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その蜩の塒

徒然なるままに日暮し、されど物欲は捨てられず、そのホコタテと闘う遊行日記。ある意味めんどくさいブログ。

図説戦国時代~武器・防具・戦術百科

2014年07月26日 | 本・雑誌
 武器・防具・戦術百科というと、RPGの攻略本のような感じですが、挿絵が多く文章を読まずともある程度理解できますし、斜め読みでも結構ですのでまずは手にとってみてください。特筆すべきは、これがアメリカの歴史学者 Thomas D. Conlan による執筆だということ。今まで世界史の観点から、アジアはともかくヨーロッパとの比較の上で戦国時代が論じられたことがなかったことに対して、風穴を開けたといっていいでしょう。

 初っ端から三島由紀夫の座右の書であり、特攻隊員の愛読書であった山本常朝(つねとも)の「葉隠」が登場。日本人の死生観とか「滅びの美学」が、見事にこの書と合致してしてしまったものと思われます。「武士道云うは死ぬ事と見付けたり」だけが取り上げられ独り歩きしてますが、そもそも太平の江戸で武士の倫理観が欠如してきたことを憂い書かれたもの。しかも田代陣基が山本の話を聞き書き残したものです。当の山本自身は、出家し坊主となり生き恥を曝すという最後であったようです。

 その葉隠は、西行法師の山家集の「葉隠れに散りとどまれる花のみぞ忍びし人に逢ふ心地する」からとったものとする説が有力です。散り残った花(桜)に、廃れてしまった武士道精神を重ね合わせたんでしょうか? 本書でも解説してる通り、17~19世紀の武士は刀や弓矢を実戦で使ったことがなく、俸禄を受け取る役人として城下町に住み、より官僚的になってました。いわばサラリーマンですよ。侍という字も、「侍(はべ)る」、仕えるという意味から、有力な武士の家来のことで決して身分が高いわけではありません。

 13~14世紀に話を戻しますと、馬の体高は130~140cmと低く、女性も戦闘に参加していたというから驚きです。時代劇では刀での派手なアクションが目につきますが、実際には甲冑と馬は高くつくので馬を失うような接近戦はほとんどなく、積極的に戦いに参加する者は少数でした。武器は全長2mにもなる大弓で、先端の鏃には鉄や鋼を使用。弓矢の運び手である「手明(てあき)」も存在しました。負傷者の2/3~3/4は弓矢によるもの。散兵の一種である野伏(のぶし)は、険しい丘の中腹や人家の屋根に身を隠し、敵に矢を雨あられと射掛け、近寄る騎馬武者たちの不意をついた、という記述はベトナム戦争におけるベトコンの戦いを彷彿とさせます。もっとも1万キロに及ぶ地下壕の存在があってのことですが。また、その弓矢には遠くに飛ぶように矢羽根が使われてますが、鳥なら何でもいいというわけではなく、フクロウやニワトリ、アオサギは使わないというこだわりがありました。

 15世紀になると槍が主流になり、刀はほとんど使われなくなってます。16世紀の足軽の武器も当然槍で、騎馬兵に対し効果的でした。信長は槍の長さを8.8mにまで伸ばしてます。17世紀は鉄砲と大砲の時代到来ですが、これが築城にも影響を及ぼしてます。

月凍てる~人情江戸彩時記

2014年07月25日 | 本・雑誌
 先ずは、文芸評論家縄田一男氏の解説より「この作品のうまさは、この人となら幸福になれるではなく、この人となら苦労ができる、という結婚の本質をズバリいい当てていること」とは、まさしく言い得て妙。苦労話にこそ感動が宿っているものです。とはいえ女性らしいきめ細かな文体と情景描写は、ストレートな表現が多い現代においては時にはまどろっこしく感じるかも。

 本書は坂を題材に、四つの短編から構成されています。「秋つばめ-逢坂・秋」は、それがどんな事情であるにせよ、結婚していながら坂の上の愛人に遭いに通っているのに、永遠に愛している、とは女性ならではのロジックで都合がよすぎやしませんか!? 

 「ひょろ太鳴く-鳶坂・夏」は、真面目でいいヤツが騙されるという典型的な物語。鳶のひょろ太がしばらく姿を見せないと思ったら、家族を連れて戻ってきます。それと同時に酔っ払いの父源治も立ち直り、直次郎は罪を犯したものの「おなか(おっかさん)」のいる川越へ。おやえも子を宿し、一家の団結をひょろ太一家に重ねたものであるのは明白。

 「月凍てる-九段坂・冬」…宇乃の乳搾りは、子を宿したわけでもないのに意味不明。兄の精之進が久蔵に殺られたのは、年貢の横流しが発覚したからという真実。時代小説によくある展開です。物語の核は、仇討ちのために二人の女性を失ってしまったということでしょう。ひとつは、仙太郎に久蔵の居場所を探してくれたら、おふくを諦めると約束したことへの後悔。二つめは、心惹かれた嫂(あによめ)宇乃と一緒になり、刈谷家を存続させる選択肢もあったこと。かといって仇討ちしないことには、悶々とした日々を送ることになります。結局は、酒売りの「おたつ」の言葉に象徴されてるのかもしれませんね。

色川武大~明日泣く

2014年07月16日 | 本・雑誌
 大ヒット作「麻雀放浪記」を始めとするギャンブル小説は阿佐田哲也で、純文学は本名の色川武大で書いて1978年に直木賞を受賞してます。60歳で亡くなってからもう既に25年も経ってますが、未だにその生き様は語り草となっています。持病の睡眠障害のナルコレプシーに加えて、過食傾向で1日6食、混ぜご飯は1度に4合も食べてたというから驚きです。交友関係が広く裏社会にも精通し雑学に長けてましたが、ややもすると下ネタに絡めてしまうので、夏目漱石をこよなく愛した純文学者として品格に欠けてしまうのは葛藤だったかもしれませんね。

