The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『黒い睡蓮』ミシェル・ビュッシ著

2018-08-09 | ブックレヴュー&情報
黒い睡蓮 (集英社文庫): 2017年10月20日

”Nymphéas noirs ”
ミッシェル・ビュッシ著、平岡 敦翻訳

内容紹介
『彼女のいない飛行機』で注目を集めた著者が贈る、叙述ミステリの傑作が登場! 三人の女性が
語る三つの殺人事件。その真実とは? 読者を謎の迷宮に誘う、仏ルブラン賞・フロベール賞受賞
の話題作。

内容(「BOOK」データベースより)
モネの“睡蓮”で有名な村で発生した、奇妙な殺人事件。殺された眼科医は女好きで、絵画のコレ
クターでもあった。動機は愛憎絡み、あるいは絵画取引きに関する怨恨なのか。事件を担当する
セレナック警部は、眼科医が言い寄っていた美貌の女教師に話を聞くうちに、彼女に心惹かれて
いく。一方、村では風変りな老女が徘徊し…。『彼女のいない飛行機』で人気を博した著者の傑
作ミステリ。

ありとあらゆるミステリー小説に手を出す者ですが、フランスミステリーあまり読んだことが無く、
従って、本作のビュッシも初読みの作家作品でした。

冒頭、
『ある村に、三人の女がいた。
一人目は意地悪で二人目は嘘つき、三人目はエゴイストだった。』
この書き出しで、先ず妄想が膨らみます。
― 一人目は八十歳を超えた寡婦。というか殆ど寡婦になりかけのところ。
― 二人目は三十六歳で、夫を裏切った事は一度もない。今のところは。
― 三人目は、もうすぐ十六歳になる。
― 二〇一〇年の五月十三日から五月二十五日のあいだだけ、ジヴェルニーを囲む鉄柵の扉が彼女
たちのためにあいたのだった。わたしたちだけのために、と三人は思った。しかしルールは残酷
だった。三人のうち逃げられるのはひとりだけ。あとの二人は死ななければならない。そういう
ことだ。

この出だしの文章から否が応でも引き込まれます。

タイトルからもわかる様に、この小説は クロード・モネが後半生を送ったフランス・ノルマン
ディー地方の小さな村ジヴェルニーを舞台に書かれています。

一人目は水車小屋に住む老女、二人目はジヴェルニー村の小学校教師であるステファニー・デュパン、
三人目は絵画の才能豊かなおさげ髪の似合う少女ファネット。
物語りは、一人目である”わたし”の目線でのモノローグでつづられていきます。

観光客で賑わう睡蓮の池近くの川で村の眼科医が水死体で見つかる場面から始まります。
ジェローム・モルヴァルという眼科医は絵画収集に打ち込んでいると共に、複数の女性との関係も
持っていた。
この事件を扱う事になるのが南仏からやって来た新任のローランス・セレナック警部(ハンサムで
チャラ男)と地元のシルヴィオ・ベナベット警部(地道にコツコツと証拠を固めていく)。 この
2人のコンビが対照的で会話も笑わされる。

3世代、3人の女性の話と平行して、未発見の”睡蓮”の絵、60年以上昔に起こった少年の水死事件、
ファネットに絵を指導していた男性の死などが絡み合い途中かなりややこしくなって来ます。

村に居てあちこちに現れる犬”ネプチューン”にも惑わされることになります。

そして・・・・、最後に、アッと驚かされる結末が待っています。
随分色々なミステリーを読んできましたが、この様な形の『だまし』は他に類が無いのではない
かと・・・(知らないだけかも) 兎に角予想もしなかった形で終わります。
ただ、後で読み返してみると、あちこちに謎解きの伏線が仕掛けられていてミスリードさせられ
ているのが分かるので、それを見抜けなかった自分がおバカだったのか。

そして、最後全ての事件が明らかになった時、”わたし”である老婆が思いもよらぬ再会をするこ
とでちょっぴり胸が熱くなります。
モネの「睡蓮の池」の絵を思い浮かべながら読み終えました。

そう言えば、作中にも触れられていますが 日本にも「睡蓮の池」を模した池が創られているん
ですね。
池袋のSデパートの屋上にも似た雰囲気の池があると聞いていたので一度行ってみようと思いつつ
未だ実現しないままですが。

人気を博したと言う筆者一作目の『彼女のいない飛行機』も読まなければ・・・と、読むべきリス
トに加えました。