知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用例の組み合わせる際の「機序」の一致

2012-12-02 17:16:40 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10408
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文,裁判官 岡本岳,武宮英子
特許法29条2項

(2)ア 原告は,引用刊行物2記載事項の搬送用ロボットの駆動軸の態様及び制御手段,回転出力軸の配置構成等を理由に,引用発明における駆動部27及び可動アームアセンブリ25を引用刊行物2記載事項,すなわち,その搬送用ロボットの駆動部及びアーム伸縮機構に置き換えることは,事実としてできないから,その容易想到性を肯定した本件審決の判断は誤りであると主張するので,以下検討する。
 ・・・
 そこで,引用発明と引用刊行物2記載事項を対比すると・・・。
 この点,一見すると両者の構成には差異があるようにみえるが,その機序を検討すると,・・・,単に回動のための動力を伝達する径路が相違するだけのものであって,前方アーム部32(第2アーム部62)の回動の方向は,両者を相対的にみれば,上部アーム31(第1アーム)の回動方向と逆になるという点で差異はない。

 そうすると,R移動をさせる際に,引用発明では,駆動軸46と駆動軸48が逆転することとなる一方,引用刊行物2記載事項では,第2回転出力軸4のみが回転するのは,単に動力を伝達する径路の相違に基づくものであるといえる。そして,伝動装置において,回転動作や回転力を伝達するに当り,入力される回転動作等と,出力される回転動作等を決定すれば,その間の動力伝達機構に任意の機構を選択して設計することは,当業者の技術常識であるから,機序に実質的な差異のない引用発明と引用刊行物2記載事項との間で,動力伝達機構の構造を転用することには,何ら技術上の妨げはない

構成自体に公序良俗違反のない商標についての商標法4条1項7号と商標法4条1項6号,19号との関係

2012-12-02 11:20:48 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
商標法4条1項7号,商標法46条1項5号,商標法4条1項6号,商標法4条1項19号

1 審決の取消事由に関する原告の主張
・・・
(1) 商標法4条1項7号は,社会公共の利益又は一般的道徳観念を害するおそれのある商標の登録を阻止することを目的としているところ,商標の構成自体に公序良俗違反のない商標が同条項に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。
 また,商標法46条1項5号は,商標登録後といえども,当該商標が同法4条1項7号に掲げる事由に該当する場合には,当該商標を無効とすることができると規定しているところ,商標法4条1項6号,19号が後発的無効事由とされていないことに照らすと,後発的無効事由としての公序良俗違反は,商標の構成自体に公序良俗違反がある場合に限られるか,少なくとも査定時の判断基準より限定して解釈すべきであり,同法4条1項19号の「不正の目的」(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的,その他の不正の目的)より高い悪性が商標権者に存し,登録を維持することが著しく社会的妥当性を欠き,商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,又は,新たな法令や条約に基づく規制等ないしこれと同視できる社会状況の変化により,公益に反することとなった場合に限られるというべきである。
 なお,商標法46条1項5号については,過去の一時期において当該無効事由に該当する事実が存在したとしても,審判手続における審理終結通知までに当該無効事由が消滅した場合には,当該商標を無効とすることはできないというべきである。


第4 当裁判所の判断
1 商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について,不登録事由としているところ,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とは,当該商標の構成に,非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形等を含む場合のほか,そうでない場合であっても,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが,法律によって禁止されていたり,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反ていたり,特定の国若しくはその国民を侮辱したり,国際信義に反することになるなど特段の事情が存在するときには,当該商標は同法4条1項7号に該当すると解すべき余地がある。

 そして,商標法46条1項5号は,商標登録がされた後,当該登録商標が同法4条1項7号に掲げる商標に該当するものとなったことを登録無事由として規定しているところ,商標登録後であっても,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反するなどの特段の事情が生じた場合には,当該商標は同法4条1項7号に該当すると解すべき余地があるといえる