 ところで、タイトルの「明日泣く」は、映画にもなったジャズナンバー“I'll cry tomorrow”の邦題です。色川氏は、晩年知る人ぞ知るジャズ喫茶「ベイシー」の店主とも知り合いだったこともあり、岩手県の一関へ引っ越してしまうぐらいジャズ好きでした。ジャズピアニストのキッコこと定岡菊子のアウトローな人生を描いたものですが、色川自身が破天荒に生きてるようで、弱い人間に寄り添うというか手を差し伸べてしまう優しさがあったんでしょう。

 名無しの恋兵衛の3部作は、時代小説がかった創作話で面白かったです。名無しの恋兵衛と牛の話、桃色木馬では、花魁の高尾になかなか会えないのは組合が存在してたという展開。そして「今晩わ幽霊です」では、お露にとりつかれた恋兵衛が、紀州の山伏を衰弱死させる役目をお露に与えて一安心してたら、一仕事終えてまたとりつかれるという、なんじゃそりゃという結末が可笑しかったですね。

ヤマケイ&ワンゲル6月号

2014年05月30日 | 本・雑誌

 久々にヤマケイとワンゲル6月号を買ってみました。ヤマケイもファミリーに媚びる時代になったんですね。日本百名山奮登記は面白かったですし、春を背負ってのインタビュー記事もよかったです。マツケンは山にはまった感がありますね。DEATH NOTE、GANTZなどヘンと言ってはなんですが、奇妙な役どころが多かったですからね。今回はナチュラルな彼を見れそうです。それからなんと、岳人がモンベル傘下に入り9月から再発行されるんですと。広告はモンベル一色だったりしてね。そうそう最近ノルウェーのアウトドアブランドで、昨年日本上陸したNORRONA(ノローナ)というのがスゴイ勢いです。TNFのスターライトジャケットもトップ紙面で紹介されてましたが、値段は45,360円。雑誌では渋い黄土色でしたが、ネットで見ると明るい黄色で安っぽく見えてしまいました。なので、実物を見ないで買うのは危険なんですよねー。

 ワンゲルの「歩こう。北アルプス」は、地図がちょっと見にくいのが難点ですけど、内容は充実してます。縦走路のバイブルとして一冊持っておきたいですね。工程表-計画の要点-装備はさらっと書いてるんですが、エスケープルートと食糧計画は紙面を割いてる分とても参考になります。縦走といっても、複数泊のは年に2回もできれば御の字って人が、私も含めてほとんどかもしれませんけど。今シーズンは無理ですが、栂海新道と奥秩父の主脈はぜひ歩いてみたいコースです。

『川あかり』

2014年05月19日 | 本・雑誌

 お知らせですが、ついに葉室燐著『蜩の記』が10月4日公開されます。まだだいぶ先ですが、公式サイトもオープンしてますのでご覧ください。

 さて、川あかりを読みました。今回も架空の綾瀬藩が舞台。主人公の伊東七十郎は、くそ真面目過ぎるぐらいお若に対して何度も約束を守ってきましたが、とうとうエンディングまでそれを貫き通してしまいました。でも、肩肘張って自分に言い聞かせてるだけで、わざわざ訪ねてきた美祢(みね)を袖にした後ろめたさはあると思います。なにしろ一目ぼれの片想いだったのですから。それにしても、藩で一番の臆病者が刺客にされ、その葛藤と戦いながらも結果的に勝ち進むのは小気味いいものです。人殺しの馬方の松蔵を捕え、凄腕の佐野又四郎、甘利典膳まで倒してしまったんですから。登場人物が総出でバックアップするラストは、蛍草と同様の手法でしたが、残念ながら今回はヘンなあだ名はなしでしたね。その面々は、牢人の佐々豪右衛門、猿廻しの弥之助、坊主の徳元、やくざの千吉、鳥追いのお若、洪水の被害を受けた村の復興を志すものの病気の佐次右衛門とその孫のおさとと五郎。これらの人々とは、川止めで足止めをくらったことにより、木賃宿でしばし同宿することになるんですが、一時は流れ星なる盗賊団の一味に取り込まれるのか!?といったハプニングも。また猿廻しの猿が肩に乗るシーンは、「オランダ宿の娘」の間宮林蔵の猿とかぶってしまいました。終盤は、金の観音菩薩像の真相や藩の派閥争い、出雲屋や大坂商人との癒着とか借財なんかの裏事情も絡んできて、面白い展開になりました。あまり身分関係がクローズアップされず、むしろ世間から疎まれてる人々に光を当ててるところも、庶民受けしてるんだと思います。

【漢字】
領袖(りょうしゅう)…人を率いてその長となる人物。
捨身飼虎(しゃしんしこ)…釈迦の前世が飢えた虎に自らの身体を与えて喰われたこと。自己犠牲。
外面如菩薩内心如夜叉(げめんにょぼさつないしんにょやしゃ)…外見はやさしく穏やかに見えるが、心の中は邪悪で恐ろしいというたとえ。多くは女性にいう。
切歯扼腕(せっしやくわん)…歯ぎしりをし腕を強く握り締めることから、非常にくやしく思うこと。
逐電(ちくでん)…すばやく逃げて行方をくらますこと。
一蓮托生(いちれんたくしょう)…他人同士でも運命を共にする場合に用いる。