は「ロックのドラムは体力が必要だけど、ジャムのドラムはテクニックが必要であまり疲れないよ」と答えました。そういえば、ジャムドラムってブラシでシャラシャラやっているイメージだよな・・・。
それ以来、「ジャズドラムは疲れない」というイメージが出来上がっていましたが、それを完全に覆すのが本日紹介する『セッション』という映画。
■ 軍隊の鬼軍曹も震え上がる鬼教官 ■
ニューマンは音楽学校でジャズドラムを勉強する学生。ある日、彼の個人練習に一人の教官が顔を出します。「ダブルスウィングは叩けるか?」そうリクエストした教官は有名なピアニストのフレッチャー。
フレッチャーは彼のビックバンドにニューマンをスカウトしますが、その練習のキツい事。団員達は時間前に集合し、ニューマンの登場前には緊張感で張りつめています。音程を外そうものなら執拗な追求が待っています。「今音を外したヤツが居る。自分が外したと思う者は手を挙げろ」・・・「誰も居ないのか、それとも自分が外した事が分からないのか?」
一人のオタクっぽいトロンボーン奏者を指名して演奏を求めたニューマン。「お前が音を外したんだ、マンガ野郎。出て行け!!」と教室を追い出した後、別の学生に「音を外したのはお前だ。だが、あいつは自分が外していない事すら分からなかった」と言います。
・・・・コワーーーイ。まさに鬼です。
■ 血が出るまで練習して主奏者の座を獲得する ■
ドラムの主奏者の座を巡る争いも熾烈です。コンテストに出場したフレッチャーの楽団ですが、ドラムの主奏者から預かった譜面をニューマンが紛失します。本番を前に「暗譜出来ていません。記憶力に問題が有るのです」と告げる主奏者。それを聞いたニューマンは「僕は暗譜しています」と胸を張る。・・・オイオイ、楽譜を無くしたのはお前だろう・・・。
こうして主奏者の座を射止めたかに見えたニューマンですが、彼は「仮主奏者」に過ぎないとフレッチャーは言います。そして、第三のドラマーを連れて来ます。あまり上手とは言えない彼をフレッチャーはチヤホヤしますが、完全に咬ませ犬です。三人を競わせる事でニューマンにプレッシャーを掛けます。
ニューマンは付き合い始めた彼女とも別れ練習に没頭します。マメが潰れて血だらけになった手を氷水で冷やしながら、必死でスティックを握ります。そうして手にした主奏者の座ですが、彼の不注意から・・・。
■ 軍隊物を音楽に持ち込んだ意欲作 ■
音楽物の映画と言えば、売れないミュージシャンが幸運を掴んでビックになるストーリーか、著名なミュージシャンの伝記的な作品がほとんどです。
しかし、この英外は音楽映画の概念を根底から覆します。スポコン物や軍隊物のセオリーを持ち込んで成功しています。視聴者は一時も気を抜けません。
しかし、この映画で最も素晴らしいのは、主人公が挫折して復活してからの2転、3転の展開です。私達の先入観を見事に覆します。ここら辺が「地獄のシゴキの後の勝利」を描くスポコン物や軍隊物との大きな違いでしょう。最後まで緊張感が支配し続けます。
■ 若干24歳のデミアン・チャゼル監督の経験が生んだ傑作 ■
若干24歳で脚本と監督をこなしたデミアン・チャゼルは高校時代に実際に所属したジャズバンドで、同様な経験をしたとWikipediaに書かれています。
主役を演じたマイルズ・テラーは、2か月間一日3~4時間の練習を経て撮影に臨んでいます。映画の中で流れる血は本物だそうです。アメリカのエンタテーメントビジネスの厳しさが伝わってきます。
まさに鬼気迫る内容の映画ですが、各国の映画祭で絶賛された事は皆さんもご存じでしょう。鬼教官を演じた J・K・シモンズがアカデミー助演男優賞を受賞しています。
■ ジャズ界で鬼教官と言えば・・・レニー・トリスターノだろうか? ■
映画の中でフレッチャーはニューマンにチャーリー・パーカーの話をします。ステージでヘマをやらかしたチャーリーのフィーリー・ジョー・ジョーンズがシンバルを投げつけたと・・。「よくやった」という言葉は天才を殺すと・・・。
ところで現実のジャズ界の鬼教官と言えば・・・私はレニー・トリスターノを思い浮かべます。『鬼才トリスターノ』というアルバムタイトルがそんなイメージを生むだけですが、教師としても有能だった彼の「トリスターノ・スクール」からは、リー・コニッツやビル・エヴァンスといったジャズの巨人が生まれています。トリスターノは1950年代から教職に情熱を傾けますが、体系的にジャズを教えた最初の人物だと言われています。
トリスターノは盲目のピアニストですが、それ故に音に関する感覚は鋭敏です。ビーバップが全盛の時代に、和音に注目して、独特の体系を作り上げます。「クールジャズ」と分類される事も有りますが、西海岸のスムーズな白人ジャズとは全く異なり、「極度な緊張感と厳しさ」がその音楽を貫いています。
彼はリズム隊に対しては徹底してテンポのキープを要求した様です。メトロノームの様に淡々と正確なリズムを刻ませます。
『セッション』の中でも、フレッチャーがニューマンに徹底してテンポの正確さを要求するシーンが有ります。自由気ままに演奏されている様に見えるジャズですが、その自由さは高度なテクニックに支えられています。