 上記のとおり,被告は,文部大臣(当時)による許可を受けて設立された公益法人であり,・・・。にもかかわらず,当時原告の代表取締役であり,被告の理事長でもあったDは,被告理事会の承認等を得ることなく,本件商標を含む,被告の名称ないし「日本漢字能力検定」に係わる商標を,原告名義で出願したり,出願人名義を被告から原告に変更するなどしていたものであって,そのこと自体,著しく妥当性を欠き,社会公共の利益を害すると評価する余地もある(・・・。)。
 このような経緯に加えて,Dは,・・・,Eと共に背任罪で起訴された上,被告から多額の損害賠償請求訴訟が提起された後,本件商標の登録名義を原告からAらに移転したり,被告に対して本件商標等の使用差止請求訴訟を提起したりするに至ったものである。さらに,DないしEは,本件商標等について,権利の取得・維持の実費相当額での被告への譲渡を拒み,これらを原告自ら使用する可能性に言及するなどしている。

 上記事情に照らすと,原告の前代表取締役D及び現代表取締役Eは,商標権者等の業務上の信用の維持や需要者の利益保護という商標法の目的に反して,自らの保身を図るため,原告が有する被告の名称ないし「日本漢字能力検定」に係わる商標を利用しているにすぎず,原告が,本件商標を指定役務について使用することは,被告による「日本漢字能力検定」の実施及びその受検者に対し,混乱を生じさせるものであり,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,社会公共の利益を害するというべきである。 

(関連事件)
平成24(行ケ)10070 審決取消請求事件
平成24(行ケ)10069 審決取消請求事件  
平成24(行ケ)10068 審決取消請求事件 
平成24(行ケ)10067 審決取消請求事件 
平成24(行ケ)10066 審決取消請求事件 
平成24(行ケ)10064 審決取消請求事件 

選択肢の一つを必須とする訂正を、実施例を上位概念化した新規事項の追加であるとした事例

2012-12-02 09:53:58 | 特許法134条の2
事件番号 平成23(行ケ)10431
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井光
特許法134条の2第1項及び特許法134条の2第5項が準用する同法126条3項

ア 平成23年6月8日法律第63号による改正前の特許法(以下「特許法」という。)134条の2第1項ただし書は,特許無効審判の被請求人による訂正請求は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限ると規定している。
 また,同法134条の2第5項が準用する同法126条3項は,「・・・。」と規定しているところ,ここでいう「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。

イ 本件明細書の前記(1)エ(イ)及び(ウ)の記載によれば,本件発明の「α」の具体例として,A及びBが,「β」の具体例として,Cが,多種類の化合物とともに羅列して列挙されていたということができる。
 また,本件明細書には,実施例1ないし13並びに比較例1及び2が記載されているところ,・・・,実施例10として,「α」であるAと,「β」であるCとからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーが,・・・,実施例11として,「α」であるBと,「β」であるC及びDとからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーが,それぞれ開示されていたものということができる。

 しかしながら,本件明細書には,「α」がA又はBを必須成分として含むこと及び「β」がCを必須成分として含むことについては,何ら記載も示唆もされていない。これらの物質は,多種類の化合物とともに任意に選択可能な単量体として羅列して列挙されていたものにすぎず,他の単量体とは異なる性質を有する単量体として,優先的に用いられるべき物質であるかのような記載や示唆も存在しない。

 すなわち,本件発明の具体的態様である実施例1ないし13のうち,実施例10及び11やその他の記載によると,「前記α」としてA又はBを任意に選択することが可能であること及び「γ」としてCを任意に選択することが可能であることが開示されているものということはできるが,本件明細書において,A又はB,及びCは,多種類の他の化合物と同列に例示されていたにすぎないものであるから,本件明細書の記載をもってしても,上記各構成が必須であることに関する技術的事項が明らかにされているものということはできない
・・・

ウ 以上のとおり,本件明細書の全ての記載を総合しても,「前記α」としてA又はBが必須であること及び「γ」としてCが必須であること並びにA又はB,及びCと,これらの物質にそのほか任意に重合性ビニル単量体を付加した構成とがいずれも機能上等価であることに関する技術的事項が導き出せない以上,訂正事項1及び2により,多種類の他の化合物と同列に例示されていたにすぎないA又はB,及びCを必須のものとして含むように本件発明を訂正することは,本件明細書の実施例10及び11を上位概念化した新規な技術的事項を導入するものというべきであり,許されるものではない

* 筆者注
(記号の意味)
α:長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上
β:該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上
γ:前記他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上

A:ラウリルメタクリレート
B:ステアリルメタクリレート
C:メチルメタクリレート
D:2-ヒドロキシブチルメタクリレート

(侵害訴訟の知財高裁判決)
事件番号 平成23(ネ)10080
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年11月14日