午後8時半。障子戸の向こうの闇に、降って来る雨の、雫の音がしています。
お爺さん(=僕)は、今日は玄関から先に出ていません。部屋とトイレと洗面所を何回か往復しただけです。
その殆どの時間を、ベッドの上で過ごしました。熱が下がってきたら、退屈を感じています。
いまはコタツの中に両足を差し入れています。YouTubeで好きな音楽を聴いています。でももうすぐベッドに戻ります。
風邪をこじらせたらタイヘンですから。いまのところ咳は出ていません。わたしは咳には弱いのです。止まらなくなるのです。
午後8時半。障子戸の向こうの闇に、降って来る雨の、雫の音がしています。
お爺さん(=僕)は、今日は玄関から先に出ていません。部屋とトイレと洗面所を何回か往復しただけです。
その殆どの時間を、ベッドの上で過ごしました。熱が下がってきたら、退屈を感じています。
いまはコタツの中に両足を差し入れています。YouTubeで好きな音楽を聴いています。でももうすぐベッドに戻ります。
風邪をこじらせたらタイヘンですから。いまのところ咳は出ていません。わたしは咳には弱いのです。止まらなくなるのです。
父母所生耳 清浄無濁穢 以此常耳聞 三千世界声
妙法蓮華経 法師功徳品 より
*
父母の生みたまへるところの耳は、清浄にして濁穢(じょくえ)なし。此を以て常に耳は、三千世界の声を聞けり。
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親から頂いている耳は、清浄で無濁穢の三千世界の声を、清浄に濁りなく穢れなく聞くことができる、と仏陀はお弟子の方に説いています。三千大山世界には仏の声が満ち満ちていますから、それを清らかなこころですすっと聞くことが出来るというわけです。仏の声は仏の説法の声です。
ところがわたしの耳はいつのまにか濁っています。素直でありません。懐疑のこころが邪魔をして、仏の声が聞ける耳なのに、それを聞いていません。それ以外の声に遮られてしまっています。
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聞ける耳にして聞いてみたら、どんな(仏の説法の)声が、わたしの耳に聞こえてくるのでしょう。今日はそのことを考えてみました。
もうすぐわたしは此処を離れて行きます。父母から頂いたわたしの耳が聞けること、仏の声を、死ぬまでの間に、一つでも多く聞いておきたいと思います。
三千大山世界というのは一人の仏陀が仏法を説いて聞かせている世界の広さです。
寝て寝て寝て寝た。熱があったからだろう、目を閉じると眠れた。
熱が幾分か下がったようだ。少し気分が楽になっている。頭痛は残っているけど、まあ、我慢が出来る。
夕食はまだお粥を食べた。好きな酒には手が出ない。
「捨てる神有れば拾う神あり」
ま、よくしたもんだ。釣り合いがこれで取れている。
(神様が引き合いに出されているが、迷惑な話だろう。
神様は捨てないよね。捨てるような神は神じゃないよね)
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マイナスの領域に落とされてみれば、そこから、日頃は見えていなかったプラスが初めて見えて来る。ということがあるよね。
だから、マイナスも福の神だ。次の次を見ていてくれる。
いい空をしているなあ。薄い薄いブルー。白い雲もぷかぷか浮いている。光が雲に当たって跳ねている。
風がある。外はいかにも寒そうだ。葉を落としだした酔芙蓉がゆらゆら揺れている。ヘリコプターの翼の音が高い。
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さ、またベッドに潜り込もうかな。クシャミが止まらない。頭痛もしつこい。さっき、昼食後に新しい風邪薬を3錠飲んだ。
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でも、嫌なことばかりでもない。良いこともある。友人が、つくね芋を畑から掘って届けてくれた。つくね芋は栄養価が高い。これで風邪を治せという。有り難い。
おれはベッドに入っていて会いもしなかった。玄関先に置いて帰っていった。家内が応じてくれたようだ。
ひさかたの雨の降る日をただ独り山辺に居れば鬱(いぶ)せかりけり
大伴家持 万葉集 より
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紀女郎(きのいらつめ)に贈った恋の歌。贈られた彼女はどうしたであろう。「雨の降る日を一人で居るのはつまらない」「あなたに会いたい」の心情が籠もっているので、心がはやったであろう。気もそぞろ、いそいそと出掛けたであろう。誘って誘いに応えて、万葉の人たちはおおらかである。
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わたしは昨日から風邪を引いて熱を出して寝てばかりいる。憂鬱この上もない。誘いに乗ってくれる人がいるのなら、この種のラブレター短歌を書いてもみたいところだが、いかんせん、条件不備である。一人で憂鬱を露払いするしかない。
ま、この歌を思い起こしただけで、よしとしよう。
寝てばかりもいられない。窓から差し込むお日様が、畳の上で踊りをしてみせる。
ひょいと起き出してみた。気分まで滅入るのはイヤだ。
熱があると、腹具合まで悪くなるらしい。下してしまった。すっからかんになった。軽くなって、手までふわふわする。
コタツの中に入る。電源をオンにする。あたたまる。YouTubeで音楽を聴く。聞く気分が出て来る。
もうお昼だ。お昼ご飯はどうしますか? 家内がガラス戸越しに声を掛ける。食パンを焼いてもらうことにした。