法師蝉 煮炊きといふも二人かな
富安風生
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俳句のなんたるかをつゆ解せぬ男が、次々と俳句の庭に足を入れています。不届き者です。ごめんなさいごめんなさい。
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煮炊きをしている人は奥さんでしょうか。夏の夕暮れがそろそろと暮れて行きます。法師蝉が鳴いています。大勢の人が働く都会の勤めからご主人が帰宅しました。外の土間に七輪が燃えています。塩イワシが焼かれています。煙が煙たいです。土間まで出て見ます。「今日も暑かったなあ」の声が出ます。「お疲れになったでしょう」のいたわりを奥さんがかけてきます。緊張がほどけます。二人が夕食をとるだけの煮炊きですからすぐに終わってしまいます。
それがふたりをしみじみとさせています。広い空間が欲しいときがありますが、それに飽きることもあります。そういうときには狭い空間が、広い空間以上の力を発揮して登場して来る。それが煮炊きの狭い空間です。そこに力がふっくらふっくら満ちて来ます。樫藪から法師蝉が抜けて来て声を貼り付けます。
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いい加減な空想をして遊びました。作者に怒られそうです。