木山捷平「井伏鱒二・弥次郎兵衛・ななかまど」(講談社文芸文庫)の太宰治のところを読む。
そこに、太宰の「津軽」に関するおもしろい記述があった。
故郷の津軽をどう書くべきか悩む太宰に鱒二が
「もしぼくが書くんだったら、ぼくが津軽を旅行するように書くがね」
と言ったとか。
その言葉を受けてか、そのような内容に仕上がっているとのこと。
「津軽」は小山書店の新風土記叢書の第7編で、戦前(戦中といった方が適切か)の一冊。
調べてみるとココに色々と詳しく書いてありました。
第1編は宇野浩二の『大阪』(昭和11年4月)
第2編は佐藤春夫の『熊野路』(同前)
第3編は青野季吉の『佐渡』(昭和17年11月)
第4編は田畑修一郎『出雲・石見』(昭和18年8月)
第5編は中村地平の『日向』(昭和19年6月)
第6編は稲垣足穂の『明石』(昭和23年4月)
第7編は太宰治の『津軽』(昭和19年11月)
第8編は伊藤永之介『秋田』(昭和19年11月)
第9編・田中英光の『土佐』、第10編・中山義秀の『白河』が続刊予定だった。
稲垣足穂が「明石」を第6編として書いているところも興味深いのです。
また、第5編の「日向」に中村地平という名前が。
これも、木山のこのエッセイの中で取り上げられている人物で、小説「南方郵信」の名前もある。
とは言え、需要が無く、どうせ全集ぐらいでしか読めないのだろうと思っていたら、
ポプラ社の百年文庫の91巻の朴(木山捷平、新美南吉、中村地平)に収録されているとのこと。
このシリーズ、全くノーマークだっただけにびっくりしました。
タイミング良く、昨年の11月刊行でした。
ちなみに角川文庫に「日向」が収録されていますが、1957年刊(復刊ぜったいにありえない、とほほ)。
第9編予定だった、田中英光もどっかで聞いたことのある人だと思ったら、講談社文芸文庫に収録されていた。
第10編予定だった、中山義秀もテニヤンの末日の人だし、この頃の作品というか、
人から人への流れにものすごく興味が湧きます。
その根底には、もちろん井伏鱒二の「荻窪風土記」(新潮文庫)があるのですが、
まあ、その話は別の機会で。