備忘録

主に晩御飯を記しています。不味い物は作ってないつもりですが、問題点も多々…。ただ今、カテゴリー工事中です。

お伽噺 ~その2 (地蔵盆)~

2005-08-24 | 
不思議な行事のことを書いていたら、家の外がにぎわっている。
その喧騒を聞いて、思い出した事を記す。


子供の頃、我家の周りには結界があった。
そして、幼い私には、母の呪いが掛けられていた。

怪談じみた書き出しは、夏だから。
他意はない。
そして、何の心霊現象も起こらない。

だが、確かに 母の呪いは存在し、我家の周りには 結界があった。



先人 曰く、思慮深いが、動作は緩慢で 頭の回転の早くない子供に
「本当に、愚図でダメな子ね」 と言い続ければ、「愚図でダメな子」 が育ち
「おっとりした、のんびり屋さんね」 と言い続ければ、「のんびり屋さん」 が育つらしい。



我家の周りの 結界は、母が唱え続ける 呪いの言葉によって 張り巡らされていた。



「大通りの向こうは怖いのよ、悪いおじさんがいるからね」
「子供だけで、あの橋を渡ってはダメよ、自動車が危ないからね」



そんな呪詛の言葉が、家から少し離れた場所を、恐怖に満ち溢れた異世界にした。

幼い冒険心から 結界を破れば、悪そうな 怖いおじさんに遭遇し、

走り去る車には クラクションを鳴らされ、肝を冷やす。

おまけに、何故か母の知る所となり、烈火のごとく叱られる。

子供だけで 安心して過ごせるのは、母親達の張り巡らせた結界の中だけ。





だが、年に一度だけ、結界は破られる。

それが、8月23日。

昨日だ。






地蔵盆 という行事がある。
子供の守り仏である お地蔵様の お祭りだ。

この地域では、8月23日の夕方は、子供にとっての極楽になる。
早めの夕食を終え、浴衣に袖を通し、友達同士誘い合わせ、お参りに行く。

右手には、お線香。
左手には、大きな紙袋。

最初にお参りするのは、それぞれの守り地蔵尊。
いくつもぶら下がる提灯の中から、自分や友達の名前が書かれた提灯を探す。
見つけ出すと、「私達はお地蔵様に守られているのだ」 という、妙な安心感が湧き上がる。

守り地蔵尊に お線香をお供えし、立ち上る煙を手に絡めとり 体に刷り込む。
傍らには、近隣の小母さん達が、敷きつめたゴザの上に 座っている。
鐘をつき ご詠歌を唱和する彼女達は、見知らぬ人のよう。

私は、お地蔵様に 手を合わせ 「どうぞ お守り下さい」 と心の中で唱える。
そうすると、目を細めて見ていた お接待してくれる方が言う。

「よう お参り、 はい どうぞ」

私の手に、お供え物のお下がりが 一つ渡される。
お下がりは、大抵 お菓子で、たまに果物やカキ氷、風船などもあった。


思えば不思議な行事だ。
どこの子でも、きちんとお参りすれば、お下がりが振舞われるのだ。
黄昏時の街角へ、お地蔵様の提灯の 明かりを求めて、私達は駆け出す。




普段は禁じられている 大通りを越え、橋を渡り、路地裏のお地蔵さんも探し出す。

日が暮れ、真っ暗になっても提灯の明かりを求めて、町を歩き回る。

この日ばかりは、町中の ありとあらゆる結界は破られ、

お下がりを求める 子鬼たちが闊歩する。



履きなれない 下駄に苦労しても
お下がりで一杯の紙袋が 指に食い込んでも
私達は、年に一度の 極楽を求め、お接待が終わるまで歩き続けた。



昨夜も、窓からは地蔵盆の喧騒が 聞こえてきた。
ご詠歌はテープになってしまったが、子供たちの歓声は昔のままだ。



ある方が、ご懐妊された。
彼女の赤ちゃんが、元気で生まれてきますように・・・
そして、知り合った方 みんなの お子様が、健やかに育ちますように・・・

お地蔵様、どうぞ お守り下さい

(^人^)



コメント
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