The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『償いの雪が降る』 アレン・エスケンス著

2019-07-14 | ブックレヴュー&情報
『償いの雪が降る』(創元推理文庫)-2018/12/20

”The Life We Bury”
アレン・エスケンス(著)、務台夏子(翻訳)

内容(「BOOK」データベースより)
授業で身近な年長者の伝記を書くことになった大学生のジョーは、訪れた介護施設で、末期がん
患者のカールを紹介される。カールは三十数年前に少女暴行殺人で有罪となった男で、仮釈放さ
れ施設で最後の時を過ごしていた。カールは臨終の供述をしたいとインタビューに応じる。話を
聴いてジョーは事件に疑問を抱き、真相を探り始めるが…。バリー賞など三冠の鮮烈なデビュー作!

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抄録を読んで何となく手に取った初読みの作家作品です。

主人公のジョー・タルバートは躁鬱病でアル中の母と自閉症の弟を持つ大学生。 父親は誰か、何
処にいるのかも知らない。
アルバイトをしながら大学に通い、課題として年長者の伝記を書くことになったが身近に心当たり
も無く、殺人犯で終身刑を受けながら末期がんの為介護施設で残り短い時間をすごすカール・アイ
ヴァソンを紹介され話を聞くことになる。

余命三ヶ月と言われながら、達観した静かな時間を過ごすカールと話すうちに、30年前に婦女暴行
殺人、放火で服役していた犯人と言われている事に違和感を持つジョーが 彼の過去、事件を改め
て調査し直したいという衝動に駆られて行く。

カールは犯人ではなく真犯人は別に居ると確信したジョーだが、何故カールが無実でありながら自
ら望んだかのように刑を受けるようになったのか。
過去の裁判記録を探し出し、当時の弁護士に話を聞こうとする中、徐々に明らかになる真実。

アルバイトの時間に縛られ、又弟の世話もせず男友達と遊び回る飲んだくれの母親に翻弄されなが
ら弟を気遣い懸命に頑張るジョーが健気です。
隣室に住む大学生のライラが気になりながらも話しかける事も出来なかったジョーですが、期せず
して弟のジェレミーを介して親しくなる機会を得(その時ジェレミーに少し嫉妬したり)、そのラ
イラの協力も得ながら過去の事実を探し回る。

素人の大学生でありながら、探偵の様な無鉄砲な行動にでるジョー。
1人突っ走るジョーにはハラハラさせられながら、吹雪の山小屋でのサバイバルには目を見張る様な
生命力も感じます。
次第に心を開くカールはベトナム戦争の勇敢な兵士であり、友人の命も救った過去がありながら当
時自分が犯した罪、秘密も抱えていた。 
ジョー自身が心深くに抱え込んでいた祖父に対する贖罪の気持ちが虚無の中で生きるカールと重なり、
過去の自分に向き合う為にも事件を解明しなくてはならないという試練に果敢に立ち向かいます。

兎に角キャラクターがそれぞれ魅力的で、
ジョーの弟に対する深い愛情、自閉症である弟ジェレミーの癒しの様な存在、過去に傷を抱えな
がらジェレミーやジョーの存在と行動を共にする事で自身も再生しようとするライラ。
何より、カールの静かな存在。
後半で登場する刑事マックス・ルパート
等々
カールの隠してきた事実とは何であったのか、真犯人は誰なのかというミステリでありながら
ジョーやライラの冒険小説でもあり、ジョーの成長記録でもあります。

最後は胸が痛くなる様な、心に染みわたる様な優しさや温もりをを感じさせられる結末となってい
ます。
ただ、ラストはハッピー過ぎるんじゃない?と思わせられるエンディング。 

原作タイトルは”The Life We Bury” なのですが、日本語タイトルの『償いの雪が降る』は最後の
雪のシーンを彷彿とさせる余韻のあるピタリとはまる素敵なタイトルになって居ると感じます。

兎に角、
初めて出会った作家さんの作品でもあり、予断も過度な期待もせず手に取りましたが、この作品は当
たりでした。 
この作品がデビュー作であるという アレン・エスケンスのストーリー・テリングには心を掴まれま
した。 是非次回作も読んでみたいと思わせられます。

この作品で登場した刑事マックス・ルパートが登場する作品や、今作のジョー・タルバートが主役の
第二弾も刊行予定されているとか。
楽しみに翻訳を待ちたいと思います。