仏様の耳は大きい。長い。衆生の悩みや願いをよくよく聞いて下さるということの表明だろうか。耳は利他をする器である。聞くことから利他が始まる。聞き耳を立てるというではないか。悩みを聞いてもらうとそれだけでもう、半分になる。重さも半分になる。それにしても仏様の耳が大きい。長い。目も鼻も口も普通サイズなのだが、耳だけは異常に大きい。異常に長い。肩にまで垂れている。アフリカ象も耳が大きい。これは団扇の役目をして、動かして風を送る。仏様の耳は風を送るためではないから、動かずじっとしている。これだけ大きければ、わたしの歎きも悩みも、愚痴も洩らさず、よくよく聞こえておられるだろう。
仏画を描いた。クレヨン水彩画で。下書きはボールペンを使う。だから、最初のデッサンに気を遣う。次に色鉛筆で色を塗る。最後に筆に水を含ませて塗り潰す。塗り絵遊びのようなものだ。なんといっても仏様の目が難しい。仏様にならない。人になってしまう。額の中央に第三の目をつけて、仏眼を表すのだが。デッサンに一時間、色塗りに半時間は費やす。描く仏様は、概して、鮮やかな密教系の仏様だ。
夕方、満足できる絵が描けた。嬉しがる。一人で悦に入っている。家内のスマホにお願いして、写真にも撮った。葉書の裏に描いた。その分、小さく緻密である。これから、息を、ふふふっふううと吹き込む。仏様に下りて来ていただく。
我といふ家の主(あるじ)は留守である 「不在」の家に百舌鳥が来て鳴く 薬王華蔵
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これが今朝の新聞の、読者文芸欄の、入選になっていた。薬王華蔵がニコリとした。選者には理解して貰えたのである。
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ゴタゴタがあっていたたまれなくなって、我というこの家の主人が我という家を留守にしているので、当然、「不在」である。家の玄関も閉じたままだ。家の中の窓の灯りも点いていない。雨戸の奥に人の気配はない。そうであるのに、庭に百舌鳥が来て、甲高い声を立てて、鳴いている。
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魂不在の状態は、腑抜けの空の状態である。彼はすべてに上の空を決め込んでいるしがない。そこへ律儀に、山から百舌鳥が下りて来て、鳴く。主人よ、出て来いと催促して、鳴く。
阿弥陀仏成仏す。
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阿弥陀仏成仏すというは、即ち、死者生者成仏すということなり。安心してよろしい。
阿弥陀仏成仏すというは、山川草木悉皆成仏すということなり。山川草木悉皆の安心を見届けたるなり。
阿弥陀仏成仏すというは、このわたしが成仏すということなり。安心してよろしい。
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安心してよろしいから、阿弥陀仏が成仏ができたのである。
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成仏しない死者生者があれば、阿弥陀仏は成仏出来なかったのである。
死者生者を捨てて、捨て去って、阿弥陀仏がひとり成仏できることはないのである。
診察は終了した。今日は若い方のドクターだった。丁寧に見られる。時間が長くなる。心電図はやり直しを含めて2回。胸のレントゲン写真撮影もした。もう5時だよ。待合室も空いてきた。薬を貰うのにまた待たされる。会計で待たされる。ふうう、長いなあ。早く帰りたいよ。暖房が効きすぎていて、息がし辛い。しかしまあ、病院というところは患者が多いなあ。
新聞の読者文芸欄の、今日は掲載日。詩の部門は月の1回。短歌部門は毎週。
詩の部門は2席に入賞していて、僕はご機嫌になった。短歌部門の一人の選者が入選をさせてくれていた。うふふ、だ。
詩の部門の作品は、死んだ弟のことを書いていた。あまり深刻にならずに。それで、次の月の作品の作成にとりかかった。ゼロの空白が続いた。しぶとく待った。中々生まれてこなかった。辛抱強くして、機運を待った。
午前中と午後の大半を費やした。ようやく姿の影が見えてきた。執拗に追い掛けた。二作品の投稿が出来る。二作品を書き終えた。難産だった。プリンターの印刷を終えた。封書にした。投函しようとして玄関まで運んできて、外出した。外出先で、忘れたことに気が付いた。ぼさっとしているよ。仕方がない、明日投函しよう。
薬を貰いにクリニックに来た。待合室はマスクをしている人が多い。看護婦さんも受け付けの人もみなマスク。ごほんごほん、ごぼごぼ、咳をしている声があちこちで聞かれる。暖房を効かしてある。ううーん、こりゃ、風邪をもらいに来たようなものかも。しかし、このまま此処で、待つしかない。息をしないわけにはいかないし。早く終わってくれないかなあ。
今朝の僕の即興詩 「野原」
ほんとうに僕でいいんですか/僕があなたの花婿でいいんですか/イギリス南部の/ホーブという静かな町/此処で僕はあなたに出遭った/そのあなたはいま純白の花嫁衣装/細い手先がわたしの腕を握る/永遠を誓うあなたの/唇が/オーロラのような緑の言葉を放つ/そのまばゆさに/僕は身を凍らせる/ピアノが祝婚歌を歌っている/僕たちは毎日会って/野茨の咲く野原で愛し合った/
でも幸せは長くは続かなかった/長くは続かなかった/人生の残酷が二人を引き裂いた/あなたは静かに目を閉じて/僕を去って行った/僕ら人間に/永遠なんてんかったのだ/僕は一人になった/野原には野茨が咲いた/白く咲いても赤く咲いても/そこはあなたのいない野原だった/そこはあなたのいない野原だった