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The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

アガサ・クリスティー『ABC殺人事件』 : 再読

2019-04-15 | アガサ・クリスティ
”The ABC Murders” 

『ABC 殺人事件』 ハヤカワ文庫ークリスティー文庫:2003/11/11
アガサ・クリスティー(著)、堀内静子(翻訳)

内容(「BOOK」データベースより)
注意することだ―ポアロのもとに届けられた挑戦状。その予告通り、Aで始まる地名の町で、Aの
頭文字の老婆が殺された。現場には不気味にABC鉄道案内が残されていた。まもなく第二、第三
の挑戦状が届き、Bの地でBの頭文字の娘が、Cの地でCの頭文字の紳士が殺され…。新訳でおくる
著者全盛期の代表作。

この作品は1936年発表されたクリスティー18作目の長編であり、エルキュール・ポアロシリーズ
の長編としては11作目にあたる作品で、クリスティーの作品中でも知名度、評価とも高い代表作
の一つです。

BBC版のドラマを観る前に(とは言え日本での放送は未定ですが)久し振りに再読しておこうと思
い立ちました。
何時ものフレーズですが、むか~し、むかしに読んだ為細部は憶えていないんですね。
勿論、デヴィッド・スーシェ版のドラマも観ていますが、これとても大分前の事。
新たな気持ちで読みました。
この作品も長年にわたり何度も新翻訳で再販されていますが、今回はハヤカワ文庫版を読みました。

冒頭、『ABC殺人事件』に寄せてというタイトルで、アガサ・クリスティーの孫でありクリスティー
財団の理事を務めているマシュー・プリチャード氏のコメントが載せられています。
これも以前の版にあったのかどうか不明、霧の中ですが。

※ 一部ネタバレありますがお含みおき下さい。

この作品では、ポアロは公式には引退をしていながら時折興味を惹かれた事件に携わっている、
又ヘイスティングス大尉は南米に移住している為ポアロは一人住まいと言う時代です。
丁度所用で久々に英国に帰国したヘイスティングスの手記という形で物語が進行します。

ポアロの元にABCと名乗る謎の人物から届いた予告、挑戦状。
頭文字”A”で始まる場所で起こる”A”で始まる名前を持つ女性の殺害事件が起こり、遺体の傍に
はABC鉄道案内が置かれていた事を発端に、予告状は続き ”B”で始まる場所で頭文字 ”B”の名前
を持つ若い女性の殺害(又もやABC鉄道案内が置かれている)、そして、遂に”C”の場所で”C”
の頭文字を持つ名士の男性の殺害と続くことになる。

この作品では、ジャップ警部は直接捜査にあたらず、若い功名心に溢れたクローム警部がポアロ
と行動を共にするが、このクローム警部はポアロを快く思わず何事においても反発するなかなか
やりにくい相手となっている。

ポアロと久々に再会したヘイスティングスはポアロの髪の毛が以前より黒いし若返って見える事
に驚くと同時に、自分の髪が薄くなってきた事を気にかけている(ポアロはその謎を白状するんで
すが)そんなチョットした描写で年月の移り変わりを実感しつつ、久々にポアロと行動を共にする
事に喜びを感じて張り切っている様子が微笑ましいのです。
ポアロとの掛け合いや口論も含めお互いにかけがえのない、無くてはならない存在である事を再
認識出来ます。

ヘイスティングスの手記の合間に別人(カスト氏)の手記が挿入され、この三人称の視点での描
写は章を追うごとに変化するこの人物の心情や 追い詰められた絶望勘を醸し出しています。

被害者達の共通点も見いだせず次第に追い込まれ苛立つポアロ一行。
読み手としては、何度か挿入される語りの主人公カスト氏が犯人に違いないと先入観を持ちそう
だけど、そこはそれクリスティーですからそんな安易な手法は摂りませんわね。
AからC迄連続した殺人が”D”でパターンが崩れ、失敗したか?に思われるのですが、その事がポ
アロに真相へ導く確信を抱かせる事になり、そして、どんでん返し。
とは言え、色々勘ぐる傾向がある読者としては 途中から多分コイツが犯人だろうな・・・と思
われる人物の存在、言動は要注意です。

因みに、事件が起きる地名は、
”A” アンドーヴァー →”B” ベクスヒル→ ”C” チャールストン → ”D” ドンカスター 
又、カスト氏のフルネームは、アレクサンダー・ボナパート・カスト(ABC) でもあります。

そして、最後にカスト氏にも救いがあるのも後味の良い終わり方をしています。

法月綸太郎氏が 巻末の解説を書かれているのも贅沢で嬉しいところ。
氏も書かれている様に、今作はミッシング・リンク”失われた環”の代表作と言われ、又真の犯行
動機をさとられないよう、一連の無関係な被害者グループの中に、本当に殺したい相手を紛れ込
ませる、「ABC パターン」という着想はこの後の数々のミステリーにも応用されているのです。

久々に再読してみて、改めてこの作品がクリスティーの作品中でも1,2を争う名作であった事を
実感しました。

先日書きましたBBC版ジョン・マルコビッチによるポアロの「ABC殺人事件」はどの様に描かれて
いるのでしょうね。
※ 情報はこちらに → BBCドラマ『ABC殺人事件』アガサ・クリスティー原作

又、デヴィッド・スーシェ版も観直してみたいと思って居りますので、機会があれば再度触れて
みるつもりです。
(そう言えば、デヴィッド・スーシェ版でのカスト氏だけは妙に記憶、印象に残っています)